作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんとお手紙
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-10-07 (土) 11:19:14

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

暦の上では秋だというのに、
太陽が迸る情熱を余すことなくこの星に与え続けるおかげで、
せっかくの休日が夏日になってしまった。
俺はそんな憎たらしいほど真っ青な空の下、
駅に向かって自転車を漕いでいた。

 

といっても目的地はいつもの広場ではない。
今日は珍しく団長直々にパトロールの中止が言い渡されたからだ。
ここ数日ハルヒの奴は物思いに耽っていたり、
急に読書をしたり、とにかくよく分からない。
まぁ、何か面倒なことを思いつかないことを願うだけだな。

 

そんなことをぼんやり考えながらペダルを踏み続けていると、
ふと視界の隅に見覚えのある制服姿が現れた。
向こうも俺の存在に気付いたらしく、静かにこちらに顔を向けた。

 

「よぅ長門。何やってんだこんな所で」

 

俺が声を掛けると、
長門はそれに答えるように持っていたものを掲げた。

 

「……借りた本を返しに」

 

そうか。図書館か……
俺は後生大事そうにその文学少女が持っている、
電話帳を二つ折りにしたような分厚い本をみて推測する。

 

「あなたは?」

 

俺にだけ分かる程度に首をかしげて長門が聞いてきた。
確かにお前が答えるだけじゃフェアじゃないな。

 

「あぁ、俺は郵便局に用があってな」

 

「郵便局?」

 

不思議そうな顔で聞き返す長門。
まぁ健全な一高校生が頻繁に行くところではないしな。

 

「実は従弟妹たちに手紙を書いてやろうと思ったんだが、
切手が足りなくなってな……それで買いに行くところなんだ」

 

普通親類への手紙は親が相手の親に向けて出すものだが、
従弟妹が皆俺に懐いている、というよくわからん理由で、
俺が書いて送ることになっている。
叔父や叔母の言うことを聞かない子も、
俺の言うことは何故か聞いてくれるので、
事前に盛り込む内容を指定されることもある。
それにしても甥に自分の子供のしつけを頼むのはどうなんだ?

 

「そう……」

 

長門はいつもの無表情で答えた。
じゃあ、そういうことだから俺は行くよ。
図書館まで迷子になるんじゃないぞ。じゃあな。

 

「待って……」

 

「何だ?」

 

「私も行く」

 

「へ?」

 

思わず奇声を上げちまった。
というかお前は図書館に用があるんじゃなかったのか?

 

「本は後で返す。私も郵便局に行ってみたい」

 

「行ってもおまえの好きな本が置いてるわけじゃないぞ?」

 

「……だめ?」

 

そんな顔をされると困る。
……それに他ならぬ長門の頼みとあれば、断るわけにもいくまい。
あの赤いマークの建物にこいつを満足させるものがあるとは思えないが、
連れて行ったからといって支障があるわけでもない。

 

「わかった。連れてってやるよ」

 

俺がそう答えると、
長門は少しだけ嬉しそうに頷いた。

 
 
 

さて、いくら二人で行くといっても、
このまま俺は自転車、長門は徒歩というわけにはいくまい。
いくら長門が万能宇宙人だと言っても、
自転車に併走する少女は傍から見れば奇妙に映るからな。

 

「とりあえず自転車の後ろに……」

 

もう乗ってる……
俺が提案する前に実行するとは……
さすが長門だ。
いつの間にか持っていた本もカバンに入れて前かごに置いている。
相変わらず惚れ惚れするような早業だ。

 

「じゃあ、行くか」

 

俺はそう言って自転車を漕ぎ出した。

 
 
 

長門の重さは感じないのに、
腰に回された腕の感触はしっかりあって、
肉体的に疲れていないのに、精神を疲弊させた俺は、
郵便局の窓口に並んでいた。
何故か長門も一緒に並んでいる。

 

「長門も手紙を書くのか?」

 

「なぜ?」

 

いや、ここに並んでるからな。
というかここに来ても何も……

 

「そのような原始的な手段を使わなくても、
意思の疎通ならもっと効率的な方法がある」

 

あぁ、だろうな。
お前なら手紙なんか使わなくても直接相手の家まで行けるだろうしな。
だいたい今は手紙じゃなくてもいくらでも……

 

「それなら、どうして手紙を書くの?」

 

勝手にモノローグを読まないでくれ。
とはいえ、それもそうだな。
何で書くんだろうな、俺は。

 

「やっぱりちょっと格式ばってるからじゃないか?」

 

うん、我ながら適当な答えだ。
一応頭をフル回転させたんだが、
俺の脳はこういうときにはうまく働いてくれないらしい。
いつ働くんだこのブドウ糖泥棒。

 

「そう……」

 

俺の下手くそな返答に満足したのか、
長門は少し考え込み、やがてこう言った。

 
 

「私も書いてみたい……」

 
 
 

郵便局で予定より数枚多めに葉書と切手を買った俺は、
長門と一緒に図書館にやってきた。
長門の目的地だし、手紙を書くのもこういう場所の方が、
落ち着いて出来るしな。
家でやれば小さい悪魔に邪魔されるのは確実だ。

 

「さて、じゃあ書くか」

 

「書く」

 

お、長門もここで書くのか。
俺は興味をそそられて長門の方を見た。

 

「……」

 

おかしい、一向に動く気配が無い。
まさか電池切れか?

 

「……長門?」

 

俺の声に反応して、
長門はかすかにこっちを向いた。
よかった、スイッチは切れてないらしい。

 

「書かないのか?」

 

「書く」

 

そうか、それなら早く書けばいいんじゃないか?
何をじっとしてるんだ……?
不審に思う俺に、長門が返事をした。

 

「書くものが無い」

 

そういえば本しか持ってなかったな。
俺は少し困った顔をしている文学少女に、ボールペンを渡してやった。

 

「ありがとう……」

 

どういたしまして。
こっちこそ気付かなくて悪かったな。

 

「あと……」

 

なんだ?
何なら修正ペンも貸すぜ?
お前が間違えるとは思えないがな……
だが、長門はとんでもないこと言い出した。

 
 

「書き方が分からない……」

 
 

……え?

 
 
 

それから30分ほど、俺たちは図書館の隅で静かに奮闘していた。
図書館で騒ぐのは良くないから、あくまで小声だ。
どんな感じだったかは実際見てもらったほうが早いだろう。

 
 

「どっちが表?」

 

「マス目がいっぱい書いてあるほうだ」

 

ちなみに硬貨の表は数字が書いてない方らしい。
本当かどうかは知らないが、どちらでもいい気もする。

 

「裏返したらどちらが上か分からなくなった」

 

「もう1回ひっくり返せば、反対になってるかどうか分かる」

 

たまに年賀状を書いてると、
上下反対になることがあるが、あれは意外と凹むな。

 

「御中?」

 

「どこの企業に出すつもりだ?普通に『様』でいい」

 

というか手紙の書き方を知らないのに、
『御中』を知ってるってのは……
長門らしいといえばらし……いかな。

 
 

そんな感じで俺は自分の分はそこそこに、
ほとんど長門に付きっ切りだった。
それにしても長門の世話をしながら手紙を書くなんて、
俺には手紙を書く才能があるのかもしれない。
将来遺書をしたためることになる時位しか役立ちそうに無いな。

 

「……書けた」

 

そうか、よかったな。
お父さん嬉しいよ。

 

「じゃあ、あとは切手を貼るだけだな」

 

「切手?」

 

そうか、切手もご存じないのか。
まぁ実際に見せた方が早いだろう。

 

「あぁ、手紙ってのは切手を貼らないと届かないんだ。
で、コレがその切手だ」

 

その中の一枚を手にとってしげしげと眺める長門。
こんなに興味深げな顔をする長門は初めての図書館以来だな。
やがて、長門は自分の葉書の所定の場所に切手をつけた。

 

「……貼れない……」

 

そりゃ、置いただけじゃ貼れないだろう。
今の長門の一連の動作に危うく理性が吹っ飛びそうになっていた俺は、
長門のために切手の貼り方を実演した。

 

「こうやってちょっと舐めて湿らせれば、
糊で付く様になってるんだ」

 

そう言いながら俺は自分の葉書に切手を貼って長門に見せた。
長門はその葉書を真剣なまなざしで見ていた。

 

「やってみな」

 

俺が促すと、長門はわずかに頷いた。
切手を舐める長門の姿を思い浮かべると、
理性が飛びそうになるが、我慢だぞ俺。

 

しかし、長門は俺が差し出した切手に目もくれず、
手にした親戚宛の葉書を持ち……

 
 

ぺりぺりぺり……

 
 

長門さん!?
何で俺が貼った切手めくってるんですか?
そんなに切手に興味津々ですか?

 

だが、長門はさらに俺の度肝を抜く行動を取った。

 
 

……ぺろ……

 
 
 

「……貼れた」

 

だろ?
切手はそうやって湿らせれば貼れるんだ。
お前の好きな本の接着剤にもその糊は使われてるらしい。

 

「……ポリビニルアルコール」

 

そうか、そんな名前なのか。
無害のはずだが、名前だけ聞くと怖いな。

 
 

……って、現実逃避をしてる場合じゃないぞ俺。

 

「長門……今、何を……?」

 

「あなたに言われたとおり、唾液を使い切手を貼った」

 

お前が『唾液』なんて言うと妙になまめかしいな。
じゃなくて!

 

「それ……俺のなんだが……」

 

「返す?」

 

いや、別に返さなくてもいい。
これ以上貼ったりはがしたりすると使えなくなるだろうしな。
でも、俺が舐めた切手をお前が舐め……
よし、あまり深く考えるのはやめよう。そうしよう。

 

そうして、俺たちは切手貼りの作業を続行した。
長門の舐める姿は……正直、たまりません。
情熱を持て余す。

 

「……っと」

 

しまった。長門に1枚やったから、切手が足りない。
仕方ない、1枚返してもらおう。

 

「これ……」

 

さすが長門。
俺が言う前に渡してくれるなんて。
だが、俺は受け取って奇妙なことに気付いた。

 

「……」

 

これは俺の3点リーダだ。
長門よ……この切手もうすでに……
俺は長門から受け取った切手をそのまま貼ろうとした。

 

「……」

 

長門さん?
腕を放していただきたいのですが?

 

「切手は舐めてから貼るもの」

 

あぁ、そうだな。
さっき俺はそう言ったな。

 

「だから舐めて」

 

そんな目で見つめられないでくれ。
というかお前これ……

 

「私は舐めてない」

 

どう見ても感触が違います。
本当にありがとうございました。

 

「舐めて」

 

「いや、だから……」

 

「舐めて」

 

「だか……」

 

「な・め・て」

 

「……」

 
 

結局、長門の目に負けた俺は、
切手貼り付けのための儀式を繰り返した。
もちろん俺のほうに文句は無かったけどな。

 
 
 

P.S.

 

翌日、俺の家のポストに、
丁寧な明朝体で『キョン』宛てに届いた手紙が入ってた話はまた後日……

 

こんな宛名でも届くんだな……
郵便局の人お疲れさまです。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:34 (2625d)