作品

概要

作者おぐちゃん
作品名ぼくのなつやすみ
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-13 (水) 00:55:03

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 蝉の声が、周りの木々から降ってくる。
 俺は自転車をこぎながら、自宅へと向かっていた。プール上がりの体は塩素くさい。とっとと帰って風呂入って寝よう。市民プールで暴れたせいで疲れたしな。
 自転車がカーブを曲がる。目の前に大きな邸宅が見える。
 そして、そこの門の前には──

 

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「……ない」
 箱が、無い。ネコも、いない。
 待てよ俺。なんで、あそこに箱が置いてあるなんて思ったんだ?
 俺が自転車を止めて首をひねっていると、そこに意外な人物が現れた。
「…………」
 長門だった。夏用セーラー服に身を包んだ長門は、向こうの角から現れると、その場でふと立ちつくした。
「…………?……」
 狼狽している。珍しいことだが、長門はとまどっていた。何しろ箱がないのだから。
 落ち着かなげにあたりを見回した長門は、ようやっと俺の存在に気づいた。
「よう長門。帰ったんじゃないのか?」
 俺のさわやかな挨拶を華麗にスルーして、長門はぽつりと言った。
「自転車、貸して」
 え?
 何を言う暇も無かった。長門は俺の自転車に飛びつくと、手早くサドルを下げた。
 次の瞬間、俺の愛車は豆腐屋のハチロクも真っ青の加速で飛び出した。
「ちょ、長門!」
 追いつけるはずもない。長門はすさまじいドリフトで角を曲がって、とっくに見えなくなっちまった。
 だけど慌てることはない。長門がどこに向かったのか、俺は何故か知っていた。

 

「ぜー、ぜー、ぜえ……」
 全力疾走すること数分。俺は、住宅街の一角にある古びた家の前に来ていた。
 俺の愛車が停まっている。長門は……門の内側、玄関のすぐ前にいた。
「ぜえ、な、長門?」
「…………」
 長門はちょこんと座り込み、玄関の前でミルクを飲んでいる二匹のネコをじっと眺めていた。
 大小二匹の、キジトラ模様のネコ。多分親子だろう。仔ネコの首には、真新しい首輪がはまっていた。
「…………そう。よかった」
 長門は、どこかほっとしたように言う。何がよかったんだ? 俺にはさっぱりだ。
「今度は、捨てられなかった」
 そう言って、長門は仔ネコに手を伸ばした。長門に気づいた仔ネコは、飲みかけのミルクをほったらかして長門にすり寄ってくる。
 長門が、優しく仔ネコをかかえ上げた。
「今度は、おかあさんと一緒」
 仔ネコは長門の胸に顔を埋めると、セーラー服の胸をちゅーちゅーと吸い始めた。
 目を閉じてネコを抱きしめる長門。出るはずのない乳をむさぼる仔ネコ。
 それは、時間にして一分もない間。
 けれど俺には、まるで長門と仔ネコの時間が止まったように思えた。

 

 ……やがて長門は、仔ネコを優しくおろしてやった。
「それじゃ、また」
「みゃあ」
 長門の言葉に、仔ネコが応える。
 そして長門はゆっくりときびすを返すと、自分の家に向かって歩き始めた。
「……なんなんだ、一体」
 訳わかんねえよ、まったく。
 ──でも、まあ。何故だか俺も、とても安心してるんだけどな。
 俺は自転車のサドルを元通りになおし、自転車にまたがった。
「じゃな、ちびネコ」
「みぃ」
 仔ネコに見送られ、俺も自分ちへと向かった。

 

 俺たちにとって、これが15498回目の夏休みだと言うことを知らされたのは、その数日後のことである。

 



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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:26 (2804d)