作品

概要

作者Thinks
作品名メイド喫茶なSOS
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-20 (水) 19:17:52

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 春も真っ盛りに近づき、かなり暖かくなって来て、休みが待ち遠しいと思えるようになってきた、ある日。
 
 こんな平穏な部室に突如、嵐を巻き起こす為にいると言っても過言では無い涼宮ハルヒという存在は、あれだけ色々しでかし続けたと言うのに、ここのところ大人しく遊んでいるように見えて、なおも虎視眈々と「こいつなりの楽しい事」に出会う機会を狙っているようで狙っていないようであったのだが、
今日も今日とて、ろくでもないことを言い出した。
 
「メイド喫茶をやりましょう。儲かると思わない?思うわよね!?」
 
 こいつの事だから、こんな事を発言した時点でこれはいわゆる規定事項なんだろうが、本当にろくでもない。
 
 さっきから盛んに資金不足な旨を訴えていたハルヒなのだが、メイド喫茶ってどう言うことだ。
 大体、朝比奈さんがいるじゃないか。これ以上のメイドさんは、俺には不要だ。
 そんなわけで、黙っているわけにはいかんのだ。
 
 ハルヒ、メイド喫茶なんてものはもう、そこらに唸るほどあるじゃないか。いまさら始めるのか?
「あるわね、ある場所は限られてるけど。唸るほどあるってことは、儲かるってことじゃないの?」
 ああ、そう言う考えのヤツがまた作るからそうなるわけであってだな。
 大体ああいう商売は、煩悩に諭されたヤツが足繁く通うからこそこの世に存在できるのであって、俺にはこの世にそんなヤツが大量にいるとは思えんのだが?
「バカ、甘いわよ、キョン。砂糖漬けのナメクジみたいにベットベトに甘いわ」
 何だその汚い比喩は。幸いまだ来てないが、朝比奈さんあたりならそれを想像した瞬間に気を失ってるぞ。
 ってか、バカとか平気で言うな。俺もバカにされた気がする。
「してんのよ、バカ。そのみくるちゃんとツーショットしたくて、五百円払った人が何人いたと思ってんのよ?」
 何人来たってんだ、ちゃんと集計してたのか?それほど考えがあったようには思えんぞ。
 楽しそうだし、ちょっと部費が足りないし、やってみるかー♪ってな具合でやった事じゃないのか、あれは。
「違うわよ!そりゃまぁ、部費は欲しかったけど。七十五人よ、七十五人。文化祭の焼きそば屋だっけ?あれも凄かったらしいわよね。ってことで鶴屋さんと、それに有希と、このあたしが加わるのよ!?」
 発起人のおまえが着るのは当然として、例のごとく朝比奈さん、で、長門に鶴屋さんも巻き込む気か、おまえは。
 そりゃ、俺もあの、グッドデザイン賞とデザインしたヤツの将来の安定が間違い無し、な、焼きそば喫茶のコスチュームにその身を包んだ朝比奈さんと鶴屋さんをもう一度見たく無いわけでは無い。
 しかしだな、ハルヒ。俺らは一高校生だぞ。どうやって店を確保できると言うのだ?
「ちょうど良いですね。私の知り合いが営んでいる喫茶店のマスターが、土日の人手が足りなくて困っていると言っていましたから。バイトではなく、手伝いであれば問題は無いでしょう」
 古泉。なんてことを提案しやがるんだ。どうせそのマスターってのは新川さんだろうが。俺が折角、部員全員がメイド服を着なければならんという、この無茶な計画を阻止しようとだな… 
「誰があんたにもやれって言ったのよ。バカじゃない? あ、古泉くん、それは不要よ。此処でやるから」
……バカと平気で言うなといったはずだぞ、俺は。
 まぁ、メイド服を着た俺と古泉をも想像して、気分が悪くなっていたわけだが……。
 って、此処!?この部室でメイド喫茶?文化祭でも無いのにか?
「放課後に営業すれば良いじゃない。あ、昼休みも良いわね。お昼なんか五分もあれば食べられるんだから、三十分は営業できるわ」
 朝比奈さんに五分で飯を食えと言うのか。
 俺らが五分で飯を食ったとして、客になる生徒は五分で食えるのか? ノープランにもほどがある。
 
 散々反論したいところだが、……ここは話を変えよう。
「まぁ待て。ここは、メイドにさせられる長門の意見を聞こうじゃないか」
 
「……部費の残高は二百四十五円。経済的な余裕は、無い」
 長門は突然、SOS団の財政現状を述べ上げた。
「……本の購入を希望する。時間的余裕も、無い」
 訂正。文芸部の財政だったようである。
 
 そんなことを言う長門が開いているのは、真新しいハードカバーなんだがな。
 長門の、漆黒の目の中に炎ゆる物が見える、ような気がする。
 元々唯一の文芸部員である、その血を騒がせて、やる気になっている。こいつまでもが。
「わたしだってその状況を把握して言ってるのよ。
バレンタインで、もっと派手に稼いどきゃ良かったわね。来年からは一回千円にしましょう」
「……同意する」
 ハルヒが何か言っているが、いまさらツッコむ事も無いだろう。
 それより長門だ。何故「同意する」のか、何故本気でこの馬鹿な話に乗ろうとする理由を教えてくれ。
 やっぱり、そのハードカバー全巻を揃えたいからか?それとも、この間着てみたメイド服が気に入ったのか?
 どっちにしろ俺は、長門には味方したいんだが、しかしだな。
 ハルヒの言う、メイド喫茶と言うものを知っているのか、長門?
 
 そうだ、このシチュエーションで、元祖、SOS団専属メイドの朝比奈さんがどう反応しているのか。
 俺はそれを見るのを、実はすっかり忘れていた。
 って、まだ来てないんだった。
「こんにちわぁ〜」
 ちょうど良いところに。朝比奈さん、実はこう言うわけでして。短い説明で申し訳ないですが、
ここは、あたしにはできませぇ〜ん!っと、可愛らしく否定してください。
 さあ朝比奈さん。
 
「あ、あの〜、あ、あたし、」
 良いですよ、その調子です。朝比奈さん。では決め台詞を!
 
「お茶が買えないと困りますっ!」
 
………また俺だけかよ、否定派は。
 そう言えばハルヒ鍋の代金とかも団活費という名の文芸部費だったしな。
 
 まぁ、ここは気を取り直して、女性陣の可憐なウェイトレス姿を拝めると思って諦めることにする。
 そう決めた俺の溜息を聞くと、ハルヒは渾身の笑みをもってこう言い放ったのだった。
 
「じゃ、来週からオープンね!」
 
 


 
 
 そんな夢を見た、とかいうありきたりなオチを付けて終わりたいところなのだが、事態は着々と進展してしまっていた。
 
 土曜日であるところの、翌日。
 リハーサルとやらで部室に集合し、来週からの営業に向けて、はりきっていってみよー、というわけだ。しかし、ハルヒは商売というものを完全に嘗めてるとしか言い様が無いな。
 やりたいって言い始めたら営業開始が四日後ですか。たいしたもんだぜ、その根拠の無い自信。SOS団はまた、生徒会を敵に回すのか、、。うまく行けばいいんだがな。
 俺は無事にこの高校を卒業したいんだ。出来る限り、平和にな。
 
 そんなことを考えながら部室の外で待っていた俺らの目の前に、 
「どうお?似合う〜?」
 ハルヒが、森さんが着ていた様なメイド服に身を包んで現れた。
 森さんが着ていたメイド服と何が違うって、スカートの丈が妙に短い。どうせまた、ネット通販で買ったんだろう。って自腹か。やるな。ああ、似合うから意味もなくポーズを取らんでも良い。
「この服、ひさしぶりです。あたしも、もう一度着たかったんですよ〜」
 朝比奈さんは、焼きそば喫茶の衣装だ。相変わらず、反則なまでに似合っている。すさまじい破壊力だが、衣装も良ければ纏っている人物も良いのだから、当然の結果と言えよう。

 長門はというと、いつもは部室で朝比奈さんが着ているメイド服を着込んでいる。当然、無言の無表情なのだが、メイドさんは黙って立っているのも仕事の内だからな。あまりアクティブでも、それらしくないと俺の中では設定されているのだ。
 案外、長門が一番メイドさんらしいのではないだろうか。
 まぁ、普段はメイドさんをしていて、いざと言う時はご主人様を守ることが出来て、しかも実態は宇宙人だかなんだかで美少女なんてのは、誰かの妄想かマンガの世界にしかありえんと思うのだが、何故、俺の周りにはそんなのが何人もいるんだろうね? 
 
 で、もう一人。こいつはSOS団所属でも、名誉顧問でも何でも無い。
 以前、お好み焼きを喰いに来たことがあるだけなのに、
「残念ながらここの所、忙しいのさっ!また誘うにょろよ。がんばるんだぞ、少年っ!」
と言うことで、登板キャンセルになった鶴屋さんの代役を突然、任されてしまって、眉を吊り上げて文句を言っている、金髪のメガネお下げなメイドさんがいるのは誰のせいだ?
 
「そりゃ、俺だってちっと参加させてもらっかなと思ってたんだけっどもよ? 土曜日っから学校に呼び出されっちまった上に、いきなりこんな格好をさせられったぁどう言うこった?」
「……わたしは、あなたにその衣装が似合うと判断した」
「そんだけかい!?」
「そう」
 
 そう言うわけで長門が呼び出したのは、長門のクラスである1−6の委員長だったわけなのだが、結論から言うと長門の判断は正しい。
 そばかすだらけで、金髪でメガネでお下げ。背丈が、長門よりも若干大きい程度なもんで、鶴屋さんに合わせて作ったと思われる、焼きそば喫茶の衣装は若干大きめなんだが、それがまた、なんともこりゃ、、。
 
「何だぁ、捻くれ者。俺に文句あんのかよ?」 
 無えよ。その言葉遣い以外は、な。つーか、俺を「捻くれ者」と呼ぶのはさっさと止めて欲しいんだが。
「捻くれ者には捻くれ者っつーのが普っ通じゃねぇかと思うんだけっどもよ?」
 だから、誰が捻くれ者だ。
「……キョン」
「うん? どしたぃ、長門?」
「……彼のことは、キョン、と呼ぶと良い。皆、そう呼称している」
 
 少し驚いた。長門に呼ばれたのかと思ったが、委員長に俺のことを紹介したらしい。
 もういまさら本名で呼んでもらいたいとも思わんから、是非そう呼んでくれ。
 捻くれ者よりは数段どころか数百段ぐらいはマシだ。
 
 
 かくして、それぞれ役割が全く異なると思われる、見た目は完璧な四人のメイドさんが揃ったわけだが。
 そろそろ軽く嵐が巻き起こりそうな予感がする。
 
「さぁ、練習するわよ!」
 何をだよ。
 俺は一応、訊いてみた。予想はついてるんだがな。
「そうねぇ、UNOとか、テレビゲームとか、可愛いポーズってところかしら」
 ハルヒの発言に、古泉と朝比奈さんがギョッとした顔を浮かべた。
 知らないのがいたか。まぁ、知ってる方がおかしいのだが。
 
「メイド喫茶というのは、ウエイトレスがメイドの扮装をしている喫茶店、では無いのですか?」
 珍しく困惑した表情を浮かべている古泉に向けて俺は語る。厳密に言うと違うんだ。
 確かに、メイドさんの扮装をしている女の子がいる、一応は喫茶店なのだが、いわゆるメイド喫茶のメイドさんはウエイトレスさんでは無く、あくまで「俺のメイドさん」なのだ。
 だから、飲食物以外に、メイドさんと遊べるオプションサービスがあるのが普通だ。トランプするとか、ゲームするとか、ジャンケンするとか、まぁそういうものだがな。
 従って、本格的な内装と立ち振る舞いは必要が無いとも言えん事も無いのだ。
 
「ふむ、通常の喫茶店とはかけ離れていますね。果たして、教師や生徒会が認めるかどうか」
「認めるわけが無かろうが」
 俺は即答した。
「そうですね。営利営業活動を行っているだけでも停学物です。派手にはやらない方が良いかと」
 今回ばかりは、、って何回言ったか解からないがその通りだ。
 メイドさんが居るだけの喫茶店でも良いと思うぞ。
 長門や朝比奈さん、ましてや他クラスとは言え、クラス委員長にオプションサービス何ぞさせたら後が怖い。
 ハルヒだけにやらせとけば良いんじゃないか?
 
 儲けが減ることに直接繋がる要望を、ハルヒが直ぐに受け入れるわけが無く、正に媚を売る方はおまえに任せた、と言う俺の主張は通らないかと思われた。
 
 が、ここで委員長の「メイドと言うものの解説」が始まるとは、誰が想像していただろう。
 
「何すっかと思やぁ、そう言う事かい。しっかしよ、メイドってもんは、媚売んのが仕事じゃねぇと思うんだけっどもよ?もっと言わせてもらやぁ、主と一緒に遊んじまうなんざ、言語道断ってぇやつなんじゃねぇのかい?」
 
 俺も全くもって異論は無い。
……しかしこれは序文で、さらに本文が、落語か何かで日本語を習ったとしか思えん言葉で二十分続いたわけだが。
 
「解ったわよ。じゃあ、一緒にインスタント写真を撮る、それだけなら良いでしょ。一回五百円で」
「だぁな、給仕の方もきっちりやってりゃぁ、別に写真くれぇ良いだろうさ」
 
 そんなやり取りがあって、なんとか事態は決着の方向に向かったのだった。
 しかし、その格好で写真を撮られるのには、皆、抵抗があるだろうに、と思いきや、
「何よ、いまさら?」
「別にかまいませんよ、ほら、この服、すっごくかわいいし〜」
「問題無い」
 こんな感じであった。
 あれだ、皆、だんだんと感覚が麻痺してるんじゃないか?
 ってか、四の五の言っていた委員長も、妙にやる気に見えるのは何故だ?
 
「撮られて困っちまう風貌をしてっつもりゃぁ無ぇかんな」
 
 


 
 
 そんなこんなで、初の営業日である、月曜日の放課後が訪れた。
 
 部室には土曜日のうちに、本棚やロッカーを隠すための白幕が張られている。
 窓の方にもそれは、少々余裕のスペースを持って張られていて、その陰に隠れた俺と古泉が、飲み物を作ったり、朝比奈さんが家で焼いてきたクッキーを小皿に盛ったりするという寸法だ。
 黒板には、デコレート役を任された委員長によって、「Welcome back,Miss and Master !」と、飾り文字がでかでかと書かれた。
 入り口の方の隅には撮影スペースを設けていて、此処が稼ぎをはじき出すのよ!とはハルヒの発言である。
 団長席には、「会計」と書かれた三角錐が置かれ、パソコンは簡易レジになっていた。
 ちなみに、ハルヒの腕に巻かれている腕章はメイド服でも健在で、今回の名目は「給仕長」である。 
 
 俺が部室に来た頃には、四人ともすでに着替えていて、長机にクロスをかけている所で、いきなりハルヒが何かを差し出してきた。
「メニュー出来たわよ。見る?」
 メニュー作成役は長門の役目だったのだが、パソコンを使ったのか、見事に喫茶店のそれを完成させていた。品数が少ないのは、まぁ本物の喫茶店じゃないんだから良いんじゃないかと思う。と言うか、多かったらめんどくさい。
「あたしは、壁に下げるくらいの大きなのがあれば良いと思ってたんだけど、これの方がが良いわね」
 ってか、コーヒー、紅茶、オレンジジュースに特製クッキーはともかく、『特製パフェ   −−¥1,000』ってなんだこりゃ? 俺らに作ることが出来ると思ってんのか?
 
「…問題ない。作るのは、わたしたち」
「メイドの特製パフェなんですよ〜」
「おめぇさんの目の前で作んだからよ、四ポンドちょいってんだから安いっちゃ安いと思うんだけっども」
「って、こと。あんたも、どう?メニューを見たからには、食べてってもらうわよ」
……そういう魂胆で、「あんたは少し遅めに来ても良いわよ」だったのか、、、。
 
 百八十円のコーヒーに、特製パフェを注文させられた俺は、
目の前で出来上がっていくパフェをしばし眺める羽目になった。
 委員長と長門が土台を仕上げ、そこに朝比奈さんが削ったチョコを散らし、果物を乗せ、
ハルヒがポッキーを刺したパフェは、どう見ても深い目のカレー皿に盛られているんだが。
「ちょっと変ですけど、やってみたら結構オシャレだったんです」
 朝比奈さんの言うことも解かるが、、まぁ、ナシじゃ無かろうな。調達係の古泉が、何処から材料を仕入れてきたのか知らんが結構いける。だから、白幕を少し開けて、何かを啜りながらニヤけるのは止めろ。
 
 
 まさか客は俺だけってわけじゃなかろうな、などと考えていた俺の想定外だったが、口コミでしか宣伝していないと言うのに、何人かの客が現れた。
 
「お帰りなさいませ、お嬢様〜♪」
 朝比奈さんが出迎える。客が女子ばかりなのは、その宣伝方法に原因があったに違いない。
 そして彼女らが、衣装やクッキーの味なんかをネタに話に花を咲かせ、
プリクラ感覚だろうか、集合写真を撮って、会計を済ませて出て行った直後。
 
 何処で話を聞きつけたのか、コンピ研の一団が現れた。
「あら、お隣さんじゃない。お帰りなさいませご主人様。なんでも注文してね」
「あ、ああ。遠慮なくさせてもらうよ」
 そう言う、部長氏の視線の行き着く先は、やはり長門である。メイド姿の長門を、下から上まで眺め、席に着いても落ち着かなさそうにしている。俺は、痴漢行為に及ぶ前に、コンピ研部室に強制送還するつもりで見てたのだが、
「ほら、有希。注文を聞きに行くのよ」
 背中を押された長門は、ハルヒが乱暴に準備した氷水を持って、とてとてと注文と聞きに行くのであった。
 部長氏の様子を目聡く察知したハルヒには、カモネギに見えたんだろうな。
 しかし、内装は地味、、と言うか真っ白に近いのだが、何せこのスペースにメイドさんが四人である。
 コンピ研五人は、目移りしまくって痴漢行為どころでは無さそうな雰囲気を醸し出した挙句、
「……特製パフェがおすすめ」
「じゃ、それ」「ぼ、、僕も」「俺も」
 言われるがままに全員が特製パフェを注文する有様である。
 当然、一枚五百円のインスタント写真も全員が二〜三枚と撮っていくわけで、古泉も撮影役が忙しそうだ。
 朝比奈さんは相当、遠慮気味だったがな。
「ありがと。行ってらっしゃいませ、ご主人様。あ、写真をネットにばら撒いたりしたら、、解かってるわね?」
「ひぃっ!わ、、解かってるよ、また来ますっ」
 
「なんだぁ今なぁ?楽しんでんだか怖がってんだか、いまいち解っかん無ぇんだけっども」
「大丈夫。彼らは十分、楽しんでいる」
 傍から聞いてたらボッタクリの店と勘違いされそうな雰囲気であるが、決してそうでは無い。
 向こうから、カモとネギと鍋と出汁に七味の五人がやって来ただけだ。気にするな。
 
「ちーっす……うおぁ」
「わぁ、……すご」
 谷口と国木田だ。新たなカモとネギである。
 ちなみに、俺が勧誘しておいた。言われなくても来たかも知れんがな。
「お帰りなさいませ、ご主人様〜♪」
 出迎えた朝比奈さんの姿と台詞に絶句している。いつまで経っても耐性が出来ない奴らだ。ひょっとしたら俺が異常なのかも知れんが。
「……キョンは何処ですか?」
 何故俺に用事があるのか解らんが、まぁ、顔を出してやることにする。
「キョン、俺は嬉しいぞ。おまえのような友を持ってなぁ」
「うんうん、またこの衣装が見られるなんて、僕は幸せだよ……」
 どうでもいいが。感涙にむせいでないで注文したらどうだ、二人とも。
「とりあえず、その情けない顔を奇麗にしなさいよ。はい」
 ハルヒが見るに見かねておしぼりサービスをするほどに、確かに二人とも情けない顔、、だな。
 泣かなくても良いだろうに。そんなに嬉しいか、おまえら?
「おまえこそ、男のロマンが解らんか!?」
 解らんね、おまえらの男のロマンって奴は。解ろうとする気もせん。
「……ご注文は、何?」
「な、長門!?」
「わりいんだけっども、早くしてくんねっかな?」
「え、、隣の委員長が何故?」
 いちいち驚くな。で、泣くな。
 
 谷口と国木田は、結局、それぞれが紅茶とクッキーしか頼まなかった。
 感動にむせび泣くのなら、もっと注文していっても良いんじゃねえかと思う。
 それでもやはり、朝比奈さんとツーショットは欠かさなかったが。
 
 
 それからも客足は結構続き、忙しくも無く、暇でも無く。良い感じで閉店時間を迎えたのであった。
 
 


 
 
 で、二万円弱の売り上げを記録した営業が終了し、
 残った飲み物と食い物で軽く打ち上げの真っ最中なわけだが。
 
「良かったですね。売り上げも上出来と言った所でしょう」
「そうね、毎日営業するってわけには行かないけど、一週間に一回でも、月に八万円よ!」
 営業日ごとに、売り上げの五分の三を出した、コンピ研が来れば、な。
「来るんじゃねぇかと思うんだけっどもよ?もうちっと優しくしてあげりゃ良いんじゃねぇか?」
「とっても楽しかったです。部長さんとまた写真を撮るとは思いませんでしたけど……」
 
 そんな話をしている中で、長門は自分が着ている服をしげしげと眺めていた。
 前もそうだったが、制服と違っていろいろと邪魔なのだろう。
 袖のフリルを摘んだり、上げ底をしているとしか思えない自分の胸を触ったりしている。
「なんだぁ長門?その服が好きだってぇのか?」
 長門は委員長の呼びかけに、こくりと頷く。
 頷くとまた、襟が邪魔なのか頻りに気にするのを見て、
「ふうん、おめぇ、わりと可愛らしいとこ、あんじゃねぇか…」
 そう言った委員長は、五秒くらい沈黙すると顔を真っ赤にしてアイスコーヒーを啜り始めた。
……長門、首を傾げている場合じゃない。委員長は少し危険な匂いがするぞ、、。
 
「……いいんちょ?」
 若干、舌っ足らずに委員長を呼ぶ長門である。
「な、、何だ、何か用事でもあんのか?」
「顔が、赤い。発熱を疑う」
「な、何でもねぇからよ、気にすんなって」
「そう」
 気にするなと言われても、陽炎が立ち上る勢いであるその顔の赤さには、全員、気がついていた。
 長門も、「そう」と言っても納得しているわけでは無さそうで、委員長の顔をじっと見つめている。
 おそらく、その行為は発熱を発症させ、助長させるだけだがな。
 
「駄目よ、無理しちゃ。早く帰った方が良いわね」
 ハルヒが、わりと心配そうに提案した。
「っと、その前に、、写真撮影よ!」
 おいおい、心配してたのは五秒だけかよ。
「真っ赤な顔が可愛いのよっ!」
「そ、そんなもんが理由になった暁にゃぁ、お天道様が西から上がってくってなもんだぜ!」
「四の五の言わずにさっさと座るっ!!」
 
 委員長は、強引に撮影スペースに連行され、ハルヒは委員長を座らせて写真を撮りまくってる。
「メガネにお下げ!このコンビは最強ね!撮影意欲が湧いてくるわ!」
 何が、何処が、どう言う風に強いんだ?
「あたし、もう要らないのかな、、、」
 そんなことは絶対ありませんよ、朝比奈さん。だから、そんな寂しそうな顔はしないでください。
 って言うか、撮られたいんですか。
 
「そうね、男の被写体が要るわ、、古泉くん、ちょっと座って?」
「そうですか。では失礼して」
……俺が言うのもなんだが、古泉は結構がんばったんじゃないか、と思う。
 ハルヒの言われるがままに、いつもの三割り増しは真面目に笑ってたんじゃないか?
 結論は「駄目ね」だったから、その笑顔は何処かに行っちまったんだが。
「面目ありません、、、」
 こんなことで落ち込むな。「駄目ね」で落ち込むのなら、俺なんかどれだけ落ち込んでりゃ良いんだ。
「キョン、ちょっと来て」
 はいはい、余った男が来ましたよ、、、って!?
 
 
 何かを後ろ頭に喰らって、、、すっころんだ所までは憶えてる。
「これよこれ!こんな写真が欲しかったのよ!ちょっとしたサプライズ?」
 そんな声で気がついたときには、俺は一人で崩壊した撮影スペースで寝てたんだが。
「ほら、いい写真でしょ?」
 頭を擦りながら俺が見たデジカメには、、、
 委員長を押し倒す、とある男子の写真が映ってた。って、俺だ。
 何てことしやがる。俺の頭に蹴りを入れやがったな!?
 完全に茹で蛸状態になって、氷袋を頭に乗せてる委員長はともかく、その委員長を介抱している、長門から出ている不機嫌オーラが見えないのか、ハルヒ。おれはもう、知らんぞ、、。
 委員長、すまん。だが、俺に文句を言うのは筋違いだぜ?
 
 
 帰り際。
 長門が俺を引き止めてきた。呼び止めてくれとは言わないが、せめて袖を引いてくれ。
 物理的に引き止められたら俺のベルトが持たん。
 
「……四の五の言わない…」
 な、、長門、、さん? 何でしょうか、何でも言うこと聞きますよ?
 
 その後、長門の部屋で、俺たちは、夜遅くまで、、、。
 撮影会に決まってるじゃないか。
 何故か復活した委員長も一緒だ。
 
 どうやって持って帰ってきたのか知らないが、長門の体操着袋には三種類のメイド服が詰まっていたから、二人ともメイド服を取っ換え引っ換えして、俺はひたすら撮りまくりだった。デジカメの容量が心配になるくらい、本当に長門の気が済むまで撮ってたさ。
 すべてのパターンを撮ってるだけで、別に二人ともポーズが大きく変わるわけでもないんだがな。
 三時間ほどそうしてただろうか。最後ってことで、委員長に俺と長門のツーショット写真を撮ってもらったんだが、長門はデジカメの画面で写真を確認しながら、ようやく満足げな顔を浮かべ始めたような気がする。
 
「長門ぉ、もう勘弁してくれってよぉ」
 委員長が根を上げてるんだが、気は済んだか、長門?
「……済んだ」
 そうかそうか。まぁ、そのデジカメのデータをハルヒに見つかるなよ。こればっかりは俺も言い訳が出来ん。学校でデータ吸い出したら、ちゃんと消しとけよ?
「了解し………あっ」
 どうした?何か思い出したのか?長門?
 
「メガネの装着を忘れた」
 
 
 
                      「マジで勘弁してくれって思ってんだけっどもよ、、」
                                           「やれやれ、だ」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:28 (2003d)