作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと朝比奈さん
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-11-02 (木) 21:54:51

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

いつかは来ると分かっていた。
それでも俺はまだ先のことだと思っていた。

 
 

……朝比奈さんが未来に帰る……

 
 
 

桜の花びらが様々な場所で舞い、
冬の寒気が去ってしまったことを肌で感じるような、
暖かなある日……
我が北高ではある式典がしめやかに行われていた。

 

高校生として入学し、
3年間何事もなく過ごしたら誰もが出席することになる式典。

 

そう、卒業式だ。

 
 

今、壇上ではこれから北高を去る生徒たちが、
一人ひとり校長から手渡しで卒業証書を受け取っている。
怪しげな団に入ったおかげで、ほとんどの先輩は名前も知らないが、
それでもその数少ない先輩が紙切れを受け取るたびに、
俺は寂寥の想いに駆られた。

 

「それにしても……みんな普通ね……」

 

当たり前だろう。
普通じゃない卒業式があるなら見てみたいもんだ。

 

「みくるちゃんも鶴屋さんもちゃんと手を振ってくれたのに……」

 

あぁ、そうだな。
俺としてはあの二人が手を振ったことより、
お前が静かにしてるほうが感動だ。
てっきり『みくるちゃ〜ん!!』とか叫ぶと思ってたからな。

 

ちなみに朝比奈さんはいつもの控えめな笑顔で控えめに、
鶴屋さんはウインクした後、豪快な笑顔で豪快に手を振ってくれた。
あと、喜緑さんが意味深な顔で長門と俺のほうを一瞥し、
生徒会長が『お守り頑張れよ』と目で語ってきた。
とりあえず『その辺は古泉の役目ですよ』と目で返事しといた。

 
 

その後、校長のどうでもいい話や、
一体どこのどなたか存じていない来賓の祝辞、
生徒会長によるぶっちゃけすぎな卒業生代表の挨拶などを終え、
高校生活最後のイベントは盛大に幕を閉じた……

 
 

卒業式が終わると、
卒業生たちはまず自分のクラスで、
別れを惜しむという名目で大騒ぎをした後、
部活の後輩が待つ部室に向ってさらにお別れ会を隠れ蓑にして騒ぐ。
帰宅部であったり、第2ボタンがどうこうといった特別な用事がある人は、
部室ではなく中庭で騒いでいる。とにかく騒ぐ。
今日ばかりは教師たちも見て見ぬ振りをしている。

 

もちろんこんなイベントを我らが団長様が見逃すわけがなく、
元文芸部室のSOS団室でも『卒業おめでとうパーティ』が催さることとなった。

 
 
 
 

「でも、まさかみくるちゃんが卒業するなんてね〜」

 

なんだその言い方は。
それだとまるで朝比奈さんが出来の悪い子みたいじゃないか。
我らが麗しのメイドさんは決してそんなダメな子ではございません。
若干疑わしきところはございますが……

 

「だって、みくるちゃんて『先輩』って感じがしないんだもん」

 

まぁ確かに年齢不詳ではあるがな。
森さんといいメイドは年齢が分かりにくいものなんだろうか?

 

「い、いちおう卒業証書もあるんですけど〜」

 

分かってますよ朝比奈さん。
あなたがこの学校を3年間在籍したことはちゃんとわかってますから。
喜緑さんは怪しいけど。

 

「にしても、まさか留学するなんて……
いえ、さすがみくるちゃん!って言うべきね!」

 

そう、朝比奈さんはここを卒業したあと、
カナダに留学することになっている。
まさか『未来に帰る』なんて言えないしな。

 
 

「でも、朝比奈さんが留学されると寂しくなりますね……」

 
 

おい、古泉それは言わない約束だぞ。
別れが辛くなるじゃねーか。

 
 

「あぁ、そうだな」

 
 

おいおい、俺も何言ってんだよ。
そこは華麗にスルーしろよ。
名残惜しむのは心だけにしようぜ。

 
 

「……」

 
 

長門も何頷いてんだよ。
余計に寂しくなるじゃねーか。
ほら、ちょっと目頭が熱く……
そんな俺たちを鼓舞するようにハルヒは大きな声で言った。

 
 

「な、なによっ!別に卒業したって留学したってまた会えるわよ!
ねぇ、みくるちゃん?」

 
 

確かに朝比奈さんは未来に帰っても必ずこの時代に来れる様になる。
だが、それは朝比奈さんの時間ではもっと先のことだ。
目の前の愛らしいお姿でお目にかかることは二度とないかもしれない。
それでも朝比奈さんは笑顔で言った。

 
 

「えぇ、また会えます」

 
 

老若男女を問わず、見るものを虜にするような笑顔の朝比奈さんに対し、
ハルヒは急に不安げな顔になり、小さな声で尋ねた。

 
 

「……ほんと?」

 
 

勘のいい奴だから、何か思うことがあるのかもしれない。
いや、今の朝比奈さんや俺たちの雰囲気が気付かせたのかもな。

 

しかしそんなハルヒを、まるで年の離れた妹をあやすお姉さん、
もしくは幼いわが子を見守る母親のように朝比奈さんは優しく諭した。

 
 
 

「もちろんです……
もしかしたら少し時間がかかっちゃうかもしれません。
だけど、それでもいつか必ずみんなに会いに来ます……」

 
 
 

「みぐるぢゃん……」

 

お、おいっ、なに泣いてんだよ!?
ちゃんと『いつか会える』って聞けたんだから、もっと喜べよ!!
お前が泣いてるのを見たら俺だって涙が出るだろうが!!

 
 

滲みゆく視界の中で、
優しくハルヒを包み込む朝比奈さんの姿だけは鮮明に映っていた……

 
 
 
 

しばらくして、ハルヒが『ちょっと外の風に当たってくる……』と言ったので、
俺たちは二人で団室を出た。
何となく俺がついて行ったほうがいい気がしたし、
俺だって外の風に当たりたい……
それに俺がついて行ってもハルヒの奴は何も言わなかったしな。

 

「ねぇキョン……」

 

「なんだ?」

 

「ティッシュ持ってない?」

 

幸いなことにポケットに入ってるぜ。
どこぞの強がりの泣き虫さんが使うだろうと思ってたしな……
というわけで俺はハルヒに手渡してやった。

 

「ありがと……」

 

そう言ってティッシュを受け取ったハルヒは、
予想通り勢いよく鼻をかむと、それを丸めて、
適当な教室のゴミ箱に捨てた。

 

「ほらよ」

 

俺はついでにハンカチも渡してやった。
ハルヒは『何よ?』といぶかしんでいたが、
俺の視線の先にある洗面所を見て、納得したようだった。

 

「……ついでに顔でも洗うかな、と思ってな」

 

「……そうね。そうするわ」

 

そう言ってウサギのような目をした少女は、
俺のハンカチを持って洗面所に向って行った。

 
 
 

「ねぇキョン……」

 

顔をハンカチでゴシゴシしながらハルヒは話し出した。
なんだ?返事はしないけど、俺はここにいるぞ。
分かってるだろ?

 

「みくるちゃん……どこの大学に行くんだっけ?」

 

「確か……カナダのフランス語大学だったと思うぞ。
あとでもう1回聞いてみるか?」

 

「そうする……」

 

そう答えてハルヒはハンカチで顔を覆ったまま黙り込んだ。
俺も話すことがあるわけでもないので、
ただ静かにハルヒの側にいた。

 
 

しばらく沈黙の時間が流れた後、
どうやら少し落ち着いたのか、
ハルヒが顔を隠したまま口を開いた。

 

「みくるちゃんさぁ……」

 

なんだ?言いたいことがあるなら言えばいいぞ。
今ならなんだって聞いてやる。
そんな俺に対し、ハルヒは静かに言葉を続けた。

 

「ほんとに……また会いに来てくれるかな?」

 

「なんだ……落ち着いたらまた不安になったのか?」

 

「だって、なんだかみくるちゃんが遠くに行っちゃう気がして……」

 

縁起でもない事を言うな。
まぁたしかに俺たちが行くことが出来ない『遠く』に行ってしまうのは事実だが……

 

「大丈夫、必ず会いに来るさ。
朝比奈さんだってそう言ってたろ?」

 

「でも……」

 

ええい、『でも』じゃない!

 

いいか、よく聞けよ?
お前のことを朝比奈さんが裏切ったことが一度でもあるか?
無理やり拉致まがいに連れて来られ、
いいようにおもちゃにされたり、
コスプレをさせられたりしても、
朝比奈さんはお前の希望はかなえてくれたろ?
その朝比奈さんが『絶対会いに来る』って言ってるんだから、
間違いなくいつかまた会える!
お前はそれを信じればいい。

 

俺の言葉を聞いてハルヒはポツリと答えた。

 

「そっか……そうだよね。絶対会えるよね」

 

そうだな。
お前がそう言うなら絶対だ。

 

「そう、よね。あんたも、そう言う、んだし、絶対、よね」

 

ハルヒの言葉が途切れ途切れなのは……
ハンカチを顔にかけてくぐもってるからという事にしてくれ。
肩が震えているのも気のせいだ。

 

……まぁ、なんだ。
いろいろ思うところもあるだろうし、
しばらくそのハンカチは貸しといてやる……

 

「だから、ちゃんといつもの顔で来いよ」

 

「……」

 

団室に向う俺の言葉にハルヒはただ頷いた。

 
 
 
 

「涼宮さん……大丈夫かな?」

 

「彼が一緒にいる……心配ない」

 

「そうですね……キョン君がついてるなら……」

 

「それにしても、あなたがここを去るとなると寂しくなりますね」

 

「……」

 
 

ガチャ

 
 

あれ?お取り込み中か?
もっとゆっくり帰ってくればよかったかな?

 

「あ、キョン君!」

 

「何か……重要な話でもしてたんですか?」

 

俺は何となくしんみりした空気を感じ聞いてみた。
まぁ、しんみりしてるのは仕方ないかもしれないが。

 

「いえ……それより涼宮さんは?」

 

「あぁ、あいつならもう少し外の空気を堪能してから来るでしょう」

 

「そう……ありがとう、キョン君」

 

ありがとう?
別に感謝されるようなことは何もしてませんよ?
むしろ今までのあなたのお姿にはこちらが一生感謝しても足りないくらいです。

 

「それに感謝するなら、
俺よりも長門と古泉にしてやってください」

 

なんたって今回の朝比奈さんの『カナダの大学入学』のために、
長門が情報操作で書類、経歴、居住地などを情報操作し、
機関が裏工作をやったおかげでうまくいったんだからな……
まぁ古泉曰く、朝比奈さんはちゃんと試験に実力で合格していたそうだが。

 

「えぇ……二人にはもちろん感謝してます。ありがとう」

 

「いい」

 

「僕も、別に何かしたわけではないですよ」

 

謙遜する二人に丁寧にお辞儀をした後、
朝比奈さんは俺のほうに向き直ってこう言った。

 

「キョン君もありがとう……」

 

「いや、別に俺は何も……」

 

そう言いよどむ俺に対し、
朝比奈さんはやんわりと制止した。

 

「いいえ、キョン君にはいろいろ助けてもらいました。
涼宮さんのことにしても、わたしのことにしても……」

 

まぁ、我ながら損な性分だと思うが、
やはり放っておく訳にも行かなかったもんだから、
というか別に俺は特に大したことをしたわけではないので……
そうアレコレ言い訳を考える俺に、
朝比奈さんは丁寧にお辞儀をして言った。

 
 

「本当にありがとう……」

 
 
 
 

その後、鶴屋さんを引き連れて元気一杯舞い戻ってきた快晴娘により、
俺たちは中庭でもう一暴れすることになった。

 

さっそくネクタイを外し、堂々と喫煙を楽しむ生徒会長に突撃するハルヒや、
襲われて逃げ惑う生徒会長から制服のボタンを全てむしりとってる喜緑さんや、
2人の美女に襲われる生徒会長を見てゲラゲラ笑う鶴屋さんを見ていると、
ちょっぴりセンチメンタルというかノスタルジックというか、
まぁそんな感じの気分になった。

 

「どうしたの?」

 

あぁ、長門か……

 

「いや、ちょっと寂寞、ってのを感じただけだ」

 

俺は良く知りもしない言葉を使って、今の気持ちを表した。
まぁ『寂しい』って字が入ってるんだから、
意味は通じるだろう。
そんな俺に対して、長門はいつもの様にただ短く

 

「そう……」

 

とだけ答えた。
それからしばらく俺たちは、
目の前で時間を惜しむように楽しむ卒業生たちの姿を、
二人並んでただ眺めていた……

 
 
 
 

卒業式から1週間が経ったある日。
俺は、何をするわけでもなく家で怠惰な生活をしていた。
朝比奈さんは卒業式の3日後にカナダに発ってしまった。
機関が裏からいろいろ手を回してくれるというので、
生活の痕跡とやらを残してから未来に帰るらしい。

 

「はぁ〜」

 

ついため息をついちまった。
ここ数日でもう3桁は行ったんじゃなかろうか?
いくら、いつかはそんな日が来ると分かっていたとはいえ、
いざ実際に別れる事になると、寂しいことこの上ない。

 

そんな風にマンネリとしていると、
突然ケータイが鳴り出した。
もし、谷口なら電話口から直接耳に指を根元までグッサリやってやるところだが、
着信を見ると、まったく意外な人物の名があった。

 

「……どうしたんだ、長門?」

 

最近は割と取り留めのないことでも、
長門は電話をかけてくるようになったが、
それでも若干緊張してしまう。
また何か厄介事か?

 

『今から私の部屋に来て……』

 

「なんだ?また何か面倒なことに……」

 

『……』

 

何となく説明しがたそうな雰囲気が漂っている。
おそらく今長門は電話を持ったまま思案してることだろう。
仕方ない……

 

「わかった。今から行くから待っててくれ」

 

『了解……』

 

何故要請した側が了解するのか分からないが、
長門を困らせる気は毛頭ないので、
俺はすぐに出かける準備をする。

 

玄関で妹に会ったが、
朝比奈さんが遠くに行ってしまった事が、
それなりにショックだったようで、元気がなかった。

 

「キョンくんどこいくの〜?」

 

「あぁ、ちょっと呼び出されてな……」

 

「ふ〜ん……」

 

妹よ……
お前が元気ないと俺まで辛いぞ。
朝比奈さんならきっといつかお前にも会いに来るから、
それまで元気で待ってあげてくれ。

 

「うん、わかった」

 

ちょっとだけ元気になった妹にシャミを任せ、
俺は長門のマンションまでチャリを飛ばした……

 
 
 
 

「長門、俺だ。開けてくれ」

 

『……』

 

無言の返答と共に、オートロックが解除される。
俺ははやる気持ちを抑えて長門の部屋に向った。

 
 

長門の部屋についた俺は、
早速チャイムを押して到着を知らせた。
いくら何でも女の子の部屋のドアをいきなり開けるのはマズイからな。

 

「長門、来たぞ」

 

『……』

 

何となくインターホンの前で頷く長門の姿が浮かぶ。
と、そんなバカなことを考える俺の目の前でドアが開いた。

 

「よぉ、長門。今日は一体なんの……」

 

そこで俺のセリフは途切れた……

 
 

「な……!?」

 
 

俺はそこにいる人物を見て驚いた。
ここにいるはずがない人が目の前にいる。
呆然とする俺の目の前で、
その人物は朗らかに声を掛けてきた。

 
 

「ふふ……こんにちは、キョン君」

 
 

「朝比奈……さん?」

 
 

そこには、確かに1週間前に別れたばかりの先輩の姿があった……

 
 
 
 

「実は、長門さんにお願いがあるんです」

 

長門家のコタツで、湯呑みを前にして朝比奈さんは語りだした。
あれほど寂しかったのに、
いざ出会うと呆然としてしまった俺が悲しい。

 

「私に?」

 

長門がそう聞き返すと、
朝比奈さんは頷いて、湯呑みに口をつけた。

 

「……おいしいです」

 

「あなたの煎れた物の方がおいしい」

 

淡々と言う長門に対し、
朝比奈さんはいつも見せてくれた優しい笑顔で、
やんわりと諭した。

 

「長門さんが煎れてくれたんですから……おいしくないわけないですよ」

 

「そう……ありがとう……」

 

長門も本当に感情の起伏に富むようになった。
初めて会った頃なら、朝比奈さんの言葉が理解できなかったろう。
俺は長門の成長を喜びつつも、
朝比奈さんの真意を尋ねるため、質問した。

 

「それで……長門にお願いってのは……」

 

俺の質問に、
目の前の愛らしい先輩は湯呑みを置いて、
答え始めた。

 

「えと……」

 

朝比奈さんは何やら言い難そうな顔をしていたが、
やがて意を決したようにこう言った。

 
 
 

「長門さん……未来のあなたの時空連続体と同期してもらえませんか?」

 
 
 

同期?
確か長門が未来の情報を知るために、
そんな能力を使っていたが、今は封印してるはずだ。
いや、今はそんなことより聞かなければならないことがある。

 

「なぜ?」

 

俺の代わりに長門が尋ねた。
そう、朝比奈さんは未来人なんだから、
未来の事は自分で調べられるはずだ。
朝比奈さんより先の未来のことが知りたいのか?
それともまさか未来には歴史の授業がないのか?
もしそうなら羨ましい限りだが……

 

「えぇ、未来で調べることももちろん出来ます。
でもそれは大まかな時間の流れだけ。
個人のことまでは分からないの……」

 

まぁ、確かに世界史や日本史の授業に一農民の生涯が出てくることはない。
しかし、個人のことって、どういうことだ?
長門のこれからの人生を知ってどうするんだ?

 

「実は……」

 

すると、朝比奈さんは予想もしなかったようなことを言い出した。

 
 

「みんなに手紙を書きたいんです……」

 
 

「……」

 

「手紙?」

 

長門は今の答えにさほど驚いた様子もないが、
俺はまったく状況を飲み込めない。
なんだ?手紙なら今からでも書けるんじゃないんですか?

 

「手紙って言っても今出すんじゃなくて、
もう少し未来に出したいんです」

 

ますます訳が分からない。
もう少し未来ってのは、例えば来年の年賀状とかですか?
と、そこまで言いかけて俺の中で何かが閃いた。
その閃きを後押しするかのように朝比奈さんは言葉を続ける。

 

「これからしばらくは未来とここを行ったり来たりするのは難しくなります。
もっと上の立場の人間になれれば、可能ですが、
何年かかるかわからないし……」

 

つまり、それ相応の立場の人間になるまで、
音信不通になるからその間の情報を取得し、
先に手紙をしたためるつもりだったのか……

 

「でも、それなら自由に行き来できるようになってから、
こちらの好きな時間に来て手紙をしたためればいいじゃないですか?
それか、『機関』の人に頼むとか……」

 

そんな俺の提案に、
朝比奈さんは申し訳なさそうに首を振った。

 

「さっきも言ったけど、
わたしがそんな立場になるのに何年かかるかわかりません。
そのときに今と同じような書体とは限らないし、
もしかしたら、そんな機会はないのかもしれない」

 

そんなことはありません、
と喉元まで出掛かってるが、それは言わない方がいい気がする。
やはり朝比奈さん(大)のことは秘密にしとくべきだろう。

 

「それに……手紙は自分で書きたいですし……」

 

確かに『機関』なら、
朝比奈さんとそっくりな字体の人物を探したり、
丸々複製できたりするだろうが、
やはりそれは他人が書いたものだ。
朝比奈さんだって自分で書きたいだろう。

 

「だから……お願いできませんか?」

 

朝比奈さんは沈黙する万能少女に懇願した。
こんな顔で頼まれて断る男はいないが、
長門に通用するのだろうか?
そんな俺の不安はしかし、長門の返事であっさりと氷解した。

 
 

「わかった」

 
 

長門の返答を聞き、
朝比奈さんと俺の表情がにわかに緩む。
しかし、長門はさらに言葉を続ける。

 

「ただし」

 

瞬時に朝比奈さんの顔が強張る。
だが、長門は淡々と語った。

 

「同期するのは10年先まで……」

 

長門の言葉に少し残念そうな顔になった朝比奈さんは、
それでも健気に答えた。

 

「そうですね……とりあえず10年くらい経てば忘れられ……」

 

「違う」

 

「え?」

 

長門のはっきりとした否定に驚く朝比奈さん。
だが、俺にも長門の言いたいことは分かる。

 
 

「長門はあなたなら10年でそんな立場になれる、って言いたいんですよ」

 
 

俺が無口少女の代弁をする。
一応長門の方を見るが、どうやら間違ってなさそうだ。

 

しばらく驚いていた朝比奈さんだったが、
やがて、腹を決めたようにこう言った。

 
 

「そうですね。頑張って10年で自由に行き来できるようになります」

 
 
 
 

俺は今、長門のマンション近くの公園にいる。
今頃長門の部屋では朝比奈さんが未来の情報を得ている頃だろう。
俺としては未来に興味がないわけではないが、
そういうのはやっぱり知らない方がいい気がする。
『禁則事項』って奴だ。

 

そういうわけで俺はしばらく外で時間を潰すことにした……
春先とはいえ、なんだか冷えるのは……気のせいだろう。

 
 
 
 

「長門さん……」

 

「なに?」

 

少女は名を呼ばれて振り向く。
その顔に何か、決意のようなものが感じられる。

 

「未来を知るっていうことは……
これから先の良い事も嫌な事も分かってしまうって言うことです」

 

「知っている。
だから彼には席を外してもらった」

 

事も無げに少女は言う。
しかし彼女のことを良く知る少年が、今の彼女の瞳を見れば、
その気持ちが分かるかもしれない。
そして、それ以上にもう一人の少女にはその少女の気持ちが分かっていた。

 

「わたしが心配なのは長門さんのほうです。
もしかしたら、長門さんにとって辛い未来が……」

 

「大丈夫……」

 

少女はいつもより力強く言った。
そしてただ一言こう続けた。

 
 

「大切な親友のためなら平気……」

 
 
 
 

公園でぼんやりと考え事をしてると、
長門と朝比奈さんがやってきた。
時計を見ると既に2時間を経過している。
どれだけぼんやりしてたんだ……

 

「もう……終わったんですか?」

 

「えぇ、おかげさまで」

 

「……」

 

そうか、無事うまくいったのか。
じゃあ、あとは……

 
 

「もう、帰るんですか?」

 
 

そう尋ねる俺に、
朝比奈さんは精一杯の笑顔でこう答えた。

 
 

「はい」

 
 

「そうですか……寂しくなりますね」

 

つい本音を言ってしまった。
でもいいだろ?最後くらい。

 

「今度ここに来る時は、妹にも会ってやってください。
多分喜ぶと思うんで」

 

「はい……」

 

「ありがとうございます」

 
 

それだけ言うと、俺は別れの挨拶もそこそこに、
立ち去ることにした。
まだ数分くらいはこちらに留まってるだろうが、
これ以上ここにいると、朝比奈さんが滲んで見えそうな気がしたからな。

 
 

それにまた会えるんだ……
涙でお別れなんてナンセンスだしな……

 
 
 
 
 

「長門さん……本当にありがとうございました」

 

「いい……」

 

少年に感づかれないように、
ひたすらに無表情を装っていた少女は答えた。

 

「でも、長門さんには辛い……」

 

「いい……」

 

悲痛な声で少女は答えた。
今しがた見た『未来』という現実に、
彼女は打ちひしがれていた。

 

「あれは彼女……そして彼が取りうる最も可能性の高い未来」

 

少女は淡々と言う。
しかしいつもの様な静かな声ではない。

 

「覚悟はしていた……でも」

 

「でも?」

 

もう一人の少女が聞く。

 

「どうして未来の私が同期を許可したのか分からない」

 

「え?」

 

少女のいつになく感情的な声に、
もう一人の少女が驚く。

 

「あの光景を見ている未来の『私』には、
暖かい感じしかしなかった」

 

「長門さん……」

 

「どうして……どうし、て……」

 

小さく震える少女の肩に、
もう一人の少女はそっと手を置いた。

 
 
 

少しして、少女は常の落ち着きを取り戻し、
もう一人の少女に口を開いた。

 

「尋ねたいことがある……」

 

「なんですか?」

 

もう一人の少女が優しい笑顔で答える。
しかし少女は困ったような仕草をしていた。

 

「……」

 

「どうしたんですか、長門さん?」

 

「……うまく……言語化できない……」

 

悪戦苦闘する少女の様子に、
もう一人の少女は微笑しながらこう言った。

 
 

「焦らなくても大丈夫です。
いつか長門さんが質問を思いついたときにまたやって来ますから……」

 
 

「そう……わかった……」

 

その時もう一人の少女の時計のアラームが、
小さな公園に鳴り響いた。

 

「どうやらお別れみたいです……」

 

「そう……」

 

少女が少しだけ残念そうにそう言うと、
もう一人の少女が最後にこう言った。

 
 

「また、ここで会いましょう……
質問にはその時に答えますね……」

 

その言葉に、
少女は微笑み混じりにこう返した。

 

「わかった……待ってる……」

 
 

そうして朝比奈みくるという少女はこの『時』から姿を消した。

 
 
 
 
 

公園で一人たたずむ少女に、
物陰から現れた一人の女性が歩み寄った

 

「お久しぶり……といってもあなたの時間はそんなに進んでませんね」

 

少女に近づきながらその女性は、
懐かしい友人に会うかのように語りかけた。

 

「……予想より早く来た」

 

「えぇ、頑張りましたから」

 

少し驚きの表情が垣間見える少女に、
その女性は笑顔で答えた。

 

「あの時の……あなたにとってはさっきのですが、約束を果たしに来ました」

 

「そう……」

 

「わたしに聞きたかったことって……何だったんですか?」

 

少女はその双眸を目の前の女性に向け、
静かにこう言った。

 
 

「……『今』幸せ?」

 
 

真摯なまなざしを受け、
その女性は少し考える素振りをした。
やがて、彼女は笑顔でこう切り出した。

 

「その質問に答える前に……少しお話したいことがあります。
いいですか?」

 

「かまわない」

 

少女の了解を得たその女性は、
にこやかな顔のまま語り始めた。

 

「実は、この時間に来る前に、未来のある時間に立ち寄ったんです。
どうしても会いたい人がいたので。」

 

「……」

 

「その人はわたしの大切な恩人です。
これからあなたに会いに行くといったら、
『彼女はすぐにあなたに聞きたかったことを知る。
もし行くならコレを渡して欲しい』と言われました」

 

そう言ってその女性は懐から丁寧に何かを取り出した。
そしてそれを眺めながら話を続けた。

 
 

「その人はこう付け加えました。
『彼女は未来の自分の気持ちが分かっていない。
だからコレを見せてあげて』と」

 
 

そう言って彼女は少女に自分が持っているものを渡した。
それは一枚の写真だった。

 
 

「では、先ほどの質問に答えますね」

 
 

少女は自分に渡された写真に見入っていた。
そこには自分にはとても信じられないものが写っていた。
そんな少女にその女性は答えた。

 
 
 

「わたしは『今』とても幸せです……そこに写ってるあなたと同じくらい……ね」

 
 
 

その写真には数年分成長した大切な仲間たちに囲まれた少女が、
満面の笑顔で写っていた……

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:38 (3084d)