作品

概要

作者きせい
作品名恋心の捏造
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-18 (土) 15:24:36

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「わかったっ!」
 午前の授業が終わった直後、涼宮ハルヒの雄叫びである。
 何が解ったか知らんが、そういう発言は授業中にするものだぞ。じゃ、俺はメシ食うから。……と、そのまま逃げられたためしはないが、今回も例に漏れることはなかった。雄叫びと同時に襟掴まれて動けないんだからしょうがない。
「何が解ったんだ」
「これよ、これ」
 ハルヒの言うコレというのは、いつぞやの機関誌に掲載された、長門有希著幻想ホラー『無題1』のコピーであった。
 どうやら現国の授業中解読していたようだ。微妙に正しい勉強だな。あくまでも微妙だが。
「で、何がどう理解できたんだ」
 ハルヒは喜々としながらもどこか深刻という器用な面持ちで、こう叫んだ。
「これは有希の恋心を書いたものだったのよっ!」
 な、なんだってー!(AA略
 などとボケている場合じゃないな。
「幻想ホラーかどうかは俺では解らんが、にしたって恋を謳ったってのはないだろ?」
「まずこの『無題1』ってタイトルが怪しいのよ」
「単にタイトルがないってだけじゃねえか」
「いいえ。そんなの逆にありえないわ」
 ……ああそうだった。ハルヒは怪しいものは怪しいし怪しくないものは逆に怪しいという捉え方するんだった。JAROやISOに絶対近づけてはならない危険人物、それがHARUHI。MMRにでも入って如何なく才能を発揮してくれ。えーと、角○と講○社は仲いいのかな?
「こうやってね、ノイズを消去していくと……」
 ハルヒは『無題1』の文章・文字を大胆に塗りつぶしていく。
「待て。なぜノイズが含まれてるんだ。だいたいその消されたノイズがノイズである根拠はどこにあるんだ。それから、さっきのタイトルが怪しいって話はどこにすっ飛んでいったんだ?」
「ちょっとこれ見なさいよ!」
 もう駄目だ。こうなったら絶対止められん。諦めてハルヒ特製捏造文章を読んでみることにする。

 
 

 出会った。
 私が名を問うと、彼は笑った。
「それでは行きましょう」
 彼が言うので私もついていく。どこへ行くのかと尋ねた私に、
「どこへでも行くことはできます。あなたの行きたい場所はどこですか?」
 私はしばらく考え込んだ。ただ立ち尽くす私は瞳を見つめるしかなかった。
「では、もういいですね」
 私は頷いて感謝の言葉を述べた。
「さようなら」
 私は残された。
 落ちた。たくさんの、小さな、不安定な、水。後から後から続く。
 これを私の「前」としよう。
 そう思い、思ったことで私は幽霊でなくなった。

 
 

「いや、すまん。これ読んでもどこが恋を謳ったことになるのか解らん」
 真正直に言った。解らんものは解らん。
「有希……。有希は大人しくて口下手だから、ひとりで悩んでるのね」
 うお! なんとハルヒが涙浮かべてる!
 ここはハルヒが人のために泣ける事実を喜ぶべきなのかもしれないがしかしありえん思い込みがもとだからどうも感動しかねるな。
 というかハルヒは恋愛を精神病の一種だなどと恋愛にも精神病にも偏見持っていた気はするが……まあハルヒの言うことに一貫性を求めるのは時間遡行を期待するより無いものねだりなことだ。気にしてはいられない。……時間遡行は可能だったっけ。
「これはもう、有希の恋を応援する以外ないわね! SOS団の力の見せ所よ!」
 そういう展開になるであろうと薄々感じていましたとも。しかしハルヒ、SOS団は世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団であって、生徒の恋を応援するための涼宮ハルヒの団ではなかったはずだが? まあそれを言い出したら今まで世界を盛り上げるどころか世界を主に涼宮ハルヒによって危険に晒しつつもなんとか乗り切ってきた団なわけであるのだが……。
 などとどうでもいいモノローグをしている内に、俺はハルヒ豪腕で引っ張られながら部室前まで来ていましたとさ。
「有希、居る?」
 勢いよく開け放たれたドアの向こうには、予想に違うことなく長門の姿があった。定位置で本読んでいたようだが、ハルヒに視線を向け、ゆっくり俺に移した後、再びハルヒに視線を戻した。
「…………」
 と、言葉は発しない。ふむ、特に変わりはないようだ。俺は嬉しいぞ。
「有希、任せて!」
「おいハルヒ、いくら長門が物分りよくても、それじゃなんのことだかさっぱりだぞ。まずはお前がどうしてアレを恋心と解釈したか、話はそこからだ」
「キョン、細かいツッコミはなしにしてちょうだい」
 いやいやいや、全然細かくねえだろ。現に長門も……。
 あれ? 俺の長門表情鑑定眼に狂いがないなら、いつもより格段に――といっても細胞数個分レベルだが――、表情が緩んでいるように見える。これはどうしたことだ、何かあるのか?
「有希、相手は誰? あ、言いたくなかったらいいの、うん、これは人に言うことじゃないかもしれないしね」
「…………」
 長門は何も言わない。言わないのだが……どうもハルヒのデタラメな会話を理解しているような、そんな気がしないでもない。てことで一応訊いてみることにした。
「長門、ハルヒの言ってることは正しいのか?」
「…………」
 沈黙の後、首が確かに縦方向に動いた。
 ……えー、世の中にはボケが存在すると側にはツッコミという存在が生まれ、バランスが保たれるようになっている、と俺は信じている。モノポールが存在しないように、単体では存在できないのだ。何言ってるか自分でも解らないが、要するに、俺は暴走ハルヒのブレーキ役でなければならないわけなのだが、すまん、ちょっと壊れる。
「相手は誰だ! 何時のことだ。俺に何の相談もなしかっ!」
「ちょっとキョン! 落ち着きなさいよ。なんであんたに相談すると思ってんの」
「ハルヒ、細かいツッコミはなしだ。長門、お前……、ん? てことは、待てよ!」
 俺の中に、おそらくハルヒ的解釈と同じものが生まれている。ああ、そういうことだったのか!
 長門はある男性に出会い恋をした。しかしそいつは、名前を尋ねられてものらりくらりとかわし、どこかに一緒に行ったりしても進展は見られない。長門は積極的になれないまま、口では感謝するが自然消滅が近いことを悟り、ひとり涙する。泣きに泣き、しかしそれを人生の糧とするよう前向きに捉えることで、生きていこうと思う……。
「どこのどいつだ! 長門を泣かせるなど、この俺が許さん!」
「だから落ち着きなさいって。私も知りたいけど、有希がどう思って……」
「あなた」
 長門の声がした。気のせいではない。
 長門は俺を見ている。気のせいではない。
「キョン……なの? そうか、本名教えないで間抜けなニックネームで誤魔化しながら、異常なまでに鈍感で女心を踏みにじる……」
 俺はツッコミ役に戻る。戻らないわけにはいかん。
「待てハルヒ、待て長門。冷静に考えろ。キョン呼ばわりされてるのは俺の意向じゃないし、女心踏みにじったことなんてねえだろ。な? 長門」
「図書館……」
 長門は呟いた。
 図書館? あれか? 朝比奈さんのことでクジ不正した件。あれは申し訳ないことをしたと思うが、長門もそんな気にしてなかったんじゃないのか? ち、違うのか?
「やっぱり酷いことされたのね。きっと図書館に一緒に行ったら、そこに別の女がいたとか、そんなことが」
 妙に鋭いなハルヒ。語弊はあるが。って、そこ長門、何頷いてるんだ!
「キョン、見損なったわ」
 ハルヒは不機嫌全開でそう言い残すと、部室を去ってしまった。
 おい、これはどういう展開なんだよ。
 必然的に俺と長門のふたりしかいなくなるわけだが、すぐにひとり増える。古泉はハルヒが去ったとほぼ同時に入ってきて――つまりハルヒが去るのを待っていたんだろう――、
「何があったんですか」
 顔が近いがそこはツッコまずに、かいつまんで事情を話した。
「すまん、俺のせいみたいだな」
「いえ、あなたのせいではないですよ。それに安心しました。以前僕が話したのを覚えていますか?」
「だからいちいちお前の話を覚えてないって」
「涼宮さんは人の心に土足で入ってこない、という話です。今回の件は楽観していいでしょう、確信しています。涼宮さんは長門さんの恋という思い込みを現実に反映させてしまった。しかし長門さんは涼宮さんの思った通りにまではなっていません」
「なぜ解る」
「涼宮さんが、あなたが長門さんの相手で、しかも酷いことをするなんて事実を望むと思いますか?」
 俺は答えなかった。
「恋が実りにくいという前提は、いつもの涼宮さんらしい発想ですね。困難を乗り越えて幸福を掴むのが彼女にとって幸福の定義のようですから」
 その考えに巻き込まれた覚えはあるな。
「長門さんの言動はドッキリだとでもしましょうか。発生した閉鎖空間のほうは、僕達がなんとかしないといけませんが」
 本当に楽観していいものかは知らないが、古泉はいつもの爽やか笑顔で立ち去ってしまった。
 長門のほうを見る。古泉との話し中、読書に耽っていた宇宙人っ娘は、俺の視線に気付いたのか顔を上げ、じっと見つめてきた。
「今はもうなんともないのか?」
「大丈夫」
「具体的にはどうなってたんだ?」
「涼宮ハルヒは、私がある架空の男性に好意を持ち、しかし報われていないという思い込みをしたと考えられる。私はすべての意思を奪われることはなかった。だからその架空の男性をあなたに設定するよう調整できた」
「そうか。しかしなぜ俺にしたんだ?」
「…………」
 しばし沈黙の後、
「嘘は吐いていない」
 そう言って、本に視線を落とした。
 いや、よく解らないんですが?
 長門は昼休みが終わるまで本を読み続け、俺もなんとなく部室に居続けた。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:44 (3090d)