作品

概要

作者De lorean
作品名長門書店
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-07-23 (日) 07:05:57

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 
 
 
 

梅雨はあけたが、湿度と気温はますます上がり、
プラゲージの中のカブトムシに謝りたくなってくる7月の昼下がり。
野暮用で入り込んだ裏路地で、俺はその店を見つけてしまった。

 

―「長門書店」―

 

まさか。と思ったが、そのまさかだった。
店の入り口に置かれたチェアに、ちょこんと腰掛けていた。
制服の上に、エプロン。

 

「・・・長門?」
「・・・・・(顔をこちらに向ける)」

 

「なにやってんだ? こんなとこで。」
「・・・書籍の修繕、販売。」
「それは分かるんだが、どうしてお前が。 というか、長門書店ってなんだ。」
「ここは、私の店。」
「いつの間に店なんか構えたんだ?」
「この店舗の存在を周知されるのは、営業戦略上、不都合。 よって秘密にしていた。」

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

私はこれまで、ヒト社会で生活するにあたり必要となる資金を、
情報統合思念体 本体からの支給によって賄っていた。

 

情報統合思念体 本体が、ヒトの金融市場において、最小限の情報操作を実施。
その結果発生した余剰利益が、私に活動資金として支給されていた。

 

しかし、すべての生命体は、その活動を維持するために行動し、その対価として生を得ている。
ヒトの場合、勤労の結果として賃金を受け取る。
そしてその貨幣で、食料、その他を購入することで、生命活動を維持―「欲」を満たしている。

 

私も、形態としてヒトのそれをとっている以上、
勤労せずに生命活動を維持するのは、不自然であると判断した。

 

「働かざるもの、食うべからず。ってところか。」
「そう。」

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

「しかし、なんで本屋なんだ?」
「・・・・・」
「お前が、本屋を起こすことにした理由、さ。」

 

本が好きだから本屋、ってのは、なんとなく理解できる。
だがそれなら、どこかの本屋でバイトをすればいい話だ。
なぜ、わざわざ1から事を起こしたんだ?
稼ぐどころか、逆に金がかかるだろうに。

 

「私は自身の情報を操作することによって、あらゆる環境に適応できる。
    私は現在、136の職種を経験している。書店への勤務も行なった。
           また、採算性を第一とすれば、他に候補が存在する。」

 

そこまで口にして、長門は言葉を切った。
いつもの無表情に―ほんのすこし―困惑が浮かんでいた。
必死に考えているように見える・・・うまく説明できる言葉が見つからないのだろうか。

 

だが俺には、長門の言いたいことが、なんとなく理解できた気がした。

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

「要するに、こじんまりとした本屋がやりたかったんだな。」

 

大型の書店で店員がすることと言えば、在庫の整理とレジ打ちくらいで、
客は客で好き勝手に本を選んで、それをレジに持っていくだけだ。
長門は長門なりに、それだけではつまらない、と考えたんだろう。
本を通じて、もっと客と話がしたい。いや、むしろ話を聞きたい、というのが正解か。
それには小規模で、その分内容の濃い店舗が都合がいい。

 

本が好き。本を読む人間も好き。つまり、そういうことだろ?

 

「・・・・・」

 

長門は何も言わない。
相変わらず困惑が一滴混じった無表情で、俺の顔を見ている。
長門の黒く透き通った瞳に、だいぶおとなしくなった夏の日差しが差し込んでいる。
きらきらしていて―琥珀色とでも言うんだろうか。そんな目が、俺の目を、じっと見つめていた。

 

・・・って、俺は何を言ってるんだろうね?

 

「・・・ま、そういうことにしておけ。」
「・・・・・(うなずく)」

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

しかし、どうやって元手を用意したんだ?
これだけの物件を借りて、これだけ沢山の本を集めたんだから、相当金がかかっただろう。

 

「賃貸ではない。この建築物は購入したもの。」
「なおさらだ。」
「店舗の用意に関しては、情報統合思念体に申請。
          特例的に資金、および必要書類を調達した。
 書籍は私が収集したもの。
    主に廃棄処分となったものを譲り受け、時間軸を個別に修正することで修復した。」
「家はお前のパトロンの物で、商品はお前のコレクションってわけか。」
「そう。」
「しかし、『家一軒』なんていう無茶な希望がよく通ったな。理由も理由だし。」
「申請が却下される事態も想定した。しかし受理された。」

 

もし、お前を造った思念体がお前の親父みたいなもんだとしたら、相当な親バカだな。
娘の願いをほいそれと聞いちまうんだから。

 

「・・・・・・・・・・」

 

・・・あれ? 俺、何か悪いこと言ったか?

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

さて、そろそろ行くとするかな。

 

「待って。」

 

俺を引き止めると、店の奥へと入っていく長門。

 

細長く、薄暗い店内。蛍光灯が頼りなく、青白い光を放っている。
蔵書の密度に関して言えば、そこらの書店の比ではなかった。狭い空間を、大量の書物が圧倒している。
それでいて、それらがきっちりと整理されているのが、なんとも長門らしい。
店舗のいちばん奥に、年代物のレジスタが置かれたカウンターがあり、
さらにその奥には―ノレンがかかっている―ちょっとした生活の場があるようだった。

 

長門は、縦列に並べられた本棚の奥のほうから一冊の本を取り出し、俺の前へ戻ってきた。

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

「これ。」

 

―「風力鉄道に乗って」―

 

「・・・なんで分かったんだ?」

 

確かに俺は、この本を探していたのだが。

 

正確には、妹の探し物だ。
夏休みを間近に控え、読書感想文の題材に困っていた妹に、
俺もかつて読んだことがある、この本を薦めてやった。
しかし、学校の図書室には所蔵されておらず、図書館のものは貸し出し中。
そこで、もし本屋に行くことがあれば、注文しておいてほしいと頼まれていたわけだ。

 

結局、目ぼしい書店にはどこにも置いておらず、
直接問屋に行ってみたのだが、そこでも一週間待ちとなった。
―ちなみに、野暮用とはこのことだ。

 

「また、魔法でも使ったのか。」
「・・・・・(首を横に振る)」

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

「あなたの言動、および周囲の環境より、現在の興味の対象を予測した。」
「言動って・・・」

 

それらしい話は一切していなかったと思うが。

 

「私の経験が導いた結果。」
「経験?」
「私の役目は涼宮ハルヒの監視。
 しかし、あなた達と出会うことで、私はより多くの人間と接する機会を得た。」

 

対象となるヒトを取り巻く状況と、そのヒトが起こす行動を分析、
その結果を蓄積することで、確度の高い行動予測を可能にする。
ヒトの精神分析の手段としては、ごく一般的なもの。
超人的な情報掌握、改変は行なっていない。

 

情報統合思念体より情報の提供を受ければ、同様の分析を瞬時に行なうことは可能。
今回はその手段は用いず、私という個体のみで情報収集を実施した。

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

「どちらの手段で情報の取得を経験しても、得られる情報そのものに差は無い。
                  即時性に関して言えば、圧倒的に前者が優れている。
                       しかし後者には、時間と言う密度がある。」

 

そこでまた、長門は喋るのを止めた。

 

―つまり、外部からの入れ知恵ではなく、自分自身で手に入れた力だ、と言いたいのか。
 ある種の誇りを持っているのは、間違いないだろう。
 長門の無表情から、静かな自信が滲んでいるような気がした。

 

しかし、いくら普通の分析と言ったって、
素人がそれを完璧にこなすってのは、十分超人的だと思うが・・・

 

「・・・これからもちょくちょく寄らせてもらうよ。おもしろい本を教えてくれ。」
「そう。」

 

長門はおもむろにエプロンのポケットに手を入れ、何かを取り出した。

 
 
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
 
 

「これ。」
「長門書店・・・会員証?」
「提示すれば、特典として粗茶を進呈する。おかわりも自由。」

 

そして、自分が座っていたチェアを指差し、

 

「座って。すぐに用意する。」
「え? 今からか? 気は使わなくていいぞ、もうだいぶ遅いし・・・」

 

言い終わる前に、長門はまた、店の奥へと引っ込んでいった。

 

空の模様は、夕暮れへと変わりつつある。
・・・ま、一杯くらい飲んでいってもいいだろう。

 

―しかし、SOS団の仲間内には、宣伝しておいても問題ないだろうに。
  どうせそのうちバレるだろうが・・・
   この手のことには抜群に勘の良い女を、俺は知っているからな。

 

 少なくともあの3人は、秘密にしておいてほしいと言えば、それを守るだろう。
  ハルヒも長門の言うことは、割と素直に聞くからな。
   鶴屋さんはちょっと不安だな・・・
 ・・・あ、そうそう、本の注文をキャンセルしておかなきゃな。

 

急須と湯飲みを盆にのせて戻ってくる長門を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
心地よい夏の風が、涼しさを残して吹き抜けていった。

 
 
 

 
 
 
 

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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:18 (2003d)