作品

概要

作者書き込めない人
作品名気ままな文芸部室 7 危機編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-12 (火) 22:52:20

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

俺は今長門と二人で町一つ挟んだ所にある大きな書店に行くため、電車に乗っている。
もちろん長門が読みたい本を買いに行くためだ。
俺は付き添い……というより荷物持ちだな。
長門のことだ……きっと百科事典のような本を何冊も買うだろうからな。
俺がそれを代わりに持ってやる予定だ。

 

さて、ここである事が気になる人もいると思う。
そう、それだけの本を買う金がどこにあるのか、ということだ。
まぁ駅前マンションニコニコ一括現金払いの長門さんなら、
本の二、三冊など物の数ではないかもしれないが、
長門の場合読む量の桁が違うからな……
回りくどいことは止めて、ずばり言おう。
『部費』で購入するつもりだ。

 
 
 

さかのぼること2時間前。
教室でホームルームを終え、カバンに教科書を詰め込んでいた俺は、
不意に後ろから強烈な殺気を感じた。

 

あわてて後ろではなくドアの方を向く俺。
そこにはこちらを見てもじもじしている長門がいた。
まだ他の教室に堂々と入って俺の所まで来るのには勇気がいるらしい。
それにしても、毎度俺が3秒以上気付かないと殺気を放つ朝倉をどうにかしてくれ。

 

「キョン君、気付いたかな?」

 

お前が無理矢理気付かせたんだろ。
もっと穏便に教えてくれ。

 

「気付いたんなら……早く行ってあげたら?」

 

これは提案の形をとった脅迫だ。
『私痩せたと思わない?』といった質問と同じで、
否定は許されない。

 

「わかったから右手に持った定規を筆箱にしまってくれ。
数学の時間はとっくに終わってる」

 

このドS委員長が細長いものを持つと恐怖しか感じない。
なんとなく刃物とか刃物とか刃物などをイメージするからだ。

 

「じゃあ、行って?」

 

その笑顔が怖い今日この頃。
美人の笑顔が怖いとは知らなかったよ……

 

と、バカなことを考えている場合ではない。
長門を放置しとくわけには行かないからな。
さっきから徐々に長門の顔が赤くなってるのがよく分かる。

 

「どうしたんだ、長門?」

 

まるで地上最強の生物に出くわしたボディガードのように、
完全に硬直していた長門に声を掛ける。

 

「あ、その……」

 

近寄るまで気付かなかったのか?
近眼にも程があるぞ?

 

「どうした?別に怒ったりしないから、
言いたいことがあるなら言えばいいぞ?」

 

なかなか話を切り出さない長門のために、
こちらから先に聞いてみる。

 

「……ちょっとついて来て欲しい所がある」

 

ついて来て欲しい所?
何処かへ同伴しろと言うことか?
文芸部室なら今日も行くつもりだが……

 

「違う。部室じゃない」

 

部室じゃない……と言われても、
俺には心当たりなんかないぞ?
だが……まぁ、長門のお願いを断ることもないか。
そろそろ殺気がここまで届きだすしな……

 

「まぁ、お前なら変な所に連れてったりしないだろ。
どこでもついてってやるよ」

 

俺がそう言うと、長門はほっとしたような顔をした。
俺も委員長の定規によって余計な切り傷が増えなくてすみそうだ。

 
 
 
 

「ここ……」

 

長門と俺はある部屋の前に着いた。
俺は連れてこられただけだが、この部屋が何かは知っている。
俺には縁がなさそうな部屋なんだがな……

 
 

「ここって……生徒会室だろ?」

 
 

そう、俺の目の前には、
真面目で成績優秀な人間が集まる部屋があった。

 

「なんだってこんな所に?」

 

俺は当然の疑問を長門にぶつける。
それくらい教えてもらう権利はあるだろ?

 

「実は……」

 

長門はちょっと言いにくそうな顔をする。
こういう困った顔も魅力的だな。
だが、長門の一言により今度は俺が困った顔をするハメとなった。

 
 

「呼び出された……」

 
 

長門が呼び出し?
もちろん言葉の意味は分かるのだが、状況が分からない。
しょっちゅう岡部に呼び出されている俺や谷口ならともかく、
成績優秀、品行方正、おまけに可憐な長門が呼び出しを喰らうとは……
しかもその行き先が職員室ではなく、生徒会室ってのは……

 

「長門は……別に悪いことしてないよな?」

 

確認するまでもない。
自分の名前よりもはっきりわかっている。
長門もおずおずと頷いている。

 

だからこそ余計に分からない。
誰か事情がわかる奴がいたら是非連絡してくれ。
今ならサービスで長門と30秒だけ会話させてやるぞ。

 

「……よく分からないが、呼び出された上にここまで来ちまったんだ。
とりあえず入らないわけにはいかないだろ」

 

そういって俺と長門は意を決して生徒会室のドアをノックした。

 

「入りたまえ」

 

おいおい……いくら生徒会室でも中にいるのは俺たちと同じ高校生だろ?
『たまえ』ってなんだよ『たまえ』って。

 

俺は『失礼します』と言ってドアを開ける。
呼び出された長門より先に入るのは……まぁ風除けだとでも思ってくれ。

 

そして部屋に入った俺たちの前には、
生徒会長と思しきメガネをかけた長身の男が立っていた。

 
 

「私は文芸部の部長だけを呼んだはずだが……」

 
 

目の前のいかにもエリート10年目です、って感じの男は、
挨拶も自己紹介もなしにいきなり話を切り出した。

 

「部長は、私……」

 

長門がおっかなびっくりに言う。
引っ込み思案な彼女にしてみれば、この手の高圧的な人間は天敵であろう。
今の彼女はアナコンダに睨まれたハムスターより固まってしまっている。

 

「それは知っている。では、そこにいる男子生徒は何者かね?」

 

俺の方に一瞥くらいをくれてもいいんじゃねーか?
あんまり長門をじろじろ見るんじゃない。

 

「か、彼は……その……」

 

「俺は文芸部の副部長ですよ」

 

しどろもどろな長門の代わりに俺が答える。
だが、そんな俺の言葉に目の前のキザ男は大した反応もしない。
それでも口だけは動くようで、即座に苦言を呈した。

 

「キミが副部長だと?冗談も休み休み言いたまえ。
キミは部活などせず、勉学に励んだ方がいいのではないか?
副部長などという立場が分相応とはとても思えないな」

 

なんだ?喧嘩売ってるのか?
長門を困らせるような奴だし、今からここで乱闘パーティでもいいぞ?
もちろん長門はちょっと離れててもらうが。
俺が静かに闘志を燃やしていると、横から小さな、しかし力強い声が聞こえた。

 

「そ、そんなことはない!」

 

目の前の鉄仮面の眉がピクリと動く。
それ以上に俺の身体はもっと動く。
もちろん俺の顔には驚きが張り付いてるだろう。

 

「彼は……立派な人……です。いつも不甲斐無い私を助けてくれて……
頼りになる……副部長……です」

 

長門は顔を真っ赤にして反論した。
天敵に対する緊張からか、うっすらと目が潤んでいる。
そして俺は、さっきの怒りも忘れ、
ただ側にいる少女に心の中で感謝していた。
……お世辞でも何でも、そこまで言ってもらえるなら嬉しいよ……

 
 

「ふん、まぁいい」

 

さすがの冷血漢でも、長門の熱意に打たれたのか、
俺の存在を認めたようだ。
長門の暖かさの前では宇宙に漂流する氷塊でも一瞬で溶けちまうだろうな。

 

「時間も惜しいことだ。早速本題に入らせてもらおう」

 

奇遇だな。
俺もさっさとこんなところをおさらばして、
部室に行って長門と二人で読書がしたいぜ。

 

だが、俺のその願いは生徒会長の言葉によって砕かれた。

 
 
 

「文芸部を無期限活動停止処分とする」

 
 
 

「……!?」

 

驚きのあまり声が出ない。
長門も口に手をあて、目を大きく見開いている。
そんな俺たちの様子を見ながら目の前の鉄面皮が再び口を開いた。

 

「聞こえなかったのかね?」

 

この距離と声量だ。
聞こえないわけがない。ただ理解してないだけだ。
そんな俺の心を読んだのか、生徒会長は言った。

 

「文芸部を事実上の廃部とする。荷物をまとめて出て行きたまえ」

 

「ふざけんな」

 

ようやく口を開くことができた。
先ほど消えた怒りがまた湧き上がる。

 

「ふざけているのはキミ達の方だ」

 

表情を変えずに目の前の人間が話を続ける。

 

「部員2名。顧問不在。さらに活動といえば、読書をするだけ。
これを部活として認め部費を渡すほど生徒会費は潤沢ではないのだよ」

 

確かにその通りだ。
文芸部は顧問もいなければ、部員も1年生が2人しかいない小さな部だ……
だが、消されたくない。

 

「……どうして……そんな急に……」

 

長門が小さな声で言う
確かに前もって通達があれば俺たちはそれなりの活動はしただろう。
読むだけでなく書くこともやったかもしれない。
谷口辺りを無理矢理入部させることもできたかもしれない。
だが、俺のそんな考えを呼んでいたかのように生徒会長は切り返す。

 

「事前通達をして、君たちが何か悪知恵を働かせるとも限らん。
わが生徒会としては、そのような手練手管で言い逃れをされたくないのでね」

 

くそ……完全に文芸部を潰す気でいやがる。
詰め将棋のように道を潰され、歯軋りをする俺に打つ手はなかった。
横でへたり込む長門に俺は何もしてやれないのか……
悔しさのあまり握り締めた手のひらに爪が食い込む。

 
 
 

だが、そんな俺たちの前……いや、正確には後ろに、救いの女神が現れた……

 
 
 

「あら、長門さん。どうかしたのですか?」

 
 
 

突然声を掛けられた長門に釣られて俺も後ろを振り向く。
そこにはいつの間にドアを開けたのか、一人の女子生徒が立っていた。

 

「喜緑君か」

 

心なしか冷血人の声のトーンが変化する。
だが、俺はそんなことに構っている余裕はなかった。

 
 

目の前で長門がその女子生徒に抱きついて、
大声で泣いてるんだからな……

 
 

キミドリと呼ばれたその女子生徒は長門の頭を撫でながら、
生徒会長のほうに顔を向けてこう言った。

 

「会長……私の知人を泣かせるとはどういった了見でしょうか?」

 

その顔を横から見ていた俺は戦慄した。
阪中のようにおっとりした雰囲気と表情の彼女が、
まるでライオンですらとって食っちまいそうな目をしてたんだからな。

 

だが、そんな彼女の表情より驚くべきことが起きた。

 

「なんだ……お前ら、江美里の知り合いだったのか……」

 

今度は生徒会長のほうを振り向いて驚いた。
さっきまでそこにいたはずの石仮面が、
申し訳なさそうに頭をかいていたんだからな……

 
 
 

長門が泣き止むのを待って俺は喜緑さんに話を聞くことにした。
ちなみに長門は俺のハンカチで嬉しそうに涙をぬぐっている。

 

「あの……喜緑さんと長門はどういった関係なんですか?」

 

さっき長門に向けていたような穏やかな表情で、
その上級生は俺の質問に答えてくれた。

 

「長門さんとは同じマンションに住む幼馴染です。
あなたのクラスの朝倉さんと長門さんと私は小さい頃から仲良しなんですよ」

 

なるほど、朝倉や長門と幼馴染だったわけですか……ってあれ?

 

「何で俺と朝倉が同じクラスだって……」

 

俺はこの人に会った事はない。
なのに、俺と朝倉が同じクラスということを何故知っているんだ?

 

「それなら簡単なことです」

 

そういって喜緑さんは長門の顔をちらりと見た。
長門は生徒会長からお詫びの代わりに貰った茶菓子をおいしそうに食べている。

 

「長門さんと一緒にいる男の子なんてあなたしかいないでしょ、キョン君」

 

「ッッ!!?ごほっ、けほ、けほ」

 

盛大にむせる長門。
茶菓子を吹き出さなかっただけマシだな。

 

「喜緑さん!?」

 

むせたのが恥ずかしかったのか、
長門は耳まで真っ赤にしている。

 

「この子って口にする人名のほとんどが『キョン君』なんです」

 

それで喜緑さんは俺の名前まで知っていたのか。
それにしても話題のほとんどが俺って……
もっと交友関係を増やした方がいいぞ長門。

 

「あともう一つ……会長さんとはどういった関係で?」

 

「それは……」

 

「恋人に決まってるだろ」

 

喜緑さんの言葉をさえぎり、
窓辺でタバコの煙をくゆらす生徒会長が答えた。
どうやら俺たちは喜緑さんの知り合いとみなされたらしく(長門は事実だが)、
素の性格に戻ったようだ。
まぁ生徒会長が不良ってのがばれてはまずいだろうしな。

 

「一応、そういうことになっていますね」

 

やんわりと告げる喜緑さん。
一応ってなんですか、一応って。

 

「でも私の最愛の妹とも言える長門さんを泣かせるような男と、
これから付き合っていけるのでしょうか……」

 

わざとらしくアンニュイな雰囲気でため息をつく喜緑さん。
しかし、会長には効果てきめんらしく、

 

「だから、それはスマンて言ってるじゃねーか。
ほんと、この通りだ」

 

必死で机に手をつき謝る会長氏。
さっきより断然こっちの方がいい男だぜ。
かなり尻にしかれている感があるけどな……

 
 

「ところで、キョン君」

 
 

不意に喜緑さんが真剣なまなざしで俺を見つめる。
そして、問いかけてきた。

 

「本当に文芸部を無くしたくないですか?」

 

「はい」

 

俺は即答する。

 

「文芸部が無くなれば、その分の部費を他の事に使えるようになります。
たとえば校舎の設備を充実させたり……」

 

「それはわかります」

 

実際そのように使うのだろう。
会長が少し着服したそうなことを言っていたが、
この人の前ではできそうも無い。

 

「……あなたたち二人の犠牲により、
この学校の全ての人が恩恵を受けるのですよ?」

 

どっかの偉い人が言ってた『最大多数の最大幸福』って奴か。
確かに俺が言っていることはマイノリティのわがままだ。
だけど、俺は正直にこう言った。

 
 
 

「長門が泣くような真似は絶対にしたくないし、されたくもありません」

 
 
 

長門を泣かせるような奴は、
たとえ神様だって許すつもりは無い。
即行でチェーンソーを使ってばらばらにしてやる。

 

そんな俺の様子を見た喜緑さんは、
長門にただ一言、

 

「よかったですね……」

 

と優雅に微笑みながら言った。

 
 
 

さて、はれて存続が決定したした我らが文芸部だが、
実は去年まではそこそこ部員がいたらしく、
部費が結構あったことが判明した。

 

会長も『サービスだ』と言って、
去年のままの金額で部費を割り当ててくれたため、
使い道に大いに迷うこととなった。
……まぁ長門の本代で全て消えそうだが……

 

『やはり自分のお金で買う……』と遠慮する長門に、
『文芸部に入る後輩たちのためにも、文芸部用に部費で本を買う方がいい』と、
半ば強引に説得した俺は、さっそく長門を本屋に連れて行くことにした。

 

最初は渋っていた長門だが、俺もついていくことを告げると、
途端に明るくなって快諾した。
やっぱり一人じゃ持ちきれない量の本を買おうとしてたんだな。
だから俺という荷物持ち要員を確保できて嬉しいんだろうね。

 
 

ま、長門に頼られるのは悪くないけどな……

 
 

俺は嬉しそうな文学少女の横顔を見ながらそう思った。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:25 (2704d)