作品

概要

作者十六夜
作品名長門有希の… 閑話2
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-10-11 (水) 22:19:01

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場
 

SS

 

あの文芸部室で一騒動あった日から一週間。

 

俺は今、あの長い坂をノタノタ歩いている。梅雨もすっかり明けて、雨雲がすっかり大人しくなったのを見計らったのか、出番が増えた太陽が元気にサンサンと日本を照らしている。…この登校時間だけでも控えてほしいものだ。
さらに一週間前を思い出すと、ハルヒによって二度と部室に行きたくなくなるような目にあったのだが、あの部室には愛しのエンジェル朝比奈さん、そして何よりほっては置けない長門がいる。
あの二人がいるのだ。
この身が朽ちようとも学校・部室には行かなくてはならない、たとえ太陽に邪魔さえようとも、ハルヒに何されようとも…。

 

ちなみに、
「長門と二人で出かけただけなのに、なぜそんなに怒る」
と悲惨な目に遭いながらハルヒに口出ししたところ、
「うるさい!! だまりなさい!!」
このように逆ギレされ、すでにキレているのにポパイがほうれん草を食べた時の如く、さらにパワーアップしてしまった。何でだ?

 

しかし、男性の俺が女性の考えを分かるワケもなく今に至るというコトさ。

 

そしてようやく、暑く長い坂を上り終えた俺は下駄箱で上靴にはきかえ、教室へと向かう。
教室の扉を開けると…俺の席に長門がチョコンと座っていた。長門は隣のクラスである。ということは、暑さで教室を間違えてしまったか、これは失敬、扉を閉める。
教室の表札を見直し…って合ってるじゃないか。ここは俺のクラスだ。
再度、扉を開ける。
やはり長門が俺の席に座っていた。俺の目がおかしいのではない、その証拠に教室にはいつもの顔が勢ぞろいだ。長門がいるせいか不思議な目をしているが。
めずらしくハルヒはまだ来ていないようで、長門の席(つまり俺の席)の後ろにはまだ空席である。このハルヒの指定席はずっと変わらない、少しは俺の後ろにも行ってほしい。
そんなコトより、
「長門よ、なぜ俺の席に座っている」
長門の首が横に向けられ、俺の顔を見る。…朝から長門の顔というのも悪くないな、いつもハルヒだし。
「…おはよう」
「あ、あぁ、おはよう。…それでどうしたんだ、まさか用件はこれだけか?」
別に長門とアイサツするだけでも俺は十分なんだがな。
「違う。他にも用件がある」
「用件? それならいつもみたいに携帯に電話でも入れてくれたら」
ハッと俺は口を自分の手で押さえ言葉を遮る。
さてここで、皆に質問だ。
男子が女子に「いつもみたいに携帯に電話」という会話を聞いたらクラスメイトはどのような反応を取るだろうか? …答えは言わなくてもわかるだろう?
周りのいくつかの女子グループからはキャイキャイとヒソヒソ話しが聞こえ始め、男子からは妬みともとれる視線が標的(俺)に向けられる。しかも、タイミング悪く谷口がちょうどこの部分の会話を聞いていたらしく、アイツの目からは殺意が感じられる。
「あ〜長門、ひとまず教室から出よう」
「私はここでかまわない」
俺がかまうから。長門はこの居心地の悪い空間がどうとも感じないのか…。それとも俺が神経質すぎるか、誰か教えてくれ。

 

ともかくここにいてはハルヒが来るかもしれん、またあのような目に会うのはゴメンだ。
ハルヒがいつ来るかもわからないので、俺の席からすぐ長門を連れ出すコトにした。
「ほら長門、とりあえず…階段の踊り場にでも行こう」
ハルヒの目もあるが、廊下ではクラスメイトの視線も気になる。
俺が長門の手を引っ張り教室から脱出する。
…俺もバカだな、手なんか握ったら騒ぎがでかくなることぐらい予想できたのに。見ろ、谷口なんか宝物が奪われたような絶望的な顔をしている。しかも、より一層ざわめく教室から出てすぐ、
「だぁぁぁぁぁぁーーー!!」
とか奇声を上げている。…友達やめようかな。

 

廊下ですれ違う人からも多くの視線を集めていたが、ようやく人通りのあまり多くない踊り場へとやってきた。ちなみにずっと長門の手を引っ張っていた、この踊り場までな。…長門の手はとてもやわらかかった。今のはただ妄言だ、忘れてくれ。
「いい?」
あぁ、ここならいいとも。それで何だ?
「あなたを夕食に招待したい」
夕食? ついこの間のコトを思い出す。
「また長門の家で何かのパーティでもするのか?」
それなら別にハルヒに聞かれてもよかったな。
「違う。…あなただけ」
……イヤそれはいいのだが、どうしたんだ?
「前にあなたが、わたしがどのような料理をするか興味を持ったため」
あー、前にそんなコトを言ったような気がする。確かに、たまにはレトルトやコンビニ物じゃなくて自分で料理するコトを勧めたな。
あの長門が料理をするのだ、興味の無いヤツなんていないだろう、例外なくこの俺もな。そうすると答えは決まっている。
「そういうことなら喜んでお呼ばれするよ。それでいつだ?」
「今日の学校が終わってから」
またえらく急だな。別に俺はかまわないが、
「しかし、部活はどうするんだ。終わってからだと、遅くなるぞ」
「遅くなってもいい。問題はあなたが了承を得るかどうか」
…そりゃあ、いいに決まっているじゃないか。

 

長門の招待を快く承り、HRのチャイムが鳴った。
「じゃあ、楽しみにしているよ。また放課後な」
前髪がわずかに揺れる頷きを長門は返す。
こうして俺は教室に戻ると、クラスメイトの女子によるヒソヒソ話と男子からの粘りつく視線を無視して長門に占領されていた席へと向かう。
ちなみに、谷口だがねたみと憎しみさらに怒りが混じったような顔をして、教室の前に立ちふさがっていた。が、所詮谷口だ。
「ジャマだ」
の一言で軽くあしらうコトであっけなく勝負がついた。そして、隣に立つ国木田に泣きつくという、あいかわらずのオーバーアクションである、もう慣れたものだ。
しかし、この世にはいつまでたっても慣れないものが存在する。
「あんた、カバンだけ置いてどこ行ってたの? なんかクラスもざわついているし、谷口のバカもいつにもまして変だし。…キョン、何か知ってる?」
どうやらクラスの連中は長門が来ていたコトをハルヒに話していないようだな。まぁ、朝からハルヒに話しかけようとする物好きなヤツは俺ぐらいしかいないからな。
「さぁな。俺はトイレに行っていただけだ。抜き打ちテストのウワサでも流れているじゃないのか」
「…なんか怪しいわね」
なんでこんなにも勘がいいんだ、コイツは。

 

ハルヒに対してとぼけておいたが、その俺の対応が気に食わなかったのか、HR中も授業中も後ろから[シャーペンチクチク攻撃]を受ける羽目になってしまった。そのおかげで授業は集中できなかった、まぁ、もとから集中なんてしないのだが。
こうして、また一歩成績の順位争いから俺は後退するのである。
それにしても、長門の手料理が食べれるとは…、これは放課後が待ち遠しいというものだ。
しかし、一体長門がどんな料理を作るのかが、楽しみであり不安でもある。まさか、この前の山盛りカレーじゃないよなぁ…と完全に否定できない俺がいる。

 
 

そして、授業は早くも終わり放課後。
ハルヒが今日も何かしら起こすだろう部活をするため、部室へと習慣化した足を運ぶ。これも習慣通り、扉をノックし朝比奈さんの返事を待つ。
…あれ、返事がない。今日はまだ来ていないのか…。
気を落としつつ扉が開けると、もちろん朝比奈さんがいるわけがなく、古泉もいない。ハルヒも掃除当番なのでいない。…だが、本を読む長門が居た。
その長門が本から目を離し、俺の方へと向き、
「……」
無言で頭をミリ単位下げる、いわゆる長門流のアイサツだ。
「よう、長門。いつも早いな」
「……」
もう一つ長門が無言で頷く。では、失礼して俺も指定席に座らせてもらうか。
…ところで長門、お前の座る位置が俺に近づいているのは気のせいか?
「気のせい」
ん、…そうか。なんだが毎日、少しずつ決まった間隔で距離が短くなっているような気がしたんだが、長門が言うからにはきっと気のせいなんだろう。

 

五分ほど経過したが、まだ誰も来ない。
この長門と二人でいる時間は静かでとても心地よいのだが、場所が場所だ。いつハルヒが来るか分からないので、あまり落ち着いてはいられない。しかし、俺の第六感はまだハルヒを来るコトを告げていないので、ちょっと気になっていた、
「なぁ、長門。夕飯なんだが、何の料理を作るんだ?」
このコトを尋ねて見ると、長門は本を読むコトをやめ、コチラを向く。
「…いろいろ」
「いろいろって…具体的には?」
「来ればわかる」
「…そうか。それなら長門の家に着いてからのお楽しみにするよ」
「そう」
料理するのがハルヒでこんな回答なら俺は、一体何が出てくるのか不安と心配でたまらなくなるが、料理するのは長門である。きっとまともな料理なハズだ、…量は半端ないかもしれないが。

 

十分もすると朝比奈さんや古泉も来て、遂にはハルヒもやってきた。
お決まりのハルヒの、ハルヒによる、ハルヒのための会議は、いつもとんでもないコトを口にするが、俺がどうにか阻止する。阻止率はそんなに高くはないがな。
しかし、今日はまだまともなものである。
「あとちょっとで夏休みよ! そろそろ予定も立てなくちゃね!」
…そういやもうそんな時期だな。あの去年の終わらない夏休みを思い出す。
そのことを知らないハルヒがホワイトボートに次々と夏休みの予定を殴り書いていく。よくもまぁこんなに思いつくものである、あきれを通りこして、感心するね。
「う〜ん、こんなものかしらね。あっ、後、一学期の疲れを癒すために温泉なんてのも行きたいわね」
お前の辞書に「疲れ」なんて文字はないだろう。きっと塗りつぶしているのに違いない、「常識」も怪しい。
しかし、温泉か…。行くなら冬がベストだが、夏に行くのもまたいいかもしれんな。

 

今日はこんな感じで時間が過ぎていき、長門の本を閉じる音がして、お開きだ。
しかし、いつもより早いような気がする。長門が早く料理を俺に振舞いたいのかもしれん、…というのは間違いなく俺の自惚れだろう。
そして団員五人で坂道下る。近頃は夕方になっても昼間の暑さが中々引かず、いよいよ夏到来って感じだ。この夏は何もない平和なものにしたいが、ハルヒがそれを許さないだろう。
しかし近頃はハルヒたちと一緒に何かしらするコトも「慣れる」というよりも「楽しく」なってきたから別にかまわない、…と思う自分はもう手遅れなんだろうな。

 
 

ちなみに長門とは一度別れ、近くのスーパーで待ち合わせの約束をしており、今、俺は自転車でそこに向かっている最中である。夕飯の食材は待ち合わせのスーパーで買うみたいなので、ここで少なくともメニューがカレーであるかどうかがわかるだろう。
俺はこのような若干の不安を覚えながら、長門が待つ目的地へと距離をドンドンと縮めていく。
俺の目にスーパーを捉えたその先には、ちょうど長門が反対側から歩いていた。これはちょうどいいタイミングだったな。
「おーい、長門ー!」
俺が自転車から降り手を振ると長門もそれに反応したのか、顔を少し上げコチラへ歩いてきた。
「待った?」
「イヤ、今さっき着いたばかりで、三十秒も経ってないぞ。まぁ、こうして二人そろったわけだし買い物に行くか」
「わかった」

 

…またこうして長門と二人きりで買い物をする日がこうもすぐ来るとは思わなかったな。しかも今回は、学生服ときたもんだ。他人から見たら、一体どう受け取られるかと思うと妙に落ち着かないな。
しかし、俺がいくら気にしても長門はいつもの長門であり別に変わった様子はまったく無い。何度も言っているかもしれんがそれが長門だからな。こんなことぐらいで、長門の行動に異変があれば、俺が不安になる。
俺がカゴを持ち、長門の後ろへとついていく。
長門が向かったまず先は、
「ここ」
野菜コーナーである。まさかまたカレーを作るのにいるジャガイモやニンジン、さらに千切りとなる運命のキャベツを取りにいくのか?
…と思ったのだが違ったようだ。長門が手に取ったのはダイコン・ほうれん草・少し離れたトコに置いてあったワカメである。ダイコンやほうれん草はどのように料理するかまだ分からんが、ワカメはおそらくみそ汁にでも入れるのだろう。
つまり、今晩は和食か。
次に肉コーナーに向かった長門がカゴに入れたのは豚肉である。…これはロース肉だな、価格の上に書いてあるし。料理スキルの無い俺にとっては、これをどう料理するかは予想がつかない。いよいよもって、作ってからのお楽しみになったな。

 

レジで精算が終わった今、スーパーの袋に入っているのは上記の品物に加え、卵・ミソ・いくつかの調味料などである。
しかしここで不安要素が一つ。…量が多い。
ダイコンは半分のものではなく、丸々一本だし、ほうれん草は三束、ワカメは一袋だが大入りだ。肉にいたっては、一キロある。あきらかに二人が食べる量としては多すぎる。
買い置きするため多めに買ったのか、それとも一日で消費するのか…、それは長門にしか分からない。俺としては前者を望むのだが。

 

そして今、俺は幸せ・至福・恥ずかしさの山頂にいる。
たとえると、幸せという名のスパイスをこれでもかというぐらい降りかけた食事が一日五食だされたような気持ちである。しかし、これをだれも見ていないところで食べるのなら問題ないが、他人の目の前で食べるとなると気も引けるというものだ。
分かりにくいたとえを使ってしまったな。つまり現状をたとえ言葉を使わないで説明すると、自転車の後ろに長門が乗っている、しかも腕を俺の体に回して。これが、幸せ・至福にあたるものだ。
そして今は下校時間である。前は休日だったのでそれほどいなかったのだが、平日である今日は帰り道の学生が数多くいて、視線が俺たちへと向けられる。これが、恥ずかしさにあたる。
俺は自転車であり、長門は徒歩だ。
「また自転車の後ろに乗るか?」
買い物が終わり、淡い期待を抱き長門に聞くと、
「そうする」
その瞬間、俺は心の中でガッツポーズを取った。…今は少し後悔しているが。

 

「なぁ、長門」
「何?」
あいかわらず俺の体に腕を回す長門であるが、
「せめて腕を回すのだけは止めてくれないか?」
「なぜ?」
またこのパターンか…、
「ほら、帰宅途中の学生が多くいるし…」
「わたしはかまわない」
だろうと思ったよ。俺も腹をくくらなきゃいけないな、
「わかった、長門の好きなようにしてくれ。落ちたりするなよ」
まぁ、長門が落ちるなんてコトはまずないだろうがな。
「そう」
こう言うと長門はさらに手を深く俺の腰に回してきた。
「これなら心配ない」
長門から俺に伝わる感触、腕の力がさらに増す、もちろん下校途中の生徒の視線もよりいっそう感じられる。
こうなると俺の理性がとても心配なんだがな。はたして長門のマンションまで耐えられるかどうか…。

 
 

正直危なかった、もう三分、もしくは長門から伝わる感触がもう少し強かったら、我を失っていたかもしれない。しかし、この至福という拷問に耐えるコトができた俺は、自転車を目立たない場所に停め、長門の待つマンションの入り口へと向かう。
玄関口のロックをはずし、エレベーターへと歩く。そして七階へと上がり708号室へ。この道順もすっかり慣れたものだ。
「入って」
「では、おじゃまするとしよう」
玄関でクツを脱ぎ長門の後ろへとついていく。…歩く長門の後ろ姿を見ていると抱きつきたくなる衝動に駆られるのは俺だけだろうか。
「座ってて」
長門の一言に我に戻る、またもや危なかった。本能にまかせて抱きついてしまったら、うっかりしていたではすまないだろう。
「じゃあ、ここでできるのを待ってるとするよ。どんな料理ができるか楽しみにしているからよろしくな」
「まかせて」
そう言うと長門はキッチンへと入っていき、俺はコタツで待つコトとなった。

 

三十分ほど経過。
俺は待っている時間を無駄にしないために、今日まったく集中していなかった授業の終わりに出された課題を片付けようと始めた…のだが、後ろのキッチンから聞こえる長門の料理する音に気をとられて授業と同じように集中できなかった。結局、これ以上しても無駄だと悟った俺はシャーペンを置き、休憩と称して料理の音にしばし耳を傾けるコトにした。

 

課題を止めしばらくすると、音だけではなく匂いもこちらに届いてきた。
う〜ん、イイ香りだ。…これはみそ汁の匂いだな。
ところが、この届いてきた匂いにひとつ気になる香りがある。この香り、俺は決して嫌いではない、むしろ昔から好きな分類に入る。しかし、一週間前に死ぬほど食べた物で、後一ヶ月は見たくもない。
説明すると、独特な香辛料でブレンドされたスパイシーな香りを持ち、本場はインドだ。レトルトでも数多く発売されており人気もある、これが目玉となっている飲食店も結構あるだろう。
ここまで説明しなくても分かると思うが…カレーの匂いである。
確か、スーパーで買った食材からはカレーはできないはずだ、俺も長門がカゴに入れた物は見ていた。
さすがに心配になった俺は、
「なぁ、長門。俺も手伝おうか?」
と匂いの正体を探ろうとしたが、
「大丈夫。座ってて」
あっさり断られた。
仕方ない、前向きに考えるとするか。…きっと料理の味付けにカレー粉でも使ったのだろう。カレーライスはアレだが、カレー味の食べ物ならまた違った感覚で食べるコトができるだろう。

 

俺の腹がグーグーと鳴り始めた頃、
「おまたせ」
長門がキッチンから出てきた。まず、コップと飲み物。そして、お箸に…スプーン? 両方使うのか? そんな俺の疑問は知らない長門は、お待ちかねの料理を運んできた。
おぉ、これはしょうが焼き、スーパーで買った豚肉はこれか。次はほうれん草の卵とじ、ダイコンとワカメのみそ汁。いい意味での典型的な和食である、量はかなり多いが。
長門がもう一度キッチンへと入っていった。そう、和食に絶対必要な白米がまだ出てきていない。長門はそれを取りにいったのであろう。
……俺の推理は半分間違っていた。
イヤ、間違ってはいないな、白米は確かにある。その上にカレールーがかかっているが。
「…なぁ、長門」
「なに」
長門はコタツの上にカレーを音も立てずに置く。
「これはなんだ?」
「……?」
長門は頭を右に傾けている。…何を聞かれているかわからないようだ。
「なんでカレーなんだ?」
「……?」
今度は頭を左に傾けた。…またもや、何が問題なのかわからないようだ。もしかして、長門家ではご飯はカレーライスがデフォルトなのか。
「…嫌い?」
いや、嫌いではない。さっきも言ったように、俺の中では好きな分類に入る。
「ちょっとこのメニューには合わないような気がするんだが」
「…そう」
俺だけに感じ取れる長門の残念そうな表情。その顔はレッドカード並みの反則だ、長門。俺はそんな表情は見たくも無い、そして、罪悪感でいっぱいだ。
「…たまにはこんな組み合わせもいいな。うん、実に美味そうだ。じゃ、いただきます」
俺がスプーンを手に取り、カレーへと突き刺す。すくって、多少ためらいつつもそのまま口へと持っていく。
「おいしい?」
…美味いさ、これでもかっていうぐらいカレーであり美味い。
「こっちも」
俺の目の前に出されたのは、山を形成しているしょうが焼きである。疲れているときにはもってこいの食べ物だ。
「…いただくとするよ」
水で、口の中のカレーを消す。スプーンからお箸に持ち替え、山盛りのしょうが焼きから一枚つまみ、これも口に運ぶ。
…美味い。肉を歯で噛み締めるたびに、しみこんだタレが口内に広がるし、肉も柔らかく食べやすい。
「驚いたな、そこらの店よりよっぽどうまい。ここまで長門の料理の腕前があるとは思わなかったな」
「そうでもない」
もう一枚、肉をつまみ口に放り込む。
「謙遜するコトないぞ、これは俺の正直な気持ちだ。うん、うまい。ほら長門も見ているだけじゃなく食べたらどうだ、俺だけが食べるなんてもったいない。そもそも長門が作ったものだしな」
「そうする」
長門流の肯定をして、箸をその手でつかむ。しょうが焼きに箸を持っていき肉を一枚つかみ小さな口へ。と思ったらもう次の肉へと箸を伸ばしている。あいかわらず早いな…。

 

こうして俺と長門は二人向かい合って食べている。
話しのネタも尽きたのでスーパーで材料を買っていなかったのに、なぜカレーがあるのかを聞いてみることにする。
「なぁ、長門。今日買った材料にはカレーを匂わせるものはなかったのになんでカレーがあるんだ?」
「この前に涼宮ハルヒ・朝比奈みくると三人とでカレーを作った時に教えられた」
スプーンに持ち替え、カレーへと突き刺す。
「一晩置いたほうがおいしくなると」
なるほどな。それはこの料理知識のない俺でも聞いたコトがある、理由は知らんが。…つまりカレーは昨日に作っていたのか。
「そう」
こんなに山盛りをか。…言うまでもないと思うがカレーも山盛りだ。
「…おいしくない?」
何度もそんな目で見ないでくれ、長門。誰もおいしくないなんて言っていない。
「いやいやそんなわけないじゃないか。長門が作ってくれてしかも一晩寝かせたカレーだ、美味いとしかいいようがない。週に一度は食べたいぐらいクセになる味だ」
長門は持っていたスプーンを置き、俺のほうをその目でじっと見つめる。
「…また来る?」
またって…夕飯をこれからもご馳走してくれるのか?
「そう」
「そりゃあ俺は全然かまわないが…長門はいいのか? ハルヒのおかげで金欠だし、お返しなんてたいしたものあげられないぞ」
「いい。
…あなたと一緒に食事する事、それであなたの食べる姿を見る、満足する顔を見る、そしてわたしもあなたと同じように食べる。
それで十分」
長門にここまで言われてしまっては断るにも断れん。そもそも断る理由も無いのだから初めから長門さえ良ければ断るつもりなんて無い。
「ならお言葉に甘えてたまにご馳走になろうかな」
「…本当?」
「本当だ。さぁ、まだ長門が作ってくれた料理は残っているし、続けて食べるか」
「……」
数センチの無言の頷き。そして俺も長門も箸とスプーンを動かし食べることを再開する。
…しかし、なんでここまで俺に長門はしてくれるのかな。
まぁ、今日のところはいいか、長門も自分の作った料理を満足そうに食べているし。

 
 

後日談。
…こんな理由で長門家にたびたび夕飯のお世話になるコトになった俺だが、問題が二つ。
一つは、最近体重が少し増えたコト。
食べれば太る。長門のたくさん食べる姿を見ているとこっちもいつも以上に食べるのだから体重が増えるコトは自明の理。長門は体の構造がどうなっているかわからんが、まったく変わらん。
…俺は夜にランニングでも始めるとするか。
そして、もう一つ。なぜか毎回カレーが出る。
別にカレーが嫌いなわけではない、と前にも言ったな。
しかし、冷麺にもカレー、親子丼にもカレー、さらにはカレーうどんにカレーライスとか出てくるのだ。料理自体の味は文句の付け所が無いのだが、さすがに「少しカレーを控えないか?」と言いたい。

 

…今度、長門に相談してみるか。

 
 

というわけでさらに後日談。
「なぁ、長門。次はカレー抜きでお願いできないか?」
こう進言したところ、
「…嫌い?」
長門は至極残念そうな表情をして返答した。
俺がなんて答えたかわかるか? もちろん二つ返事で、

 

「そんなわけないさ。次も長門の作ったカレーを楽しみにしているよ」

 

と言った。

 
 
 

…終わり

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:35 (2314d)