作品

概要

作者書き込めない人
作品名気ままな文芸部室 9 保健室編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-15 (金) 21:33:38

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

先ほど昼飯を食べたばかりと言うのに、
珍しく眠気もない俺は長門が購入した本を読んでいた。
ちなみに俺がいるのはご存知、文芸部室で、
今は昼飯とおやつの時間の間だ。

 

今週は個人面談と言う弾劾裁判があるので、
授業は午前中までで終了する。
ついでに俺の裁きのときは明後日やってくるらしい。
母親のうずうずした態度が怖い今日この頃だ。

 

さて、話は変わるが、
俺は今この部室で一人きりだ。
もちろんもう一人の部員が辞めたわけではない。
あの花の様な文学少女が1日たりと本から離れるわけもなく、
そんな状況が来る頃には、世界の終わりの方が先に来ているだろう。

 

ちなみに彼女が学校を欠席してる可能性はない。
ゴミ箱に溢れんばかりのパンや弁当の抜け殻が入ってるんだからな……
信じらんねえだろ?昨日ゴミ箱の中身全部捨てたんだぜ?

 

つまり我らが麗しき聖女様は、
一度この部室に来てピンクの丸い奴のように食い散らかし、
俺が来る前にこの部屋を出て行ったということになる。

 

……ホームルームが終わったのは同時だった気がするんだがな……

 
 
 

そして今現在、俺は一人静かに読書をしているわけだが……
はっきり言って長門のことが気になって仕方ない。

 

その……行方じゃなくて、動向がな……

 
 
 

俺が読書を始めて10分くらいたったころだった。
ふと気配を感じてドアの方を向いた俺は思わず声を上げちまった。

 

「……な!?」

 

俺の視線の先、曇りガラスのついた木製のドアの向こうに……

 

小柄な人影が立っていた。

 
 

……あれって……長門……だよな?

 
 

幼馴染の委員長と生徒会書記には劣るが、
これでも長門との付き合いはそこそこある。
影とはいえ、野に咲く一輪のコスモスが遠目にもわかるように、
俺にはそれが長門だと分かった。
ちなみに『付き合い』って別に変な意味じゃないぞ?

 

それにしても……何やってんだ、あいつ?

 

何となく声を出すのがはばかれるので、
そっと心の中で疑問に思う。

 

その人影はさっきからほとんど微動だにしなかった。
呼吸を乱しているのか少し肩が動くくらいだ。
しかも小さく何か聞こえてくるし……
正直不気味なんだが……
だが、そこで俺はひとつの仮説に思い立った。

 

……もしかして荷物を持ってるからドアが開けられないのか?

 

長門の部屋に一時保管していた本の類は全て部室に運んだつもりだったが、
まだ残っていたのかもしれない。
それを持ってきているから、両手がふさがったのか……

 

そう思った俺は、持っていた本を置き、
ドアの方に歩み寄った。
もちろん開けてやるためにな。

 

「どうしたながt……」

 

そういいながらドアノブをつかんだ俺の手が、
ドアノブごと回った。

 
 
 

やはりいつまでも『キョン君』などと呼んでいたらダメ。
私が『キョン』って呼んだら、彼も『有希』と……

 

「どうしたの、長門さん?」

 

「わひゃあ!?」

 

「なに驚いてるのよ……」

 

朝倉さん、か……
びっくりした……

 

「私じゃ不満かしら?」

 

「そ、そんなことは……」

 

「ふふ、冗談よ」

 

冗談か…良かった。
でも何で焼きサンマを握ってるのだろう……
細長いものをもってる朝倉さんは少し怖いのだけど……

 

「またキョン君のこと考えてたんでしょ?」

 

「!?な、何で……」

 

「何で分かったって?顔見れば分かるわよ」

 

……やはり朝倉さんに隠し事はできない……
そう思った私は正直にさっき考えていたことを話した。

 
 

「う〜ん、やっぱり『君』を付けない方がいいんじゃないかしら?」

 

やっぱり朝倉さんもそう思うのかな……
でもキョン君を呼び捨てにするのは……ちょっと怖い。

 

「そんなこと言って……そうだ!」

 

そういって朝倉さんは何かを思いついた。
……何か嫌な予感がする……

 
 
 

「そ、そんなことは……無理……」

 

朝倉さんの閃きは素晴らしいと思うけど
そんなこと私には……

 

「大丈夫!男の子はギャップに弱いもんだし」

 

何か最初の趣旨とずれて……
戸惑う私をよそに朝倉さんは更に続けた。

 

「もしやらないっていうんなら……今日の晩御飯は抜きね」

 

……朝倉さん……酷い……

 
 
 

そして私は今……文芸部室の前にいる。
心配した朝倉さんがついてきてくれたけど……
余計に恥ずかしい。

 

「さっき窓の外から見たけど、キョン君は中で読書中よ」

 

それなら邪魔するわけには……
私の疑問は朝倉さんの『大丈夫よ』の一言で一蹴された。

 
 

「それとも……一生『キョン君』と『長門』のままでいる気?」

 
 

……それは……いや。
今のままでも幸せだけど……物足りない。

 

「だったら勇気を出してやってみなさい。
何事も最初の一歩がいるのよ」

 

朝倉さんの言葉を聞いて、私は勇気を出すことにした。
それに……一瞬で終わること……

 

そう、私が朝倉さんから授かった作戦は……

 
 

『ドアを元気よく開けて、勢いで『キョン』と呼び捨てにすること』

 
 

という、とても簡単なことだった。
そして私はできるだけ気分を落ち着かせて、
ドアノブに手をかけた。

 

何度も深呼吸をする。
少し手が震える。唇も震えてる。
けど……これを乗り越えれば……

 

そして意を決して目をつぶった私はドアノブをひねった。

 
 
 

ガチャッ!

 

バン!!

 

「ヤッホーキョン!!」

 
 

……言えた!!
彼のことを『キョン』と……
一体彼はどんな顔を……

 

そう思って恐る恐る目を開けた私の前には……

 
 

顔を押さえてしゃがみ込む血まみれの彼がいた……

 
 
 

今俺は保健室にいる。
ついでに言うと上着を脱いでTシャツ一枚だ。
上着は鼻血にまみれて赤くなっちまった。

 

文芸部室のドアは内開きで、
それが勢いよく開いたおかげで鼻を打った俺は、
鼻から出血大サービスをしたわけだ。

 

まぁ鼻血だけならわざわざ保健室に来る必要はなかったんだがな……

 

「どうだ?目を覚ましそうか?」

 

俺は保健室のベッド横に座る委員長に聞いた。

 

「もうちょっと安静にしておいた方がいいかもね」

 

やれやれ……
俺はベッドの上の眠り姫の方に視線をやった。
その美しい長門姫は、ドアに顔をぶつけて鼻血を出した俺を見て
気を失ってしまった。
血まみれのシャツがよほどショックだったらしい。
俺は自分の手当てもそこそこにここまで長門を担いできたわけだ。
保険の先生も怪我人が病人を運んできたのを見てビックリしてたな。

 

「それにしても……長門は何がしたかったんだ?」

 

俺は大き目の絆創膏を張った鼻をさすりながら言った。
幸い折れてはないそうなので、一安心だ。

 

「さあ……それよりあなたそんな格好で大丈夫?」

 

一応この部屋は暖房が効いてるからな。
それより鼻血がついたシャツをどうするか……
洗って落ちればいいが。

 

それにしても……
俺はさっきの長門の行動を思い出す。

 

『ヤッホーキョン!!』

 

そういって元気一杯ドアを開けた長門。
いつもの長門らしくはないが……

 

「この子なりにあなたと仲良くしようと思ったんじゃない?」

 

朝倉が俺の心を読んだように答える。
分からないんじゃなかったのか?

 

「……そんなに仲悪く見えるか?」

 

本気で懸念する俺に、
朝倉は笑いながら答える。

 

「ふふ、そういう意味じゃないわ」

 

ますますワケがわからん。
そう思いながら、俺は血を吸って固まったティッシュをゴミ箱に捨てた。
どうやら出血は治まったらしい。
そんな俺の様子を見て朝倉が問いかけてくる。

 

「もう大丈夫なの?」

 

あぁ、おかげさまで血は止まったよ。
まだじんじん痛むけどな。

 

「そう……じゃあ保健の先生が洗濯してくれてるシャツを返してもらったら帰るの?」

 

さっきから保健室のすぐ外の洗濯機が回ってる音が聞こえている。
本当はシーツを洗ったりするものだが、
特別に俺の血染めのシャツを洗ってくれている。
保健の先生には申し訳ないが、同時に感謝もしている。

 

「いや、長門が心配だから目を覚めるまでいようかと思う。
それに長門にショックを与えたのは俺だからな……」

 

その言葉に少し驚く朝倉。
失礼な奴だな。

 

「そもそもこの子がドアを開けなかったらあんなことに……」

 

「悪いのは俺だ。あんなところにぼさっと立ってたんだからな。
だから長門が目を覚ましても『俺が勝手に鼻血を流した』ってことにしてくれよ」

 

朝倉のセリフを遮って俺は念押しする。
長門を責める気は毛頭ないからな。

 
 

「はいはい、わかったわ……本当に長門さんが好きなのね」

 
 

「ブッ!?」

 

思わず吹き出す俺。
また鼻血が出るかと思ったぞ。

 

「な、なに言ってやがる!?」

 

声が上ずっちまった。
恥ずかしいぞ俺。

 

「あら?あなた長門さんのこと好きじゃないの?」

 

平気な顔をして聞いてきやがって……
やっぱりこいつは真性のドSだ。

 

「そりゃ……好きじゃないわけないだろ」

 

落ち着け俺。
この『好き』はlikeであってloveではない。
好きな食べ物とかの『好き』だ。
深い意味はない。絶対ないぞ。
と、一生懸命自己暗示をかける俺。

 

そんな俺を無視して朝倉は話し始めた。

 

「人間はさあ、よく『やらなくて後悔するよりも、やって後悔する方がいい』って言うよね。
これ、どう思う?」

 

「よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ」

 

「じゃあさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは
解ってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことができるのか解らないとき。
あなたならどうする?」

 

「なんだそりゃ、日本の経済の話か?」

 

俺の質問返しを朝倉は変わらない笑顔で無視した。

 

「とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない?
どうせ今のままでは何も変わらないんだし」

 

「まあ、そういうこともあるかもしれん」

 

「でしょう?」

 

何が言いたいのかイマイチ解らないが、
先ほどの発言で無くした落ち着きは取り戻せた。

 

だが、せっかく取り戻した俺の
精神的余裕を朝倉の一言が根こそぎ奪い去った。

 
 

「じゃあ……どうして長門さんに告白しないの?」

 
 

俺の勘が警鐘を鳴らしている。
このままここにいれば尋問が始まると。
シャツを洗ってる先生にも寝ている長門にも悪いが、
ここは今すぐ帰った方がいい。
そう思って俺は立ち上がろうとした。

 

ヒュッ

 

まず風切り音が聞こえた。
そして俺が座っていた椅子に突き刺さるピンセットが見えた。
最期に目の前にいる笑顔の暗殺者からの声が聞こえた。

 
 

「ここならすぐに治療してあげられるわね……」

 
 
 

「あなたは長門さんのこと好きなの?」

 

「だから嫌いになるわけないだろ」

 

結局尋問が始まってしまった。
まさかピンセットが武器なるとは思ってなかったぜ。

 

「はっきりしないわね……好きなの?嫌いなの?」

 

両手で治療用の道具をもてあそびながら
朝倉は聞いてくる。
お前はどこでそんな技術を得たんだ。

 
 

「だから……好きだ……」

 
 

「キャー、はっきり言っちゃった」

 

まるで自分が言われたかのように照れる朝倉。
俺のほうが恥ずかしい。いっそ殺してくれ。
それと、いくらかわい子ぶっても凶器のおかげで魅力半減だ。

 

「じゃあ、もうキスでもすればいいんじゃない?」

 

できるか。
完全に犯罪じゃねーか。

 

「そもそも長門は俺と仲が悪いって思ってるんだろ?」

 

「どうしてそう思うの?」

 

朝倉が驚いた顔でこちらを向く。
いや、だってお前がさっき言った……

 

「あれは『今より』仲良く、って言いたかったのよ。
呼び捨てにすればもっと親しみがわくと思ったんでしょ」

 

俺としては呼び方はどうあれ、
長門に呼んでもらえるだけで嬉しいんだが……

 

「ともかく、あなたはもっと長門さんに積極的にアプローチすべきよ。
そうね……こういうのはどうかしら?」

 
 

そうして朝倉は俺にひとつの提案を耳打ちした。
そんな近寄らなくても長門も寝てるし誰も聞いてないと思うが……

 
 
 

俺が保健の先生からシャツを受け取り着替えてる間に、
長門は目を覚ましたらしく、
いそいそと帰る用意をしていた。
なんだか顔が赤い気がするが気のせいか?

 

あたりは既に暗くなり始めていたため、
俺は朝倉と長門をマンションまで送ることにした。
帰宅途上では長門が気まずいのか、ずっと下を向いていた。
一応、鼻血が勝手に出てきただけだ、と言ったのだが、
長門はしきりに謝ってくれた。

 

そして俺たちはマンションまで来た。
ここで俺は朝倉の提案どおりにある事を言わなければならないのだが……
なんだか恥ずかしくなってきた。
だが、やらなければ明日の授業は無事に終えれそうにないし、
何より長門に『仲が悪い』と思われたくない。

 

「じゃあ、キョン君お見送りご苦労様」

 

朝倉が笑顔で言う。
反対に横の長門はすこし寂しそうな顔をしている。

 

「今日はゴメンなさい……」

 

まだしょんぼりしてるせいか、
呼び方が元通りになっている。

 

そんな長門の姿を見て俺は、
より一層長門をカワイイと思った。
そしてその勢いのまま言ってやった。

 
 
 

「なに、『有希』は悪くねーよ」

 
 
 

俺の言葉に目を見張る長門。
その横でニヤニヤしている朝倉はこの際無視だ。

 

「あー、お前が俺のことを『キョン』て呼んだからな。
俺も対抗して『有希』って呼んだんだが……ダメか?」

 

朝倉が提案したこととはいえ、
自分で言うのは恥ずかしい。
誰か拳銃を貸してくれ。弾は1発でいいぞ。

 

だが照れる俺に長門は、
いつもより明るい笑顔でこう言った。

 
 
 

「ありがとう……キョン……」

 
 
 
 

オマケ

 
 

次の日、俺は教室に入るやいなや委員長に尋ねた。

 

「なぁ朝倉、何で昨日の提案だけわざわざ耳打ちしたんだ?」

 

『長門を下の名前で呼ぶ』という提案を、
朝倉は自分と俺と寝てる長門しかいない部屋で
わざわざ耳打ちしたのだ。
誰も聞いてないはずなのに。

 

「あぁ、それはね……」

 

そして朝倉はいつもの笑顔で言った。

 
 
 

「長門さんがとっくに起きてたからよ」

 

……え?

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:26 (2624d)