作品

概要

作者書き込めない人
作品名とくなが
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-13 (月) 22:47:36

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

ある日の放課後、
掃除当番のハルヒの手伝え視線を受けながら、
何とか教室を逃げ出した俺は、いつものように団室に向かっていた。
習慣とは恐ろしいもので、今なら目を瞑っていても行ける気がする。

 

あっという間に団室の扉の前に立った俺は、
例のごとくノックをする。
これをせずに開けてしまうと、
我が麗しのスィートエンジェルのあられもない姿を拝むことになるやもしれん。
魅力的なことではあるが、やはりそれは色んな意味でマズイからな。

 

「……」

 

中から返事がない。
とはいえ、人がいるのは間違いないだろう。
この沈黙は決して俺が嫌われているから居留守を使われているのではなく、
返事を3点リーダで返す奴が中にいるからだ。

 

「よぉ。長門……だけか?」

 

俺の質問に目の前で絶賛読書中だった文芸部員は、
こちらをちらりと見て頷いた。
ハルヒは掃除当番だから遅くなるとして、
他の二人、特に朝比奈さんはどうしたんだろう。

 

「二人とも掃除当番……」

 

ってことは我らがSOS団のメンバー5人のうち、
今週は3人が掃除当番なのか……
珍しいこともあるもんだな。

 

「まぁ、その内皆来るだr……」

 

ブブブブブブブブ……

 

俺のセリフが終わらないうちにポケットで超振動が起こった。
つまりケータイが鳴ったわけだ。
どうでもいいけどいきなりの振動は、
びっくりして心臓に悪い気がするな。

 

着信を見ると家からのようだった。
無視するわけにもいかないので俺は電話に出ることにした。

 

「はいもしもs……」

 

『あ、キョンく〜ん?』

 

……俺の耳はまだ遠くなってないから叫ばなくても大丈夫だぞ?
いくら壊れたスピーカーが後ろに座ってるとはいえ、
まだまだ健康……のはずだ。

 

「なんだ?」

 

『んとね〜おかあさんがセールだからかってきてほしいものがあるんだって』

 

どうやら学校帰りにお使いを命じられるようだ。
母親め……俺に断らせない為に妹を伝達係にするとは……
いくら俺が妹思いだからってそう何でも言うこと聞くと思ってもらっては困る。

 

「で、何を買ってくればいいんだ?」

 

あれ……?結局聞いてるぞ?
さっきまでの強気の俺は一体どこに……

 

『え〜と、じゃがいもとにんじんと〜』

 

すまん、数量を言ってくれないと困るんだが……
まさか俺の裁量に委ねるつもりか?

 

「何を何個買ってくればいいんだ?」

 

『ん〜と、じゃがいも1ふくろににんじん3ぼんに……』

 

妹の言うことをそのままメモする俺。
何やら多くなりそうだが、何とかなりそうだ。

 

『……ぎゅうにゅう1パックに、あとおとうふ2つだよっ!』

 

豆腐は『2丁』だぞ?
まぁ、まだ小学生なんだし多少の間違いは仕方ないか。

 

「これで全部か?」

 

『うん!これでぜんぶだよ〜ピーマンはないよ〜』

 

……何か違和感を感じるぞ?
まさかと思うがお兄ちゃんに伝えてないところはないだろうな?

 

『な、ないよ〜ピーマン1ふくろなんてかわなくていいんだよ〜』

 

「……」

 

『あ、おかしたくさんかってきてっていってたよ』

 

「わかった買ってくるって伝えといてくれ」

 

それを聞いて喜んで電話を切る妹。
頼むからもっと静かに受話器を置いてくれ……
と、心の中で幼子の今後を心配する俺の手には、
しっかりと『ピーマン1袋』と書かれたメモがあった……

 
 
 
 

「……買い物?」

 

っと、聞いてたのか長門……
というかこの狭い部屋の中なら聞こえるに決まってるか。

 

「あぁ……帰りにスーパーに寄らなきゃならんようだ」

 

なんで人間はこう特売に弱いのかね…
まぁ、当然といえば当然だが。

 

「『特売に弱い』?」

 

長門が俺に分かる程度に怪訝な顔をして尋ねてくる。
コンビニ弁当とレトルトカレーが主体の宇宙人は特売を知らないのか?
たまには自炊した方がいいぞ。

 

それとも『特売に弱い』の意味が分からなかったのか?
確かに物理的に脆弱って訳ではないが……

 

「え〜とだな……安売りに目がないって言うか……
安いものが好きってことかな?」

 

何か違う気がするが……
正確に言えば『安くて良い物が好き』なんだろうな。
でもとりあえず言いたいことは伝わっただろう。

 

「そう……」

 

長門はそれだけ言うと、
俺の顔を見て黙りこくった。
なんだ?何かついてるか?

 

「あなたも……」

 

「ん?」

 

半分見とれるように長門の顔を見つめ返していると、
不意に目の前の少女が口を開いた。

 
 

「安いものが好き?」

 
 

本日3度目の長門の疑問文。
滅多にない長門の質問だから答えてやりたいが、
如何せん質問の意図が分からない。

 

「まぁ……高い物だと欲しくても手に入らないかもしれないから、
俺としては安いほうが好きだな」

 

「そう……」

 

長門はいつものように淡々と応えると、
何かを思いついたように突然立ち上がった。

 

「……ど、どうした?」

 

「……」

 

俺の問いに答えもせず、長門はすたすたとハルヒの席に向っていく。
やがて、団長専用席の引き出しを開けて、
何かを取り出した長門は一心不乱にゴソゴソと何かやり始めた。

 

遠巻きにチラッと見たところ、
どうやら長門はハルヒの腕章のスペアに、
マジックで何ごとかを書いているようだった。

 

そこに座って何かやってるのをハルヒが見つけたら、
また五月蠅くなると思うんだが……
とはいえ、長門の行動を止める権利など微塵も持っていない俺は、
ただただぼんやりと眺めることにした……

 
 

やがて、作業を終え、
どことなく満足そうな顔をした長門は、
腕章をつけて読書を初めた。

 

「……」

 

そんなチラチラ見ないでくれ。
というかチラ見はそんな大きな素振りを見せるもんじゃないぞ?
それだともはやガン見だ。

 

「あー、その、長門よ……」

 

「なに?」

 

いや、それは俺のセリフだ。
果てしなく聞きたい事があるんだが……

 
 

「それは……一体なんだ?」

 
 

そう言って俺は長門の腕に燦然と光り輝く、
『特売』と書かれた腕章を指差した……

 
 
 

「特売」

 

「それは読めば分かる」

 

「安売り」

 

「そうだな、同じ意味だな」

 

「安い」

 

俺が聞きたいのは言葉の意味ではなく、
行動の意味なんだが……

 

「あなたは安いものが好きだといった」

 

あぁ、言ったな。
間違いなく、ついさっきそう言ったな。

 

「だから……」

 

そして長門は腕章をこちらに向け、
上目遣いで覗き込んできてこう言った。

 
 

「……好き?」

 
 

そんな生後1ヶ月の子犬のような顔をされると、
本当に堪らない……
だが、ここで本能の赴くままに行動すると、
後で非常に不味いことになるのは火を見るより明らかであり、
ついでにそんなことをする勇気もない俺は、
長門の誤解を解くことにした。

 

「え〜とだな、長門」

 

「なに?」

 

わずかに首をかしげる長門。
なんだかこのまま眺めていたい、という気分になるが、
やはりそれはダメだろう。
そう思った俺は意を決して説明を続けた。

 

「俺が言った『安いもの』っていうのは、
物体のことであって人じゃないんだ」

 

ここで長門が人じゃないなんて空気を読まないことを言う奴はいないだろうな?
宇宙人だって立派な人だし、長門だって立派な人だ。
誰が何と言おうと長門はちょっと万能な読書好きの女の子だ。

 

「だから、いくらお前が『特売』だと主張しても……」

 

「じゃあ、嫌い?」

 

人の話は最後まで聞いてくれ。
というかその泣きそうな顔は反則だぞ……

 

「いや、もちろん嫌いじゃないぞ?」

 

「じゃあ、好き?」

 

……え〜と、もしかして2択、なのか?
お前の親分の情報何とか体は語彙力がないのか?

 

そりゃ、長門のことが好きか嫌いかと言われたら、
飛天御剣流奥義よりも早く応えることができる……が、
それはあくまで心の中での話だ。
実際に口に出すなどということは……

 

「……」

 

痛い。視線が痛いぞ長門。
ちくちく突き刺さないでくれ。

 

「どっち?」

 

瞬きも忘れるくらいの勢いで見つめてくる長門。
俺としてはこのまま黙秘権を行使したいのだが、
雰囲気的にそんなことはさせてもらえそうにない。
それに人としてこの状況で逃げるわけにも行かないだろう。

 

そう思った俺は、意を決して長門への想いを口にした。

 
 

「長門のことは……その……」

 
 

「……」

 
 

液体ヘリウムのような目で見つめてくる長門。
そんな目をされるとますます緊張するんだが……
それでも俺はなけなしの勇気を振り絞って続けた。

 
 
 

「もちろん好k……」

 
 
 

その時、有り得ないほどのタイミングで、
背後でけたたましい音と声が鳴り響いた。

 
 
 

「やっほー!!みんないるー!?」

 
 
 

……ハルヒよ……空気を読め……

 

結局俺はこの間の悪い暴力娘(と、自分のチキンぷり)に呆れて、
それから何も言えなかった……
まぁ、目の前の少し残念そうに笑う文学少女の顔を見る限り、
あえて言う必要もなかったみたいだけどな……

 
 
 

その後、ハルヒが目ざとく見つけた『特売』腕章は、
何故か遅れてやってきた朝比奈さんに譲渡され、
我がSOS団に1日限りの特売メイドが現れた。
元々料金を取ってるわけでもないので、
結局何も変化無しだったけどな……

 

妹経由の母親からのミッションもちゃんとこなした。
ピーマンの袋を見た妹の顔はしばらく忘れられそうもないぜ……

 

ちなみに一人で持つには辛かったので助けてもらうことにした。
誰が助けてくれたかは……想像に任せる。
ヒントは特売を始めて見た少女だ。
ずっと手を繋いで店内を見回っ…まぁここから先は俺たちだけの秘密にさせてもらう。
映像抜きの想像で楽しんでくれ。

 
 
 
 

P.S.

 

次の日、俺の財布に領収書が入っていた。
そこには丁寧な明朝体でこう書かれていた。

 

『品名:長門有希 価格:あなた』

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:43 (3090d)