作品

概要

作者書き込めない人
作品名気ままな文芸部室 8 お買い物編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-13 (水) 23:34:38

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

生徒会長から直々に文芸部の存続を認可され、
さらにサービス付きの部費を得た俺と長門は、
一つ町を挟んだところにある大きな本屋に来ていた。
長門は本を買うために、俺はそれを持つために。
もちろん長門に強制されたのではなく自発的に、だ。

 

「ちゃんと領収書切らないとな」

 

俺は長門に一応言う……が、
当の本人は周囲に広がる本の山に目を輝かせている。
本好きのこいつにしてみればここは楽園だしな。

 

「そう……」

 

心ここにあらず、といった所か……
少し寂しい気がするね……
まぁ、長門の嬉しそうな声を聞けるのだから我慢しよう。
しかし、そんな俺の寂寞感に気付いたのか、長門があわてて振り向いた。

 

「ごめんなさい……私だけが楽しんで……」

 

な〜に、気にするな。
あの元気な妹に慣れた俺にしてみれば、
お前のはしゃぐ様子なんて小鳥のさえずりにも及ばないよ。
それに、普段の大人しいんだから、今くらいは騒いでも罰は当たらんさ。

 

「そ、そう……?」

 

少し恥ずかしそうに言う長門。
初めてあった時に比べると大分人馴れした様に見えるとはいえ、
まだこうやって照れる顔を見せることがある。
普通に話せるようになるのはまだ先のようだ。
カワイイからいいけどな。

 

「荷物は持ってやるから欲しい本を好きなだけ買いな。
ただし部費の範囲内だぞ」

 

笑いながら俺は長門に言う。
笑いながら長門は俺に答える。

 
 

「……ありがとう」

 
 
 

ちなみに俺は本を探す長門の後をついていくことにした。
背の低い長門が一番上の棚の本をご所望した場合、
届きそうになかったからだ。

 

ついでに宣言どおり俺が全部の本を持つことにした。
長門の細腕では、せいぜいハードカバーを2,3冊が限界だと思ったからな。
実際には10冊の辞書のような本を蕎麦屋の出前持ちみたいに片手で運べたわけだが……
一体どこにそんな力があるんだろうな?

 

長門が持っていた本を半ば強引に受け取り俺は長門の後をさらに歩く。
本人は『大丈夫』と言っていたが、
俺としてもプライドとかそういうものがある……
重いけどがんばるぞ、俺。

 

店に入って30分ほど経過し、
俺の腕の中には全部あわせれば長門より重いんじゃないかというくらいの本があった。

 

「キョン君……大丈夫?」

 

これで2桁目になるかというねぎらいの言葉。
長門のやさしさが身に染みるが、
俺はあくまで涼しい顔をして言った。

 

「ああ、心配するな。これくらいどうってことない」

 

よく息継ぎせず言えたな、俺。
正直腕も足もプルプルだぜ。

 

だが、後ろの俺を気遣った長門は前にいる人影に気付かなかった。

 
 

危ない、と言う間もなく、長門とその人物はぶつかってしまった。

 
 

「っっ!!?」

 

「きゃっ!?」

 
 

長門とその人物……制服を着た少女は同時に声を上げる。
どうやら向こうもよそ見していたらしく、結構派手にぶつかっていた。

 

「ごめんなさい……」

 

立ち上がりながら謝る長門。
しりもちついたけど二人とも大丈夫か?
だが、俺の心配や、長門の謝罪をよそにその少女は声を荒げた。

 

「ちょっと!どこ見てあるいてんのよ!!」

 

同行者らしい男……こちらも制服を着ている……に抱えられながら、
その少女は長門に文句を言う。

 

「ごめんなさい」

 

長門はまたも謝る。
だが、どうみても長門だけに非があるわけではない。
その少女も明らかに余所見はしてたんだからな。

 

「あぁ、すまなかったな。
俺が声掛けなかったのが悪いんだ。彼女は許してやってくれ」

 

だが、俺は騒ぎを起こすつもりもないので、
長門の代わりに謝罪する。

 

「ほんと、あんたたち二人とも何やってんのよ!?
もっとしっかりしてほしいもんだわ!!」

 

どうやら、この女は完全に自分は悪くないと思っているらしい。
俺だけならまだしも、長門を悪者扱いされるのは気に食わん。
というわけで俺は皮肉をこめて謝罪を続けた。

 

「それはすまんな。まさか有名進学校の光陽園学院の生徒が、
前を歩くよそ見した少女も避けられないほど頭の回転が鈍いとは思わなかったんでな」

 

この二人が着ている制服は見覚えがある。
北高生が登る坂道の麓にある光陽園学院の制服だ。
有名な進学校で、同じ学区にある北高の教師は無意味に対抗心を燃やしている。

 

「な、なんですって!?」

 

目の前の少女が形のいい眉を吊り上げる。
どうやら俺の嫌味にバッチリ反応したようだ。
だが、構わず俺は続ける。

 

「だってそうでもなきゃあんたはこいつを避けれただろう。
それこそ……よそ見でもしてないかぎりな」

 

これで、自分の非にも気付いてくれればいいが……

 

「なによっ!あたしが悪いって言うの!?」

 

……どうやら自分の非には気付いたようだが、
俺が言いたいことは伝わってないらしい。
視界の隅でオロオロしてる長門のためにも早いところ切り上げたいな……
わざと皮肉った俺が言うのもおかしな話だが。

 

そんな俺の苦悩に感づいたのか、
同伴の男がその女をなだめる。

 

「まあまあ……少し落ち着いてください、涼宮さん」

 

スズミヤと呼ばれたその少女は同伴の男の方を睨みつける。
まるで仇を見つけたみたいな顔で睨まれていると言うのに、
その男は笑みを絶やさない。

 

「何よ古泉君?」

 

「彼はあなただけが悪いと言っているのではないのですよ。
僕が見る限り彼女もよそ見していたようですし」

 

そういって長門の方を示す。
指を指さないだけマシだが、何か癪に障る。

 

「ここはお互いに非があったと言うことで……
これ以上騒ぎを大きくしたくないでしょう?」

 

そのコイズミとよばれた優男は俺の方を見て言う。
そこまで俺の言いたいことがわかってるなら、
早いとこその狂犬をどっかにやってくれ。
長門がおびえてるからな。
……とは口には出さない。

 

「あぁ、嫌味っぽく言って悪かったな。
それに俺が声を掛けてればぶつからなかったことには違いない。すまんな」

 

「僕の方こそ、彼女に一声かければ未然に防げたでしょう。
申し訳ありません」

 

どうやらお互い罪を被る気らしい。
悪いのは長門ではなく俺、スズミヤではなくコイズミ、ってわけだ。
このええかっこしいどもが、と心の中で俺は思った。
悪くはないけどな。

 
 
 

その後、俺たちは店内を更に30分ほど歩き周り、
俺の両腕の筋肉が断裂しそうな量の本をレジに持っていった。
店員さんの引き攣った顔は見ものだったな。

 

俺は長門が財布から諭吉さんと同じ値段の図書カードを出して、
領収書を貰っているのを腕をさすりながら横目で見ていた。
これからこれを長門の家まで……疲れるな。
だが、目の前の長門の嬉しそうな顔を見ると、
荷物運びの重労働が喜びに変わるから不思議だ。

 

「カバーはいかがいたしましょうか?」

 

「全てお願い。傷がつくと嫌、だから……」

 

長門、空気を読もうぜ。
店員さんが笑顔を強張らせてるじゃないか……

 

結局この哀れな店員が今までないほどの量の本に、
黙々とカバーをつける苦行を終えたのはそれから10分後のことだった。

 
 
 
 

「さっきの二人……」

 

俺の横を歩いていた長門が不意に口を開いた。
辺りは冬ということもあり、すでに真っ暗だ。

 

「何だ?」

 

俺は本が入った袋を一つ持っている文学少女に聞き返した。
ちなみに俺は同じ袋を大量に抱え込んでいる。

 

「私がぶつかった二人組のこと……
お似合いだったと思う」

 

お似合い?
何が似合ってたんだ?

 

「美男美女のカップルだった……」

 

あぁ、そういう意味か。
確かに二人ともかなり端整な容姿をしてたな。
女の方は性格に問題ありだったが……

 

「まぁ確かに美男美女ではあったが……ありゃカップルと言うより
お転婆お嬢様と執事だな」

 

俺は思ったままのこと口にした。
その冗談交じりの返事に長門は少し吹き出してしまったらしく、
あわてて顔を真っ赤にする仕草がまた愛らしかった。

 
 

その長門の反応に気を良くした俺は、
つい余計なことを言ってしまった。

 
 

「それに仲良しのカップルがお互いを『名字』で呼んだりしないだろ」

 
 
 

『え……』

 
 

それは俺が予想していなかった言葉だった。
その声と何かを落ちる音が聞こえた俺は長門の方に向いた。

 
 

そして見た。

 
 

……衝撃を受けて呆然と立ち尽くす長門を……

 
 
 

最初俺は長門が何にショックを受けたのか気付かなかった。
周囲には何もないし、長門が驚くようなことは……
まさか俺が今言ったことか?
今俺は何を言った?
特に気にせずに軽く言った言葉を俺は思い出す。

 
 

『カップルと言うよりお転婆お嬢様と執事だな』

 
 

長門はそのとき笑っていた。
ひまわりのように派手ではない、
しかし白百合のようなつつましい微笑み……
それがなぜこんな顔を……

 
 

『仲良しのカップルがお互いを『名字』で呼んだりしないだろ』

 
 

俺はハッとなる。
今俺は『仲良しでない』の条件として『名字で呼ぶこと』を示唆した。

 
 

そして俺は……長門を呼ぶときには常に『名字』で呼ぶ。

 
 

つまり俺は自分で『長門とは仲が良くない』と言ったも同然だった。

 
 
 

「……ごめんなさい」

 

不意に長門が口をあけた。

 

「無理矢理つき合わせて……」

 

暗がりのおかげで表情は分からない。
だが、声で感情は分かった。

 

「もう、いい……ありがとう……」

 

「ながt……」

 

「ここからは……一人で帰れる……」

 

長門が俺の言葉をさえぎった。
普段なら絶対にされない拒絶の表れ。

 

「その荷物も……私が持って帰る……」

 

明らかに分かる涙声で目の前の少女は俺の持つ荷物を手に取る。
だが、俺は身体をひねってそれを防ぎ拒否の声を出した。

 

「ダメだ。これは俺がお前の家まで持って行く」

 

「いい、無理しないで」

 

いつもらしくない言葉だけの気遣いを表し手を伸ばす長門。
だが、俺も身を更によじって妨げる。

 

「どうして……」

 

長門が小さくつぶやく。

 
 

「私のこと……嫌いなんでしょ……?」

 
 

顔を上げた長門の頬には涙が伝っていた。

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

俺は長門の目を見つめて言う。
こんな長門の顔は見たくないが、見なければならない。

 

「……さっき『名字』で呼ぶような人は……仲良くないと言った」

 

やはり、俺の想像通り先ほどの言葉に傷ついたようだ。
俺は数分前の俺を心の中で罵る。

 
 
 

「さっきのアレは……カップル限定の話だ」

 

俺は長門に諭すように言う。
長門も俺の言葉に耳を傾けてくれているようだ。

 

「俺たちはまだカップルになってないだろ?」

 

その言葉に目を見張る長門。
そんなに驚くことを言ったか?

 

「だから仲良しのお前に名字で呼びかけてるんだよ」

 

自分でも何を言ってるかわからないが、
長門には何か通じたらしく、少しだけ顔を明るくした。

 

「私のこと……嫌いじゃ……ない?」

 

当たり前だ。
お前のどこに嫌いになる要素がある。
もし、お前のことが嫌いだ何ていう奴がいれば、
シャミセンを口に突っ込んで思いっきり爪とぎさせてやるよ。

 

俺がそういうと長門はただ一言、

 

「そう……」

 

とだけ嬉しそうに言った。

 
 

その後、仲直り(?)した俺たちは長門の部屋に向かった。
本来は文芸部室に持っていくべきだが、
時間が遅いのと、量が多いと言う理由から、
長門の部屋で一時保管することになっていた。
頼むから学校にもって行く前に読破しないでくれよ?

 

あと、さっき長門が落とした袋に入っていた本は見事に角がひしゃげていたが、
他の本は無事であったし、まず読む分には問題ないだろう。
長門は物凄く凹んでたけどな……

 
 
 
 

彼に間接的にでも『仲良くない』って言われた時は、
世界が本当に漆黒に染まった。
夜の暗さじゃない……本当の闇。

 

でも彼は私のことを『仲良し』って言ってくれた。
『嫌いじゃない?』と聞いたら、『当たり前だ』と答えてくれた。

 
 

そして……私たちの関係を『まだ』カップルじゃない、と言ってくれた。

 
 

『まだ』ってことはいつかは……
そう思ったらさっきの暗い気持ちが晴れやかになった。

 
 

いつかそんな日が来るといい……
いつか彼に『好き』って言ってもらいたいな……

 
 

「長門、この本『好き』なところに置いといていいか?」

 
 

……そういう意味ではない。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:26 (2732d)