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作者 | おぐちゃん |
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作品名 | 県立北幼稚園 第九話 『夏への扉』 |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2006-08-28 (月) 22:23:47 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 登場 |
みくる | 登場 |
古泉一樹 | 登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
「失礼します。朝比奈さんはこっちに来てませんか?」
ある日の午後、きりん組の保母、森さんがうさぎ組にやってきた。
……嫌な予感がする。部屋を見渡すと、みくるちゃんはいなかった。だが、うさぎ組も二人ほど人数が足りない。
「すみません。ちょっと目を離した隙に出て行ったらしいです」
俺は部屋を飛び出した。園児の手前走るのはどうかと思うが、そうも言ってられまい。
幸い、心当たりはある。けさ講堂でお遊戯をしたとき、彼女は床をしきりに気にしてた。
俺は講堂に駆け込んだ。人気はない。だけど、床下に通じるハッチが開いているのは一目瞭然だった。
「どうしてあんなとこ入ったの。先生に教えてごらん」
俺と古泉は、保護した三人と講堂の隅で話をしていた。
みくるちゃんは、髪の毛にクモの巣をくっつけてべそをかいている。有希ちゃんもほこりだらけだ。
「べつに。なんでもないわよ」
そして張本人はと言うと、さっきから腕組みをして俺たちをにらみつけていた。
ハルヒちゃんは何をやらせても人並み以上に出来る子で、うさぎ組のリーダーと言える。
ただし彼女、変な癖がある。立ち入り禁止の場所にやたらと入ろうとしたり、砂場を底まで掘り返してみたり。さらに、年長のきりん組からみくるちゃんを連れ出したり。
「何でもないのに床下には入らないでしょう。なにか隠してるんですか?」
古泉がやんわり聞くが、ハルヒちゃんは答えない。仕方ない、ここは一つからめ手で行こう。
「ハルヒちゃん、何を探してるの?」
腕組みして横向いたままだが、ハルヒちゃんは確かに反応した。そう言うことか。
「なら、先生も一緒に探すよ。ひとりであんなとこ入っちゃ危ないし」
彼女はそのまま考え込んでいた。そこへ、有希ちゃんが一言。
「せんせいはだいじょうぶ。みかた。しんじて」
ナイスフォロー有希ちゃん。ハルヒちゃんは少し考えたあとうなずいて言った。
「とびらをさがしてるの」
「扉? どこに入る扉ですか?」
「あっちにいくとびら」
ハルヒちゃんは、ぽつぽつと話し始めた。
「さかのうえにはね、ようちえんじゃなくて、こうこうがあるの」
こうこう? 高校なんて、この辺にはないぞ。
「うん。でもむこうにはあるの。おんなのこはせーらーふくきてた」
どこか他の場所とごっちゃにしてるのか? でも制服がセーラー服の高校なんて、市内にはないと思うが。
「でも、ハルヒちゃんが高校に入れるのはもっと大きくなってからですよ?」
古泉が冷静に突っ込むと、ハルヒちゃんは一言答えた。
「うん。でも、もうひとりのあたしはこうこうせいなの」
? もうひとり?
「そのこうこうにいんのよ、もうひとりのあたし!
ゆきもみくるちゃんも、キョンもこいずみくんもいた。だからそっちのあたしにあいにいきたかったのよ」
「……そっちに行く扉を探してたの?」
ハルヒちゃんは大きくうなずく。
もう一人の自分、ね。しかし、そう言うのは遠慮して欲しい。
だって、宇宙人と未来人と超能力者がいるだけで、俺はもういっぱいいっぱいなんだ。その上ハルヒが二人になろうもんなら、俺にはもう面倒見切れないね。異世界人と出会えればハルヒのやつは大喜びだろうが、それを隠し通さなきゃいけない俺の身にもなってくれってもんだ。
「……せんせい?」
有希ちゃんの声で、俺は我に返った。
──なんだろう。あり得ない光景を、見た気がする。
「わかりました。その扉、先生も一緒に探しますから。
これからは一人で危ないところに入っちゃだめですよ?」
その間に、古泉が綺麗にまとめていた。まあ、ハルヒちゃんの扉探しにつきあうくらいはいいだろう。
「ほんとね! いいわ、これからあたしたちなかまだから!」
講堂の片隅で輪になる、ちぐはぐな五人組。
「……?」
既視感、というのだろうか。俺は一瞬だけ目眩を覚えた。
そのあと俺たちはみくるちゃんをきりん組に届け、うさぎ組へと帰った。
「せんせい」
廊下を歩きながら、有希ちゃんが聞いてくる。
「せんせいは、うちゅうじんってすき? おともだちになれる?」
そう言われても、会ったことないしな。だが、子供の夢を壊すわけにもいくまい。
「そうだね、お友達になれると思うよ」
すると有希ちゃんは、もじもじしながら次の質問をした。
「……それじゃ、うちゅうじんは、せんせいのおよめさんになれる?」
お嫁さんって。ちょっと遺伝子とか文化的ギャップとかが心配なんだが。
そのとき、心の中にイメージが浮かんだ。いつも本ばかり読んでいて、何事にも無関心そうだけど、実はいつも俺たちを見守ってくれている奴。
「うん。なれるよ、お嫁さん」
自分でも驚いた事に、言葉がかってに口をついて出た。
次の瞬間、有希ちゃんが俺の足にタックルしてくる。
「どうしたの? 有希ちゃん」
「……なんでもない」
有希ちゃんはなにやら嬉しそうに、俺の足にずっとしがみついていた。
さて、子供たちに本でも読んでやるか。
有希ちゃんが本を持って突進してくる。こう言うとき本を選ぶのは有希ちゃんの役目だ。
俺が椅子に腰掛けると、有希ちゃんは俺の膝に乗ってくる。……ミヨキチがやってきて以来、ここが有希ちゃんのホームポジションになってしまった。
だが今日は少し違った。
「ゆきばっかりずるーい! あたしものせなさいキョン」
そう言って、ハルヒちゃんが俺の膝に上ってきた。子供二人は正直つらいんだが。
「…………」
二人は俺の膝に座り、足をぶらぶらさせながら本の挿絵を見つめている。
かなわんよなぁ。こんな風に幸せオーラを出されちゃ、俺も怒れなくなる。
結局、俺はそのまま本を読み始めた。
二人の少女は、俺の膝で仲良く並んで、じっと俺の声に聞き入っていた。