作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと書道
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-10-19 (木) 22:39:26

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

珍しくハルヒが団長席に座り、
ひたすらネットサーフィンをしているため、
何も起こらずに時間が過ぎていたある日のこと。
俺はそんな静かな時間が続くよう、
なるべくハルヒを刺激しないようにしていた。

 

「今日の涼宮さんは静かですね」

 

目の前で自分の黒石が次々と憤死していく様を気にせずに、
古泉は小さくささやいた。

 

「そうだな……」

 

まぁ、大方何か良からぬことをたくらんでいるのだろう。
頼むから今日一日くらいはそのまま口を開かないで貰いたい。

 

「どうせならお前も黙ってみたらどうだ?」

 

「そうすると、この部屋は誰もしゃべらなくなりますよ?」

 

たまにはそんな日があってもいいだろう。
というより、騒ぎ出すとどうなるか分からない。
と、そこで俺はあることに気付いた。

 

「誰も……?」

 

「ええ、現にこの部屋で会話をしているのは僕とあなただけですよ」

 

そういえば、いつも物静かな長門や、
黙ってマウスをいじっているハルヒに加え、
本日は我が麗しのヴィーナスである朝比奈さんも口数が少ない。
一体どうしたというのだろうか?

 

「朝比奈さん?」

 

俺はポットの前でボーっとしている愛らしい先輩に声を掛けてみた。
やはりこのお方のメイド姿はたまりません。
あとはその御髪をポニーテールにしていただければ……

 

「……」

 

へんじがない。ただのしかばねのようだ。
じゃなくて、『本当に心ここにあらず』という感じだな。
仕方ないので、俺は少し大きめに呼びかけてみた。

 

「朝比奈さん!」

 

「あっ、ひゃ、はいっ!?な、なんでしょうキョン君?」

 

あぁ、いつものSOS団専属メイドさんだ。
とはいえ、脅かしてしまったのは申し訳ない。

 

「すいません……何かボーっとしてるみたいでしたから気になって……
何か考え事でも?」

 

俺がそう聞くと、
その愛らしいメイドさんはもじもじしながら答えた。

 

「え、えと……その〜実は……」

 

なんですか?また未来からの指令ですか?
あなたの為なら例え火の中水の中……と言いたい所ですが、
いつもスリリングな体験をさせられている身としては遠慮願いたくもある。
しかし、今回はそんな厄介な事情は無く、
朝比奈さんの答えからは何の危険も感じられなかった。

 
 

「久しぶりにお習字したいなぁ……って」

 
 

「お習字、って……あの筆で字を書く?」

 

「そうです」

 

どんな悪人でも涙を流して改心させてしまいそうな笑顔で、
朝比奈さんは肯定した。
しかし、何でまた習字なんて……
と言うか未来にも筆があるのだろうか?

 

「書道部のみんなにも会いたいですし……」

 

そういえば、この人は元々書道部に在籍してたんだっけ。
それをハルヒが無理やり辞めさせたんだな。
なんて不憫な人なんだ……

 

「何なら今から行ってみてはいかがです?」

 

もちろん着替えていただきますが。
その服で歩き回って他の男子生徒の目の保養になることは避けたい。

 

「え、でも……そんなことしたら涼宮さんが……」

 

「そうよ、団長に黙って勝手に抜け出すなんて許さないわよ」

 

うおっ、いつの間に!?
音も無く人の背後に立つのは長門だけでいいぞ。

 

「勝手にも何も、お前が勝手に辞めさせたんじゃねーか。
もともと書道部にいたんだから別にちょっと立ち寄るくらいならいいだろ」

 

「なによ〜」

 

ちなみに書道部に復帰、とは言わない。
朝比奈さんのメイド姿が拝めなくなるのは困るからな。
でも、もし朝比奈さんがメイドにならなかったら、
この衣装は長門が着ることになるのか?
メイド長門……それもなかなか……いや、かなり捨てがたい。
などと、考える俺の横で、ハルヒが唐突に叫んだ。

 

「そうだわ!!」

 

耳元ででかい声を出すな。
鼓膜が破れるかと思ったぞ?

 

「何だイキナリ……」

 

文句を言う俺のことなど気にも留めずに、
ハルヒは高らかと宣言した。

 
 

「今からここで書道するわよ!!」

 
 

こうしてハルヒのどう見ても暇つぶしです本当に以下略な提案により、
俺たちは書道部に向かうこととなった。
ただ単に道具を借りに行くだけなので、朝比奈さんだけで充分だったのだが、
女性に荷物を持たせるわけにはいかないと、俺が同行を申し出て、
それを見て長門が俺を朝比奈信者から守るために同行を申し出て、
さらにそれを聞いてハルヒが『みんなで行きましょ』と提案して……
結局全員で押しかけることになった。

 

「……あ、ここです」

 

朝比奈さんが指差す方向には、見覚えのある扉があった。
そういえば、『あっちの世界』で朝比奈さんを迎えに行った時に来たか。
いや、あれは向こうの世界だから、俺はここには来てないのか?
ややこしいな。
でも確かあの時はポニーテールのハルヒがドアを開けて……

 

「こんちわー!書道道具借りに来ましたー!」

 

そうそう、そんな感じで……
って、おいっ!!

 

「バカ!何でお前がずかずか入ってるんだよ!?」

 

「団長に向って『バカ』とは何よ!それに団長のあたしが率先しなくてどうするのよ!」

 

「いいから、お前は外で待ってろ!朝比奈さんと俺が頼みに行くから!」

 

「なによ〜あたしだけ蚊帳の外ってこと〜?」

 

何とか暴れハルヒを鎮めて、
俺たちが道具を借りる交渉をしたのはそれから10分後のことだった……

 
 
 
 

「じゃあ、早速始めましょうか!」

 

借り物の習字セットを用意しながらハルヒはうきうきと言った。
いつの間にか腕章に『達筆王』とか書いてるし……

 

まぁ、いい。
俺も久々に書でも嗜むと……

 

「……」

 

「ん?どうした長門?」

 

俺は筆をじっと見つめたままの文学少女に声を掛けた。
まぁかすかに伺える表情から何が言いたいのかわかる気もするが……

 

「……」

 

「もしかして……筆で字を書いたことないのか?」

 

コクリと頷く長門。
まぁ確かに毛筆なんてめったに持たないからな。
それにこいつは字を習う必要も無いくらい達筆だし。

 

「……教えて」

 

そう言って筆先を俺のほうに向ける長門。
ちゃんと持ち手を相手に向けて……じゃなくて、

 

「俺が?」

 

「そう」

 

そんなことしなくても、
朝比奈さんに教わる方が効率がいいぞ?
それに、むしろ俺がお前に字を教わりたいくらいだ。

 

「……だめ?」

 

だからそんな目で見ないでくれ。
まぁ、お前の頼みなんだから喜んで教えてやるよ。
と言っても、俺が分かることなんか特にないが……

 

「いい」

 

そういって長門はしばし俺の指導を、
熱心に聞き入っていた……

 
 
 

それからしばらく各自いろんな字を書いていた。
朝比奈さんが普段の丸文字からは想像できない達筆
……行書というらしい……を見せているかと思えば、
古泉がよく言えば荒々しく字を書いていたり、
ハルヒが異常に上手くしたためていたり、
長門がまさに本からコピーされたように見事な楷書を書いたり……
俺?俺はまぁ良くも悪くも普通だ。間違いない。

 

「ねぇ」

 

存分に『天下統一』だの、『求む異世界人』だの書いていたハルヒが、
突然口を開いた。

 

「なんだ?」

 

お前が何か言う時はろくな事にならないから、
出来ればその先は何も言わないで欲しい。
そんな俺の願いもむなしく、ハルヒはさらにとんでもない事を言い出した。

 
 

「どうせなら、隣の人に何か一筆したためてみない?」

 
 

その『隣の人』ってのはコンピ研とかじゃなくて、
今それぞれの隣にいる人間のことだな?
ふむ、お前にしてはまともな……

 

「ちゃんとしょ〜じきな気持ちを書くのよ?」

 

なんだ『正直な気持ち』って……
まぁいい、とりあえず面白そうだからやってみるか。
え〜と、今の並びは……
俺の右隣にハルヒがいて、その隣に古泉、朝比奈さんがいて、
さらにその隣……つまり俺の左隣には長門がいるわけか。
両サイドが美少女というのは何か恥ずかしいな。
古泉が相手なら『五月蠅い』やら『鬱陶しい』やら難しい漢字を使ってやるのに……

 

「じゃあ、みんな用意はいい?
両サイドの人に対する気持ちを書くのよ?」

 

そう言ってハルヒは指をさした。
何だ?もう始める気か?もう少し時間をくれ。

 
 

「よ〜い、どん!!」

 
 

たまには俺の言うことも聞いてもらいたいもんだね……
そう思いながら俺は自分の筆を動かした。

 
 
 
 

「はい、時間切れ〜!みんな出来たかしら!?」

 

いつの間に制限時間を設けていたんだ?
まぁ書けたからいいけど。
どうやら、他の面子も既に出来上がっているらしく、
後ろ手に半紙を隠していた。

 

「じゃあ、まず左回りね……」

 

そう言って、ハルヒは俺の方を指差した。

 

「……何だ?」

 

「あんたから」

 

まず、指をさすな。
次に、何で俺からなんだ。
そして、俺に拒否権はないのか。
などと文句を言っても仕方ないので、
俺はおとなしく長門宛の半紙を取り出す。

 

「ほらよ」

 

まぁ長門には言いたい事がありまくりだが、
あえて、一つにするならコレくらいだろう。

 
 

「ふ〜ん。『信頼』……ねぇ」

 
 

長門のことはいつも信じてるし、頼りにもしてるからな。
もっと言いたいこともあるが、こんな所で言うのもなんだから、
あえて書かないことにした。

 

「……そう」

 

あれ、心なしか嬉しそうに見えるのは俺の気のせいか?
いやもう、その顔だけで俺は幸せな気分になるからいいんだけどな。
そんな風に一人喜ぶ俺を置いて、ハルヒは次の人物に振った。

 

「じゃあ、次は有希ね。みくるちゃんに何て書いたの?」

 

もう少しくらい、悦に浸らせてくれてもいいだろうに……
そう思いながら俺は他の人の『正直な気持ち』とやらを眺めていた。

 
 

さて、左回りに発表していった結果をお知らせしよう。
まず長門が朝比奈さんに送った言葉だ。

 

「『羨望』……ですか?」

 

長門が朝比奈さんの『何』に羨望してるのか……
まぁ視線を追っていけばわかる気がする。
『む』から始まって『ね』で終わる2文字の身体の一部だろう。

 

次に朝比奈さんが古泉に送った言葉は、
『お疲れ様』という、いろんな意味に取れそうな言葉だ。
まぁ確かに、灰色空間で化け物相手に頑張ってるんだから、
こういうねぎらいの言葉はぴったりだろう。
俺は言わないけど。

 

そして古泉が本人なりに丁寧にハルヒに書いたのは、
『全知全能』という、かなり冷や汗ものの言葉だった。
ハルヒは『さっすが古泉君ね!』とか喜んでるが、
冗談にしては少しきついぜ……

 
 

「じゃあ、今度は右回りね!」

 

おい、お前の番はどうした!?
華麗にスルーしようたって……

 

「あら、キョンはそんなにあたしのき・も・ちが知りたいの?」

 

何だその笑みは。
なんか嫌な予感がする……というかろくな事書いてないだろ。
結局、俺は触らぬハルヒになんとやらということにして、
聞かないことにした。
チキンと罵りそうなハルヒの目が痛い。

 

そうして、自分の番を消滅させたハルヒは、
またもや俺を指差して言った。

 

「じゃあ、またキョンからね」

 

……もうつっ込む気すら起きんな。

 
 

さて、とりあえず俺が1番手だというので、
もう1枚の半紙を取り出す。
ハルヒがやたらワクワクしてるが、
一体お前は俺に何を期待してるんだ?

 

「ほれ」

 

俺はそういって目の前に紙切れを差し出す。
こいつに言いたいことならレポート用紙20枚でも足りないが、
まぁ無難なところを選んだつもりだ。

 
 

「ちょっと〜『破天荒』ってどういう意味よ?」

 
 

読んで字のごとくだ。
お前のような奴はどこを探しても、
どの時代を探しても見つからないだろうよ。
これを破天荒といわずしてなんと言う。
俺がそう言うと、ハルヒは照れたように、

 

「ふん、まぁそういうことならいいけど……」

 

とだけ言ってそっぽを向いた。
気に入ってもらえたみたい……かな?
そんな感じでちょっとだけほっとしてると、
ハルヒは古泉の方に1枚の半紙を出して言った。

 

「あたしから古泉君への言葉はコレね!」

 

……もうちょっと余韻に浸る時間はないのかね……
やれやれ……

 
 

さて、それでは右回りの結果発表もしておこう。
まずハルヒが古泉に向けた言葉だが、
『頼れる男』というよく分からないものだった。
ハルヒ曰く『副団長だからね』というさらに意味が分からない理由があるようだ。

 

その頼れる副団長とやらが、SOS団のメイドに宛てた言葉は、
『努力結実』という何となく有難そうなものだった。
しかし、朝比奈さんはやはり思うところがあるらしく、
少しばかり涙ぐんでいた。
心配しなくてもあなたの努力は身を結んでますよ……

 

その将来特盛確定のメイドさんが、SOS団の読書娘に送ったのは、
『憧れ』という、素直な言葉だった。
朝比奈さんも長門のように頼れる女性になりたいのだろうか。
それにしても、お互いを羨ましく思うってのは、
ある意味素晴らしいことだな。何となくそう思う。

 
 

さて、残るはあと一人。
我らが万能宇宙人たる長門だ。

 

普段こいつは俺のことをどう思ってるのだろうか?
まぁ俺の方が全能力劣っているわけだが、
あまりに露骨にそういうことを言われるとへこむだろうな……

 

「じゃあ、最後は有希ね。有希のことだからはっきり書いたんでしょ?」

 

おい!不安になるようなことを言うな!
もしはっきりと『邪魔』とか言われたら俺は飛び降りるぞ。

 

そんな俺の焦燥感も気にせず、
長門は自分の半紙を俺に向けてゆっくりと開いた。

 
 

そこにははっきりと……2文字の言葉が書かれていた……

 
 

え〜と、長門さん?
コレは一体何のご冗談で?

 

「冗談ではない」

 

あぁ〜分かったからそんな顔をしないでくれ。

 

「いや?」

 

まぁそんな顔も嫌いではないが……
それにお前の気持ちもとっても嬉しいんだが……

 

「……」

 

まるで長門が乗り移ったかのように、他の3人は呆然としていた。
俺だって目の前の光景が信じられないんだが……
俺はよ〜く目を凝らして眼前の『長門の気持ち』を見た。
そんな確認作業を手伝うかのように長門は声に出して、自分の気持ちを述べた。

 
 

「……好き」

 
 
 
 

P.S.

 

その後我に返ったハルヒに、
『有希になんてこと書かせてんのよあんたはー!!』と、
硯で思いっきりぶん殴られた話はまた後日。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:36 (2625d)