作品

概要

作者江戸小僧
作品名無時代伝奇劇 南大路の門に芳香漂うこと
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-15 (金) 23:41:27

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

(表紙)

 

◆注記◆
このSSは『陰陽師』(著/夢枕獏)「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」を大いに参考にしています。
この作品をを未読であり、なおかつ読むのを楽しみにしている方は本作をスルーしていただくよう、お願い致します。

 
 
 

  <<南大路の門に芳香漂うこと>>

 

 何時とも知れないが、闇が都をも跋扈していた時代の話である。

 
 

   <壱>

 

 都の中でも北東の方に、その邸はある。家屋は手入れがされているが、庭は草木が繁茂するに任されている。
 一人、この邸の門をくぐる者がいた。服装からするに、この男、貴族であろう。
 供の者を連れていない。都に住まう貴族が供の一人も連れずに出歩くのはひどく珍しいが、この者はそういう当たり前のことを気にしない性分のようだ。
 門をくぐると、そのまま下草を踏みながら横手に足を向ける。
 と、ふいに男の前に異国風の不思議な格好の女が現れた。頭にはとても小さな冠をつけ、服は上が体に密着するように細く、腰から下は徐々に膨らんでいる。大きな瞳に枯葉色の髪。いかなる評判の女房でも嫉妬の視線を向けそうな、儚い美しさを体現した女であった。しかし、男はこのような不思議には慣れていた。
「お待ちしておりましたぁ」
「えーと、長門はいますか」
「ご案内します。あ、私のことはどうぞみくるちゃんとお呼びください」
 あどけない女の笑顔に、恐らく本人は意識もしていないであろう満面の笑みで応えて、訪問者はその後についてゆく。
「あなたを待っていた。……顔の筋肉が緩んでる」
縁側で、男のように水干を着た女が正座の状態で声を掛けた。女であるが、その髪は短い。肩にまでも髪がかからないばかりか、男童よりも短いだろう。眉も全く抜かずににそのまま、顔に粉も振っていない。そのくせ、その白皙の顔と血の色が鮮やかに浮いた口唇は都の男達を惑わせるに余りあるものだが、今は僅かに拗ねたような表情が張り付いている。
 この、稀代の呪術師がこの邸の主だった。
「俺が来るのがわかってたのか? 長門」
訪問者は顔を顰めながらも遠慮なく縁側に上がり、差し出された湯飲みに口をつける。
「気付かれたくなければ往来での独り言を慎むべき」
 男は更に顔を顰めた。
「やはり、式神に見張らせてるのか?」
言いながら先ほどの女を捜すが、去っていった音もしなかったのに姿がない。
 長門は黙って自分の湯呑みを傾けた。
「違うのか?」
「方法はいろいろ」
「そうなのか?」
「そう」
「では、俺をここに案内したあの女性も式神なのか?」
「なぜ」
「気になる」
「見た通りのもの。彼女が何者であっても胸の大きさは変わらない」
「ば、ばか。俺はそんなもの、いちいち見てないぞ」
 男は憮然として顔を庭に向けた。
「ここはいつもこんな感じだな」
「そう」
「お前以外に一体何人ここにいるんだ」
「なぜ」
「少なくとも、今は二人はいる」
「そう?」
「違うのか?」
「……必要とされる者が必要なだけいる。それが私がここにいる理由」
「すまん。良くわからん」
「あなたが嫌いな話になる」
「ああ、なるほど。そっちの話か。わかった」
 どちらからも声が出ないまま、二人の前に広がる庭を一陣の風が渡っていった。
「なあ、長門。ここにいると俺は何故か落ち着くんだ」
「なぜ」
長門の頬には僅かに朱が差し込んだが、男は気付かぬように問いに応えた。
「ここでは全てがあるがままだ。お前は都の女房共がするようなことはしないし、この邸には何もなく、庭も手入れしているようには見えない。皆がやることをしないでただ放ってあるように見えるが、いつ来てもちゃんと整っている。何故かわからないが、俺はそういうお前やこの邸に落ち着くんだ」
「……そう」
長門の口の端がかすかに上がった。
 そのまま両者何も語らずに庭を抜ける風の音だけが空間を満たして暫しの時が過ぎた。
「飲んで」
 三杯目の茶を飲み、男がそっとため息をつく。
「実はな、長門。今日は相談があるんだ」
「なに」
「帝が大切にしている短刀が盗まれた」
「あの女は注意力が足りない」
「長門。俺以外の者の前で、帝のことをあの女などと呼ぶんじゃない」
「あなたは名前で呼んでいる」
「いや、人前じゃ呼ばないし、大体俺とあいつとは……」
 どうやらこの男、時の帝と大変近しい間柄にあるらしい。
「そんなことより。帝のお気に入りの短刀、肥後守は知っているだろう?」
 長門は黙って僅かに頷いた。
「ただ振るだけで楽のような音がするという業物だ。それが、3日前にどうやってか、盗まれたのだ。俺はそれを密かに捜索するよう命じられたのだが、昨夜南大路でその音を聞いたのだよ」
 男によるとこうだった。
 帝に呼ばれ、男は帝の元に向かった。
 見るからに不機嫌な帝は、男を見るとすぐに人払いをした。
「きょん。私の肥後守が消えちゃったわ! あれ、気に入ってたのに。全く許しがたいわ。こんなこと、恥ずかしくて人に言えないじゃない。犯人は絶対に逆さ磔ね。さっさと見つけてきて!」
「はるひ、まず初めに何があったのか理解できるように説明しろ」
−−帝の前に出て二人きりでこのような会話をする以上、この男、やはりかなりの地位にいる筈である。当然しかるべき名を持っている筈であり、それにも関わらず、きょんなどと通り名で呼ばれるのは、実はやんごとなき出自の主なのかも知れない。
「知らないわよ、そんなこと。いいからさっさと探し出してきなさい! できなかったら、あんたが逆さ磔だからね」
「任せろ、お前が大事にしている品。必ず取り戻す」
 帝が有言実行の人物であることを男はとても良く知っていた。
 当日警備についていた者などにそれとなく話を聞き、それから昼夜を問わず都の中を探して回った。
 そして、昨夜。男は都の南大路を自分の邸に戻る途中であった。
 と、聞いたことのある音が耳に響く。
 肥後守の音に似ている。その音は、南より聞こえてきた。南大路の端近くにいるので、ここより南であればあるいは門の外かも知れない。
 男は門に向かった。音は定期的に響いているのだが、それが段々と大きくなっていく。やがて、門の下に着いた。
 今度は音が上から聞こえる。南の門は大きく、上には火事の際に見張りができるように小さな部屋がある。下からは暗闇しか見えないが、部屋への入り口となる穴から音が聞こえてくるようである。
 男は下から呼びかけてみた。
「そこに誰かいるのか。おい、ひょっとして肥後守を持っているんじゃないか」
 と、定期的に響いていた音が止んだ。
 暫く待ったが反応がないので、きょんは門柱を上に登り始めた。登るための刻み目があるとはいえ、両手を使わねばならないので松明を持っていくこともできない。上は漆黒の闇である。
 半分ほど登ったところで、穴の向こうに赤い光が見えた。松明の灯りのように揺らめくこともない、妖しい光である。
 無鉄砲とも思える行動をとっていたこの男だが、ここでようやく気味が悪くなり、その夜はそのまま邸に戻った。
 ここまで話を聞き、長門は無表情を僅かに崩して瞳に怒りのな色を含ませた。
「あなたは無用心。もっと慎重になるべき」
「いや、今から思えばそうなんだが。どうも俺は怪しい気配だとか歌の判じ物だとかそういうものには疎いんだ。それに、何か良い香りがしたしな」
 長門の頬がかすかに引きつった。
「行く」
「え?」
「行く」
「今夜か?」
「そう」
「むう」
「あなたも行くべき」
「……わかった。行こう」
 そういうことになった。

 
 

   <弐>

 

 長門の邸にいた女が松明を持ってまるで幼女のような足取りで先導し、水干姿の長門と、こちらは鎧を纏ったきょんと呼ばれる男が並んで南大路を歩いていた。
「なぜこの女性を連れて行くんだ?」
「あなたを守るため」
「むしろ彼女を男の俺が守らなくてはな」
 長門は黙って横目で男を睨んだが、暗いせいか男が気がついた風もない。
 夜も更け、他に出歩く者はいない。
 と、楽のような透き通る音が聞こえてくる。音は、彼らを南の門の下へと導いた。
「そこにいるのは誰? 一人は昨夜もいた人だよね」
不意に、上の闇より声が降り落ちた。鈴を振るような声音であった。
「俺のことは、まあ、きょんとでも呼んでくれ。こちらは…」
 長門はきょんを手で制した。
「しゅりゅうは」
「きょん君ね?」
「そうだ」
「それに、しゅりゅうはさん」
「……」
 きょんは思わず長門を見たが、長門は上を見るばかりである。
「あなたの名も知りたい」
「私? 朝倉よ。ところで、なぜここに?」
「それなんだが……朝倉とやら、短刀を持ってるんじゃないか。振ると楽のような涼やかな音がする、肥後守という逸品だ」
 声は軽やかに応えた。
「これは元々私のものだったの。勿論、昔の話よ。でも、久しぶりにこれの音を聞いたら懐かしくて、つい、ね」
「それはここの帝のものなんだ。それもすごく我侭な帝でな。事が思い通りにならないと手がつけられん。それ、返してもらえないかな」
 しばしの沈黙。
「そうね……確かにこれは既に一度は私の身から離れたものだしね」
「返してくれるか」
「うん。でも、私からもお願いがあるの」
声と共に、芳香が舞い降りる。
「私は人前に顔を出すにはあまりにあさましい身。でも、これを盗みに入ったとき、そこである男に目がいっちゃったのよね」
「誰だ?」
「目をちょっと細めていていつも丁寧な話し方をしている、古泉と言う名の男だったわ。お願い、少しだけ一緒にいたいの」
 長門は黙って男を見た。
「ああ、奴なら知ってる。頼めば協力してくれるさ」
きょんは顔を上に向けた。
「わかった。明日連れてこよう」
「そう。でも、念のために私を騙したらどうなるか、見ておいてね」
 次の瞬間、上から一閃した光が松明を持った女に襲い掛かる。女の服の前が裂け、豊かな胸部が露になった。
「ふえええええぇ〜」
 しゃがみ込む女の胸に見とれる男とその横顔を闇よりも深い色で睨む長門に女の声が落ちた。
「今はわざと外したけど、くれぐれもおかしなことは考えないでね。お願い」

 
 

   <参>

 

 次の日の夜、再び彼らは南大路の門に集まっていた。
 きょんと呼ばれる男は今夜は腰の太刀の他に弓を手にしている。長門は相変わらず水干姿。昨夜服を裂かれた女はいない。
「みくるちゃんだっけ。彼女は今夜はいいのか」
「いい」
長門の瞳が、男にだけわかる程度に険しくなった。
「……そうか」
「そう」
 昨夜はいなかった男が一人、新たに加わっていた。こちらは色鮮やかな狩衣姿である。よほどの剛の者なのか、それともきょんのように気配を感じない性質なのか、軽い笑顔を湛えている。
「ここですか、僕に興味のある女性がいらっしゃるというのは」
「悪いが頼む、古泉」
「あなたの頼みでしたら。その代わり、これが終わったら…」
 上から、声が届いた。
「あら、約束は守ってくれたのね。じゃ、彼だけ上がってもらって」
 同時に、上の穴から灯りが漏れた。
「では、いってきます。その後は、ふふふ、楽しみですね」
変わらぬ笑顔で、狩衣姿の古泉はするすると柱を伝って上の穴へと消えた。
 そのまま、暫く経っている。
 残った男はそわそわと足を動かし続けた。
「なあ、どうなってるかな」
「彼に任せる」
「むう」
「見たい?」
「ば、ばか言え」
 男の持つ松明が短くなってきた時、上から零れる灯りが揺らぎ、かすかな声がした。
「ふもっふ!」
 ふいに長門が顔を上向ける。
「迂闊!」
「何?」
 と、上から大きなものが落ちてきた。思わず二人が避けたそれは、顔色を青くした古泉だった。
「おい、どうした? 何があった!」
「ふふっ。成功すればあなたに何でもお願いできると思ったのですが…無念」
古泉の腕が力なく地面に落ちた。
「やっぱりあなたたちは信用できない。私を殺そうとするなんて」
声音だけは相変わらず涼やかに、上から声が降ってきた。
「おとなしくしていれば無事に彼もこれも返すつもりだったのに。こうなったらあなたたちも殺して……」
 長門に突き飛ばされ、きょんは転がった。
 先ほどまで男がいた場所に、人影が立っていた。燃え尽きていない松明に照らされたその姿は、黒髪を腰まで伸ばした女だった。異国風の白い上着、腰だけを覆っているかのように短い水色の布。殆ど隠されていない脚は淫靡なまでに絶妙な曲線を描いている。
 そして、その顔は意思の強そうな太い眉で濃く彩られていた。
 女は短刀を前に構えた。
 男は上体を起こし、足を踏ん張りながら太刀を引き抜こうと構える。
「動かないで、きょん君」
 きょんは、立ち上がりかけたまま、寸とも体が動かないのを悟った。
「くっ!」
 女は顔だけを長門に向けた。
「動かないで、しゅりゅうはさん」
 長門は無言である。
 女はきょんに向き直ると、屈託のない笑顔で言った。
「じゃ、死んで」
 女が、中腰で太刀に手を掛けた状態で動けないきょんに迫る。
 長門が無表情なまま右掌を前に突き出した。
「動くな、朝倉」
「あなたは!」
女は白刃を腰に構えたまま突如体が凍りつき、目と口だけで長門を睨み据えた。
「騙したのね」
女は必死に体を動かそうとしているようだが、きょんと同様に動くことができない。
「返事をしなかっただけ。名を名乗り、名に答えることで初めて関係が結ばれる」
平然と言って、長門は女の眉に右掌で触れると早口言葉のようなものを囁き始めた。
「これで終わり」
「そんな!」
 女は蛍のように光る粒へとゆっくりとその姿を変えていった。やがて光る粒も闇に解けていき、女が消えた後には、輝く抜き身の短刀だけが残っていた。
「長門、これは」
「彼女は人間ではない。いるべき世界に送った」
「……きっと寂しかったんだな、人の世にいて。孤独で。だから、昔から見知っている何かを、ただ傍に欲しかったんだな」
「……帰る?」
「ああ」
きょんと呼ばれる男は、肥後守と呼ばれている短刀をそっと手に取った。消えた朝倉の香りがまだ刀身に残っているような気がした。

 
 

   <四>

 

 長門の邸は今日も静かにきょんと呼ばれる男を迎え入れた。ごく僅かな間に庭を彩る花が変わっていた。
「今日はお前だけなのか」
縁側で正座しながら茶を飲む長門に男は話しかけた。
「季節はめぐる。来年、彼女はまたいる」
「そうか」
「そう」
 気がつくと、勝手に座り込んだ男の横にも湯呑みがある。姿が見えないだけで、いづれ式神が持ってきたものだろうと、男は思うことにした。
「ところで、今日は誘いに来たんだ」
「なに」
 手元の包みを持ち上げた。
「一緒に帝に返しに行こう。これはお前のおかげだ」
「いい」
 男は体ごと長門に向けた。
「よくない。たまには直に褒章を受けろ」
「対価は得ている」
 男は少し驚いた顔をした。
「何をだ?」
 長門は射抜くような目で言った。
「あなた」
「え?」
「この邸に茶を飲みに来る者は多くない」
「ば、ばか。そんなことならいつでもつきあってやる」
「あなたは良い漢だから、皆にそう言う」
 男は湯飲みを床に置き、長門に真剣な顔を向けた。
「……なあ、長門。俺はお前の味方だ。お前の親は人ではないなどと言う奴もいる。俺にはそういうことはどうでもいい。お前は俺の仲間だからな。だから、あまり寂しいことは言わないでくれ」
「……そう」
 今日は庭を渡る風が長門の髪を静かに揺らしていた。揺れている髪の向こうに、男は長門という名でのみ世に知られる呪術師の微かな笑顔を見たような気がした。
 二人は同時に湯呑から茶を啜った。

 
 

   <伍>

 

 呪術師の邸を出て、きょんは一人で帝の元を訪れた。
 またも人払いがされた。
「ここに取り戻してまいりました、帝殿。いや、はるひ」
「ふーん。ま、一応、お礼が必要ね」
 きょんの目がはるひを射抜いた。
「はるひ。是非頼みたいことがある」
「あら、何なの?」
 きょんが差し出す短刀にはるひが手を伸ばすと、二人の手が重なった。
 二人はお互いの目を見つめあった。
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・

 
 
 
 
 

 万年ニヤケ顔が、手に持った紙を突き破るように迫ってきた。
「どうですか? ご感想は」
 毎度の事だが、顔が近いぞ。古泉。
 俺は最後の一枚をどうにか震える手を抑えて読み終わったところだ。
「なんだ、これは?」
俺はまだ懸命に手を抑えている。
「ここの全員が出るようにしたんです。原作付きとはいえ、伝奇物は初めてなので結構苦労しました」
「これでいい。……だめ?」
 まて、長門。そんな、目の前で俺がご飯を取り上げたみたい顔をする前にこの最終章まで読んでくれ。話はそれからだ。
「ふえええ〜 わ、私、人前で脱がされるんですか〜?」
 半分ほど読み進めていたマイエンジェル朝比奈さんが、セイレーンもかくやという声を上げた。最新鋭の米国艦隊だって、今の心臓を絞り上げるようなみくるヴォイスを聞いたら計器が狂って岩礁地帯に突っ込むに違いない。
「私ってどうしてこういうキャラになるのかな。誰がこういう元ネタを提供したのかな? それに、これって顔に海苔でも貼れって言ってるの?」
 朝倉、頼むから満面の笑顔で俺の脇腹を尖ったもので突っつかないでくれ。あれはお前にだって責任あるだろう。折角復帰したんだからもうちょっと大人しくなってくれ。大体、書いたのは俺じゃない。
 既に一通り読み終えた我等が団長様だけは既に妄想モードに突入したような満足げな顔でネットサーフィンをしている。ありゃきっと平安朝っぽい衣装を売ってるサイトを探しているに違いない。
 勿論、今は例によって団活中である。
 どういう風の吹き回しか、年中無休元気一杯なハルヒはSOS団新入団員勧誘のために演劇をやると言い出したのだ。ついては宇宙人未来人超能力者が見たら心奪われるような素晴らしいシナリオを大募集するわよ、と。勿論募集と言っても団の中でだが。相変わらず何考えてんだか。
 で、例によってさっそく忠臣極まる副団長が書いたのがこのシナリオだ。
 これを読んでいる様を見ていたら、途中まではハルヒの機嫌は最悪で、それこそペリカンみたいな口をしながら読んでやがった。それが最後の一枚、最終章を読んだ瞬間にTNT火薬何ギガトン相当だろうかと思うような爆発的な笑顔に変わった。断言してやる。あの顔は、とってもヤバい。哀れな犠牲者を出すときの顔だ。
「今日はこれで解散! 古泉君、さっさと家に帰って明日までに必要な小道具を整理してきて!」
実に嬉しそうに宣言して無料スマイル野郎の背中を押しながら団長様が足音高く去って行き、部屋にはちっとも満足していない、宇宙人と未来人を含む4人が残った。
「電子データ、出力結果、及び古泉一樹の該当記憶の完全消去を推奨する」
 指定席に座った長門に目を向ける。
「できるのか?」
 無口な少女はいつもに比べて200%増量の角度で首を傾けた。
 俺は改めて部室に残る皆の顔を見回した。
「私の顔立ちは凛々しいって表現べきだと思うな」
「わ、私、お嫁に行けなくなるのはイヤです〜」
「許可を」
 今、皆の思いは1つとなった。
「よし、長門。やっちまえ」

 

 何?
 最終章の内容?
 すまん。頼む、一刻も早く忘れさせてくれ。

 

   終

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:27 (2710d)