作品

概要

作者書き込めない人
作品名気ままな文芸部室 6 長門ルーム編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-12 (火) 22:42:55

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

俺は今、長門の部屋にいる。
一応言っておくが、やましい事は何もしてないぞ。
ただ長門と二人で静かに読書に励んでいるだけだ。
年頃の男女が一つの部屋で黙々と読書ってのもどうかと思うが……

 

「ふ〜」

 

俺はたった今読み終えた小説を横に置き、
側にあった時計に目をやった。
……もうこんな時間か……
我が家ではもうそろそろ晩飯の時間だ。
食卓につき俺の帰りを待つ母親と妹の姿が浮かぶ。

 

母親からの怒りの電話が掛かってくる前に、
こちらから帰りが遅くなることを連絡するか……

 

そう思った俺はケータイを手にとり、
そして何気なく窓の外を見た……

 

「……な!?」

 

視界の隅で俺の声に長門が驚いているのが見える。
そして俺の視線の先を追いかけ……

 

「……!?」

 

またもや驚いた。
俺たちが驚いたのは無理もない……

 
 

……いつの間にか外の天気が大雨になってたんだからな……

 
 

この地域は降雪量が少なく、
真冬でも雪が降ることは少ない。
積もるほどの雪ともなれば1年に1度あるかないかだ。
つまり冬だろうが夏だろうが、ここでは『降る』ものといったら大抵雨だ。

 

それにしても長門の部屋はよほど防音対策ができているのか、
まったく雨が降っている気配を感じなかった。
造りはしっかりしてるんだな。

 

などと考えている場合ではない。
この中を帰るのか……
今日は夜から降るとは聞いてなかった俺が傘を持っているわけがない。
つまり、この中を濡れて……
自殺行為だな。風邪をひいて死んでしまう。

 

だが、帰らないと俺の分の晩飯がなくなってしまう。
というより、母親になんと言われるか……

 

「あ、そうだ」

 

俺は名案を思いつく。
傘なら長門に借りればいい。
多少小さいだろうが、濡れ鼠にはならずにすむ。

 

「長門、スマンが傘を貸してくれないか?」

 

俺は自分のカバンを探しながら聞く。
読んでた本はここにおいておいた方がいいか……濡れては困る。

 

だが、探し物をしていると、制服の袖が何かに引っかかった。
……何だ?
俺が何が引っかかったか確かめるため振り向くと……

 
 

そこには不安げな顔をしている長門がいた……

 
 

長門……なんで俺の袖をつかんでんだ?
当然のように疑問に思う俺だが、
心の中ではその答えに見当がついていた。

 

「もう……帰る?」

 

寂しげに言う長門。
本を片付けカバンを持とうとしているのだから、
誰が見ても帰ろうとしているように見えるだろう。

 

「外は……ひどい雨」

 

俺の身を案じてくれる長門。
おそらく今長門の心の半分は俺への心配で占められているのだろう。

 

「あぁ……母親が晩飯作って待ってるしな……」

 

「……そう」

 

消え入るような声で目線をそらし、つぶやく長門。
俺の袖をつかむ指が震えている。

 
 

やれやれ……
どうやら俺はこいつの泣き顔と言うものに弱いようだ。
家に帰ったら覚悟しなきゃならないな……

 

そう考えながら俺は家に電話をかけていた。

 
 
 

「あ、母さん。俺だよ。そう、まだ国木田の家にいるんだが……この雨で帰れそうにない。
しばらく雨宿りさせてもらうから晩飯先に食っててくれないか」

 
 

ケータイを切った俺は改めて長門のほうを向いてこう言った。

 

「というわけだ……しばらく雨宿りさせてもらっていいか?」

 
 
 
 

さて、この部屋に留まることになったのはいいが、
いかんせん腹が減った。
昼から何も食ってないわけだからな……
情けないが、長門の晩御飯を少し恵んでもらおうか。

 

「長門……少し小腹がすいたんだが……何か食うもんないか?」

 

だが、そんな俺に対し、長門はただ一言こう言った。

 

「……今お米しかない……」

 

そういって長門は申し訳なさそうに台所を指差していた。
……俺の目には炊飯器は開いてるように見えるんだが……

 

「本を読むのに夢中でご飯を炊くのを忘れた……」

 

つまり本当に『米』しかないわけか……
っておい、冷蔵庫に何かあるだろう。

 

「レトルトのカレーならいくつか……」

 

お前は普段何を食ってるんだ……
量といい質といいもうちょっと何とかしてくれ。

 

「キャベツなら千切りにしてサラダにできる」

 

嬉しそうに言う長門。
キャベツの千切りはサラダとは言わないぞ?
第一それだけを食わされるのか俺は……

 

「もうちょっと何かしら買っておけよ……体に悪いぞ?」

 

主食がカレーとキャベツとパンでは栄養バランスがむちゃくちゃだ。
それに俺としては買い込んだ食事で料理する長門を見てみたい。
エプロンつけて料理する長門……たまりません。

 

「第一、お前今日の晩御飯はどうする気だったんだ?」

 

米を研ぐことすらしていない文学少女に尋ねた。
この天気では外に食料を買いに行くのも無理だな……
だが、そんな俺の憂鬱思考をよそに長門は明るく言った。

 

「それなら大丈夫……」

 

今もうすでに大丈夫じゃないんだが……
だが、俺は長門が次に発した言葉を聞いて、今以上に大丈夫ではなくなった。

 
 

「今日は朝倉さんが晩御飯作ってくれる」

 
 

長門が言うや否や玄関からチャイムの音が聞こえてきた。

 
 
 
 

俺は今フローリングの上で正座させられている。
背後に位置するコタツの上にはおいしそうなおでんの鍋が、
正面に位置する背の低い棚には我らが委員長、朝倉が座っている。

 

「ここは長門さんのお部屋よね?」

 

その通りです。

 

「長門さんって一人暮らしよね?」

 

おっしゃるとおりです。

 

「じゃあ……なんであなたがここにいるのかな?」

 

殺気出しすぎですよ朝倉さん。
せっかくの麗しいお顔が台無しですよ。

 

『朝倉さん、いつまで炊飯器見てればいい?』

 

ナイスだ長門!!
朝倉の気をそらして俺を助けてくれ!!

 

「長門さん。ちゃんとご飯が炊けるまで見張っておかないとダメよ」

 

俺の儚い夢潰える。
ちなみに長門は朝倉の『大切な人においしいご飯を食べさせるためには、
ご飯が炊けるまで見張っておかないとダメよ?』という言葉を真に受け、
現在一生懸命見張りの任務を遂行中だ。
いくら朝倉が大切でもそこまでするとは……
というか炊飯器を見張っても何も出ないことに一刻も早く気付いてくれ。

 

「さぁキョン君……長門さんには悪いけどお話を続けましょ?」

 

これを『お話』と言うのか……始めて知ったよ。
俺はこういうのはてっきり『尋問』だと思ってたんだがな。

 

「口が開かないなら手伝ってあげましょうか?」

 

訂正……『拷問』だ。
うすうす感づいてはいたが、こいつは真性のSだ。

 

「さっきから何の話だ……」

 

俺はとぼけたフリをする。
別にやましいことはないのだが……何となくだ。

 

「そう……そんなに話したくないのね……」

 

口では諦めたかのごとく話しているが、
あふれんばかりの殺気が惨劇が続くことを表している。
俺が次の攻撃……いや口撃を予想していると、
朝倉は意外なことに長門を呼びだした。

 

「長門さん」

 

『なに朝倉さん?』

 

台所からせせらぎの様な声が聞こえる。
ああ、癒される……

 

「ちょっとおでんの卵切ってくるの忘れちゃったみたいなの〜」

 

イキナリ何だ?
何でここで後ろのおでんが出て来るんだ?
そもそもお前今そっちの方見てなかっただろ?
謎の急展開に思考が混乱する俺。

 

『そう……でも大丈夫、朝倉さん……』

 

だが、長門の返答を聞いて俺は、人生で最大のピンチに遭遇したことに気付いた。

 
 

『包丁ならここにある……』

 
 

にやりと笑う朝倉の横で俺は生まれて初めて戦慄を味わっていた……

 
 
 

朝倉が台所に向かった隙に逃げようとする俺。

 

『最初からこうしておけばよかった』

 

その言葉で俺は身体を動かせなくなっているのを知る。ありかよ!反則だ。
あいつはこの展開を読んでいて俺に正座させたのか……
くそ、マジで足が……

 

俺の耳に悪魔の足音が聞こえる。いや、魔王か。助けてお父さん!!
足の痺れが回復するより早く朝倉は目の前に立っていた。

 

「さぁキョン君……長門さんには悪いけどお話を続けましょ?」

 

猫を膝に抱いて背中を撫でているような笑顔で、朝倉は右手の包丁を振りかざした。
軍隊に採用されてそうな恐ろしげな包丁だ。

 

『朝倉さんがくれたその包丁、すごく切れ味がいい。
ありがとう……』

 

長門が無邪気に俺の恐怖を倍増してくれる。
目の前の笑顔のプルートはじわじわと寄ってくる。
くそ、冥王星はもう惑星じゃないんだぞ。

 

「冗談はやめろ」

 

こういうときには常套句しか言えない。

 

「マジ危ないって!お前が本気じゃないとしてもビビるって。だから、よせ!」

 

もうまったくワケが解らない。分かる奴がいたらここに来い。そして俺に説明しろ。

 

「冗談だと思う?」

 

朝倉はあくまで晴れやかに問いかける。それを見ているとまるで本気には見えない。
笑顔で包丁を向けてくる女子高生がいたら、それはとても怖いと思う。
と言うか、確かに今俺はめっちゃ怖い。

 

「安心して……卵を切るだけだから……」

 

だったらその殺気は何だ。
長門はこのピンチに助けてくれそうもない。

 

「ただ……」

 

顔と口調だけ残念そうに言う朝倉。
だが包丁をもてあそぶ手つきが尋常ではない。

 

「キョン君が私の質問に答えてくれないと…」

 

そういって朝倉はおでんの鍋に包丁を突き刺した。

 

「手が滑っちゃうかも……」

 

……朝倉が笑顔で引き抜いた包丁には……ど真ん中を貫かれた卵がついていた……

 
 
 

「なんだ〜長門さんがいい、って言ったのね」

 

だから最初からやましいことはないって言ってるだろ。
むしろ理性を崩壊させなかった俺を褒めてくれ。

 

「ホントに何もしなかったのね?」

 

包丁をくるくる回しながら朝倉は聞いてくる。
頼むからそれは長門に返してくれ。

 

「ずっと読書してただけだ。そうしてたらこの天気で帰れそうにないから、
雨宿りさせてもらっていただけだ」

 

「ホントのホントね?もし長門さんに聴いておかしな事があれば……」

 

そういって朝倉はまたも俺の皿の上のものに包丁をつきたてる。
いい加減この卵を許してやってはどうだ?もう原形をとどめてないぞ。
ついでに俺も解放して欲しい。

 

「まぁいいわ。長門さんの様子を見る限りひどいことはされてないでしょうし」

 

どうみても最初から言っています。
本当にありがとうございました。

 

「それにそろそろご飯が炊けるしね……」

 

朝倉の言葉と同時に台所から電子音と『できた』という声が聞こえた。

 
 
 

「……我慢できずにおでん食べようとしたの?」

 

長門が俺の皿の元卵を見て言う。
お前は俺がこんなぐちゃぐちゃにして食うと思うのか?

 

「味は私が保証するからキョン君も遠慮なく食べてね。
その卵も出汁が染みてておいしいわよ」

 

ついでに恐怖と言う名のスパイスも効いてるぜ。
卵に憐憫の情を感じたのは小学生の時以来だ。

 

「ご飯が炊けたならさっさと食わねぇか?腹が減った」

 

これは本心だ。
さっきの拷問も合わせて俺の体力はほぼ0だ。
ちなみに家には晩飯不要の連絡を入れた。
母親の愚痴が聞こえそうだ。

 

「じゃあご飯を入れてくる」

 

あぁ長門は優しいな。
将来いいお嫁さんになるぜ。

 

「あ、私はいいわよ長門さん。ダイエット中だから」

 

何故か焦っていう朝倉。
せっかくお前のために見張りをしてくれた長門に申し訳ないだろう。
ちょっと憤りを感じる俺。

 

だが、このとき俺は気付くべきだった……

 

長門が何に俺のご飯を入れようとしているのかを……

 
 
 

「おまたせ」

 

そういって長門はご飯を持ってきてくれた。

 

「……」

 

これは俺の沈黙だ。
というより声が出ない。

 

「お皿がそれしかなかった……少なかったら言って」

 

そう言って長門はおれの目の前に山のようなご飯を載せた深いカレー皿を置いた。
山のようなって言うか実際に山だ。それも急勾配の山だ。
これのどこが少ないのか聞いてみたい、

 

「こ、これは……」

 

どうやってこれを減らすか画策する俺の目の前に、
またしても悪魔が光臨した。

 

「せっかく長門さんが炊いてくれたご飯なんだから、
キョン君は残さず食べるわよね?」

 

くそ、ご飯を炊くなんて研いでスイッチひとつで誰でもできるぞ。
だけどかわいい女の子が炊いてくれたというだけで、
ありがたみが増す俺の精神の不思議。
そして、男として残すことはできぬというこの辛さ。

 

「まだあるからたくさん食べて」

 

笑顔でそういう長門は、それはもう可愛かったよ……
そんな顔で言われたら俺も覚悟を決めるしかない。

 

「い、いただきます……」

 
 
 

結局俺は生まれて初めて晩御飯に1時間以上かけることになった。

 

まぁご飯もおでんもめちゃくちゃうまかったけどな……

 
 
 

追記

 

ある少女の気持ち

 
 

この部屋に私はいつも一人。
学校に行けば友達がいるけど、
教室を出ればまた一人。
放課後も一人で本を読む……だけ

 

寂しいわけではなかった。
たまに幼馴染たちが部屋に遊びに来てくれる。
それに一人でいると気兼ねしないですむ。

 

誰かと何かをする……
私にとってはちょっと疲れること……
けれど、その後一人で落ち着いて読書に耽る時の
なんとも言えない安堵感が好きだった。

 

そのときも、『彼』が帰った後は
落ち着いてまた本を読もうと思った。
『彼』だって夜になれば家に帰らなければならない。
あんまり遅くなると両親が心配するだろう。

 

『その時』まではそう思っていた。
気付けば私は『彼』の袖をつかんでいた。
怪訝な顔をする『彼』はそれでも私の顔を見てくれる。
おそらく突然のことに驚いているのだろうか。
私自身もどうしてこんなことをしているか分からない。

 
 

私が指を離さないと彼は帰ることができない。

 

「もう……帰る?」

 

違う。今すべきことは質問ではない。

 

「外は……ひどい雨?」

 

それならばさっき『彼』が提案したとおりに傘を渡せばいい。

 

「あぁ……母親が晩飯作って待ってるからな……」

 

「……そう」

 

その通りだ。だから早くこの指を離さないと。
だけどどうやっても私の指は離れようとしない。どうして?
このままでは彼に迷惑がかかってしまう。
私は懸命に『私』を説得する。お願い……離して……
私の想いと裏腹にしっかりと袖を握る『私』……

 

『彼』は私のことを見つめていた。
あなたの力なら私の指くらい軽く解けるはず。
いっそのこと全て断ち切ってくれれば……

 

気付けば『彼』とつながっている私の指が揺れている。
いや、揺れているのは世界?
下を向いた私の世界は水に満たされていた。

 
 
 

ふいに頭上で彼の声が聞こえた。

 

……今……なんて?

 

私は今聞こえた言葉を理解することができなかった。
けれどその次の言葉は聞こえた……

 
 

「というわけだ……しばらく雨宿りさせてもらっていいか?」

 
 

そういって『彼』は私に微笑みかけてくれた。

 
 
 

『彼』が私に寂しさを教えてくれたけど、
私の寂しさは『彼』が埋めてくれる……
これからもそうだといい……な。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:25 (2622d)