作品

概要

作者書き込めない人
作品名気ままな文芸部室 10 図書館編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-16 (土) 23:38:36

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

休日の朝、俺は珍しく妹の襲撃を受ける前に目を覚ました。
いつの間にか傍らで寝ていたシャミセンをどけて、
軽く伸びをしてみる。
たまには休日に早起きって言うのもいいもんだ。

 

「あれ〜?キョンくんもうおきたの?」

 

ちゃんと部屋に入るときにはノックしなさい。
それといい加減に『お兄ちゃん』て呼んでくれ。

 

「あぁ、おはよう」

 

そういって俺は着替えの邪魔になる妹を、
シャミセンという餌を使って追い出す。
一瞬恨めしそうな顔をした猫が見えたのは気のせいだろう。

 

妹が起こしに来たということは、階下では既に朝飯ができているらしい。
元気一杯妹が朝飯の即興詩を口ずさんでるのが聞こえるしな……
そう考えながら俺は階段を下り、
いつもより少し入念に寝癖を治し、
いつもより少ししっかり顔を洗い、
いつもより少しマシな格好に着替えた。

 
 

「キョンくんどこかいくの?」

 

朝飯を食いにリビングに入った俺に妹がイキナリ聞いてきた。
何でわかったんだこいつ……

 

「だっていつもよりおめかししてるもん」

 

妹に褒められるのは悪くないな……じゃなくて、
そんなに分かるほどなのか?
多少……いや、かなり気合入れたのは否定しないが。

 

「もしかしてデート?」

 

……こういうときは虚偽の情報のみを並べるのではなく、
ある程度真実を織り交ぜるのが……
と、妹相手に異常なほど慎重になる俺。
転ばぬ先の何とやらだ。

 

「いや、今日は部活だ。
部活に入ると休日まで活動があるんだぞ?」

 

よし、完璧だ。
純粋無垢なるわが妹を騙すのは、ひじょ〜に心が痛むが、
余計な詮索をされると、別の意味で心が痛むからな。
めんどくさい事この上ない。

 

「ふ〜ん。でもキョンくんの『ぶんげーぶ』ってなにするの?」

 

「……『みんな』で本を読んだりするんだ。
お前も字ばっかりの本の一冊でも読んでみるといいぞ?」

 

「ふ〜ん」

 

休日まで熱心に本を読む文芸部があるかは定かではないが、
俺のこの説明に納得してくれたらしく、
妹は俺から視線をそらし、目玉焼きをぱくつきだした。

 

若干騙してしまったのには気がひけるな……
帰りにお菓子でも買ってきてやろう。
そう思いながら俺も自分の席に座り、朝食を食べた。

 
 
 

ところで、言うまでもないが、俺が所属している文芸部には、
『みんな』と呼べるほどの人数はいない。
というより、俺を含めて二人しかいない。
本来なら『部』と呼ぶのもどうかと思うし、
実際に一度、消滅の危機にさらされたこともある。

 

それでも俺は平日は部室に通い、
休日も『もうひとつの部室』に通い、
毎日毎日部活をしている。

 

何のためかって?
本が好きだからー……違うな。
毎日暇だからー……それも無くはないが、主要な要因ではないだろう。
じゃあ何で行くかって?
自分でも俗っぽいし、どうかと思うが……

 
 

有希に逢いたいからだ。

 
 

この荒んだ世の中に咲き誇る一輪のタンポポのような彼女……長門有希は、
その姿を見るだけで俺の体力気力精神力を回復してくれるほどの、
癒しの存在だからな。

 

ちなみに『有希』と呼んでるから分かると思うが……
俺たちは世間一般で言うところの……その……『そういう関係』だ。
これ以上は恥ずかしいから勘弁してくれ。
まだそうなって日は浅いのだが、
それでも毎日眉毛委員長にからかわれている。

 

さて、俺は今いつもの休日のように
『もうひとつの部室』である有希の部屋に向かっている。
一応言っておくが、『まだ』変なことはしてないぞ?
それに、本日の目的地はそこではない。

 
 
 

「よう、待たせちまったか?」

 

待ち合わせ場所の駅前広場についた俺は、
その片隅に立つ少女に声を掛けた。
暖色のダッフルコートの前を閉じ、
首にマフラーをつけたシンプルな出で立ちの少女は、
それでも華やかな雰囲気に包まれていた。
そこだけ春ですよ、と言われても信じれるな。

 

「今来たところ」

 

その少女……有希は寒さをおくびにも出さないような笑顔で答える。
この仕草もたまらなく可愛らしい。
一応待ち合わせ時間の10分前に来た俺だが、
この寒そうな様子を見ると彼女は少々待っていたらしい。

 

「やっぱり寒いな……どこかで暖まらないか?」

 

俺はそれとなく提案してみる。
俺自身は先ほどまでチャリを飛ばしてきたんだから、
寒いわけないんだが……

 

「じゃあ、あそこの喫茶店で暖かいものでも飲む?」

 

そういって有希は俺の手を引き、
喫茶店に入った。
……やっぱり寒かったんだな……

 
 
 

暖かい喫茶店で温かいコーヒーとハーブティーを飲んだ俺たちは、
早速本日の目的地に向かうことにした。
ちなみに喫茶店の代金は各自で払った。
俺は奢ってもよかったんだが……有希に気を使わせるわけにも行かないしな。

 

さて、今俺の横にいる文学少女は普段らしくない態度をしている。
珍しくうずうずしているのが分かる。
今日の目的地にうずうずする高校生なんてそうそういないぜ。

 

「そんなに楽しみなのか?」

 

俺はそんな有希の様子に苦笑しながら尋ねる。
そんな俺に、大分慣れたとはいえ、いまだ少し人見知りする、
引っ込み思案な少女は静かに答えた。

 

「楽しみ……」

 

そうか、お前が楽しみなら俺も楽しみだよ……
俺が静かに心の中で思っていると、有希は更に続けた。

 

「それに……」

 

「それに?」

 
 
 

「……私たちが初めて逢った場所、だから……」

 
 
 
 

俺たちは今、その目的地に向かって並んで歩いている。
傍から見れば「デ」から始まり、間に「ー」を挟み、最後に「ト」で終える、
『こういう関係』特有の行為をしているように見えるかもしれんな……
実際否定はできないが……
ちなみに答えは『デモールト』ではないぞ?3文字だからな。

 

そんなことを考えていると横から異様な気配を感じた。
横目でそちらの方を向くと、
有希が俺の手をチラチラ見てるのが見える。
何だ?何かついてるか?

 

……あぁ、そういうことか。
つくづく自分のニブさに嫌気がさす。
まぁ気付いただけマシか……

 

そう考えながら俺は有希の方に手を差し伸べる。
少し驚いた顔の有希が視界の隅に映る。
俺は俺で恥ずかしくてそっちが向きたくない……がそうもいかない。

 

「何となく……手をつないで欲しくて……な」

 

鏡を見ずとも俺の顔色は分かるぜ。
目の前にも同じような顔があるからな。
その薄紅色の頬をした少女はただ一言答えてくれた。

 
 

「……そう」

 
 
 
 

俺と有希はついに目的地に着いた。
ちなみに今も手はつないだままだ。
バカップルと言ってくれても結構だ。

 

「本当に……」

 

有希がおずおずと尋ねてくる。
ちなみにこの質問は5回目だ。

 

「本当に、こんな所でいい、の?」

 

そして俺が今から言う答えも5回目だ。

 

「お前が行きたい所なら、どこでもいいさ」

 

まぁ有希が聞きたくなるのも仕方ない。
なんせここは若い男女二人で来るのは考えづらい所だからな……

 
 

「それに、図書館ていうのもお前らしくていいぞ」

 
 

そう、俺たちは今図書館にいる。
有希に『どこか行きたいところはあるか?』と尋ねたら、
即行で返ってきた答えが『図書館……』だった。
どうやら、当初本人はデートの誘いとは思わなかったらしく、
後になって気付いて真剣に悩んでいた。
見かねた俺が、『図書館でいいじゃねーか』と言うまで、
オロオロしていた姿は可愛かったな。

 

俺と有希は一緒に図書館内を巡ることにした。
というのも俺は有希が取れない位置にある本をとるために、
ってのは建前で、有希と離れたくなかったからだ。

 

館内を一巡して、
興味のある本を片っ端から持ってきて俺たち(ほとんど有希だが)は、
静かな一角にある椅子に並んで座っていた。
近くにある本棚には、人気の無さそうなジャンルの本が並んでいるため、
ここで読書をする人は少なく、あたりには俺たちしかいなかった。

 

「……はじめてきた時と大分変わった……気がする……」

 

不意に有希が口を開けた。
有希の声なら静粛な図書館でも邪魔にならず、
むしろ心地良さまで感じてしまう。

 

「そうか?」

 

俺はなるべく小さく、しかし有希に聞こえるようにささやく。
周りには人がいないから大丈夫だとは思うが。

 

「うん……」

 

俺の疑問に静かに答える有希。
心なしか表情が明るい。

 

「あの時は私……一人ぼっちだった、から……」

 

俺は一人本を抱えオロオロする少女の姿を思い浮かべる。
あのときの司書はどこかに転属したらしく、姿を見ていない。

 

「でも、あの時一人ぼっちだったおかげで、あなたに会えた」

 

そういって有希は手元のカードに目を落とした。
あのときに比べ少し傷んでいるのは、有希が頻繁にここを使っているからだろう。

 

「そしてあなたは一人ぼっちで部室にいた私のところにも来てくれた」

 

朝倉に連れてこられただけだがな。
だがまぁ、そこから行き続けているのは俺の意思だな。

 

「夜遅くまでメールしてくれた」

 

おかげでお互い睡眠不足な日が続いたな。
授業中は爆睡だったぜ。

 

「一緒にご飯も食べてくれた」

 

お前の食べる量にもようやく慣れたよ。
でもはじめて見た時は驚いたぜ?

 

「文芸部が無くなりそうになったときも助けてくれた」

 

実際に助けてくれたのは喜緑さんだけどな。
俺はただ一緒に抵抗しただけだ。

 

「お買い物にもついてきてくれた」

 

あの時は不用意なことを言って悪かったな。
いくら謝っても足りないが……

 

「私の方こそ……部室のドアぶつけて……ごめんなさい」

 

気にするな。あれは事故だ。鼻血くらい何とも無い。
ただ、その後の会話の一部始終を寝た振りして聞いてるとは思わなかったけどな……

 

「でもそのおかげでお互い自分の気持ちを正直に言える決心がついた……でしょ?」

 

そりゃ……まぁそうだな。
おかげで今の俺たちの関係が……って誤魔化すんじゃない。

 

「ふふ……ごめんなさい」

 

見る者を楽園へと誘う様に有希は笑った。
実際俺は今世界で一番幸せな気がする。というか幸せだ。
そして俺と有希はお互い見つめ合っていた。
俺の中、そしておそらく有希の中にも一つの気持ちが広がっているのが分かった……

 
 
 
 

少年はその気持ちを言葉と態度に表した。

 
 

「ありがとな……有希」

 
 

少女も同じように気持ちを声と行動で示した。

 
 

「こっちこそ……ありがとう……キョン」

 
 

奇しくも彼らは同じことを考えていたらしく、

 

初めて互いに互いの唇を合わせていた……

 
 
 
 

初々しくも二人とも息を止めていたのはご愛嬌、ということで。

 
 

Fin

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:27 (2625d)