作品

概要

作者753k
作品名長門有希は自転車に乗れない
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-06 (月) 23:38:44

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

708号室。言わずと知れた、文学宇宙人少女の居城である。
そしてSOS団全員集合だ。

 

本日の団長殿の御所望はカレーパーティ。
買出し組と調理組をくじで分けることになったわけだ。
ハルヒの手にはいつもの如く、どこで拾うた爪楊枝である。
結果は俺と長門が買出し組、ハルヒ、朝比奈さん、古泉が調理組だ。
すでにハルヒの眉間にはしわが見える。
がんばって下さい、朝比奈さん。そして、ご愁傷様だ、古泉。
ハルヒは紙切れに何やら書き出すと、
「はい買出しリスト!ちゃっちゃと買ってくんのよ!!」
なんだこりゃ。リストには20人前かと思しき量の材料が書いてある。
誰がこんなに食うんだよ。
「いいからさっさと行きなさい!
 寄り道してたら殺すわよ!!いいわね!!」
バンッ!!
なんだありゃ。
勢いよく閉じた玄関の鉄製扉の前では、俺と長門が立ち尽くしていた。
まあ団長殿には逆らってもしょうがないか。行くぞ長門。

 

ハルヒのやつ一体何企んでるんだか。
この手の問題は俺の想像力が及ぶ範囲内には無いのが常だが、一応考えてはみよう。
……。
一秒で考えるのをやめた。
やっぱり分からん。考えたくない。
しかし、この食材の量。さすがに自転車一台では無理か。
ここで俺の、長門と二人乗りという野望は儚くも消え去るはずだった。
長門が自転車を引っ張り出してきたのを確認すると、俺は自転車にまたがりこぎ始める。
が、長門が来ない。
長門、どうした?
数十メートル後方には、自転車を傍らに携えたまま直立不動の少女がいた。
駆け寄った俺に少女が発した言葉は、
「どうやって乗るの?」
これである。
夕焼けの空に季節外れの雷鳴が響いた。

 

俺は今20人前の食材と少女を一人後ろに乗せながら、えっちら自転車をこいでいる。
スーパーで浴びせられた奇異の目も今はどうでもいい。
マンションに着くまで俺の体力が持つかどうかのほうが問題である。
まさか長門が自転車に乗れんとは。
それに今日は荷台に長門の体重を感じるぜ。
そうとう来てるのかもな、俺の体力。
だが胴に巻きつく色白の細い腕のおかげで、難題はクリアできそうだ。
背中に感じるべきものが感じられなかった事については華麗にスルーするぜ、長門。
部屋に戻る途中、長門が話しかけてきた。
全く、今日は驚くことばかりだな。
「乗り方、教えて。」
自転車な。ああ、俺は協力を惜しまないぜ。長門の役に立てるならな。
「それと、他の人には言わないで。」
ん?ああ。長門がそう言うならそうしよう。
じゃあ、川原でやろうか。日曜日でいいか?
「(コクン。)」
同時にベルが鳴り、エレベータは7階に到着した。
その後、何でこんなに遅かったのかだの、何で俺だけ息が荒いだのと、
団長の尋問が始まったり、料理の途中で古泉が40分ほど席を外したりと色々ありはしたが、
テーブル上のカレーで満たされた4つの大鍋の前では、みな絶句するしかなかった。
ああ、大丈夫ですよ、朝比奈さん。
朝比奈さんを一人にしたハルヒと古泉が悪いんですから。
ハルヒの質問責めで、キッチンに気が回らなかった俺も悪かったですし。
まあ、しばらく長門が食事に困ることがなくなるだけで、明日以降に問題はあるまい。
そして、スパイス責めの夜は9時を過ぎる頃お開きとなった。

 

そして日曜日だ。
キョンの自転車道場〜〜。
「……。」
そこ、突っ立ってないで拍手だ。
「(ぱちぱちぱちぱち)」
よし。じゃあ、まずこれを使う。
そう言って俺はペダルレンチを取り出した。
これで自転車のペダルを外すわけである。
「それでは自転車をこげない。」
当然の意見である。
だがこれでいいのだよ、長門くん。
いいか、自転車に乗るために大切なのはペダルをこぐことじゃあない。
バランスを取ることなのだ。
ペダルを踏もうとすればバランスは崩れちまう。
だからまずはペダルを外して、バランスを取る練習だけをするってわけさ。
分かったか?
「理解した。」
宇宙を想わせる目は真っ直ぐ自転車を見つめている。
長門は真面目に話を聞いてくれているようだ。いつもと全く逆の立場だな。
こういう形でも俺は長門の役に立てるのかと思うと、何だか引っかかりを感じる。
長門は本当に自転車に乗れないのか?、と。

 

緩い下り坂で地面を蹴って、バランスを取りながら進む。
ヘルメットにプロテクタを付けた長門は黙々とこの練習をしている。
俺はその姿を微笑ましく思いながら、違和感も感じていた。
一生懸命なのだ、長門が。必死さすら感じる。
朝倉と戦った時でさえ淡々としていたように見えた長門が、
こう言っては何だが、自転車に乗る練習ごときに必死さを隠せていない。
そんなことを考えているうちに長門の乗る自転車がよろめき、
長門ッ!
そのまま持ち直せず倒れそうになったのを、間一髪ってか。
何とか滑り込みセーフで支えるのに成功した。
大丈夫か?
「(コクン。)」
長門がこんなに頼りなく見えるのは初めてだ。
こっち見て、いつもの液体ヘリウムみたいな瞳を見せてくれ。
いや、何考えてやがる、俺。
長門が必死なんだ。ここで俺が弱気を見せちゃいかんだろう。
よし、余計なことは考えない。
今日は長門のサポートに全力を尽くす!
自転車と一緒に長門を抱き起こし、もう一息だぞ、と一声掛けると、
真っ黒な瞳がふっとこちらを向いた。

 

そして、カラスがあほーと鳴き出しそうな頃に。
再装着したペダルを踏んで長門が自転車を進めている。
長門、いいぞっ。
そのまま行けーっ。
まだふらふらで頼りない背中が、もう大丈夫だろ。
長門有希、自転車道場卒業である。
さて、もう夕方になっちまったが、ジュースで乾杯だ。
おめでと、長門。
(カコンッ)
「……。」
何だよ、もうちょっと嬉しそうな顔してくれよ。丸一日使った甲斐がないぜ。
長門は目の前の川岸を見つめながら、ひやしあめをちびちび飲んでいる。
しかしよく売ってたな、それ。
本当はここで長門の笑顔がちょっぴりでも見れたら、とか思ってたわけだが、
そんなこと本人の前でなくても言えるわけがなく。
まあ、意外な一面が見られたってことで良かったとするか。
しかし何だな。今も長門は最初から自転車乗れたんじゃないかと思っちまうよ。
これまでお前を見てたら、やっぱりな。
「……乗れた。」
…何だって?
「……本当は乗れた。」
本当なのか?そうは見えなかったが。
「…そう。」
嘘は、ついてないよな。
そうすると俺を騙してたってことになっちまうぜ。
いくら長門でも、理由を聞かせもらうことになるぞ。
「以前から乗れたのは本当。情報統合思念体の端末としての力を使っていたから。
 でも今は使っていない。だから乗れなかったのも本当。」
どういうことだ?
まさか宇宙的パワーを失くしちまったのか?
「…そうではない。自己抑制しているだけ。」
長門の目線は足元を向いている。
何か事情があるってことか。
困ったことがあるなら相談しろよ?何かくらい俺にだってできるかも知れん。
「…ちがう。私が、そうしたかった。」
その台詞、似たやつを以前聞いたことがあるな。
そう、あの冬の日だ。世界が再改変された後、未来の自分との同期を封印したときだ。
「エラー解消の有効な手段と思った。」
ああそうか。
長門は、おそらく俺たちにもっと近づきたかったんじゃないだろうか。
だから人間離れした力を封印しようとしたのだ。
本人はまだ気付いてないのだろうか、自分の心に。
それは長門にも俺たちにもとても素敵な事なんだぜ。俺という個人はそう感じている。
「……。」
気付くと、長門がこっちを見て数ミリ首を傾げている。
ど、どうした?俺の顔に何か付いてるのか?
「何も。」
そういうと長門はまた正面を向いて川面に目を遣ってしまった。
長門の横顔に紅い夕日が当たる。
影のせいだろうか?微笑のようなものも見えた気がした。

 

(おしまい)

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:40 (1776d)