作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんと遊園地
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-10-03 (火) 21:50:09

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

幼い子供が休日に家族が出かける先で最も喜ぶ場所、といえば、
やはり『遊園地』だろう。
うちの妹は小学校高学年になった今でも、
休日は動物園や水族館、そして遊園地に行きたがる。
そしてまだまだ小さい俺の従弟妹たちも、
あの変な着ぐるみがうろつく異空間に行きたがる。

 

……まぁ、なんだ。
俺も小さい頃はよく親にせがんだしな。
気持ちは分からんでもない。
分からんでもないのだが……
俺は現状を若干嘆きつつ、自分の運命を呪った。

 

なんでこんなことになったんだろうな……

 
 
 

遡ること3時間前、
俺は休日の朝という1週間でもっとも幸せな時間を、
ベッドの中で過ごしていた。
今日は謎のパトロールもないし、
1日ゆっくりして……

 

「キョンくーん!!あさだよー!!」

 

「げぇふっ!!?」

 

妹よ……何故お前は兄の安眠を邪魔するんだ?
そもそも『叩き起こす』という行為は、
文字通り叩くものではないぞ?

 

「な、んだ?お兄ちゃんはまだ眠いんだ……」

 

「えへへ〜」

 

ちょっとは罪悪感てものをだな……
まぁこの笑顔が見られるなら安眠妨害も安いもんか。
その純真さを失わないで欲しいものだ。

 

「ねぇねぇキョンくん」

 

何だ?
朝っぱらから元気な奴だな。

 

「じゃ〜ん!!」

 

少々時代遅れな効果音と共に、
妹が取り出したものは……

 

「……何かのチケットか?」

 

俺は妹の満面の笑みと、
3枚の細長い紙を交互に見比べる。

 

「ゆうえんち!!」

 

そうか、それはよかったな。
親父とお袋に連れてってもらえ。
お兄ちゃんは留守番しといてやるから、
3人で思う存分楽しめばいいさ。
あ、昼飯は冷蔵庫にあるよな?

 

「ちがうよ〜キョンくんもいくんだよ?」

 

何だって?
俺も行ったら4人になるだろ。
チケット3枚でどうやって行くんだ。
またお前がカバンに入るとでも言うのか?

 

「ちゃんと3にんだよ?」

 

まさか我が妹にまでゆとり教育の弊害が……
せめて数くらいは数えるようになってほしいぞ。

 

「いいか。お兄ちゃんと妹とお父さんとお母さんがいました。
さて何人いるでしょう、って言われたら4人だろ?」

 

俺が丁寧に説明しようとすると、
妹は首をふるふる振った。

 

「おとーさんもおかーさんも、おでかけしたよ?」

 

……そういえば、法事がどうとか言ってたな。
って待てよ?じゃあ残り一人は一体誰なんだ?
シャミセンか?

 

俺の疑問に妹はあっさり答えてくれた。

 
 

「有希ちゃんだよ?」

 
 

その言葉と同時に、
玄関でチャイムが鳴った。

 
 
 
 

玄関から聞こえる楽しげな妹の声を聞きながら、俺は呆然としていた。
なんで長門が……そもそも妹はどうやって長門に連絡を……
突っ込みたいところは山ほどあるが、
とりあえずまずは着替えよう……
そう思った俺はタンスからいつもより、かなりマシな服を取り出した。

 

服を着替えた俺がリビングに向かうと、
そこではすでに長門が妹のおもちゃにされていた。
空色のワンピースが果てしなくまぶしいが、
ちょっとくらいは抵抗していいんだぞ?

 

「よぉ、長門。こんな朝早くからすまないな。
うちの妹が無理やり呼び出したみたいで……」

 

「いい……」

 

妹の抱き枕にされながら長門は平然と言った。
俺は朝飯の食パンを焼きながらその迷惑な小悪魔を引っぺがす。
こっそり妹の体に無口美少女の匂いがついてないかなんて確かめたりはしてないぞ?
してないからな!?

 

「だけどお前だって暇じゃないんじゃないのか?」

 

まぁこの宇宙人製アンドロイドが忙しくなったときには、
俺は遺書をしたためないといけなくなりそうだが。

 

「大丈夫」

 

そう言ってくれるのはありがたいが……
やはりそこはかとなく申し訳ない気もする。

 

「それに……」

 

そんな俺の心配をよそに、
長門はチケットを1枚取り上げて言った。

 
 

「私もこの施設に興味がある……」

 
 
 
 

そして今俺たちは晴れて遊園地に来たわけだ。
さすが、というかやはりというか、
どこをみても子供しかいない。
まるでいつぞやの市民プールのようだ。

 

さて……ここらで一つ聞きたい事がある。
俺は入り口付近にいた暑苦しい着ぐるみに真っ先に駆け寄り、
確実に30分後には手離してしまうことになる風船を貰った妹に聞いた。

 

「ところで長門の連絡先なんてどこで知ったんだ?」

 

俺の知る限りこいつはミヨキチ含む小学校の友達と、
家族のケータイ番号くらいしか知らないはずだ。
俺は知らぬ間に出来た妹と長門のつながりに、
疑問を感じずにはいられない。
そんな俺の疑問を妹の一言があっさり解消した。

 

「キョンくんのケータイにかいてあったよ?」

 

……それは書いてあったとは言わないぞ?
世間ではそれは『盗み見た』と言うんだ。
そんな犯罪まがいの方法を誰に教わったんだ?

 

「ハルにゃんがいっつもやってるって言ってたよ?」

 

やはりあいつか……
あいつに兄弟がいるか知らないが、
もしいるのならその人に同情を禁じえない話だな……
というかそんなことをしてはいけません!

 

「は〜い」

 

よし、いい返事だ。
顔からは1ミクロンも反省の色が感じられないけどな。

 

まぁ、なんだっていいさ。
せっかくここまできたんだから細かいことは気にせず楽しむ方がいいだろ……
俺は目の前で太陽のようにウキウキしてる妹と、
横で物珍しげな顔をしている長門を見てそう思った。

 
 
 

ところで、意外と……というより予想通りなのだが、
長門は遊園地に来たのは始めてだったらしく、
しきりにキョロキョロしていた。
ふむ、妹が長門を呼んだのはある意味正解だったかも知れないな。
こいつもたまにはこういう所で羽を伸ばせばいい。

 

「ねぇキョンくん、有希ちゃん!
つぎはアレのろ〜よ!!」

 

お前は羽を伸ばしすぎだ。
全開フルスロットルじゃねーか。
あと、いい加減に大声で『キョン』と呼ぶのは止めてくれ。
恥ずかしすぎて、穴を掘って埋まりたい気分だぞ。

 

結局、俺たちは昼になるまで振り回され続けた。
長門が少し楽しそうに見えたのが唯一の救いだな……

 
 
 

散々俺たちを引きずりまわした妹の『おなかすいた』の一言で、
俺たちは昼食をとることに決めた。
ちなみに本日の母親特製の弁当は、
風船がくくり付けられたバスケットにたっぷり入っている。
それにしても作りすぎだと思うぞ……
いくら長門がいるとはいえ1時間くらいかかりそうだ。

 

「それじゃあいただきます」

 

「いただきます」

 

「いただきま〜す」

 

この三者三様の食前の挨拶をした15分後には、
キレイさっぱり全部なくなったわけだが……

 
 
 

「ねぇキョンくん!つぎはメリーゴーランドのりたい!」

 

正しくは『ランド』じゃなくて『ラウンド』だぞ。
というかお前は健全な男子高校生をあんなもんに乗せる気か?
大声の『キョン』連呼といい、お前はどこでそんな羞恥プレイを覚えたんだ。

 

「ちょっとはお兄ちゃんを休ませてくれ」

 

「ぶー!いいもん!有希ちゃんとのるもん!」

 

「長門も休ませてやれ」

 

朝からこの調子だと、さすがのスーパー宇宙人でも疲れるだろう。
普段からハルヒの監視だとかいろいろ苦労があるんだから、
こういうときくらい休ませてやりたい。
俺は長門の横顔を見ながら……

 

と、そのとき、長門がいつもらしくない顔を見せた。
何か物欲しそうな……
そう思った俺は長門の視線の先を追った。

 

「あれは何?」

 

俺の様子に気付いたのか、長門が聞いてきた。
あぁアレか……あれは

 

「ジェットコースターだよ」

 

……妹よ、数少ない長門への説明の機会を取らないでくれ。
長門に教えることなんてめったにないんだぞ?

 

「ジェットコースター?」

 

まぁ遊園地が初めてなんだから知らなくても無理はない。
ジェットコースターというのはだな……

 

「びゅーん!っていってぐるぐる〜!ってして……」

 

……もっとマシな説明をしてくれ。
それじゃあハルヒと変わらないぞ。

 

「まぁ猛スピードでスリルを味わうもんだ」

 

……俺も大して違わないな。
だが、『ジェットコースター』が何かなんて口で説明するもんじゃないだろ?

 
 

「そう……」

 

俺たちの役に立たない説明を聞いた長門は、
ぽつりとこう言った。

 
 

「……乗ってみたい」

 
 
 

もちろん俺が長門の希望を無視する理由など、
宇宙が始まる前から存在せず、
俺たちはジェットコースターの方へ向かった。
妹は馬がぐるぐる回る遊具にどうしても乗りたいらしく、
そちらに走っていったので、俺は長門と二人で歩いていた。
傍からはどういう風に見えるか分からないが、ハルヒにだけは見つかりたくないな。

 

目的地についた俺たちだが、
やはりジェットコースターの人気はすさまじく、
特にここのコースターはスピードやコース設計が素晴らしいため、
物凄い数の行列が出来ていた。

 

「結構並んでるな……」

 

「見えない……」

 

見ると目の前に背の高い女性がいるため、
長門は前の様子が見えないらしかった。
仕方がないので、俺が代わりに長門の目になる。

 

「え〜と、1時間待ちだそうだ」

 

「自分の目で見たい」

 

俺の言うことが信じられないのか?
まぁお前に比べたらどこぞの胡散臭い占い師並みに当てにならないだろうが……

 

「自分の目で見るって……どうやって?」

 

宇宙的な力で目だけ伸ばす、なんてことは止めてくれよ?
そう心配していた俺に長門は手を差し出し、
いつもの小さな声でこう言った。

 
 

「……だっこ」

 
 
 

10分ほど経過したが、行列は中々消化されなかった。
いつもならこの遅さにイライラすること火の如しな俺だが、
先ほどの羞恥プレイのおかげでそれどころではない。
周りのカップルその他諸々の温かい視線をたくさん感じるからな。

 

まぁその羞恥プレイの原因の文学少女が、
嬉しそうにしてるからいいんだけどな……

 
 

そんな周りから見ればどう見てもバカップルです、
本当にありがとうございました、な俺たちの元に、
一人の男性が小走りでやってきた。
服装から察するにここの従業員のようだが……

 

「あの〜すみませんが……」

 

「なんでしょうか?」

 

羞恥から立ち直った俺が聞き返す。
何か問題あることしたのかな?

 

「お連れ様のことなんですが……」

 

長門がどうかしたか?
見ての通り普通のカワイイ女の子だぞ?

 

「まことに申し訳ありませんが……」

 

その従業員の男性は先に謝ってから、
本当に申し訳なさそうに続けた。

 
 
 

「当遊具は身長制限がございまして、
身長155cm以下のお客様はご利用になれません。
つきましてはお連れ様の身長を計測させて頂きたいのですが……」

 
 
 

結果、言わなくてもわかると思うが、
身長154cmの長門はアウトだった。
それを知った長門は、今まで見せた事のないような顔をしていた。

 

「どうして……?」

 

よほど楽しみにしていたのか、
目にはうっすらと涙を浮かべている。

 

「で、ですから身長制限を下回るお客様が乗られますと……」

 

本当に申し訳なさそうに弁明する従業員。
彼の心中は罪悪感で一杯だろう。

 

「長門」

 

俺は長門の肩をつかみ、
目を合わせて言った。

 

「残念だが、他のアトラクションに乗ろう」

 

「今から……身長を伸ばせば、問題ない」

 

多分大有りだと思うぞ。
それに……

 

「ズルはダメだ」

 

「でも……」

 

なおも食い下がる長門の顔を見て、
俺は少しだけそれでもいいかと思ったが、
すぐに思い直してこう言った。

 
 

「もし、今無理に乗ってお前の身に何か起こることになれば俺は非常に辛い。
お前は大事な仲間だからな。また今度一緒に乗ってやるから今回は我慢してくれ」

 
 
 

俺の言葉にしぶしぶといった感じで頷いた長門は、
いつもの無表情で、

 

「わかった……」

 

とだけ言った。
もちろん長門を置いて俺だけコースターに乗る気など、
粉微塵ほどもなかったので一緒に出て行くことにした。

 

「あなたの身長なら乗れるはず……」

 

俺の顔を不思議そうに除き見る長門に、
俺は適当に言い訳を返した。

 

「いや、俺はああいうのはダメでな。
二人で乗ると安心するが、一人だと不安になっちまうんだ」

 

そんな人間がいるかどうかはさておき、
俺の苦し紛れの言い訳に長門はほんの少しだけ可笑しそうにいった。

 

「そう……」

 
 
 

その後、俺たちは、
長門でも確実に乗れるもの、ということで観覧車に向かった。
どうやら長門もこの巨大な歯車に興味津々の様子で、
先ほどの不機嫌さも吹き飛んでしまっていた。

 

「これなら0歳児でも乗れるな」

 

「……」

 

「それに高い所からの景色もいいもんだしな」

 

「……」

 

「のんびり出来るところがまたいい」

 

「……」

 

一応言っておくが、独り言を言ってるわけじゃないぞ?
俺が何か言うたびに長門は無言で頷いてるんだ。
さっきから嬉しそうにそわそわしてるしな。

 
 
 

5分ほど並んでいたらようやく俺たちの番が巡って来た。
係りの人がやたらと温かな笑顔で『ごゆっくり』と言ってたのが気になるが……
まぁいい。とりあえずのんびり座っとくか……
そう思いながら俺は腰をおろした。

 
 

ストッ……

 
 

あの〜長門さん?

 

「なに?」

 

向かいの席が空いてるのに、
どうしてわざわざ隣に座ってらっしゃるんですか?

 

「いや?」

 

嫌かどうかと言われれば、そりゃ大歓迎ですが……
それにしても密着しすぎではありませんか?

 

「他のゴンドラに乗っている乗客もこうしている」

 

長門の視線の先には、
これ以上に密着している男女の姿があった。

 

「見ちゃいけません!」

 

俺はそういって長門の視線を引き戻した。
まぁ長門がいいっていうんなら多少密着しててもいいさ。
俺は大歓迎だしな。

 
 

それからしばらく長門は映り行く景色を眺めていた。
最高地点付近で見た長門の横顔は、
とても高校生とは思えないほどのあどけないものだった。
……そういえば、まだ3歳だっけ。

 

最高地点をすぎた観覧車は、どんどん高度を下げていた。
外の景色ももう代わり映えしないしな。
そんなことを思いながら長門の横顔を見ていると、
不意にその口が開いた。

 

「あれは……何をしてるの?」

 

長門の目線の先には、また別のゴンドラがあった。
あまり他の人をじろじろ見るんじゃ……
と思いながら好奇心に負けた俺はそっちを見た。

 

「何を、って俺にはカップルが楽しく喋ってるようにしか……」

 

「違う。先ほどまで……ほら、また……」

 

「いっ!?」

 

奇声はよくないぞ、俺。
そうだ、まずは落ち着くんだ。
そして素数を数えて……

 

「あ〜あれはだな。俗に言うマウストゥマウスって奴だ。
お互いに人口呼吸してるんだな」

 

まったく落ち着けません。
これほどカップルを疎ましく思ったことはない。
うちの子になんて物を見せるんだ!!

 

「そう……」

 

俺の無茶苦茶な答えに納得したのか、
長門は俺のほうを向きなおした。
そして言った。

 
 
 

「……私もしたい……」

 
 
 

な、ななな長門さん!!?
い、一体何を!?

 

「いや?」

 

だから嫌かどうかと言われれば、国を挙げての大歓迎ですが……

 

「べ、別に俺は呼吸困難に陥ってないぞ?」

 

俺の苦し紛れの言い訳に、
長門は淡々と答えた。

 

「彼らも身体的には問題はない。
多少鼓動と血圧、それに体温が高いくらい。
だからあの人口呼吸に救命の意義はないと思われる」

 

まず人口呼吸じゃないしな……
って、そんな暢気なことを言ってる場合じゃない。
仕方ない……ここは本当のことを話すか……

 

「あれはキスって言ってな……その、カップルがするもんだ……」

 

俺は知ってる限りのことを洗いざらい話した。
と言っても微々たる物だが。

 

「涼宮ハルヒと閉鎖空間でした時は?」

 

長門さん?何か顔が怖いですよ?
それにあの時のことは夢です。忘れさせてください。

 

そんな感じで問答をしながら俺は説明した。
とりあえず好きでもない奴とすることではないということが伝われば……

 

「わかった……」

 

こんな説明で分かってくれるとは……
さすが長門だ。
だが、その美少女宇宙人はその上でとんでもないことを言った。

 
 
 

「でも、それなら私もしたい」

 
 
 

「え?それはどう……」

 

そこで俺の言葉は長門の唇により遮られることとなる。

 
 

結局、呆然としていた俺は、
気を利かせてくれた係員さんの計らいで観覧車をもう1周することにした……

 
 
 
 

P.S.

 

観覧車を降りて、メリーゴーラウンドまで迎えに行った俺たちに、
妹が大きな声で

 

「ふたりともかおがまっかだけど、ど〜したの?」

 

と聞いてきた話はまた後日……

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:33 (3087d)