作品

概要

作者十六夜
作品名長門有希の・・・2
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-15 (金) 00:22:12

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 今、俺は部室にいる。
 十日前の釣り以来、本来の場所より俺の近くで本を読み、線香花火を栞変わりにする長門、豊穣の女神のようなメイド姿でお茶を注いでいる朝比奈さん、そして相変わらず俺は古泉とゲーム(今日は挟み将棋)をやっている。そんな変わらない日常をハルヒが来るまで、堪能している。

 
 

 さて、今は梅雨真っ最中である。
 昨日も今日も一日、雨がポツポツ・シトシトと降り、空気はムシムシ・ジメジメしている。普通なら、気分もドンヨリする所だが、今は違う、気分はとても晴れやかだ。実にイイ気分で一曲歌も歌いたいぐらいだ。
 俺がここまで浮かれているその理由は、中間テストが終わったからである。今回もハルヒが教師をやってくれたお陰で、赤点はまぬがれそうだ。返ってくるテストに自信があるというのは、気持ちの良いコトだ。
 これで、ハルヒがいらんコトさえしなければ最高なんだがぁ…、勉強を見てもらってなんだが。そのハルヒが俺の第六感によりやって来そうな気がした。
「皆、そろってるー!」
 梅雨の空気をかき消すような勢いで突入してきた。テストが終わって気分がハイになっている俺よりも元気である。まったくコイツの元気は底なしだな。
「よしよし、皆いるわね。では、会議をはじめましょう!」
 ハルヒは団長席にアグラをかいて座った。もう少し年頃の格好をしろよハルヒ、と言っても無駄なので、もうほっておく。
「わかりました、今日の議題は何でしょうか?」
 古泉が劣勢であった将棋から手を離し尋ねた。お前もそんな積極的に参加せんでもいいものを…。朝比奈さんはハルヒに一杯のお茶を渡し、ビクビクしている…、まぁ当然か、また妙な衣装を着さられるかもしれんしな。長門はもちろん黙々と読書を続けている。
「テストも終わった事だし、今週の市内探索は中止にして、どこかで遊びましょう!」
 おっ、たまにはマシなコト考えるじゃないか、アテも無い不思議を探すよりよっぽど有意義だ。
「では、どこに行きましょうか、涼宮さん?」
 ハルヒは考えるそぶりをし、
「どこに行こうかしら…、皆は希望ある?」
 ふむ、そうだな、
「静かなトコがいいな、テスト勉強でパンクした頭を休めたい」
「嫌よ! せっかくテストが終わったんだから、騒ぐのが前提よ」
 と即答され、俺の意見はかき消された。まぁ、採用されるとはこれっぽっちも思わなかったが。
「あの…お買い物なんてどうでしょう?」
 朝比奈が小さく手を挙げた。
「ん〜、特に今欲しい物が無いのよねぇ…、とりあえず、みくるちゃんの意見を候補に入れるわね。有希と古泉君はどう?」
 長門はハルヒの方を向き、
「…どこでも」
 他の団員に任せる、といった感じだ。すると古泉が、
「この前がアウトドアでしたからね、逆にインドアで遊べるもの…、そうですね、ボーリングやカラオケなんてどうでしょう?」
「いいわね、それ! …でも、それだけで一日終わらすのはつまらないわね」
 ハルヒが考え込む、こういう時はロクなコトが無い。頼むからやっかいなコトを考えるなよ。
 五分ほどハルヒが黙っていた、しかし顔には極上の笑みが見えていた、…俺にとっては極悪の笑みに感じるが。絶対いらんコトを考えていやがる。
「…よしっ、決まったわ、ボーリングとカラオケに行きましょう!」
 んっ、それだけでいいのか、ハルヒ?
「えぇ、そうよ」
 それは俺としては、喜ばしいコトだが…、しかしあのハルヒの笑みは、何か絶対に企んでいる。油断できん、必ずこれだけでは終わるコトはないだろう。
 不安で頭が一杯になっている俺をよそに、
「あっ、これキョンのオゴリだからね。釣り勝負忘れたとは言わせないわよ!」
 ぐわっ、ここで前回の伏線が来るとは。…俺はすっかり忘れていたのにな、ハルヒはやっぱり覚えていたか。
「安心しなさい、ボーリングとカラオケ、どちらかの料金だけでいいわ」
 そりゃどうも。

 
 

 これにて、本日の会議はこれでお開きとなり、長門の本を閉じる合図で皆、帰路につくコトになった。
 五人固まっての帰り道、俺はハルヒに聞こえぬよう長門に声をかけた。
「どうだ近頃は? 何か困ったコトや悩むコトがあれば、気軽に言ってくれよ」
 長門は前を向き、歩きながら答える、
「今の所、不安材料は無い。しかし、私の思考および、行動に不備・エラーが発生すればあなたを頼る」
「そうしてくれ、一人で考え込むマネだけは辞めてくれ」
 頼りなるかどうかはわからんが、少しでも長門の力になりたいからな。
 …しかしこのコトが、ハルヒによる策略で俺が勘違いを生むのは少し先の話である。

 
 
 

 さてさてSOS団で遊びに行く当日、俺はいつも通り起き、いつも通り集合場所に着いた。十分前だが、すでに全員そろっている。…また、俺が最後か。
「遅いわよ、キョン!」
 会って第一声がこれである。
 時間前に来ているのに、文句を言うハルヒをなんとかあしらい、他の三人を見る。
「キョン君、おはようございます。私、ボーリングとか初めてなんで今日はよろしくお願いします」
 丁寧にペコリとオジキする朝比奈さん。
「今日はボーリングで勝負しますか?」
 いきなり勝負をひっかけてくる古泉。
「…」
 ミリ単位で頭を下げる、いつもの表情の長門。それぞれ四者四様で俺を迎えた。
 今回の一番最後(もちろん俺)へのペナルティは、カラオケの飲み物をオゴリということで決まった。そろそろシステムを変えないと、俺は若くして自己破産しなくてはならないな…。
 ただ俺が早く来れば済むことなんだが、それができないというのが人間というものさ。

 
 

 さて、今回の行く舞台は、集合場所から電車で十五分ほど乗り、歩いてスグの複合娯楽施設だ。ボーリングありカラオケありゲームコーナーやビリヤードまである。
 近くには俺が小さい頃よく行った遊園地があったのだが、数年前、不況による影響で潰れてしまい今となっては、巨大な公園になっている。イヤというほど乗りまくり、飽きてしまったウォータースライダーが懐かしい。
 まったく寂しいもので、これが時代の流れというものか…。
 しかし、ここには有名な劇団もあるし、まだまだ活気がある。その内、遊園地も再建するかもしれんな。

 
 

 そんなこんなを、電車の中で考えていると、もうその地に着いた。
 久しぶりだな、遊園地もなくなったし、中々こちらの方へ来る機会は少ない。
 外に出て、空を見上げる。うん、イイ天気…ではなく、曇り空だ。この梅雨時期に快晴を期待するのはコクな話だ、雨が降っていないだけマシと思わなくてはな。
 歩くコト数分、俺がオゴリが決定している目的地に着いた、…楽しみも半分だな。
「まずはボーリングよ!」
 まず初めはハルヒの要望によりボーリングから行うことになった。俺たちはそれぞれ受付で申込み、クツを借り、指定されたレーンへと向かった。
 途中古泉が、
「勝負はどうしますか?」
 しつこく聞いてきたが今回は、
「悪いな、パスだ。実はボーリングは得意でして、とか勝負が終わった後で言いそうだ」
 そんな事ありませんよ、みたいな顔・素振りをしているがコイツは信用できんからな。それに負けたらまた、俺のオゴリで遊びに行くという無限ループに陥るかもしれん。まったく、トランプやオセロなどどうでもいい勝負は、長門相手ならともかく古泉には負ける気はせんのに、こういう勝負になると勝てる気が出ないのはどうしてだろうね。

 
 

 さて、レーンに着いて荷物を置いたら、まずボーリングの球選びだ。ハルヒは待ちきれないのか、荷物を置く前にもう選んで、
「早く選びなさいよ!」
 すでに待ち構えている。そんなにせかすなよ、ボーリングは逃げはせん。
「ふみゅ〜、どれもおもいです〜」
 朝比奈さんは、どれも重そうに持ってるので結局、子供用の球を勧めてやった。この様子だと結果も見えているな…。
 ここで長門はと言うとボールを見つめながら、
「これで何をするの?」
 …そうか、まずこれから説明しなくてはならならいか。
 俺は簡単に説明してやり、
「わかった」
 長門は頷き、理解したようで球を吟味している。
「ボールでピンを倒し点数を競う」
 と言っただけだが。
 そして俺が球を選ぶに至る。重すぎず軽すぎないものを選ばなくてはな、…よし、コレにするか。すると、俺の後ろに続き長門も同じ重さのボールを選んだ。
「長門、俺と同じ重さで大丈夫か? 女性はもう少し軽いほうが投げやすいぞ」
「いい。あなたと同じなら問題無いと判断した」
 まったく嬉しいコトを言ってくれるね。理性が無ければ、抱きついていただろう。
「そうか、ならいいんだ。頑張れよ」
「…努力する」
 小さくコクンとアゴを下げた。
 まぁ、その頑張りが目に見えたのは、すぐだった。

 
 

 ランダムで一番目となった長門が投げた一投目は凄まじいモノで、チョコンと直立に立ち、サルの目から見ても[軽く]投げたように見えた。が、実際のボールの勢いはそんなものではなく、ピンまでの距離半分はボールが浮いていた。そしてピンにとっては嫌な音、俺たちにとっては素晴らしい音がこの場に響く。もちろんストライクだ。
 ハルヒも俺も他の客さえも長門を見ている。その長門は、何か変な事をした? みたいな顔をしている。
 俺は長門にチョイチョイと手招きし、連れだした。ハルヒが何か言ったが今は後回しだ。
「…長門、さっきのは何だ?」
 長門は頭をかしげ、
「努力した結果」
 ……頭が痛い。
 俺は長門にボーリングとはどんなものかを詳しく教えた。確かに長門の行為は俺の簡単な説明と相違はない。だからってあんな結果になるとは、実際にカメがウサギに勝つぐらい思わなかった。
 俺は説明に「人間何度かは失敗するもの」と付け加えた。そうしないと、全てストライクを取りそうだったからな。こんなコトなら、始めから言っとけば良かったな…。
 何はともあれ、ハルヒに適当な言葉であしらえ…たら良かったのだがそんなワケにもいかず、言い訳に四苦八苦していると、
「なんでもない」
 この長門の一言であっさりカタがついた。どうやらハルヒにとって俺の言い訳の信用度は全くと言っていいほど無いらしい。

 
 

 さて、ゲーム再開だ。順番は、さっき投げた長門、ハルヒ、古泉、朝比奈さん、最後を飾るのが俺だ。
 ハルヒがおもいっきり振りかぶり、
「おりゃー!」
 ボールをブン投げるとさすがに長門ほどの威力は無いがかなりスピードが出ており、男子顔負けだ。コースも真ん中、これまたストライクだ。あいかわらずなんでもうまいな、フフンと鼻息をたててやがる。勝負はないとはいえ、ここまでの表情をされたら見返して勝ちたいものだな。
 次に古泉、俺から見てもキレイなフォームで無難に一投目で七本、二投目で残りを倒しスペアを記録。
「二投目はスペアを狙いましたが、うまくいきましたね」
 こんなセリフが出るほど余裕のようだ、気に食わない。
 次は朝比奈さんの人生初のボーリング一投目だ。俺もそうだったが、半分ぐらいの人はそうじゃないだろうか。
 結果はガーターだ。
「えぇーい」
 かけ声は可愛らしくて言うコトなしだが、目をつぶりながら投げたらそりゃこの結果は当然だ。そのまま、二投目を投げる。また、ガーターである。肩を落としながら、
「難しいですねぇ、何かコツとかあるんですかぁ?」
 朝比奈さんが俺たちに質問すると、すぐさま、
「両手で転がしてもいいんですよ」
 古泉が初心者にはうれしいアドバイス。
「そっかぁ、ありがとうございます。古泉君」
「いえいえ、どういたしまして」
 俺が言いたかったセリフを言われてしまった。おのれ古泉。この分はプレーで取り返してやるさ。

 
 

 さて、やってきた俺の番。
 長門と朝比奈さんの前で恥をかかないため、そしてハルヒと古泉に対抗するため、ここはできるだけ多く倒さないとな。
 俺は念入りにコースを確かめ投げる。
「よっ!」
 皆…、これまでの話の流れで俺がガーターだと思ってるな?
 甘いな、俺の手から離れたボールは見事、弛い美しい弧を描き、ピンに当たる。
 コーン!
 一番左の一本に当たり、そしてピンがクルクル回り倒れる。…当たった一本だけな。
 ハルヒ達の反応は後でまとめて説明しよう。…なぁに、まだ二投目がある、古泉と同じスペアでもいいさ。
 俺はさっき投げた軌道を頭に入れ、修正したコースへ投げる。球が転がる、途中でさっきと同じように曲がればど真ん中だ。よし、そこだ、曲が…らなかった。だがまだガーターではない、真っ直ぐ行きピンに当たるはずだ。
 コーン!
 当たった、倒れた。…さっきの反対の一番右の一本だけな。端と端の合わせて二本か。俺の黄金の右腕(今、命名)も腐ったものだな。
 ここで皆の反応を紹介しよう。
 まずはハルヒ。口を開けて笑ってる、以上だ。詳しく説明するコトもできるが、俺がへこむので勘弁していただきたい。
 古泉、
「両端を狙ったのですか? 中々、器用なマネをしますね」
 狙うワケねーだろ。
 朝比奈さんは、受験で自分は落ちて、隣にいる友達が受かった時、無理矢理作ったような笑顔で小さく拍手している。正直、哀れんでくれたほうが、俺としてはまだうれしいです。
 最後に長門はというと、
「…頑張って」
 一言ポツリ。
 ……うん、応援ありがとう。嬉しくてこの次元から逃げたいぐらいです。
 釣りでエサが飛んだ時や今を通じてわかったコトがある。俺は力むとダメだ、空回りする、もっと余裕を持ってマイペースでいこう。
 そうするとどうだろうか、みるみるうちにピンを倒す数が増えていく。五本、七本、そしてスペア、八本をはさんで次はストライクだ。これで調子にのれば良かったんだが、ストライクを取って皆から拍手をもらった。ハルヒも「やるじゃない」といった顔である。
 これがダメだったんだろう、いい気になり過ぎた。

 
 

 …その結果、ストライクの後、ガーター二連続。
「…まぁ、こんなコトもあるさ」
 無駄だろうが言い訳をしてみる。
「余裕ですねぇ」
 今日はえらくつっかかってくじゃないか古泉。しかし「そんな事ありませんよ」と白々しい態度である。
 ともかく、人間、誉められすぎるといい結果がでない。まぁ、ハルヒは例外で誉められれば誉められるほど、力を発揮しているがな。
 ここで中間発表として、古泉は無難なスコアより上、中の上ってところだ。今は俺といい勝負をしている。朝比奈さんは両手投げで投げるフォームに変更し、初めてにしては、いいスコアを出している。
 一度、ストライクを取り、
「わっわっ、あれってストライクってものですよね! わぁーい!」
 受験に合格したように体全身を使って喜んでいる。飛び跳ねるから、身長からは想像できないバストがこれでもかというぐらい揺れている。これほど可愛く男性の心を刺激する喜ぶ姿が見れて俺は幸せである。
「朝比奈さん、おめでとうございます」
 俺が賞賛の言葉を送ると、
「えへへ…」
 照れてしまった。この仕草も愛らしいったらりゃしない。…が俺に向かってくる視線が二つあるコトに気づく。
「……」
「……」
 ハルヒと長門である。
 すいません、決して下心があって見とれていたワケではありません。ですからそんな軽蔑な目で二人とも見ないでください。…ホント、俺は女に尻をしかれるタイプだな、どうにかならないものか。俺が下心を持たなければいい話なんだが、目の前にあんな光景があれば無理な話というものである。
 ここでまだ、
「……」
 このように、じ〜っと俺を見てプレッシャーを与える長門の成績を紹介しよう。
 一言で言えば、とても人間らしくない、イヤ、スコアは俺より上だが、ハルヒほどではない。結構上手い人がやればこれぐらいのスコアはいくらでも取れる。それでいて、なぜ人間らしくないというと、今までストライクとガーターのどちらかである。
 まるで狙いすませたように、はっきりしている。どうやら、俺がさっき言った、
「人間は失敗するものだ」
 この失敗がガーターらしいが、極端すぎるよ長門…。
 ハルヒに怪しまれないか心配になったが、自分が勝っているからかあまり気にしていないようだ。この点にはハルヒの性格に感謝しないとな。

 
 

 中間発表の一ゲーム終わった時点で、俺は古泉にスコア7の差で負けている。ハルヒはもう俺の手が届かないトコにいるので、勝つのはあきらめているが、古泉には勝てる可能性はある。
 ここで勝利をもぎ取るために俺は古泉に聞こえないよう長門に尋ねた。
「長門、何かストライクをとるコツってあるか?」
 今日までルールも知らなかった初心者に聞くのもなんだが、なりふりかまっていられない。しかし、
「…」
 長門から無言しか返ってこないさらに、目線も俺とあっていない。…あのー、長門さん?
 もしかして、朝比奈さんに見とれていたのを、まだ根に持っているのだろうか。長門の表情を読むプロである俺から見て、心なしか顔から怒り&呆れが読み取れる。イヤ、心なしではない、確実にそう感じる。
 しかしこれは、女性心はまったく詳しくないが、いわゆる「嫉妬」というやつか?そうすると長門は俺に気があるってコトに…、って今はそんなコトを考えている場合ではない。とにかく、長門の機嫌を直さなくては。
「えーとだ、長門、怒っている理由はおそらく俺に原因があるのだろう」
 自分でも思い当たるフシがあるからな。
「とにかく謝る。許してくれ」
 俺はこれでもかというぐらい頭を下げる。長門はしばらく、無言だったが、
「…そう。わかった」
 なんとかいつもの表情に戻り、言葉を発してくれた。長門の無言のプレッシャーが怖かったので、とりあえず一安心だ。
「…あんた、何やってんの?」
 俺が中間発表を振り返っている間、ジュースを買いに行っていたハルヒが戻ってきた。これ以上ややこしいコトにならないように、ここは正直に答えておく。
「長門にコツを聞いていたんだ」
 ウソは言っていない、長門に謝っていたコトは言ってないが。
「あんたねぇ、初心者の有希に助言を乞うなんて恥ずかしくないの?」
 改めて考えてると、恥ずかしいというよりも、情けないな。
「まぁいいわ。それならあたしが教えてあげる」
 ハルヒがか?
「えぇ、そうよ。いい? まずこう構えて、こう「うりゃー」って感じで投げるの」
 ハルヒはボールを持って投げる動作をし、自信たっぷりに答えた、…どうやらコレで終わりらしい。年末に妹に教えたスキーもこんな抽象的な感じだったのだろう、まずわからん。こんな説明でわかるならそいつにはボーリングの才能があるといえる。残念ながら俺にはないがな。
 ハルヒではダメだ、やはり改めて長門に聞こう。
「ボールの投げるコース・速度・回転を計算し、分析しさえすれば後は非常に簡単。また、速度が速ければ速いほど良いというわけでも無く、ピンのどの位置に当てるかが重用」
 …無理です。すまないがもう少しわかりやすく教えてもらえないだろうか?
「具体的に説明すると…」
 長門はピンのほうに指差し、
「まず、一番手前のピンに角度90.02度誤差2.5度、速度21.37キロメートル、ボールの回転方向・速度は…」
 …それも無理です。
 結局俺は、二人の教授を上手く生かせず(生かせるヤツがいれば見てみたいが)二ゲーム目をそのまま終えた。結局、俺は古泉に勝てるコトができず、
「いやぁ、いい勝負でした。またお願いしますね」
 こいつのニヤケ面を拝むはめになった。俺が勝っても、もれなく見られるが俺の心情が違うため、今はとても不快である、ハルヒなら閉鎖空間を出しているトコだ。

 
 
 

 ここでキリのいいトコで、俺たちはお昼を近くのファーストフード店で食べて、次はいよいよカラオケである。
 飲み物はさっきのボーリングでおごったから、後はカラオケ代が俺のオゴリである。
 …つらいなぁ。
 気をとりなおして、カラオケを楽しむとするか。
 今度はカラオケの受付へ行き、部屋を案内される。そして、飲み物を強制的に頼ませられる、カラオケの飲み物ってなんでこんなに高いんだろうな。
 一番で歌うのはもちろんハルヒである、マイクも真っ先に取ったしな。そのハルヒが歌うのは、某有名歌手のものである。終始、テンポが良くハキハキとしていて、いかにもハルヒが気に入るような曲だ。それにしても、なんでこんなに上手いんだろうね。歌手としてデビューしたら、いろんな事務所が食いついてきそうである。
 いろんな才能があるヤツが羨ましくなるよ、たいした才能がなく、成績も良くない凡人である俺から言わせてもらったらな。いっそ、アイドルになってみたらどうだ? 一般人とは変わった生活が送れるぞ。
「ダメよ、あたしが忙しくなったら、SOS団はどうなるのよ!」
 忙しくなるほどの成功は間違いないと思っているようであり、ホント、ハルヒらしいよ。
 次の俺的に至極どうでもイイ古泉は無難にこなし、朝比奈さんは文化祭で歌った、映画の主題歌の時みたいに時々、どもったり、一部トーンが高かったり、いやまたそれが可愛いらしくていいのだが。
 そんなこんなで、俺の番か。朝比奈さんから,
「はい、どうぞ」
 マシュマロみたいな手からマイクが渡されると、なぜか一気に全員から注目を浴びた、長門ですら、
「…」
 コチラを見ている。甲子園のマウンドに初めて立つ高校生球児並に緊張する、まったく、やりにくいったらありゃしない。

 
 

 ……とりあえず歌い終わったものの決して上手いとは言い難いが、下手とも言えない内容であった。皆から社交辞令的な拍手をもらい、ハルヒから評価が下った。
「40点ね、歌への情熱が感じられないわ」
 そりゃ、ハルヒの歌に比べたらそんなもんだろうよ、自分でも上手いと感じなかったし反論はできんな。
「さぁ、次は有希の番よ!」
 ところが、長門は反応しなかった。そんな長門を無視しハルヒは、
「何歌うのー、あっ、これなんていいんじゃない?」
 カラオケの目録をパラパラめくり、適当な歌の歌手とタイトルを読み上げている。
「イヤなら無理して歌わなくてもかまわんぞ、長門」
 小声で話すと、長門は振り向いた、見るもの全てを吸い込む瞳が俺を見る。
「聞きたい?」
 そりゃあ「聞きたい?」と聞かれたら、俺は聞きたい。長門がどんな歌を歌うのかにも興味あるし、声も澄みきっていてキレイだ。聞きたくないという人のほうが珍しいだろう。
 よって、当然俺は、
「ぜひ、聞きたいな」
「そう」
 長門は一言発して、本のコードも見ていないのに、リモコンで番号を入力した。
 俺からマイクを受け取り、曲が流れ始める、タイトルは…、知らないな歌だな、曲もこれまで聞いたコトがないな。テンポは終始落ち着いた感じで、ハルヒが歌った曲とは正反対のイメージを受ける。
 長門がその小さな口を開けて歌い始めると、古泉、朝比奈さん、ハルヒでさえも静かになり耳を傾けた。長門の歌声は、小さかったが、体から部屋の隅々まで澄み渡り、清爽でとても心が落ち着く歌。ハルヒとは別の上手い感じと、音感の乏しい俺でもそう思う、イヤ断言できる。
 この曲、長門にぴったりという感じだな、まるで長門のために創られたんじゃないかと思うぐらいだ。
 歌を歌い終わると、俺を含めて皆、拍手さえ忘れて余韻に浸っていた。一番早く動けたハルヒが、
「す、すごいじゃない、有希!こんなに上手に歌えるんなら、今度の文化祭で有希も歌う?」
 ようやく頭が動き始める。まてまて、何だって!?
 また今年もコイツは歌うつもりだったのか、そしてあきらめてなかったのか。まったくどうせ映画も撮るのだから程ほどにしとけよ。俺がハルヒのセリフにつっこんでいると、
「…どうだった?」
 長門がいつもの様子で尋ねてきた。もちろん俺は長門の歌を褒め称えた。
「とても良かったな。ハルヒも上手かったが、それに負けずおとらずだ」
 表情から読み取れた長門の感情はほのかに嬉しそうであり、俺の回答に満足した様子だった。
 それにしても、長門の歌がここまでイイものだとは、思いもよらなかったな。
 こう言っては長門に悪いが、てっきりいつもの単調のトーンで歌うものだと思っていたが、俺には十分過ぎるぐらい心がこもっているのが感じられた。だからここまで、長門の歌が身に染みたんだろうね。
「まったく僕もここまで上手いとは思いもしませんでしたよ」
 だろうな、俺ですら思わなかったし。

 
 

 この後もハルヒ・朝比奈さん・長門の三人娘の各々、個性を発揮したそれぞれの歌に俺は心を奪われていた。今は耳だけを澄ますしかないね。まるでこの空間は視覚が聴覚に敗北し続ける場所であり、正に耳が眼を支配する所である。
 これなら俺がカラオケ代をおごっても何の不満もない、むしろこれは金を払って聞くものだな。
 そうこうしてる間に後二十分ほどで終わりである。
「う〜ん、時間も後少しね」
 ハルヒが残念がる、俺もだが。
「そうね、最後はクジで二組に分かれて歌いましょう!」
 デュエットか、それも面白いな、古泉以外なら誰でもいいし。
 ここでいつものハルヒお手製のクジを引くコトになった。
 皆、一斉に取る。
 俺は印あり、さぁ、誰とだ! 辺りを見渡す。表情はいつものまま長門…印なし、クジの先に集中するハルヒ…印なし、辺りをきょろきょろ見渡す朝比奈さん…印なし、というコトはこちらに気づきニヤケ面の古泉…印あり。
「おや、あなたとですか、よろしくお願いします」
 なぁ、やり直さないか? 古泉は小声で、
「涼宮さんが望んだものですから、やり直しても無駄ですよ」
 何でまた俺と古泉なんだよ…。
「おそらく、涼宮さんは長門さん 朝比奈さんと一緒に歌いたかったのでしょう。あの二人の歌声は良い意味で個性的ですから、一緒に歌う事でこれまで無い歌が歌えると思ったのでしょう」
 確かにあの三人が一緒に歌えば、どのようになるか興味がある。
「ですから僕たちはその余りというわけですよ」
 そう言われると何かイヤだな。
「まぁ、いいじゃありませんか。三人に負けないぐらい頑張りましょう」
 近い、寄りすぎだ、息が顔にかかる。

 
 

 まず、俺たちが先鋒で行くコトになった。
 古泉がやけになれなれしく肩をくんできたり、マイクが一つしかなく互いの顔が近かったりと、あまりいい思い出ではないので、記憶の奥底へと沈めておくコトにする。ここで先程の忌まわしい記憶をより深くするための歌が始まる。
 俺と古泉が歌った時には、でてこなかったマイクがでてきて、一人一つを持ち、曲のイントロが奏で始める。
 正直、非常に楽しみだ。
 なんせ、圧倒的歌唱力のハルヒ、歌のお姉さんにピッタリな朝比奈さん、この世の猛獣全てを落ち着かせるような歌声の長門、この三人が一緒に歌うのだ。これが楽しみでなく何であろう。
 いよいよ歌のパートへとさしかかる。
 歌はハルヒの勢いの良い声で二人を引っ張り、長門の声がリズムを整え合わせる、朝比奈さんの声が歌の高低の強弱をはっきりさせる。
 まったく素晴らしいね。聴覚が忙しくて、残りの四感は手が回らないな。
 いっそ、ハルヒだけでなく三人グループでデビューすればいい、この俺が保証しよう。古泉が事務所の社長を務め、俺が三人のマネージャーをやってもいい。
そのぐらい素晴らしい歌だ。
 俺はこの一室に居れて、ホント幸せものだよ。

 
 

 ……歌が終わる、惜しいな…、時間がぶっ飛んだぐらい早く感じた、そのせいかまだ聞き足りんぐらいだ。
「ふぅー、今日は歌いつくしたわね。また皆で来ましょうね」
 めずらしくハルヒの意見に同意だ。
「私もまた来たいなぁ〜」
 朝比奈さんも、名残惜しいようだな。
「いやいや、三人とも素晴らしい歌声でした。今度は僕が喜んでお金を払わせてもらいます」
 お前も三人の歌に聞き惚れたか?
「もちろんですよ。あなたもそうではないのですか?」
悔しいがその通りだよ。歌が終わってから長門は無言だったが、
「どうだ、楽しかったか?」
「とても…」
 カラオケの感想を聞くと、十分満足した声を出し長門にとってもイイ経験だったようだ。
 俺は上機嫌で会計を済ませた、今回はサイフから金が消えるコトに何の不満もないな。

 
 

 外を出た後、空にはあいかわらずの灰色の雲が広がっている。雨は大丈夫だろうと思い、カサは持ってきていない。…この雲を見たら持ってきたほうが良かったと思うようになったがな。
 これからどうするのかとハルヒに尋ねた所、ひとまず集合場所へと戻るらしい、何か思い出したように笑っていたのが気になるが。
 駅へと歩き、キップを買い電車に乗る。昔と同じ様にこの地で一つ新しく、良い思い出が作れたな。不本意だが、提案した古泉に感謝しなくてはな。

 
 

 電車を降り、いつもの集合場所へと足を運ぶ。今から何をするんだろうね。まぁ、ハルヒのコトだから、ろくでもない考えでないのは確かだ。
「で、これからの予定はなんだ?」
 クルリと振り返ったハルヒが答える。
「今日はもう解散よ!」
 マジか!? これは想定外だな、もう解散とは…、
「だってお前まだ…三時にもなってないぞ」
 いつもは一日無駄なく遊ぶくせに一体どうしたんだ?
「いいの! あたしが解散と言ったらか・い・さ・ん!」
 ハルヒのこの不自然な考えに疑問を持った俺は、まず長門を見る。…無反応、長門に心当たりはないようだ。次に古泉。両手を上げて、「さぁ?」のポーズ。こんな時に役に立たんヤツだ。最後に朝比奈さん。
「わ、わたしも何も…」
 と首をブンブンと振る。ん?朝比奈さんも少し様子がおかしい…? 気のせいかな。ともかく三人とも思い当たるフシが無い、さらに俺にも無い。
 とすると、ハルヒのいつもの気まぐれで、たまには早く帰りたいと思ったのかもしれん。少し不可解だが今日はそういうコトにしておこう。

 
 

 結局、この日は本当に解散となった。
 駅へと向かうハルヒが顔だけ振り向いた時に見せた、俺に最近何度も向けられた笑みが最後まで気になってしょうがないが、ハルヒも帰ったし、何も起こらんだろ、…たぶん。
 ハルヒが帰り、続いて朝比奈さん、古泉と帰っていった。残るは俺と長門だ。
 じゃあ、俺も早く帰って晩飯まで一眠りでもするかと、長門に別れのアイサツをしようとすると、
「…家、来て」
 先に声をかけられた。…で何だって?
「…家、来て」と俺には聞こえたんだが、もう一度言ってくれないか。
「わかった。…家、来て」
 わざわざ三点リーダーまで再現しなくても良かっただが…、でやっぱり俺の聞き間違いではないか。
「どうしたんだ? 何か問題でも発生したのか?」
「そう」
「よし、わかった」
 そうとも、俺は長門に何か起こったら俺に相談しろと言った、その時が今来たのだ。俺のアドバイスで問題解決の糸口になればいいのだ、もちろん糸口よりも解決できればいい。
 しかし、これほど早く長門に何か起こるとはな、ともかく俺は長門に力を貸すまでだ。

 
 

 俺は、いつもと変わらず歩く長門の後をついていき、幾度となく訪れたマンションへと案内される。これまでは、また何かやっかいな問題が発生したのか、もしくは自分に問題が発生したか、ともかくどちらも長門のお陰で解決したでき事ばかりだ。
 しかし、今回は、立場が逆だ。
 長門が俺に助けを求めるというものである、気持ちも歩みも変わるというものだ。
 エレベーターに乗り、長門の部屋のカギが開けられトビラが開く。
「入って」
 了解だ。長門の後ろについて、リビングに案内される。
「待ってて」
 コタツに座る俺、長門はキッチンへと向かう。…カチャカチャと音がする、どうやらお茶を用意してくれるようだ。こうなってくると、宇宙人、未来人、超能力者も知らなかった当時を思い出すな。あれから一年ちょいか、懐かしいといえば懐かしいが、あれから時が速く感じるようになり、昨日のような気さえもするね。
 それにしても、初めて訪れた時よりはマシになったが、サッパリとした部屋だな、…あいかわらず。まぁ、それがこの部屋の良さというか、長門らしいのだが。今度何か、飾り気のあるものでも買ってやろうかな、返していない借りもたくさんあるし。
 まず今は、長門の相談にのるコトが一番だ。さぁ長門、何でも相談してくれ!
 ハルヒによって世界が崩壊するから何とかしてくれと言われたなら、この俺の手口八丁でどうにか止めてみせるさ。ハルヒと二人で閉じ込められた閉鎖空間から戻るために、行った行為以外でな。

 
 

 長門が台所から出てきて座る。そして一言目、
「飲んで」
 …あぁ、まずお茶か。気分を落ち着かせるのにいいかもな、こういうのは平常心でなくてはいかん。
 湯飲みを傾けて飲みほす。
「おいしい?」
 もちろん、おいしいとも、それで一体どうしたんだ?
「おかわり」
 ん、もう一杯か、さっきは一口で無くなってしまったからな、今度はゆっくり飲むよ。
「……」
 何でコッチを見る、長門。おかわりも飲みつくしてくれってか?
 …ゴクッ、おかわりも飲み終わったぞ、さぁ、話してくれ。
「どうぞ」
 …さらにもう一杯か。去年初めて、このマンションに招待してくれた時以来だな。あの長門の話で、俺の人生が常識から外れたのだったな、今はお陰で楽しい日々を送らせてもらっている。お茶はありがたく頂くよ。
 だがさすがに三杯目になると、
「長門、お茶はもういいぞ、腹がチャポンチャポンいってる、ごちそうさん。で、相談って…」
「わかった。…この場で少し待っていてほしい」
 長門は俺の後ろを通り、戸を開けて出ていってしまった。何だ、この放置プレイは?
 仕方なく、俺はすでにノドは潤いまくってるが、お茶をチビチビ飲んで待つ。

 
 

 2、3分後、ガチャリと戸が開けられる音がする。おぉ、ようやく戻って来たか、長門。姿勢を正し、目前に長門が座るのを待つ。
 …なぜか、後ろから手で目隠しされた。
 子供がよくやり、俺も妹からしょっちゅうやられている、「だれーだ?」というお馴染のヤツだ。今、それを長門にやられているのか?
 一体なぜ、どうして、何の目的で?
「…だれーだ?」
 そして、お約束の言葉が耳に入る、…長門の声だ、間違いなく。しかし、長門はこんな子供っぽいマネはしないはずだ。
「長門…、一体何がしたいんだ?」
 手をどけて、後ろを見る。
 そこには長門の姿ではなく、極上の笑みのハルヒであった。イタズラが成功した時ってこんな顔だろうな。
 このハルヒの出現であまりにも驚いた俺は、体が反射的に後ろに下がる、よってコタツが押されるぐらいの勢いで背中が激突する。
 …痛い。
「あーはっはっ! なんて顔してるのよ、キョン!」
 ハルヒが極上の笑みから、口をこれでもかと開け笑い転がる。そのハルヒの笑い声を聞きながら俺はしばらくボーゼンとしていると、三つの人影にようやく気付く。
 一つはハルヒのやや後ろに見慣れた表情で立つ長門。残りは戸の後ろから出てきた、もちろん古泉と朝比奈さんだ。古泉はいつものニヤケ面より笑いのパーセントが大部分を占めている。朝比奈さんは、手を合わせて、「ごめんなさい」のポーズをとっている。そんなに可愛らしいと犯罪ですよ…。
 とまぁ、ココで俺は俺を除いた四人のSOS団に、はめられたコトに気付く。
 キサマら…、俺の純粋なハートを傷つけやがって。
 まだ笑い続けているハルヒは視界にいれないようにして、古泉にコレに至った経緯を聞いた。
「そうですね、…何処から話しましょうか」
 …その古泉の話を整理するとまず、ボーリングとカラオケに行く日が決まった日の帰り道、皆バラバラになった後に俺を除いてハルヒに集められた。そこでこの計画を聞いた、というコトだ。もちろん俺には内緒で。
 ハルヒは長門が困った時、俺に相談するというコトは知らないはずだ。俺は言ってないし、長門もハルヒに言う理由は無い。ハルヒが長門に俺を家に誘うようにそそのかし、長門がそれを実行しただけであり、俺が勝手に勘違いしたワケだ。…アホらしいな、自分が。

 
 

 …それで、この俺をだましてくれたハルヒよ、これからどうすんだよ。まさかこのままお開きというわけでもあるまい。
 わざわざ長門の家で行ったのには何か理由があるんだろ?
「そうよ、今夜は有希の家で、「祝・テスト終了、しかも団長のおかげでなんとかキョンの赤点が全て免れた!パーティー」を決行するわよ!」
 なげぇよ、タイトルが。そして、そんなタイトルをつけるな、俺の頭の程度が悪く聞こえるじゃないか。
 …そう、この休みの前日には全てのテストが返却され、確かにタイトルの言う通りハルヒのおかげで赤点は免れた。ホント感謝しないとな、わざわざこんなタイトルのつけ祝わなくてもいいがな。
 気づくのが遅れたが、「今夜」だって?
「そう、夜まで騒ぐわよ!」
「夜まで…って晩メシとかどうするんだよ?」
「もちろん食べるわよ、ここのキッチンを借りて作るの。材料は近くのスーパーで買うつもりよ」
「長門、お前はいいのか?」
「大丈夫よ、あんた以外このパーティーの計画知っているもの」
 という事は長門の回答は決まっている、
「いい」
 だろうな、それよりも俺のいないトコでずいぶんと話が進んでいるコトだな。
「もう何も隠していないので安心してください」
 お前が言うとある意味ハルヒより信用できん。
「キョン君、本当に大丈夫ですからね、古泉君を信じてあげてください」
 はい、信じますとも、朝比菜さん。あなた口からですと古泉はもちろん、どんな政治家の言葉でも信用しますよ。
「それで晩メシの買い物はどうするんだ? 皆で買いに行くのか?」
「それもいいけど、パーティーなんだからやっぱりケーキか何かのデザートがないとね。二手に分かれて買いに行く予定よ」
 ハルヒは指をクルクル回しながら得意気に答える、
「ケーキでしたら、僕が良い店を知っています。顔がききますので、少しでしたら割引していただけると思います」
 絶対、機関関係だな。しかし、割引してくれる分には何も言うまい。
「それなら、古泉君御用達の店で買いましょう。では、いつものようにクジで二手に分かれましょう! 古泉君がいるグループがケーキを買いに行って、もう一つが晩御飯の買出しね!」
 いつもながら用意のいいことにすでにハルヒの手にはクジが握られている。本日、二回目だな、どうかカラオケの時みたいに古泉と一緒になりませんように。…しまった、あの忌々しい古泉とのデュエットを思い出してしまった、早く忘れられる日が来ないものか。
 その思いが通じたのか、俺は印あり、古泉は印無しだ。さらに言うと、ハルヒ、朝比菜さんも印無しで俺は長門と二人で晩メシの買出しとなった。
 しかし、ここで気になるコトが一つ。ハルヒがえらく気に喰わない顔をしてこちらを見ている。
「どうした、ハルヒ? 俺と長門じゃあ買い物は不安だって言うのか?」
「そ、そんな事ないわよ。じゃあ、あたしたち三人がケーキを買いに行くから、キョンと有希は晩御飯の材料をお願いね。有希とみくるちゃん、そしてこのあたしもじきじきに腕を振るってあげるから、良い食材を買ってくるのよ!」
 それは楽しみだが、何を作るんだ?
「…う〜ん、それは有希に任せるわ! というわけで有希、よろしくね!」
「わかった」
「キョン、あなたは有希の荷物持ちよ。せいぜい頑張りなさい!」
 わかってるよ、料理の知識レベル1の俺は何も口出ししないつもりだよ。
「キョン君、私もお料理がんばりますので、お買い物お願いしますね」
 いまから朝比菜さんの手料理が食べれると思うと、ホント俺は幸せ者です。

 
 
 

 さてさて、俺達五人はマンションを出て駅へと向かった、なんでも古泉が言う店は電車で三駅ほど行ったトコらしい。駅で二手に分かれ、俺と長門はスーパーに向かおうと足を進めるとハッと思い出した。
 そういや、自転車をこの近くに停めっぱなしだったな、長門の相談のコトで頭がいっぱいで、谷口じゃあないがすっかり忘れてたぜ。
 俺は長門に少し待ってもらい自転車を持ってきた。スーパーまで少し距離があるし、
「どうだ、長門。スーパーまで後ろに乗ってくか?」
「……」
 少しだけ頷くいつもの合図、そして、ちょこんと自転車の後ろに乗る長門。
 …この光景は何か俺の心にグッとくるな、イヤイヤやましい気持ちはほとんど無いぞ、ほとんど。ほとんどってコトは少し…あるのだが、おっとこれ以上俺の心を知られるとやばい、これにて閉館だ。
 ちょこんと座る長門をいつまでも待たすワケにもいかないので、俺もサドルに座ってペダルをこぎ始めるとしますか。

……そういや、長門を自転車の後ろに乗せるのはあの夏休み以来の二度目だな、イヤ、実際には15498回だったかな、確か。あの時は、音量マックスで壊れたスピーカーのごとくの声を張り上げていたハルヒも一緒でうるさくてしょうがなかったが、今は長門一人だ。あいかわらず軽いな、まるで重さを感じん。
 あまりに軽いので消えてしまったのかと不安に思うぐらいで、たびたび長門がいるか確認したほどだ。確認するたび、長門は不思議そうな顔してコッチを見るんだがな、気にしなくていいぞ、俺が無駄に心配性なだけだ。
「それなら…」
「……長門、コレは一体どういうコトだ?」
 長門は何を思ったのか、いかにもカップルの二人乗りがやるように、俺のお腹から腰にかけてウデを回してきた。やんわりだが長門の力を感じる、それがまた、たまらなくいいのだが…、
「これなら、わざわざ確認する必要は無い。…だめ?」
「ダメとかそうではなくて…、ほら、その他人の目から見るとだな…」
 確かにコレならわざわざ後ろを確認しなくてもいいし、しかも長門も安定は良くなりイイ事ずくめなのだが、さすがに俺にも羞恥心というものがある。コレをしたまま街中を走るというのはだな…、だからそんな「何がだめなの?」って疑問を持った目で見ないでくれ、ものすごい罪悪感に襲われる。
「わかった、そのままでいいよ…」
 こうなったらもうヤケである、谷口や国木田に見つかってもかまうものか。
「スピードを上げるぞ、しっかり捕まっていろよ、長門」
「わかった」
 長門の手から伝わる力が少しだけ強くなるのを感じる、これまた、…これ以上言うと俺は読者から変態扱いされるかもしれんので自粛しておこう。こんな俺の気持ちを知らない長門はある意味気楽なものだな。

 
 

 ここでようやくスーパーに着く、時間にしてみればまだ四時にもなっていないのだが、料理をする時間を考えると、なるべく早く買い物を済ませる必要があるな。
 俺は荷物持ちというコトでカートにカゴを乗せ、長門の後ろを歩く、さて長門はどんな食材を探すのか…。早速、長門は食材のコーナーへと向かって行った、一体の何を欲すのだろうか、ともかく後をついて行くか。
 …長門の足が止まる、ここは野菜売り場だな。
「これ」
 長門の手から手渡されたのは、まずはキャベツを二つ。付け合せの野菜か、はたまた野菜サラダ盛り合わせでも作るのか、料理知識が乏しい俺にはこの程度しか思い浮かばないな。
 ふむ、長門の足が再び進みだした、野菜は一品だけか、なら付け合せだな。
 さて、次に長門が向かった先はと…カンヅメコーナー?
 一体、何を買うんだ? ホールトマトかな、パスタでも作るのか?
 しかし、俺の考えは違っていたようだ、長門が小さな手を伸ばし掴み取ったのは、前に一週間先未来から来た朝比菜さんをかくまってもらうため、長門のマンションに訪ねた時にご馳走してもらった、そうあの缶入りのレトルトカレーだ。つまり今ココに入っているキャベツは、例のごとくキャベツの千切りか、山盛りの。
 俺はカゴにカンヅメカレーを入れようとする長門の手をとり、首を横に振った。
「いくらなんでもそれはないだろう長門。料理をするコトに張り切っているハルヒと朝比菜さんの出番が無い」
「…そう」
 手からこのカンヅメカレーを惜しむように、元の位置に納められる、そんな残念そうな顔をするなよ、俺が悪人のようじゃないか。
「わかった、それなら晩メシのメニューは手作りでカレーにしないか。どうだ?」
「では、そうする」
 どうやら納得してくれたようだ、表情もいつものに戻った。

 
 

 こうして、晩メシが無事レトルトでないカレーと決まり、俺達二人は再び野菜コーナーへと戻った。カレーに必要な野菜として、タマネギやニンジン、ジャガイモなど極々一般的な野菜を次々にカゴへと入れていく、これで野菜は終わりだ、さて次は何を求めに行くのかな。
 しかし、こうして長門と二人並びながら買い物をしている姿を他人から見るとどう見えるんだろうな、…やはり恋人同士に見られたりするのどろうか? 谷口は早とちりして、間違いなくそうとるだろうな。
 そしてなぜ、俺がこんなコトを意識しているかというと、肉売り場でカレー用の肉を探していた時、売り場の店員にこう話しかけられたからだ、
「彼女と二人で買い物かい? 最近の若い者はいいねぇ」
 一応、俺は肯定とも否定とも取れる曖昧な返事を残し、この場を後にした。やはり、他人からはそう見えるのだろうか。まぁ、長門はそんな心配は一切していないと思うがな。少し悲しいものを感じるが、そういうヤツさ、長門は。
 そんなコトを考えつつも、長門は予想通りそんなコトを考えないような足つきでテクテク歩き、次々にカレーの材料を手に取り、そしてカゴへと吸い込ませている。とりあえず、コレで必要な物は以上かな、飲み物も入れたし、デザートもハルヒ達が買いに行っているケーキがある、後は会計を済ませるだけだ。
 その会計も問題なく終わり、スーパーの袋に買った物を詰める。飲み物が入った袋を持ちながら店の外へと出ると、夕方に差し掛かる前だが、辺りが少し暗くなっているコトに気づく。
 マズイな、だいぶ雲行きが怪しくなっている、カサも持っていないしそもそも自転車だ。俺は少しぐらい濡れても大丈夫だが今は長門もいるしな、急ぐか。
「長門、さっきのように後ろに乗れ。雨が降りそうだからとっとと帰ろう」
「了解した」
 俺は、すでにチョコンと長門が座っている自転車のカゴに荷物を入れ、行きに比べ若干不安定になったバランスに気を付けながら自転車のペダルに力を入れる。このスーパーから長門のマンションまで十五分から二十分といったトコか、雨が降る前に帰れるといいのだがなぁ。

 
 

 結論から言うと間に合わなかった。
 そして今、長門は自転車から降り、俺も歩いている。歩いているといっても、駅前からマンションに行った時みたいに長門の後ろをついていくのではなく、二人並んでいる、そして二人の距離もかなり近い。
 なぜなら、俺が自転車を両手で押し、長門はカサで自分と俺が雨に濡れないようにしているからだ。つまり世間一般で言われる俗に言う「相合傘」の状態である。
 それではこれに至った経緯を説明しよう。
 店を出て五分ほど経った頃、俺の願いも虚しく雨がポツポツと降り始め、とりあえず近くのコンビニで雨宿りをするコトになった。するとそこで、カサが売ってるではないか、ちょうどいい、これなら雨をしのいで帰れる。
 …これがまた一本しかなかったのだ。ともかくこの一本を買い、
「俺は多少の雨は気にしないから、カサを使ってくれていいぞ」
 長門に気を使い、一人で使うコトを促したのだが、
「それはだめ。場合によってはあなたの体調を崩す可能性がある。よって、あなたも一緒に入る事を薦める」
 頑なに、受け入れなかったため、今この状況というわけだ。皆さん、おわかりいただけただろうか?
 そんなわけで俺はやましい気持ちなど一つもない…そう、なかったのだが、長門がこれほど長時間すぐ隣にいるのだ、緊張もするし、何か悶々とした物も心の中から生まれてくるのは当然だろう。そんな俺の心を知らない長門は二人が濡れないようにカサをさし、俺が長門の足に合わせているのか、それとも長門が俺の足に合わせてくれているのかわからんが、まったく同じ歩幅で歩いている。俺はこんな時、長門は一体何を考えているのか…と思いつつ歩いていると、
「ごめんなさい」
 唐突に長門に謝られた。
「どうした長門、何か俺に謝るコトなんてあるのか?」
 なぜ謝れたかわからん俺は、とりあえず理由を聞いてみるコトにする。
「私はあなたにうそをついた」
 ウソ?
「そう。私はあなたをマンションに連れて行くため、うそをついた」
 あぁ、あれな。
「そのことについてまだ謝っていなかった」
 そんなコトか…、俺はまたやっかいなコトにでも巻き込まれたと思ったぜ。
「そのコトなら気にするな、あれはハルヒが仕組んだものだ。どう考えても長門に非は無い、どっちかっていうと俺と同じ被害者の一人だろ。ハルヒすら謝ってないのに長門が謝る必要なんて皆無さ。むしろ、俺が長門に謝るべきかもな」
「…なぜ? あなたが私に謝る理由なんて無いはず」
 わからないといった表情、しかし俺もかなり長門の表情がわかるようになったな、
「あるさ、ハルヒが仕掛けたワナは俺を引っかけるためだ、そしてワナに引っかけるのに長門を使った、つまり元をたどれば俺に行き着くんだ、悪かったな」
 長門は視線を少し落とし、
「いい」
 この一言。…いかん、場の空気が暗くなっていく方向に進んでいるような気がする、
「まぁなんだ、ハルヒもそこまで深く考えていなかっただろうな、ただ単純に俺をだまして笑いたかっただけさ。あそこまで笑われたら、だまされてもスッキリするよ。
それに、今から三人で料理を作ってくれるんだろ? ハルヒへの罪もこれでチャラにするよ」
「……」
 無言で数ミリ頷く、これで納得してくれたようだな、表情も明るくなった。それにつられたのか、空も明るくなってきたな、雨も小降りに…おっ、やんだな。
「さぁ、長門! 雨もあがったし、また後ろに乗りな。また雨が降ってしまう前に帰ろう」
「わかった」
 そう言うと長門は後ろにスッと流れるような動きで座る、そして手を俺の体へと回す。
 この感想についてはもう言わないでもわかるよな。

 
 

 俺は雨が降った後の湿気も気にせず快調に自転車を飛ばし無事、長門のマンションに着いた。
 ハルヒの携帯に連絡をいれた所まだ少しかかるようだ、あちらの三人も雨に会い少し雨宿りをしていたらしい。すでに駅のホームには着いているので後、十分ほどでこちらに着くそうだ。
「試食させてもらったけど、とってもおいしいのよ。あたしたちが帰るのを楽しみにしてなさい!」
 ケーキもばっちり購入したみたいなので、ハルヒの言うとおりケーキと一緒に帰ってくるのを楽しみにしているよ、と返事をしておいた。となりで電話の話を聞いていた長門も表情がワクワクしているように見える、まるで自分が誕生日の日、父親が会社帰りに買ってくるケーキを待っているかのようだ。それほど楽しみか長門、ハルヒがおいしいと言うのだ、きっと味も保障されているさ。
 三人とケーキを外で待っているのもなんなので部屋の中で待たないか、というコトをじっと入り口から外を見る長門に話すと、
「…わかった」
 俺から見るとシブシブ、答えたように感じた。そんなに早くケーキと会いたいのか、長門。やっぱり長門もヒューマノイドインターフェイスの前にひとりの女の子なのかな、そうとすると可愛いもんだな。
 そんなコトをエレベーターの中で考えていると口から「ふっ」と思わず苦笑が出てしまった。それを長門に聞かれたのか、
「何?」
 いきなり不意を突かれた、その表情・口調は厳しいものを感じる。
「イ、イヤ、なんでもない、なんでもないさ。おっ、七階に着いたな、早く部屋に行こうぜ」
 俺はカレーの食材や、飲み物を持ってそそくさと長門の部屋である708号室へと向かった。まぁ、玄関に先に着いても長門がカギを開けるのを待たないといけないから意味ないんだけどな、なんていうか話の雰囲気からそう俺にさせるんだ。あの長門にウソを突き通せるとは、惑星直列が起こるぐらい無いと思うが今はこの場しのぎの偽りで何とかスルーできるコトを祈ろう。
 そしてその長門がカギを開け、部屋へと入る、どうやら見逃してくれたのだろうか…、否、やっぱり長門にはこういうコトは通用しないか、
「さっきのは何?」
 俺が玄関の戸を閉め、クツを脱ぐ途中に詰問される。
 …ものすごい威圧感だ、タイ○ースの藤○球児とオリッ○スの清原○博の勝負、正にあの時、お互いの気迫がマウンドとバッターボックスの間で、緊迫し身震いするほど感じた感覚をまた味わえるとは思わなかった。しかしあの勝負への威圧感は球場全体へと発せられていたが、今は全て俺に向けられているためか、身震いを通り越して寒気がする。お、恐ろしい…、朝倉の時以上かもしれん。このまま、誤魔化したらどうなるコトやら。
「…わかった、正直に答えよう」
 俺はあの苦笑の原因について詳しく正直に説明した、長門が楽しみにケーキを待っているような仕草について、そしてそれが可愛いというコト。それが普段の長門から想像できない姿だったのでそのギャップに思わず苦笑が出てしまったコト。
 そうするとどうだろう、長門から発せられていた気が治まってくる、良かった…。
 そして長門からの回答、
「理解した。……しかしそれは正しくは無い、私はそのような事は思ってもいない」
 そうなのか? しかし、俺はそう感じたんだが、
「正しくない」
 もしかして、長門流の照れ隠しか? そんな言い訳をするなんて長門も結構…
「言い訳でも無い」
 ヤバイ、また威圧感が出ている。
「そ、そうだな、俺の思い違いだったようだ。変なコトを想像してすまなかったな」
 そういう事にしておこう、これ以上この件について触れないほうがよさそうだ。

 
 

 俺はリビングへと向かう威圧感の名残を感じさせる長門の後ろに付きついていった。
 荷物をキッチンに置きコタツへと座る、ホッと一息だ、百回学校の山道を往復するよりも疲れた感じだ。体では無く心がな。ところで長門はキッチンに行ったきり戻ってこない、どうしたんだ?
 俺は安住を求め下ろしていた腰を上げキッチンを覗く。
 …そこには、エプロン姿に着替えた長門がスーパーの袋から野菜を取り出し並べていた、その姿は…新妻・若奥さんのようで、こんなお嫁さんを将来欲しいものだな。
 ………この後、俺は自分でどれぐらいの時間が経ったかわからないぐらい見惚れていたらしい。長門に、
「どうかした?」
 長門から話しかけられるまで呆けていた。カラオケでは視覚は聴覚に支配されていたが、この度は逆になっており、返答にも一呼吸、二呼吸置かれて返した。
「…あ、あぁ、野菜を洗うぐらいなら俺もできるし手伝おうかと思ってな」
「助かる。ではお願いする」
 こんな俺の口から誤魔化しの言葉が出たので、料理の手伝いをする事になった。
 にしても、なんで今日は長門に対して、こんなデタラメが出てしまうのか。別にホントの事を素直に言ってしまってもいいかもしれん、別に長門の悪口というわけではないのだから。
 でもその後の長門に対する対応に自分が困ってしまうと考えているのだろうか? それとも、ただ単に恥ずかしいだけなのか? そこのトコは、自分でもわからんな、あいかわらず情けない。まぁ、わからんものはわからん、今はそのことを置いて長門の手伝いをしよう。
 俺は袋から出したジャガイモ、ニンジンと水で洗った野菜を次々渡していく。
 長門の手には立派な包丁が握られており、俺が洗った野菜を次々と皮をむいていく、それがまた見事なのである。ジャガイモなんて表面がデコボコしてるから、どうしても皮に身がついてしまうものだ。俺が調理実習で皮むきした時なんてそりゃあヒドイものだった、しかしこの長門がむいたジャガイモはどうだろう。皮と身の境目を狙って切っている、その技術は国宝級の物であり、芸術でもある。
「うまいな、長門。普段から料理してるのか?」
「そうでもない。各野菜の触感、形質、重量など特徴をつかめば後は簡単」
 そんな俺にとっては決して簡単でない技術に俺は感服しながら見ている、俺の手で野菜は洗われているが視線は長門の手に大注目だ。
 一つのジャガイモを切り終わった長門の手が、俺の洗った野菜の方へと伸ばされる、そして俺の手に重なる。どうやら俺の手はちょうど洗い終わった野菜を置いたトコらしいな、長門の技術に目を奪われて手にまで意識がいっていなかったようだ。
 …何、冷静に分析しているんだろうな、俺。
 しかし、こういうシチュエーションってありきたりじゃないか? マンガとかテレビとかで昔よく見た記憶がある。昔というのは、今はもう使い古されて歴史に埋もれているということである、それほど、よくあったパターンってコトだ。ベタすぎるだろ。
 そして、俺から出た言葉もホントベタだ。
「す、すまない、決してそういうワケじゃないんだ」
 まったくどんなワケだよ、もはや口から出る言葉と、頭で思う言葉が一致せん。それほど俺が動揺しているというコトだ、皆、そこの所理解してくれよ。
「別にたいした事ではない」
 長門の手はまだ俺の手に置かれている。しかし、今この膠着状態をどうしたものか…。

 
 

 十秒ほど俺たち二人は空間から切り離されたように体が止まっていた。そしてこれにもインターホンによって終止符が打たれる。
 どうやらハルヒ達が帰ってきたようだ。長門の手が俺の手から離れる、名残惜しい。イヤ、決してやましい気持ちとかそういうのじゃなくて…、またこの思考回路に陥るのか、読むほうも飽きただろ。
 にしても、ハルヒに電話してからまだ十分ちょっとしか経ってないのか、えらく長く感じたな。長門がハルヒにインターホンで対応すると、一分もしない内にリビングへと入ってきた。ハルヒの手にはしっかりとケーキが入っていると思われる箱が高々と握られていた。
「おまたせー、それと、たっだいまー! もぉー、雨に会って大変だったんだから」
 そりゃあ奇遇だな、俺も大変だった、別の意味でな。
「ただいま帰ってきました。…どうでしたか、長門さんとの二人っきりの買い物は?」
 後半は俺に耳打ちだ。声と一緒に流れてくる空気の流れが俺の機嫌をよりいっそう悪くさせる。そこはお前の気にする所では無いぜ。
「ただいまぁ〜。あれ? 長門さん、もうエプロンして料理を始めているんですかぁ?」
 朝比菜さんがキッチンへと覗く、それにしても覗く動作も可愛いですね。
「あぁ、まだ野菜を洗って切っているだけですよ、朝比奈さん。それと晩御飯のメニューですがカレーに決まりました」
「そう、カレー」
 俺の言葉に長門の言葉が続く。
 言葉は続いても長門の目はずっとハルヒの持つケーキなワケだが、これに関してまた余計なコトを思ってしまうかもしれんので、意識を他に移す。
「カレーね! わかったわ! それじゃあ後はあたしたち三人に任せて、キョンと古泉君はそこのコタツで大人しくまってなさい!」
 はいはい、そうするよ。料理がおいしくできるのを心待ちにしているよ。
「おいしくできるなんて当ったり前じゃない! このあたし、有希、そしてみくるちゃん、この三人が力を合わせて作るのよ。もし不味いなんて言った日には、罰ゲームの上、今後一切、あたしたちの手のかかった料理が食べれないと思いなさい!」
 これは俺の失言だったな。この三人が料理してマズイなんて言ったヤツがいれば俺が許さん。ワナにかけてでも倒す。

 
 

 さて、今はキッチンでハルヒ・長門・朝比奈さんの三人によって占領されており、俺達二人は立入禁止となっている。ハルヒが命令したコトはただ一つ、
「命が惜しくないなら覗きなさい」
 である。なぜそうするか分からんが、そういうコトなら見ないでおくさ、命が惜しいからな。
 閉じられたキッチンからは、ハルヒの例のスピーカーが最大音量で壊れた大声で、朝比奈さんや長門に指令を出している。ハルヒ自身も料理は手がけているみたいだが、できればほどほどにしてもらいたいね。全てハルヒ一人に任せると…そうだな、カレーの辛さがとんでもないコトになりそうだ、まぁ、うまいことはうまいと思うが。
 そのことよりも、今このコタツに座っているのが俺と古泉だけというのが気に食わん。しかも先ほどから古泉は、やたらこちらの方を見てニヤケてやがる。
「何だ、さっきから。何か言いたいコトでもあるのか?」
「いえいえ、別に何もありませんよ」
 首を振る、しかしその顔は何かを見透かしているようだぞ。
「ただ、長門さんとずいぶん仲が良くなったと思いまして」
「ゴホッゴホッ、…いきなり何の話だ?」
 飲んでいたお茶が気管に入ってむせてしまったではないか、そして何が「別にありませんよ」だ、十分あるじゃねぇか。
「おやおや、大丈夫ですか? …正直な所、僕たちSOS団はかなり親密な関係へとなってきています、無論、友人としてはこれ以上喜ばしい事はないのですが。しかし、これがただの人間同士なら全く問題ないのですが、この集団はまったくの異質なものですからね」
 俺を除いてな。
「いえいえ、あなたも十分異質な存在ですよ。なんせ宇宙人、未来人、超能力者、まぁこれは僕ですが、そして涼宮さん。この中で平静を保っているのですから十分異質です。僕がもし一般人なら間違いなく精神がおかしくなっていますよ」
 そこまで言うか古泉。しかし、そう考えると俺もとんでもない立場にいるんだよな。初めは頭がすぐパニック状態になっていたが、今ではこの集団に馴染んでしまい、そうそうのコトでは驚かなくなったからな。
「そんなコトはどうでもいい。あいかわらず前フリが長いが、それでどこから俺と長門の話が出てくる?」
「これはすみません。いえ、僕がただ感じただけで実際は違うかもしれません、今から言う事はあくまで推測です。
そうですね…まずそう思うようになったのは、長門さんが昨年の十二月に世界を改変した頃でしょうか。その後、急激にあなたと長門さんの距離が近くなったような気がします」
 …確かにあの後から長門に気をかけるようになったのは事実だ、ハルヒにも雪山で尋問されたからな。そこは正解だ。
「その後もその近づいた距離を保ったまま、月日が流れました。そして、ここからは完全な推測になるのですが、十日前の釣りに行ったその日を境にさらにあなたと長門さん、お互いの距離が縮まった気がするのです」
 推理漫画の主人公がトリックを見破ったように何もかもお見通しって感じの顔だ。
「さらに続けますと…あの釣りに行った日の夜ですね、何か事が大きく進んだのは。…どうですか?」
 意味ありげなウインク、そして手を銃の形にして俺に向ける。もうこの一連の動作がイヤだ、この古泉の推理があながち間違っていないのも促進させる原因の一つだろう。
 それよりも、他人がそう感じるほど俺と長門の仲が進んでいるのだろうか?
「今は肯定も否定もしないでおくよ。まぁ、お前の推理の全てが間違っているとは言えない、とだけ言っておこう。しかし、古泉。俺と長門のどこからそういう風に感じた?」
「いえ、どこからとかそういうわけではないのですが、あなた方二人から感じるオーラ…と言えばいいのでしょうか、ただ雰囲気からそう感じただけです。
それよりわかりやすいく、僕がこの推理を考えた最大の発端は、長門さんの座る位置があなたに近くなったのが一番でしょう」
 なるほどな。そして、古泉が一呼吸置き、
「しかしこれ以上進むのは、よく考えてくださいね」
「ゴホッゴホッ、…それはどういう意味だ、古泉」
 またむせてしまっただろうが、
「おやおや、それを僕の口から言わせるのですか?」
 ……カレーが来るまで古泉を無視するコトに、俺の脳内会議で満場一致で決まった。

 
 

 古泉を無視すること約二十分、立入禁止であった所からハルヒ、長門、朝比奈さんが出てくる。三人ともエプロン姿であり、これがまた三人ともとても似合っているのだ。
「ふぅ、後はカレーを煮込むのが終わると出来上がりよ! 三十分ぐらいかしらね」
 流れ出る空気の風によって運ばれてくる香りは間違いなくカレーである。…香りだけでもご飯がいくらでもいけそうないい匂いだ。
(グゥ〜)
 突然大きなお腹がなった、…俺の。
 これは四人全員に聞かれたな、絶対、確実、100%の確率で。
「ぷっ、キョン、あなたそんなにお腹すいてるの? そりゃあ、あたしたちが作るカレーが楽しみというのはわかるけど、女の子の前なんだからもう少し慎みなさい」
「キョン君、おいしくできていると思うのでもう少し待ってくださいね。きっとご期待に添えると思うので…」
「あわてないで」
「気にしないでください。僕は聞こえなかった事にしておきますから」
 わかると思うがハルヒ、朝比奈さん、長門、古泉の順である。
 なんで長門の家まで来て恥をさらさないとダメなんだ。今日、恥をさらすのはボーリングで最後と思っていたが、甘かったか…。
 この話題を待ち時間の話の種にされ、なんとも言えない気持ちのまま時間が過ぎていく。もちろん、話題の中では笑いは絶えない、俺と長門の二人を除いてな。

 
 

 そうこうする内に時間が流れ、お待ちかねのSOS団三人娘手作りカレーライスがキッチンから登場する。
まず、長門にとってカレーのつけ合わせはこれ以外許されないのか、キャベツの千切りサラダが山盛りで出てくる、二皿分な。
 そして、メインのカレーが出てくる。
 …これは、食いきれるのか?
 第一印象がこれである、いくら俺が腹の虫がなるぐらい腹が減っていてもこれはいくらなんでも無理だ。その量というのは、これまで見たことないようなデカイ皿にデーンとカレーライスがのっかているのである。デカイというのは、ブタの丸焼きとかでも乗りそうなぐらいの皿だ。
 ご飯がカレールーで見えないが、おそらく山盛りで盛られているのだろう。あの日、俺と長門と朝比奈さんで食べた量をはるかに凌駕している。
「ハルヒ…、お前、ご飯は何合炊いたんだ?」
「十合よ」
 あっさりと言いのける。十五合って普通の炊飯器の限界じゃなかったか?
「違うわよ。限界二回分よ」
 料理知識が無いコトをさらしてしまったな。…なら一度に五合か、五人なら五合で十分だろ。
「私も、ちょっとご飯の炊く量が多いんじゃあないんですかぁ、と言ったんですけど長門さんが「食べる」と…」
 朝比奈さんが恐る恐る答えると、長門がスッと見る、その視線を食らった朝比奈さんは「ひっ」となる。
 こらこら長門、朝比奈さんが怯えている、その辺にしといてやれ。
 そうすると朝比奈さんに向けられていた視線が俺に来る。
 ……何か「そういう訳じゃない」というメッセージを伝えようという目だな。
「何してるの!? 早く食べましょう、冷めちゃうじゃない!」
 全てをキャンセルさせるハルヒの声が響きわたる。
「そうだな、そうしよう。ほら、長門も座って食べようぜ。朝比奈さんもどうぞ座ってください」
「わかった」
「じゃ、じゃあ失礼します」
 二人とも腰を落ち着け、俺も一息つく。あいかわらずこの一連を眺めている古泉はニヤケているばかりだがな。

 
 

 重ねてあったカレーの受け皿である小皿が皆にいきわたる、小皿といっても十分大きな皿でカレーを盛っている皿があまりに大きいのでそう見えるだけだ。まったく、食い応えがありそうだな。
 そして、全員の皿にカレーが盛りつけられる、ちなみに大皿のカレーはまだ半分も減っていない。
「さぁ、カレーも全員にいきわたった所で、「祝・テスト終了、しかも団長のおかげでなんとかキョンの赤点が全て免れた!パーティー」を開会するわよ!!」
 だからタイトルが長いって、そしてそのタイトルは止めてくれ。
「それでは、皆! コップを持ちなさい、乾杯するわよっ!!」
 乾杯といってももちろんコップの中身はジュースである。今回はアルコール類がないのでその点安全である、前回は俺の不注意で酒盛りになってしまったからな。
「では、カンパーイ!!」
(カキーン)
 五人全員のガラスコップが重なり合う、そして、一口飲む。将来、またこの五人で集まったりするのかな、しかし、成人になってもハルヒに酒を飲ますのだけは阻止しなくては。
 カレーにスプーンを刺し、口へと運ぶ。
 これは、美味い。
「さすがあたしたちが心を込めて作ったカレーねぇ、美味しいにもほどがあるわ」
「何度かカレーを作ったことがありますけど、これまで一番美味しいです。頑張ったかいがありました」
 ハルヒと朝比奈さんも満足しているぐらいだ、もちろん俺の舌も満足している。下手をすればカレー専門店で出されるカレーを美味いのではないだろうか。いつもいい物を食べているイメージが浮かぶ古泉も、
「いやぁ、いい腕をしていますね、三人とも。新川さんにも負けない腕前ですよ」
 褒めちぎっている。確かに孤島や釣りでの新川さんの料理にも負けないものがある。
 ここで長門の様子を見てみよう。
 おぉ、美味そうに食べてる食べてる、いい食いっぷりだ。どうだ、カンヅメカレーと比べて、
「あちらの物も十分おいしい。…しかし、今食べている物のほうがおいしい」
 そうだろう、なんでも手作りというものは美味いんだ。これからは、コンビニ物やレトルト物もいいが、自分で料理するというのも考えてみたらどうだ? 長門がどんな料理を作るのかも興味あるし。
「そう。…考慮しておく」
 そうしておけ、何事も経験だ。料理をしない俺が言っても説得力はないかもしれんがな。
「見ての通り、お皿にはまだまだたくさん残ってるわ! 皆、いっぱい食べるのよっ!」
 わかっているよ、ここまで美味いんだ、きっと食い尽くせるだろう。

 
 

 ……確かに大皿に盛られていたカレーはなくなった。といっても、俺の腹はとうに限界を向かえ、もう何も入らないぐらい胃にカレーとキャベツが詰まっている。
 結局、俺が食べたのは、小皿(カレーが盛られた皿に比べれば)二杯、古泉も同じぐらい、朝比奈さんが一杯ちょっと、ハルヒが三杯である。そして、ハルヒ以上食べたのが、我らSOS団が誇る長門である。
 はっきり言って何杯長門に入っていったかわからない、というのもハルヒが、
「はぁー、もうお腹いっぱいだわ。さすがのあたしももう無理よ」
 限界を迎えた時にはまだかなりのカレーが残っていた。ハルヒがもう食べられないというコトで長門の前に、デンと大皿が置かれたのである。しかし、長門はそれにも動じず、ただ黙々とスプーンをカレーに、カレーがのったスプーンを小さな口へとを繰り返し、繰り返し、繰り返し、そしてついには、あの大量にあったカレーが姿を消す。あいかわらず、長門の食べる量には脱帽だ、一体、長門の体の構造はどうなっているのか。
 この活躍により、カレーはもとよりキャベツの千切りもコタツの上から消え去った。
 ところがこの後、ようやく寂しくなった皿を片付けようする俺達を恐怖させるような一言を、長門が口に出すとは誰が予想できただろうか…。
「…ケーキ」
 世界がその言葉を疑ったが、真実である。これには俺、古泉、朝比奈さん、あのハルヒも顔がひきつる。
 [甘いものは別腹]とはよく言うが、さすがにその別腹も今はその存在を否定している。無理矢理、その存在を引っ張り出そうとすると、何をされても文句は言うなよ、と脅してきている。
「長門…、さすがに今すぐケーキはカンベンしてくれ。…そうだな、せめて二時間の猶予をくれ、頼む」
 その言葉を聴いた長門は決して満足していない顔をしている。この時ばかりは俺の長門の表情を見る能力を疎ましく思った、こんなにはっきり長門の考えているコトがわかるというのも考え物だな。
「わかった、せめて一時間空けてくれ」
 俺の最大限の譲歩だ。
「そう」
 だから残念そうな顔をするなって、罪悪感が生まれる。…ほら、皆もそう思うだろ?
「そ、そうですね。長門さん、ちょっとだけ時間を置いて…ね?」
「そうね、有希。ここはキョンの意見に賛成しなさい」
「僕からもお願いします」
 三人同時の説得、これにはさすがの長門も歩が悪い。
「そういうことだ、長門。少しだけ我慢してくれ」
「…わかった」
 こうして長門に説得するコトに成功した俺達は、時間をつぶすため古泉の持ってきたカードゲーム各種で遊ぶ事にした。十五分、三十分、四十五分と時間が経つにつれ、長門はソワソワしてきている…様な気がする、というのもそんな態度を皆に隠しているような気がするからだ。俺にはなんとなく感じ取れるので、そう判断しているのだがな。

 
 

 そして一時間が経過した。正直、俺の腹はまだ食物を入るのを拒否しているようだが、そんなコト言っていられない。すでに長門は席を立ち、冷蔵庫からケーキの箱を取り出し皆の前に皿も並べている。そうか、それほど待ち遠しかったのか長門、今日だけはイメージが変わったな、それが悪いコトとは言わないが。
 ケーキの準備に精を出していた長門が座る、つまり準備が終わり後はケーキの箱を開けるだけである。
「コホン、ではパーティー後夜祭の始まりを告げるケーキ達のお披露目よ! キョンと有希はまだどんなのか見てなかったわね。さぁ、特と見なさい!!」
 立ち上がったハルヒはくるっとその場で一回天し「じゃーん」というかけ声と共にフタを開ける。俺はそのハルヒの無駄なパフォーマンスを呆れ顔で見ていた横目で長門がすでにフォークを持ち構えているコトに気づく、もうすぐだからな、…俺はもう少し時間が欲しかったが。
 しかし、その箱は実はパンドラの箱で、そこからありとあらゆる害悪・災難が出てこの世にばらまかれてしまった…なんてことはまず無くケーキが五つ並んでいる。どれどれ、チーズケーキにイチゴのショートケーキ、モンブラン、抹茶のロールケーキ、フルーツが山盛りのケーキである。
「あたしはモンブランで、みくるちゃんがショートケーキ、古泉君がロールケーキよ。有希は残りの二つの好きなほうを選びなさい」
 長門が先に選ぶのか? 一応パーティーのタイトルに俺の名前がついているのに。
「当たり前じゃない! レディーファーストって言葉をあんたは知らないの?」
 知ってるよ、一応聞いてみただけだ、もとより、長門を先に選ばせるつもりだったし。
「長門、ハルヒの言う通り先に好きなほうを選んでいいぞ」
「こっち」
 長門の指先にあるのはフルーツ山盛りのケーキだ。そうだろうと思ったよ、フタが開けられた時からそのケーキしか見てなかったようだし、ハルヒ達がそのケーキを指定していなくてよかったな。
 ということで俺はチーズケーキだな、今の腹のすきぐあいだとこれぐらいのシンプルのではないと入らないだろう。
「じゃ、食べましょう!」
 ハルヒの声により全員がケーキにフォークを入れ、一口の大きさに切り取り口へと入っていく。
 俺の味覚の感想は美味いと感じている。安物みたいに甘ったるいわけでもなく、上品な舌触り、そして鼻から抜ける濃厚なチーズの香り、どれをとっても一流で文句の付け所がない。さすがハルヒがとってもおいしい、と言うだけのコトはあるな。
 …しかし、俺の胃が一杯で中々ノドを通っていかない。芸人が大食いをやらされている気持ちが今ならわかる、こんなにもつらいものだったのか。…仕方が無い、時間をかけてゆっくり食べていくか。

 
 

 俺達はこの間釣りに行ったときの思い出や、次の文化祭でどうするかなどの話題に花を咲かしていた。
 ところが俺のケーキは一向に減りはしない、半分食べたところでずっと止まっている、見れば残っているのは俺のケーキだけである。女性は甘いものが好きと一般的に言われているように、三人とも食べ終わっている。
 さすがにハルヒと朝比奈さんは食べ終わった後は、
「あぁー、今日はよく食べたわ。満足満足」
「わ、私も今日はもうお腹一杯です。こんなに食べたのは生まれてはじめて」
 このようにお腹一杯のようだったが、なんとか食べた。古泉はカレーを控えていたのか余裕で完食していた。言うわけでもなく長門は待たされていたぐらいなので、一番に食べ終わっていた。しかし俺はギブアップだ。
「悪いが俺はもう腹いっぱいだ…。誰か残り食べないか?」
 皆の顔を順番に見渡すが拒否を続ける、俺の隣に座る一人を除いてな。
「長門、食べるか?」
「いいの?」
 聞き返す長門、いつもは表情の中でも無を刻むその目は喜びに満ちているようだ。
「もちろんだ。すでに俺の腹は、今にも破裂しそうな風船のごとく悲鳴を上げているからな」
「わかった。ではいただく」
 長門が俺のケーキがのる皿へと手を伸ばす。そしてフォークを手に取り、ケーキを口に入れる。
「あっ、おい、長門…」
 ちなみに、そのフォークは俺が先ほどまでケーキを食べるのに使っていたもので、皿に置いたままにしてあった。まさかその俺のフォークを使うとは思いもしなかった。
「なっ!」
「きゃっ!」
「おや」
 そしてこの行為を皆が見逃すわけなかった。
 しかし長門はそんな皆の視線・声を一切気にせず二口で食べ終わった。自転車の二人乗りといい、少しは人の目というのを考えてくれ、長門。
「それは俺のフォークだったんだが…」
 もうすでに食べ終わっている長門に言ってもとっくの昔に手遅れなのだが、
「私は気にしない」
 イヤ、お前が気にしないといっても俺達は気にするわけで、ほら特にハルヒとかが…、
「それはどういう意味かしら有希。…後で二人きりでお話ししましょうね」
 笑顔で長門に話しかけるハルヒだが、その笑顔は怖いぐらいひきつっている。
「おい、ハルヒ。いったい何を」
「あんたはだまってなさい!!」
「…!」
 勢いに負けて黙らされてしまった、この自分の情けない性格が疎ましい。
「まぁまぁ、涼宮さん。皆のケーキも食べ終わった事ですし、片付けてまたゲームを再開しましょう」
「そ、そうですね。私もお片づけ手伝いますから」
 この空気を助けてくれた古泉にひとまず感謝だ。
「そうね。でも食事の用意はあたしたち女性陣三人がやったから、片付けはあんたら男子がやりなさい」
 はいはい、わかったよ。こんなことでハルヒの気が済むなら喜んでやるさ。

 
 

 俺と古泉はケーキの皿やゴミを片付け食器を洗うために長門のキッチンを借りることにした。量はしれているし、すぐ終わる。
 食器を洗う後ろでハルヒの声が聞こえる、どうやら機嫌は治っているようだ、声のトーンもいつもの夏に咲くヒマワリのようである。この様子だと閉鎖空間もでていないだろう、古泉も携帯をいじってなかったしな。けどまぁ、一応聞いてみるか、出ててたら俺の責任ってコトになるのかもしれんし。
「さっき閉鎖空間はでなかったのか?」
「えぇ。僕はてっきり発生すると思いましたが、涼宮さんが自制してくれたようです」
「それは何よりだ」
 食器洗いを続ける俺はホッと一息いれる、あいつの野生の心から少しは理性というのが育ったのかな、
「あなたもそろそろ気持ちをはっきり決めてくださいね」
 洗っていたフォークが俺の手から流し場に落ちる、えぇい、洗い直しではないか、
「だからそれはどういう意味だ?」
「フフ、わかっているのではないですか?」
 質問を質問で返すな、まったく。で、もちろんこの後、古泉は無視するコトに決定した。

 
 

 しかし、気持ちねぇ。
 俺はまだ高校二年で人生経験もまだ少ない、他人が一生経験しないようなコトはいくつもしているがな。前も考えたように、俺が長門を思う気持ちも今だよくわからんし、ハルヒや朝比奈さんに関しても同じだ、しかし思う気持ちの中身は全然違うコトだけは言える。
 朝比奈さんは何かアイドルみたいな感じで、俺の手には収まりきらない。見てるだけで幸せというものだ。
 ハルヒは…そうだな、一緒に行動していると退屈はしない、それは断定できる。もう少し抑えてくれるともっといいのだが。
 長門は釣りの時に感じたように好きとかそういうものでは無いと思う、…たぶん。長門に守ってもらう立場にあるが、時より見せるその弱さに俺も長門を守りたいと思う、雪山の例がその最たる例だ。この「守る」というのが一般的に言うとどういう意味になるのかはわからん。
 ………ダメだ、いくら考えても答えがでないな、無責任のようだがやはり時の流れに身を任せようか。このように、わからんコトを次に次に伸ばす性格が、夏休みの課題を三十一日まで残すような結果を生み出すんだがな。

 
 

 俺達二人がコタツへと戻ると、人生ゲームのボードゲームが広げられていた、どうやら古泉が持ってきていた物のようだ。ドコに隠していたんだよ、こんな物。
 この後、俺達五人はこのゲームで遊んだり、部室だけで十分すぎるミーティングをしたりして気づいたらすでに十時半である。
「あら、もうこんな時間? さすがにそろそろ帰らないとやばいわね」
 それには同感だ。こんな遅くまで居たら、さすがの長門も迷惑に思うだろう。
「では、今日はお開きとしましょうか。晩御飯ご馳走様でした」
「今日は楽しかったです。また皆で遊びましょうね、キョン君もお疲れ様でした」
 いえいえ、もうワナにはめられたコトはいいですよ。こちらこそ、朝比奈さんが手がけた手料理が食べれて幸せでした。
「それじゃ、長いこと部屋を借りて悪かったわね、有希」
「いい」
「…今日はもう遅いから二人きりのお話はまた今度にね」
 おいおいハルヒ、忘れてなかったのか。何か問題を起こすようなことをするなよ。
「あなたが原因ですよ」
 ポンと肩を古泉に叩かれ、耳打ちされる。…どうやらこいつはよっぽど俺にケンカを買ってほしいらしいな。確かに原因は俺かもしれんが。せめてこのコトが大事にならんように、キリストでもアッラーでも仏陀でも、とにかく何でもいいから神に祈ろう。
俺達五人はそろって部屋の玄関まで進み、クツを履き外へと出る。雨上がりというのに湿気は少なく、心地よい清涼な風が体を包み、昼ごろのじめじめした空気がウソみたいだ。
「じゃあ、今日はありがとうな、長門。月曜日にまた会おう」
「…今日は楽しかった。またきて」
「そう? ならまた何かパーティーを開くときは有希のマンションでしましょう」
「かまわない」
 長門も今日はずいぶんと楽しかったみたいだな、いつものミリ単位の頷きではなく、今回はセンチ単位で頭が下がった。
 四人そろって長門に礼をし、俺の視界から長門が消えようとしたそのとき、長門に栞を渡された。
 …皆に気づかれないように。
「これ」
「わかった、後ですぐ読むよ」
 おそらくこの栞に何かメッセージが書かれているのだろう、俺はそれをポケットにしまう。
「何してるのーキョン? エレベーター来たわよー!」
「すまない、すぐ行く。おやすみな、長門」
「また」

 
 

 エレベーターで下まで降り、自転車を押し集合場所である駅に着く。ハルヒは皆におやすみの言葉を告げ駅へと入っていった。古泉も朝比奈さんも夜別れる時の挨拶をし、残るは俺一人となる。
 ふぅ、今日は一日長かったな、懐かしの地でボーリング・カラオケをして、長門のマンションでハルヒのワナに引っかかる、その後長門と買い物に出かけ、夕食は三人の手料理だ。腹いっぱいなのにケーキを食ったり、ゲームやミーティングもして三日分ぐらい何かしたな。
 しかし、まだ終わりではなく、最後にやることができた。俺は今、長門のマンション近く、お馴染みの公園に自転車で向かっている。なぜかというと、栞には綺麗な字でこう書かれてあったからだ。
「二十分後、甲陽園駅前公園に一人で来てほしい」

 
 

 俺は公園に着くと、雨でイスが濡れているせいか立ったままの状態の長門を発見した。
「待ったか、長門?」
 長門の顔がこちらに向けられ答える。
「いい。私も来たばかり」
「それで、どうしたんだ? 一人で、ってことは俺にしか話せないようなコトなのか?」
「そう。…相談したい事がある」
 俺は辺りを見渡した、もしかしてまたハルヒのワナかと思ったからだ。この行為から長門にも伝わったのか、
「違う。今度は本当」
 否定。というコトは、今度はハルヒのワナなんてではなく、本当に相談したいコトがあるのか。
「それで相談って何が起きたんだ? ハルヒ関係か?」
「違う」
「なら朝倉みたいなインターフェイスがまた送られてきたのか?」
「違う。…相談したいのは私のこと」
 長門の?
「もしかして、またエラーが蓄積してきたのか!?」
「違う…と思う」
 思う? 長門が答えを断定できないなんてよっぽどのコトじゃないか。
「確かに昨年の十二月、私はエラーが蓄積し大規模な情報改変を起こした。しかし、最近ではそのエラーも減り、日常生活を送る分には何一つ不都合はない」
 それなら一体…、
「私はあなたに言われたように、様々な経験を得ている。この経験からの情報は決してエラーではない。これらの情報は一過性な物であり、必要である時に取り出す事ができる。つまり、普段の意識レベルにまで干渉を与えない」
 なるほどな、まぁ、人間の頭もほとんどそんな感じだろう。たまに無意識に思い出し笑いとかもするけどな。
「…しかし、ある情報が幾度も勝手に頭に浮かび、生活に支障が出るほどではないが意識レベルに若干の影響を与える。その原因がどうしてもわからない」
 確かにそれは問題だな、それでそのやっかいな情報というのは何なんだ?

 

「あなた」

 

 あなたって…俺のコトか?
「そう。あなたの情報が何度も出てくる。時々こういう事があったが、それは無視できるレベルだった。だから遊戯施設に行く事を決めた日の帰り、あなたに尋ねられた時には問題無いと答えた。…しかしこの情報の統計を取ってみると、特に一人でいる時に多く、また月日が流れるほど発生が頻繁になってきている事がわかった」
 …………三点リーダーが何個、頭に浮かんだかわからないぐらい俺は固まっている。
「エラーではないと思うが、これが私には理解できない。それで相談した」
 さて俺はこういう時、なんて答えたらよいのだろうか? それは長門が俺に恋をしているってコトなんだよ、…なんて自惚れた言葉が言えるワケがない、そもそもそんな都合の良い原因では無いだろう。
 うーむ、どうしたものか。

 

「…なぁ長門、今はまだその答えはわからん。少し考える時間をくれないか」
「そう」
「それでだ、その…俺が頭に浮かぶというのを一時的に解消する方法ってのは何か無いのか?」
「ある」
 即答だ、もしかしたらそれが解決のヒントになるかもしれん。
「どんな方法だ?」
「あなたと一緒にいること」
 …また大胆な発言だな、事情を知らない人に聞かれると絶対誤解されるぞ。事情を知っている俺ですら誤解してしまいそうだからな。
「その時は……うまく言語化できないかもしれないが、あなたという情報でいっぱいになる。この時のあなたの情報は先ほど話した、一人でいる時に発生する情報とは少し違う。どこが違うかはうまく説明できない。そして、一人でいる時に発生する情報はしばらく起きない」
 このセリフがとても恥ずかしく感じる俺はおかしいのか、それともただ単に若いからか?
「私の中に処理できないほどの情報が駆け巡るというのに、それは私にストレスとなる負荷をかけない、むしろエラーが削除されていく。この現象も原因がわからない、…ただ悪くないと私は感じている」
「…つまり俺と一緒にいることで、理由のわからん情報が発生しなくなって、しかもエラーが消えると、そういうコトか?」
「そう」
 で、やっぱり恥ずかしく感じるのはおかしいのだろうか?
「わかった。なら、そういう時は気軽に俺の携帯にでもかけてくれ、毎回は無理かもしれんが、夜でも会える時は会い行くさ。それに会話だけでもいいなら夜中でも朝一でもお前からの電話なら喜んで取るさ。そして、もし探索がない休みの日なら一緒に図書館にでも行こう」
 俺は律儀に持ち歩いていた生徒手帳のメモ欄に携帯の番号を書き、長門へと手渡す。
「いいの?」
 その雪のように白く小さな手に紙を持ち、顔に二つある瞳は上目遣いをし、尋ねる長門。そんなふうにされたら断れんさ、もちろん断るつもりはさらさら無いが。
「いいさ」
 その手に俺の手を重ね、長門へと押し付ける。
 なにも遠慮することないさ、あいかわらず返していない借りもたくさんあることだしな。
「…わかった。…その言葉に甘えるとする」
 そうしてくれ、長門も少しはそういうコトをしてもバチはあたらんさ。
「それじゃあ、マンションまで一緒に歩くか」
「……」
 しかし長門の回答は首を横に振るノー。何でだ?
「自転車の後ろに乗る事を希望する」
「って買い物の時にした二人乗りか?」
「そう」
 今度は頷く肯定の合図。
 …わかったよ、ほら乗りな。長門がチョコンと座り、俺もサドルに座る。で、長門が俺の体にウデを回す、やっぱりこうなるのか。そして俺の感想、正直たまらないです。

 
 
 

 長門をマンションまで送り、ようやく我が家に着く。
 あー、長い一日だったな…、精魂つきてしまったが、例のごとくまだ明日提出の課題が残っている。…明日、学校で仕上げるか。風呂に入った後、ベッドに横たわると案の定すぐ寝てしまった。

 
 
 

 そして月曜日、通学という名の出勤から始まり、授業と課題の労働、残業が文芸部室だ。どっちかっていうと、この残業のほうが楽しいのだ。残業というのに部室に向かう足が軽いというのはまったくどういうコトだろうね、いつのまにか俺の前に扉が立ってるし。
 もう反射的になっているノックをして入る。
 ハルヒの慣れてしまった自分がイヤになる怒鳴り声に適当な相づちを返す。ニヤケ面で将棋の駒をいじり勝負を挑んでくる古泉を追い払う。朝比奈さんの人魚の如く誘惑される姿と声を見て聞く。
 最後に長門だ。
 夜露の雫よりも、かすかでささやかなその瞳にアイコンタクトのように、
「…」
「…」
 視線を交わす。
 さて、今日も団長がキテレツなコトを言わないように祈るか…。

 
 
 

 これは後日談だが、あれから長門は二日に一度は電話をかけてくるようになった。ヒマな時は公園まで会いに行き、忙しい時や夜中はそのまま電話でたわいの無い話しをしているのだが、一つだけ言わせてくれ。
 通話の途中で「…」の三点リーダーは止めてくれ。
 目の前にいればわかるが、さすがの俺も三点リーダーだけでは何も判断できん。

 
 
 

…終わり

 

 
 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:26 (2709d)