作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんのフードファイト
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-10-04 (水) 18:39:15

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

※ヤンデレ注意

 
 
 
 
 

1週間の疲れを癒し、
同時に次の1週間に備えるための安息日。
日本どころか世界中のほとんどの人が休みとなる日曜日ではあるが、
我らが迷惑団長様の暦にはそんな曜日は存在しないらしく、
俺は今日も目的不明の散策に狩り出された。
こうして貴重な時間が費やされていくのか……

 

「遅い!罰金!!」

 

ついでに今日も財布の中身まで費やされるようだ。
毎度の事ながら、一体何時にくれば許してもらえるんだ?
ちゃんと集合時間には間に合ってるぜ?

 

「団長より先に来るのが団員ってもんでしょ!?
だからあたしより早く来なさい」

 

それだと罰金はお前になるぞ?
まぁ、どうせ指摘しても駄々をこねるに決まっているが……

 

「ほら、さっさと行くわよ!!」

 

そう言ってハルヒはさっさといつもの喫茶店に入っていった。
やれやれ……また財布が軽くなるのか……

 
 
 
 

「じゃあ、早速くじびきね」

 

自分の分のカフェラテを3秒で飲み干したハルヒは、
いつものように爪楊枝を5本取り出していた。
こいつは味わうって事を知らないのか?

 

「はい、キョン」

 

そう言って満面の笑みで手を差し出すハルヒ。
こういうのは順番がどうであろうと確率自体は変わらないもんだ。
よって、俺は特に考えもせず1本を引き抜いた。

 

「……印無しだ」

 

まぁこっちの方が本数が多いんだから、
引く可能性が高いのはこちらだろう。

 

「ふーん、無印、ね……まぁいいわ。次、古泉君」

 

何やら思わせぶりな表情を見せたハルヒは、
爪楊枝を持った手をゴソゴソしながら古泉に差し出した。

 

「ありがとうございます。では……これを」

 

そういって古泉が引いた爪楊枝には印があった。
古泉が何故か残念そうな素振りを見せているのは置いといて、
どうやら今回俺は両手に花となることだけは確定したようだ。
その花の片方が食虫花の可能性はあるわけだが。

 

「ふふ〜ん、さすが古泉君ね。じゃあ次は……みくるちゃん」

 

何が『さすが』なのかはわからないが、
ハルヒはまた手をゴソゴソさせながら、朝比奈さんの前に持ってきた。
そのゴソゴソさせる行為には何の意味があるんだ?

 

「え、え〜と……じゃあ、これで……」

 

恐る恐る我が愛しの天使が引いた爪楊枝には……
ビンゴ!印がない!!
これで俺は片手には美しいバラの花が……

 

「ちっ!!」

 

「ひぇっ!?」

 

朝比奈さんの小さな悲鳴につられて、
ハルヒの方を見ると……

 

「あら、残り2本の爪楊枝折れてたみたい……
ちょっと作り直すわね」

 

……俺の目には粉砕されてるように見えるんだが……
手の込んだイタズラをする奴もいるもんだ。
とりあえず怪我がなくてよかった。

 

「ねぇ、キョン……」

 

印をつけながらハルヒは語りかける。
何だ?そんな念をこめる様にしても、
お前が希望するくじを引くのは50%の確率だぞ?

 

「もしみくるちゃんが何か誘ってきても、
絶対に乗っちゃダメよ?」

 

何だそりゃ?
朝比奈さんの誘いなら俺は喜んで応じるぞ?
まぁ最近の未来からの指令は勘弁願いたいが……

 

「みくるちゃんも……キョンに変な事をしたら……
あ と が こ わ い か ら」

 

「ひぃっ……!?」

 

俺が何をするってんだ。
勝手に人を危険人物扱いしないでくれ。
朝比奈さんが怖がってるじゃないか。

 

「バカ言ってないでさっさとやれ。
印ももう十分だろ?」

 

「キョンがそう言うなら……仕方ないわね。
はい有希、どーぞ」

 

随分投げやりだな。
俺がお前の立場だったら、片膝をついて渡すぜ?

 

「……」

 

対する長門も、
ハルヒの持つくじの方をまったく見ずに、適当に1本を引き抜いた。

 

「な……」

 

何故か絶句するハルヒ。
その視線の先……つまり長門の手には……

 

「……無印……」

 

俺と同じ普通の爪楊枝が握られていた。
それにしても見ないで言うなんて器用な奴だな。
何はともあれどうやらラフレシアと歩くことは避けられ……

 

バキッ……

 

突然聞こえた、何かが折れる音がしたほうを見ると、
またもやハルヒの手の中で楊枝が折れていた。
どうやら店の人に楊枝に手の込んだイタズラをする奴がいることを
忠告しといた方がよさそうだな。
俺はそう思いながら、先に清算を済ませることにし、
伝票を持ってレジに向かっていった。

 

……そういえば、ハルヒの折った楊枝にも印がなかった気がするが……
まぁ気のせいだろう。

 
 
 
 

なんであたしとキョンが別々なわけ!?
愛し合う二人は一緒にいるもんでしょ!?
それも、よりにもよってキョンの隣には……

 

「あ、あのぅ〜涼宮さん……手は大丈夫ですかぁ?」

 

手?あぁ、この楊枝ね。
ったく、脆いったらありゃしない。
どうせ折れるなら目の前の女の首の方が……

 

「ありがと。大丈夫よ、みくるちゃん」

 

でもみくるちゃんは何でそっちにいるの?
この子も虫も殺さないような顔をして、
キョンをたぶらかそうとしてるのかしら?
だとしたら、重罪……死刑ね。

 

まぁ、みくるちゃんはどうでもいいわ。
そんなすぐにアプローチを仕掛けることは無いだろうし……
問題は……眼前にいるメス猫の方。
一体どんな魔法を使ったのか知らないけど、
キョンと同じグループなんて……

 

……って、そうだわ!
もう一回やり直せばいいじゃない!!
キョンをこの2匹の魔の手から救うためには、
やっぱりあたしが一緒じゃないと……
むしろ、キョンはあたしと二人きりじゃないとおかしいわよね!!

 

「ねぇ……やっぱりくじ引きやり直しましょ?」

 

「やり直し……ですか?」

 

ごめんね古泉君。
神聖なる団長たるあたしと離れるのは辛いでしょうけど、
団長のためなら涙を呑んで了承してくれるわよね?

 

「えっ……でも……」

 

あら、みくるちゃんはそんなにキョンと離れるのが嫌なの?
気持ちは分かるけど、キョンはあたしのものよ?
それとも……やっぱりキョンを狙ってるのかしら?
身の程知らずにも程があるんじゃない?

 

そのとき、二人とは別の方向から声がした。

 
 

「拒否する」

 
 

あら……部室の備品風情が、団長様の命令を拒否だなんて、
どういう了見かしら?
死刑よ?死刑。なんならこの場で細切れにしましょうか?

 

「この組み合わせで問題はない」

 

……あなたの目は節穴かしら?
キョンの周りに2匹も害虫がいるのよ?
これ以上問題なことは無いわ!!

 

「あなたが言ってることはただのわがまま……」

 

ちょっと……何笑ってるのよ、この盗人。

 

「それに……」

 

ソレは笑顔の表情をしたまま、
さらに言い放った。

 
 

「彼があなたなんかと一緒にならなくて良かった」

 
 

その顔は嘲笑に満ちていた……

 
 
 
 

「……というわけで、さっきから3本も折れたんで、
無いとは思いますが一応警戒をした方がいいかもしれませんよ」

 

「左様でございますか。かしこまりました。
当店の方でも不審な行動に充分注意させていただきます。
ご忠言まことにありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそいつも仲間がたむろって迷惑を……」

 
 

『ふっざけんじゃないわよっ!!』

 
 

って言ってるそばから何叫んでやがる!!
俺は店員さんに一言謝って、席のほうへ戻った。

 

「おい、ハルヒ!他のお客に迷惑だろ!?
ただでさえお前の声はでかくてうるさいんだから自重しろ!!」

 

店員、客全てがこちらを見ている。
これなんて羞恥プレイ?

 

「うるさいわね!あたしは悪くないわよ!!」

 

この状況で『はい、そーですか』と信じるほど俺は馬鹿ではない。
大体お前は何を怒ってるんだ?

 

「実はですね……」

 

知っているのか古泉!!
というわけで暴れ猪の様なハルヒをなだめながら俺は聞いた。
どうやらこのSOS団の解説役によると、
ハルヒがこの組み分けを不服として、
やり直しをしようとしたらしい。
それに対して長門が反論したところ、
ハルヒが怒ったらしい。

 

「そりゃハルヒが悪いだろ」

 

などとは口が裂けても……

 

「何ですって!?」

 

どうやら言っちまってたらしい。
この癖は早く治さないと命がいくらあっても足りないな。

 

「あたしは団長なのよ!?団員が口答えするなんて重罪よ!?」

 

わかったから声のトーンを下げてくれ。
周りの視線が痛い。

 

「いいか、ハルヒ。団長がそんなコロコロ決定事項を変えるようじゃ、
団としてうまく機能しないだろ?」

 

俺の言うことを静かに聴くハルヒ。
とりあえず話を聞いてくれてるだけでもありがたい。

 

「それに、この組み合わせが不服でも、
午後からの探索でまた違う組み合わせになるだろ?」

 

「うぅ〜」

 

犬かお前は。
とりあえず威嚇したり睨んだりしないでくれ。

 

「だからしばらく我慢しろ。いいな!?」

 

「……キョンが、そう言うなら……」

 

本当に『しぶしぶ』って感じだな。
まぁ何であれ、穏便に済んだんだ。よしとしよう。

 

「じゃあ、とっとと行くぞ?もう支払いは済んだしな」

 

「わかったわよ。行きましょ古泉君!!」

 

そう言ってハルヒはニヤケ面を取り戻したエスパーの手を引いた。
やれやれ……相変わらず騒々しい奴だ……

 

「そうだ、みくるちゃん」

 

「ひゃ、ひゃいっ!?な、なんでしょう……?」

 

おい、朝比奈さんをいじめるんじゃない。
怯えてるじゃないか。
そんな俺の懸念をよそにハルヒは続けた。

 

「悪い虫がつかないように見張っててね?」

 

そんな心配をしなくても、朝比奈さんに付きまとう奴など、
蜘蛛だろうが、蟻だろうが、モハメドアリだろうが俺が追っ払ってやるよ。
というか、何故それを朝比奈さんに言う?
もしや俺もその『悪い虫』に含まれてるのか?

 

そんな俺の小さなショックを無視し、
ハルヒは長門の方を向いてさらにこう言った。

 
 

「なんか……盛りのついたネコがいるみたいだから……」

 
 

はて、うちのシャミセンを見る限り、
そんな時期ではない気がするが……
もちろん朝比奈さんに迫る可能性がある危険は排除するに限るが……
まぁ何が来ても長門なら何とかするだろう。
ハルヒもその辺がよく分かってるから長門に念を押したんだろうな。

 

……どうせ俺は頼りにならんさ……

 
 
 

軽い自己嫌悪に陥りながらも、
俺は朝比奈さんと長門をつれて店を出た。
それにしても店内が寒かったのか、
朝比奈さんがずっと震えているのが気にかかるが……

 
 
 

そういうわけで俺たちは10分ほど休憩してから歩くことにした。
その間中、長門が俺にピッタリくっついて本を読んでたため、
恥ずかしいやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤になったことを付記しておく。
本当にこれなんて羞恥プレイ?

 
 
 

「さて……そろそろ行きますか」

 

と言っても目的地など有りはしないのだが。
聞かなくても予想はついてるが、長門は行きたい所はあるか?

 

「図書館」

 

まぁ長門とペアになった時点で、
最終目的地はそこしかあるまい。
朝比奈さんはどこか行きたい所でも?

 

「えぇと……その前に言っておきたいことが……その……あるんですけど……」

 

急に改まって何でしょうか?
あなたの声が聞けるなら罵倒でも謹んで拝聴しますよ。

 

「あの……涼宮さんのことなんですけど……」

 

なんですか?
またハルヒの奴が何かしでかしたんですか?
あなたも被害に会う前に逃げた方がいいですよ。

 

「えと……最近キョン君が涼宮さんにあんまり……その……
どっちかっていうと長門さんに傾……ひぃっ!?」

 

朝比奈さん?
何をそんなに怯えて……
せめて最後まで言ってくれないと気になって仕方ないですよ。

 

「大丈夫。涼宮ハルヒの周囲に異常は見られない」

 

そうか……それはいいことだ。
だけど、それなら朝比奈さんは一体何を言おうとしたんだ?

 

「それより、行きたい所があった」

 

随分急だな。
だが、お前が行きたい所ならどこだってついて行ってやるぜ。

 

「いい……朝比奈みくるに同行してもらう」

 

「ひぁ!?」

 

いい加減長門に慣れないものか。
まぁ未来の朝比奈さん(大)も長門は苦手だったし、
どうしようもないのかもしれんが。

 

「俺がついて行くのは嫌なのか?」

 

「そうではない」

 

長門はいつもより大きめに首を振って否定した。
じゃあなんで俺じゃなく朝比奈さんに同行してもらうんだ?

 

「ついて来ると言うのなら、ついて来てくれると嬉しい」

 

そうか、それなら同伴させてもらおうか。
ところでどこに行くんだ?

 
 

「……ランジェリーショップ」

 
 

え〜と、長門さん?
それはいわゆる『女性用下着専門店』という店ですか?

 

「そう……来る?」

 

すまん……遠慮させていただく……

 

「そう……」

 

長門はそれだけ言うと朝比奈さんの手を引いてさっさと行ってしまった。
健全な男子高校生としては興味が無いわけでもないが……
これ以上の羞恥プレイは勘弁して欲しいからな。

 

そして俺はちょっとだけ情けなく思いながら、一人でぶらつくことにした。
たまにはこういう一人歩きもいいだろ……と、無理やり納得することにする。

 
 
 

人通りの少ない路地裏。
二人の少女が面を向かい合わせている

 

「……ここなら誰にも聞かれない」

 

無表情の少女が淡々と述べた。

 

「え、えと……」

 

対するもう一人の少女は表情に不安をのぞかせている。

 

「大丈夫。私は今のあなたに危害を加える気は無い。
ただ忠告をしたいだけ」

 

「忠告……ですか?」

 

「彼と涼宮ハルヒを不用意に近づかせるのは止めるべき」

 

「えっ!?」

 

「あなたや古泉一樹の考えはお見通し。分かっていないのは彼だけ」

 

「そ、それは……でもそうしないと」

 

「『自分たちの世界が変わってしまう』?」

 

「!?」

 

「『未来がなくなってしまう』?」

 

「……その通りです。だから長門さんには悪いけどキョン君と……」

 

「だから忠告をしておく」

 

「え?」

 

「もし彼と涼宮ハルヒが接近する様なことになれば……」

 

その少女は冷たい表情で言った。

 
 

「そのときがこの世界の終焉……」

 
 
 

自分の生まれ育った町とはいえ、
たまにはぶらりと一人歩きもいいもんだ。
今まで知らなかった側面みたいなものが見える。
俺は新たな抜け道や広場を見つけるたびに、
そんなことを考えていた。

 

そんなとき、一軒の店の張り紙に目がいった。
ふむ、これは……

 

「どうしたの?」

 

うおっ、長門!?
いつの間に背後に立ってたんだ?
それに朝比奈さんはどうした?

 

「朝比奈みくるは買い物を続行している」

 

そうなのか?
一人で大丈夫だろうか。少し心配だな。

 

「それより、何を見ていたの?」

 

「ん?あぁ、これだ」

 

そういって俺は先ほどまで見ていた張り紙を指差した。
それにあわせるように長門もその方向に目をやった。

 

「……ふーどふぁいと?」

 

やっぱり知らないか。
まぁ簡単に言えば大食い競争だ。
制限時間内に指定された料理を完食すれば、
料金がタダになったり、賞金がもらえる。

 

「ここの場合はこの『特製大鍋カレー』を1時間以内に完食すれば、
賞金として1万円が貰えるんだが……」

 

諭吉さんは大変魅力的だが、
この張り紙の絵を見る限り俺は無理そうだ。
というか米1升なんて力士でも無理じゃないのか?
特盛りは朝比奈さん(大)だけで充分だ。
だいたい、大鍋に入れるのはカレーのルゥだけだろ。
皿の代わりに大鍋を使うここの店主の発想力は素晴らしいと思うが、
もっと別のところで発揮して欲しいものだ。

 

「……挑戦するの?」

 

「確かに毎度毎度の奢りで不況を訴える俺の財布にしてみれば、
この1万円というのは大変魅力的だが……
正直俺の胃袋がそこまで包容力のある奴とは思えん」

 

「そう……」

 

長門はそれだけ言うと、
なにやら思わせぶりな表情でそのチラシを眺めていた……
まぁ俺に分かる程度なんだがな。

 
 

その後、なにやら元気の無い朝比奈さんと合流した俺たちは、
待ち合わせ場所である駅の広場に向かった。
その間中、朝比奈さんは長門にいつも以上に怯えながら歩いてたけどな。
いい加減慣れてくれないものか……

 
 
 

「キョン?何もされてないでしょうね?」

 

「あぁ。至って問題なしだ。だから睨むな」

 

朝比奈さんにも長門にも悪い虫はついてない。
俺が睨みまくってやったからな。

 

「そう、ならいいわ。じゃあ早速くじ引きね!!」

 

おい、せめて昼飯くらい食わせてくれよ。
歩き通しで強制ハンガーストライキ状態なんだぞ?

 

「あとで食べさせてあげるから我慢しなさい!!」

 

そういってハルヒはくじを持った手を長門に突き出した。

 
 
 

さっきは残り福なんて狙ったからキョンと一緒になれなかったのよ。
だから、今回はキョンに残り福を譲れば、ちゃんと一緒になれるわ!
それにキョンもお腹空かせてるみたいだし、
一緒にご飯食べてあげないと……

 

「……」

 

っと、この子いつの間に引いたのかしら?
……印つき、ね。
じゃあキョンもあたしも無印だから、
一人邪魔が入るじゃない……
まぁ古泉君もみくるちゃんも私の言うことは聞いてくれるでしょうから、
一人で時間を潰してもらえばいいわ。

 

「じゃあ、次あたしね」

 

そしてあたしは適当にくじを引いた。
引かなくても結果は分かってるけどね……
ほら、印なし。

 

「じゃあ次古泉君ね」

 

ホントはすぐにでもキョンに引いてもらいたいんだけど……
でも我慢よあたし。

 

「それでは……」

 

そういって古泉君が引いたのは……

 

「印なし……また涼宮さんとご一緒ですね」

 

あら、そんなに団長と行動できるのが嬉しいの?
さすが古泉君ね!やっぱり副団長にふさわしいわ。
キョンももっと古泉君を見習って欲しいわね。

 

「あと、残ってるのは印有り、無し1本ずつね」

 

キョンが印なしを引くのは決まってるんだけどね。
みくるちゃん、その泥棒猫のお守り任せたわよ?
じゃあ、引いてちょうだい。

 

「えと……じゃあ、これで……」

 

そういってみくるちゃんは片方のくじを引いた。

 
 
 
 

「長門……どこか行きたい所あるか?」

 

なんか前にも聞いた気がするが……
どれくらい前かって言うと、時計の長針が2〜3周したくらい前だ。

 

「……」

 

今度は先ほどと違って無回答か。
そういえば、さっきは『図書館』って言ってたな。
二人きりだし、つれてってやるか…

 

「なぁ、図しょ……」

 

「行きたい所がある」

 

な、何だまたか?
別にどこでもつれてってやるが。

 

「一人で行きたい……だめ?」

 

「別に構わないが……どこへ行くんだ?」

 

「秘密」

 

秘密か……そう言われると余計に気になる人間の不思議。
こうなればこっそり後を尾行て……

 

「もし後をつけた場合……」

 

こ、心を読まれた!?
すいません、そんなことしません。
許してくだ……

 

「朝倉涼子人形を1ダースあなたの部屋に送る」

 

本当に申し訳ありませんでした。

 
 
 

1時間ほどで終わるというので、
俺は図書館で時間を潰すことにした。
長門の行き先は正直気になるが、
ダンボール詰めになったトラウマが部屋に送られてきたら、
俺はその場でショック死してしまうだろうからな。
長門を出し抜けるとは思えんし……

 

そうして俺はのんびり図書館で惰眠をむさぼることにした。

 
 
 
 

「ねぇ、みくるちゃん?どうしてあたしに迷惑かけるの?」

 

「ひっ!?わ、私は別に何も……」

 

この期に及んで……
盗人猛々しいってこういうことかしら?

 

「『何も』?キョンと同じ組になっておいて『何もしてない』って言うつもり?」

 

「あ、あれは偶然……」

 

「まさか……あなたキョンをたぶらかしてるんじゃないでしょうね?」

 

「そんなこと……」

 

まだ言うの?
あなたが事あるごとにキョンに近づいてるのは分かってるのよ?
お茶出しだかなんだか知らないけど、
キョンに近づきすぎなのよ。
キョンも優しいからこんな女に付きまとわれるのよ。
許せない許せない許せないゆルせないゆるせナいユルせなイユルセナい……

 

「ひぃっ!!」

 

「涼宮さん、少し落ち着かれては……」

 

あら、古泉君。あたしは落ち着いてるわよ?
だから手を離してちょうだい。
団長を制止する権限は誰にも無いのよ?
それともあなたも……

 

「彼女が彼と同じくじを引いたのは本当に偶然なんです」

 

……『彼女が』?『引いたのは本当に偶然』?
みくるちゃんは偶然キョンと同じになったってこと?
みくるちゃん『は』……

 

そっか……そうよね……
みくるちゃんより先に潰さないといけないのがいたわね……
ありがとう古泉君。
優先順位を間違えるところだったわ。

 

「あ……あぁぁ……」

 

目の前で震えているこの女は後……
まずは……

 
 
 

とある街角の飲食店 小柄な少女が、テーブルについている。
よくある微笑ましい光景……とは思えないが、その少女が宇宙人ってのはそうないはずだ。

 

「ご注文の方はお決まりでしょうか?」

 

ちなみに『の方』は必要ない。
つけたから問題があるわけでもないが。

 

「特製大鍋カレー1つ」

 

その少女があっさり言ったメニューに、
店員の女性は驚きのあまり伝票を落とした。

 

「も、申し訳ありません……
もう一度ご注文の方を……」

 

「特製大鍋カレー1つ」

 

彼女は淡々と答える。
しかし店員はおろか、周りの客まで固まってしまっている。

 

「あ、あの〜……正気、ですか?」

 

あまりのショックにかなり失礼な態度を取る店員。
しかし、言われた少女も言った本人も、周りの客も気にしていない。

 

「表の張り紙に制限時間以内に完食すれば賞金がもらえると書いてあった。
だから挑戦する」

 

改めて店員の女性はその奇妙な客を見た。
中肉中背の彼女から見て、その少女は明らかに『小柄』と言うにふさわしい体躯であった。
身長150cmちょっと、スレンダーな体型、少し儚そうなイメージ。
そんな少女がよりにもよって大食いに挑戦するというのだ。

 

「……やめたほうがいいと思いますよ?」

 

彼女は本当に親切心から言った。
事実、以前この少女3人分はゆうにありそうな男が挑戦したときも、
大量に残して敗北していた。
そんなものに目の前の少女が……

 

「大丈夫……やる……」

 

店員は困った。
客の注文に文句をつけるのは言語道断だが、
こんな子にあれは……
そんなとき後ろから声がかけられた。

 

「お嬢ちゃん……本当にやるんだな?」

 

「て、店長!?」

 

いつの間にかこの飲食店の店長が立っていた。
彼は客の少女に確認するように問いかけた。

 

「……やる」

 

「そうか……」

 

それだけ言うと彼は厨房に去っていった。
そのついでに彼は店員が落とした伝票を拾い上げ、
そこに大きく『注文』を書いた。

 
 
 

「店長、本気ですか!?」

 

「俺ぁいたってマジだ」

 

「でも、あんな小さな子に……」

 

「なりは小せぇが、いい目をしていた。
あんな顔で言われて断れるわきゃねぇ」

 

その男は久しぶりに使うことになった大鍋を磨きながらそう言った。

 
 
 

「へい、お待ち」

 

その少女の前に特製の大鍋が置かれた。
並みの男性でも2人がかりで運ぶのがやっとというその鍋のおかげで、
少女がどんな表情をしているのかは分からない。
絶望か……あるいは希望か……

 

「じゃあ、制限時間1時間だ。
好きなときに始めてくれ。お嬢ちゃんの『いただきます』でスタートだ」

 

スプーンとコップ、氷水入りのピッチャーを用意しながら、
店長は言った。

 

その作業を終えるのを見て、
獲物の確認をした少女は意を決したのか、
開始の合図を口にした。

 

「いただきます……」

 

そうして最初の一口を口に運んだ。

 
 
 

一目見たときから只者ではないと思った。
何か起こしそうな予感がした。
だが、今目の前で起きている状況までは予想できなかった。

 

「てんちょー……今何分だ?」

 

客の一人が彼に声を掛けた。
自分の料理が冷えていることも気にしていない。

 

「……まだ7分だ」

 

言いながら、自分でも信じられなかった。
今までこれに挑戦した人間は、ほとんど敗北した。
勝利した人間も残り数秒単位という、
ギリギリの中で戦っていた。

 
 

だが、その少女の目の前には……

 
 
 

既に底が見えた大鍋があった……

 
 
 
 

「……9分43秒……完食だ……」

 

「ごちそうさま」

 

その客の少女はピッチャーで水を飲み、
口の周りを拭いてそう言った。

 

もはや、周りの人間は動いてすらいない。
皆この偉業……ならぬ異形に驚愕しているからだ。
その中心の少女は店内に入ったときと、
まったく変わらぬたたずまいで座っている。

 

「完敗だぜ……ほらよ、賞金だ」

 

「ありがとう……」

 

その少女はわずかに頬を緩ませながら、
賞金が入った封筒を受け取った。

 

「記念に写真1枚いいか?勝利者は記録と共に飾ってんだ」

 

「構わない」

 

「それにしても……こんなあっさり攻略されるたぁな」

 

「今度からは、ご飯の量を3倍にしたほうがいい」

 

「はっ、そんなもん容れもんがねぇや」

 

「そう……」

 

少女は少しだけ可笑しそうに言った後、
一言だけ言って店を去った。

 
 

「おいしかった……」

 
 
 
 

「て……」

 

「きて……」

 

何だ……声が聞こえる……
俺は今眠いから後で……

 

「おきて……」

 

ん?この声……長門か?
長門が起きろと言ってるなら起きねばなるまい……

 

「よぅ……長門……もう用事はすんだのか?」

 

時計を見ると、眠り始めてから20分ほどしか経ってない。
1時間とか言ってた気がするが……

 

「いい……もうすんだ。それよりコレ……」

 

そういって長門は1枚の封筒を差し出した?
何だこれ?

 

「お金」

 

「へ?」

 

「あなたが涼宮ハルヒに奢らされて、金銭的に困窮しているといった。
だからコレ」

 

あ〜、つまり金が無い俺にプレゼントってことか。
というかそもそもどこで入手した金だ?
真っ当な方法で得た金だよな?

 

「法に触れてはいない。けれど入手場所は秘密」

 

まぁ長門がそういうなら、
一応はまともな金だろう。

 

「気持ちはありがたいんだが……受け取るわけにはいかないな」

 

「どうして?」

 

そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
素直に『ありがたい』と思ってるんだ。

 

「それはお前の金だからな。
俺に渡すより自分で使う方がいい」

 

「でも……」

 

なおも引き下がらない長門。
俺はまたこんなに長門に気を使わせていたのか……
何とか断る方法はないか……そうだ!

 

「金はいいから、今度から俺が遅刻しないようにしてくれないか?
それならもう奢らなくてすむからな」

 

俺が遅刻しなければいいだけの話だ。
長門に頼むのは気がひけるが、
朝起こしてもらうくらいはいいだろ?
頼むぞ長門ママン。

 

「……わかった」

 

長門は少し嬉しそうに答えた。
その金は本を買うのに使えばいいさ……
俺よりお前に使ってもらったほうが金も幸せだろう。

 

「それに、いくら金がないって言ったって、
お前に奢ってると思えば気にもならないさ」

 

長門には世話になりまくってるしな。
だから、これ以上気を使わないでもらいたい。

 

そう思いながら俺は目の前の文学少女と図書館を歩くことにした。
この楽しそうな横顔が見れるなら全財産だって安いもんだ……

 
 
 
 

『俺が遅刻しないように』

 

彼はそう言った。
彼の願いを叶える事は最優先事項。
彼が遅刻しないようにするにはどうすればいい?

 

電話をかける?
目覚まし時計を増やす?
朝から添い寝……エラー。それはまだ早い。
でもどうすれば……

 

そうだ……

 

彼が遅刻するのは涼宮ハルヒの不毛な探索があるからだ。
あれがなければ彼は遅刻しない。
悪いのはあの女だ。
あの女がいなくなれば、彼を苦しめるものはいない。
アノオンナガイナクナレバ……

 

彼のこの嬉しそうな横顔をいつまでも見れるように……
そう思いながら私は彼と図書館を歩くことにした。

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:33 (1773d)