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作者 | 753k |
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作品名 | 祝川商店街ナガト自転車店 |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2006-11-06 (月) 23:20:11 |
キョン | 不登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 不登場 |
みくる | 不登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
舞台は部室。俺と長門の二人きりだ。
何の前振りもないが、会話など思いつきで唐突に始まるものさ。
そういや長門、お前自転車って持ってないのか?
「持ってない。通学にも日常生活にも必要ない。」
だが、SOS団の活動次第じゃ必要になるかも知れんぞ?
夏休みはあれで何とかなったがな。
「その時になったら用意する。」
お前の親玉が調達してくれるのか?
「そう。」
そうか。
と、何でもない会話はそこで終わりを告げようとしていたが、その幕引きは意外にも長門の手によって妨げられた。
「買いに行く。」
ん?自転車か?
「そう。」
急にどうしたんだ?わざわざ買いに行く必要はなかったんじゃないのか?
「自分で選ぶ。手伝って。」
心変わりの理由はよく分からんが、長門が自分から何かをしたいと言ってるんだ。
断る理由はシャミセンの額ほどもない。
ああ、いいとも。次の日曜日でいいか?
「(コクン)」
そして日曜日。俺と長門は俺的黒歴史映画でお馴染み、祝川商店街へとやって来た。
しかし、やはりというか、視線を感じるな。ここは。
道行く人に自転車屋の場所を聞くと、どうやらは商店街の片隅に一軒あるだけのようだ。
気に入るのがなければ別を当たるさと、期待もそこそこに教えられた場所に向かうと、
そこはこじんまりとはしていたが、ママチャリからスポーツ車まで所狭しと並ぶなかなかの専門店だった。
店主らしき親父、というかお兄さんも人が良さそうだ。
「いらっしゃいませ、何をお探しでしょう」
そういえば、長門はどんなやつが欲しいんだ?何にも聞いてなかったが。
横を向けば長門の助けを乞う目がこちらを見ている。
うん。一緒に選ぼうか。
店内を見回すとやはり乗ったことのないスポーツ車が目に付く。
何だか俺も乗ってみたくなったな。
「商店街の周りでなら試乗できますよ。」
うおっ!お兄さん、心読みましたか。
では、お言葉に甘えて。
長門もとりあえず適当に何か選べ。一緒に走ってみようぜ。
そう言って俺が一台のスポルティーフを選ぶと、長門も同じものを指差した。
お前もコレ乗るのか?まあ、お前なら大丈夫だろうが…。
お兄さんは不安そうな顔をしていたが、長門に合うサイズのものを出してくれた。
長門はその一台を前にして何やら呆然としている。長門?
「買う。」
あれ長門さん、もう決定ですか?てゆーか、一目惚れ?
思うが先か、長門はすでに会計を済ませていた。
「これが私の新しい相棒…。『蚊トンボ』。」
何じゃ、その名前は。しかも相棒って。
3年間で初めて、自分で自転車をこぐ。しかも彼が隣に。
なぜかプロテクタを付けるのに手間取った。
身体制御系にエラー?
…否定。特に異常なし。
問題無い。これから第一歩を踏み込む。
……。
あ…。
風が私の頬を撫でた。何だかこそばゆい。
二歩、三歩と足を進める。
風が通り過ぎてゆく。
風がどんどん後ろへ飛んでいく。
周りを見ると違う町のように見える。
いや、歩行時より視点が高いだけ。それだけのはずなのに?
この感覚は何。
今度は処理系にエラー?
でも彼の影響によるものとは異なる。
…いや…どうでもいい。
私はただ夢中で足を動かしていた。
「なーがとぉ〜…」
!
しまった。余りに気持ちよかったので彼のことが頭から消えていた。
彼とはすっかり差がついている。
ああ、並走するはずだったのに。
「待ってくれー」
足を止める。
今からは彼と一緒に走ろう。自転車店まではまだ半周ある。
「…スカートの下見えてたぞーー」
!!!
…
「!……ッッ!!………っ」
私の遥か後方からタイヤがバーストしたような音と金属が豪快にひしゃげたような音と
高一男子が悲鳴を上げたような音とが同時にしたような、何だか大袈裟な音が聞こえた。
私は再び風を追い抜き始める。
自転車って楽しいナ。
(おしまい)