作品

概要

作者書き込めない人
作品名気ままな文芸部室 4 昼休み編
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-09-07 (木) 18:35:23

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

ただいま我らが5組は英語の授業中である。
先ほど体育のマラソンという苦行を乗り越えた俺が、
他国の言語習得にやる気を出せるわけもなく、
そうなれば、俺がとるべき行動は一つしかないわけで……

 

つまり、俺は寝ていた。
はっきり言おう。爆睡だ。
なんせ机の上の教科書もノートも閉じたままなんだからな。

 

幸いにも後ろの席の委員長に咎められることもなく、
教師にも半ば諦めかけられてる俺は授業のほとんどを寝て過ごした。
こうして俺の成績はまた一歩地底に突き進んでいったわけだ……

 

さて、午前中の授業が終わり、昼休みとなった。
いつもなら俺は国木田と谷口の近くに行って弁当を食うのだが、
習慣とは恐ろしいもので俺はいつものように弁当を持って席を移動しようとした。

 

……スマン朝倉。長門さんとの約束を忘れてたわけじゃないんだ。
ただちょっと体がいつものように動いただけなんだ。
だから俺の首筋に当てた定規を下ろしてくれると助かる。

 

「じゃあ、行って?」

 

冷たい金属製の定規を下ろし結構軽く言ってくれる朝倉。
しかし、どうやって谷口と国木田をごまかすか……
既に弁当を持っているところは見られてるわけだから『食堂』という言い訳は却下だ。
アホの谷口はともかく、国木田からはから揚げをもらう約束をしてるから、
誤魔化すのは難しい。
だが、早く行かないと背後にいる女の殺気で死んじまいそうだ。
とりあえず華麗にスルーしてみるか……そーっとそーっと……

 

「おい、キョン。弁当持ってどこ行くんだ?」

 

谷口空気を読め。
見えないけど多分朝倉もお前のこと睨んでるぞ?
仕方なく俺がこのアホのために適当な言い訳を考えていると、国木田が助け船を出した。

 

「キョンは寝ぼけてるんだよ。それより谷口またチャック開いてるよ?」

 

驚いて自分の股間を凝視する谷口。
奴の視線が逸れた今がチャンス!
国木田のナイスプレーによって教室を脱出した俺は、
弁当を持って急いで文芸部室に向かった。
国木田、から揚げはチャラにしといてやるぜ。

 
 

文芸部室のドアの前に立った俺は、
ここで初めて『女の子と二人きりでお昼ご飯』ということを意識した。
しかもお相手はシロツメクサのように可憐な長門さんだ。
緊張しない方がおかしい。
だが、ここまできて引き返すわけにも行かない。
そんなことをすれば、俺は後ろの席に鎮座しているオーガに殺されかねんからな。

 

覚悟を決めて俺はドアをノックした。
普段はしないんだけどな……

 

「は、はい!?」

 

長門さんも突然のノックで驚いてるみたいだな。
俺としてはもう先にお昼ご飯食べ初めてて、
口に物を入れたまま『ふぁ〜い』って感じの返事をしてくれるのを、
少しは期待したりしないわけでもなかったんだが……

 

だが、ドアを開けた俺はまったく予想外の事態に遭遇した。

 

「な……」

 

あまりの光景に言葉をなくす俺。
危うく弁当を落とすところだったぜ。
なんたって今俺の目の前には……

 
 

はにかむ様な愛らしい表情の長門さんと……

 
 
 

はじける様な量のパンがあったんだからな……

 
 
 
 

「え〜と、長門さん?」

 

「なに?」

 

きょとんとした顔もかわいいですね……って、そうじゃない。
今はこの状況を説明してもらわねば。

 

「このパンは……一体?」

 

そういって俺は確実に10人がかりで食っても、
余裕で余りそうな量のパンを指差す。

 

「さっき買ってきた」

 

そりゃ、パンだけを送りつけてくるサンタさんがいない限り、
買わないとここにはないでしょうが……

 

「私は…お弁当作ってない……から」

 

長門さんが悲しげに話す。
確かに母親が作ってくれる俺とは違い、
一人暮らしの長門さんが弁当を持ってこないのは一理ある。
料理って最初は楽しいが、時と共にめんどくさくなるものだからな。
そして、弁当を持ってこない生徒が昼ごはんを食べるためには、
食堂か、コンビニか、購買しかないわけだ……が、
それでも説明がつかないことがある。

 

「なんでこんなに?」

 

俺の目の前にいる少女の体型は、
どうみてもアンパンひとつで容量オーバーだ。
これだけの量あれば1ヶ月は過ごせるんじゃないか?

 

「それは……」

 

顔を赤らめもじもじしながら長門さんは答えた。
毎度の事ながらこの仕草はたまりません。

 

「さっきのマラソンであなたもお腹へってると思って……」

 

思わず抱きしめたくなったね。
長門さんはマラソンで普段より空腹になっている俺を気遣ってくれたらしい。
なんて優しいんだ〜っておいっ!!

 

「気持ちはありがたいんだが、俺は弁当あr……」

 

そこまで言った所で長門さんが明らかにしょんぼりしたので、
俺はあわてて言い直す。

 

「……弁当あるけど、パンもすごく食べたいな。
だからここはお言葉に甘えさせてもらうよ」

 

途端にパーッと明るくなる長門さん。
ウチの妹みたいだな。純粋って事はいいことだ。

 
 

だがこの量はどうすべきか……最悪家にもって帰って
ちまちま食べるか……そう考えながら俺は弁当を開けた。

 
 

バリッ……

 
 

袋を開ける音が聞こえる。
どうやら長門さんも今から食べるようだ。

 
 

もきゅもきゅもきゅ……ごくん……

 
 

あれ?今3回しか噛まなかったんじゃないか?
そんな小さなパンも買ってたのか。
まぁ長門さんの体ならそれくらいが限界なんだろな。
シマリスの方がもっと食べそうだぜ……

 
 

バリッ……

 
 

あれ?

 
 

もきゅもきゅもきゅ……ごくん……

 
 

なんかさっきもこの流れを聞いたぞ?
俺が見る限りでは焼きソバパンやカレーパンばっかりだった気がするが……
小さなパンがそんなにあったのか?

 
 

バリッ……

 
 

3回目の袋を開ける音が聞こえたとき、
俺はその音がするほうを向いた。

 

そして俺はついに見てしまった……

 
 

もきゅもきゅもきゅ……ごくん……バリッ……もきゅもきゅもきゅ……

 
 

「な……」

 

一日に何回絶句すりゃいいんだろうね。
だが、目の前で繰り広げられてる光景を見れば誰だって声をなくすぜ……

 

俺より大分小さな女の子が……でかい惣菜パンを3口で食ってるんだからな……

 
 

しばし俺は箸を持ったまま目の前のパンの大量虐殺をただ眺めていた。
俺の視線に気付いたのか、その殺パン鬼は顔を赤らめた。

 

「何か……変?」

 

傍から見ればどう見ても普通の儚げな女の子だ。
手に持ってる食いかけのカツサンドパンと机の上の空き袋の山を除けばな。

 

「いや、変てゆーか……」

 

思わずタメ口になる。
鏡で顔を見たらかなり間抜け面してるんだろうな、俺。

 

「お前……よく食うな……」

 

「それは……体育で運動したから……」

 

照れながら言ってるが、
やはり手に持っているコロッケパンが似合わない。
ちなみにカツサンドパンは既に無くなってしまった。

 

まぁマラソンでアレだけの走りを見せたのだから、
通常よりも腹が減るのは分かる。
実際俺ももう腹ペコだったしな。
だから多少多めに買ってきたんだろう。きっとそうだ。そうにちがいない。
いつもはパン1個で充分なんだろう。無理矢理でも俺はそう信じるぜ。

 

「あなたの分も合わせて普段より2割くらい多めに買ってきた」

 

2割か……俺の予想大外れだな……
せっかく『長門さんは普段はメロンパン1個でお腹一杯』という認識を
頭の中で積み上げていたところなんだがな……

 
 

俺が黙々と弁当を食べ始めた頃には、
机の上に山のように積んであったパンのほとんどが空き袋となっていた。

 
 
 

彼とお昼ご飯を一緒に……
誘った時は恥ずかしかったけど、今は幸せ…
彼の顔を見ながら食べるパンって最高においしい。

 

……でも彼はいつもあんな小さなお弁当だけ?
あれでは5分で空腹になる。
彼のためにもっとたくさんパン買って来ればよかったかもしれない……

 

それにしても彼のお弁当……おいしそう……
特にあの卵焼きとか……
朝倉さんだったら『はい、どうぞ』と言って私にくれるのだけど……

 
 
 

さて、キョン君が文芸部室に行ってから15分くらい経過したかしら。
キョン君も驚いたでしょうね……有希ちゃんああ見えて大食いだから。
いつも思うけどどこに入ってるのかしらね?

 

それにしても毎度のコトながらあの子の食に対する欲求はすごいからね〜
私が何か食べてるとヨダレたらしそうな顔で見てるもんね。
あの顔を見たらつい上げたくなるのよね……
あの『ありがと……』って顔が小動物みたいで可愛いわ〜
『おいしい?』って聞いたら元気一杯『うん』て答えてくれるし……

 
 
 

机の上のパンの数が1桁になったあたりで袋の音がしなくなった。
もうごちそうさまかと思ったが、顔を見る限りそうではないらしい。
お客様が持ってきたケーキを見る妹のような顔をしているからな……

 

「……食べたいなら食べたらいいぞ。我慢は体に良くないし」

 

アレだけの食いっぷりを見せられたら逆にすがすがしいぜ。

 

「で、でも……」

 

やはり自分で俺のために買って来たと言った手前、
食べるのがはばかられるらしい。
仕方ないので俺は適当にパンを1個つかんで言った。

 

「俺はこの1個で充分だ。残りは食べてくれ」

 

実際1個で充分だ。
俺の言葉を受け取り目の前の文学少女はまたパンを食い始めた。
やれやれ……ペースが変わらないのがすごいね。

 

だが、最初こそ驚いたが、やはり元気一杯物を食べているところは
見ていて可愛らしい。
長門さんがやってるのだから魅力度200%増しだ。
それに長門さんの顔を見て食べる弁当は最高にうまい!!
これは断言できるな。

 

しばらく弁当を食べていると、なにやら視線を感じた。
……何だ?
俺はそう思い視線の出所の方を見た。
そしてまたもやすごい光景に出くわした。

 

……長門様が見てる……

 

目をキラキラさせて今にもヨダレをたらしそうな顔で俺の弁当箱を見ている。
なんか俺の食ってるケーキのイチゴを見てる妹の顔にそっくりだ。
その顔で俺の弁当の母親特製出汁巻き卵を見ている。

 

妹がこの顔をしたら俺のとるべき行動はひとつに決まってる。
習性とは恐ろしいもので、俺はごく自然にその行動をとった。

 
 
 

箸で出汁巻き卵をつまんで、相手の口まで持っていく。

 

「はい、あ〜ん」

 

ぱくっ!むぐむぐ……

 

「うまいか?」

 

「うん」

 

「そうか、よかったな」

 

「ありがとう……」

 

いやいや、その顔が見れるならお安い御用だぞ…

 
 
 

……っておいっ!!!

 

何てことをやってるんだ俺は!?
妹と同じ顔をしてるからって、ついいつものように……
ってことは今のは間接キ……

 

おそるおそる長門さんのほうを見る。
まだこの事実に気付いてないのか幸せそうにモグモグしている。
あれ?急に何かを考えるような顔になったぞ?
口はモグモグしたままだが……あ、飲み込んだ。

 

その途端彼女の顔が真っ赤になった。
ゆでだこでももっと色薄いぞ。

 
 

「ご、ごめんなさい……なんてことを……」

 

なるほど、何かを食べている時は思考力が失われるんだな。
だが、どうにか俺と同じ答えに行き着いたわけか。

 

「いや、俺の方こそ申し訳ない」

 

落ち着いてるように見えるが、俺も心臓どっきどきだ。
こんなカワイイ子と間接……いかん、理性を保て俺。

 

「いつも朝倉さんにしてもらってるから……つい……」

 

朝倉さんに、って……
いつも朝倉はあんな顔で食事を見られてるのか。ご愁傷様。

 

「家では朝倉と飯食ってるんだな」

 

話をそらすために、無理矢理話題転換する俺。
こんなのが通用するのは妹と谷口ぐらいだが……

 

「えっ!?」

 

彼女にも通用したようだ。

 

「それは……」

 

どうやら学校の外でも本当に仲良しさんらしい。
それにさっきも普段言わないようなこと言ってたしな。

 

「さっきの『うん』とか『ありがとう』ってのも……」

 

更に顔が赤くなった。
脳の血管が切れないか心配だな……

 

「そ、それは……その……」

 

声がどんどん小さくなる。
ウサギさんでも聞き取れそうにない。

 

「普段は子供っぽいって朝倉さんに言われる……」

 

つまり朝倉の独占状態か。
羨ましいぞこんちくしょー。
だが、朝倉への呪いの言葉をかけることより先に言っておくべきことがある。

 
 

「俺はそっちの方がいいと思うぜ」

 
 

「……え?」

 

ちょっとビックリした顔になる長門さん。
本音を言ったつもりなんだがな……

 

「黙々と話されるよりそっちの方がいい」

 

「で、でも……」

 

「いつまでも他人行儀なのもイヤだしな。
それにウチの妹みたいだったぜ」

 

「それはそうだけど……って妹みたいって子ども扱いされてる気分……」

 

「あ、悪い。そんなつもりじゃないんだ。
……まぁさっきのを見る限り充分子供っぽいと思うけどな」

 

「……ひどい」

 

「ははは、やっぱり長門はそっちの方がいいぞ」

 

「そう……え!?」

 

またもや驚く長門。
何だ?俺変なこと言ったか?

 

「いま……私のこと『長門』って……」

 

……しまった。『さん』をつけるのを忘れてた。
むしろ頭の中でも『さん』つけてなかったな……
だけど……反省する気はおきそうにない……

 
 
 

目の前の長門が……物凄く嬉しそうな顔をしてるんだからな……

 
 
 

こうして俺と長門のささやかなランチタイムは終了した。
ちなみに弁当は残さず食べたぜ。
おかずの半分を長門に食われちまったが。

 
 

ついでに箸は換えずにそのまま使い続けた。
おかげで教室に帰っても顔が赤いままで、
朝倉にいろいろ言われたわけだが……

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:24 (2624d)