作品

概要

作者おぐちゃん
作品名エンドレスエイト異聞 〜9253回目〜
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-08-24 (木) 21:29:39

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「お兄ちゃん、あーん」
 彼女はスプーンにカレーライスをたっぷりすくい、俺の前に差し出してきた。
 ……全員の視線が集中する中、俺はそれを口に含む。
「おいしい?」
 こんな恥ずい状況で味なんてわかるはずもなかったが、俺はうなずいた。
「……そう。このカレーはわたしが調理した」
 長門は、ごくわずかに頬を染めながらそう言った。
「はいはいそこまで。知ってるキョン、カレーだけだと葉酸が不足するのよ?
 ほら、サラダ食べなさいサラダ」
 横合いから不機嫌そうな声がし、どでかいサラダボウルが俺の目の前に着地した。
「ちなみにこれ、あたしが作ったんだけどなー」
 知ってるよ。テレビ見ながらでも、台所の騒動は聞こえてたからな。
 剣呑な顔でこっちをにらむハルヒを見ながら、俺はあいまいにうなずいた。

 

 話は八月十七日にさかのぼる。
 みんなで市民プールに行ったあの日。プールサイドを走っていたハルヒは、足を取られて派手にすっころんだ。
 転んだ先には長門がいて、二人は頭をしこたまぶつけた。
 三十分後に目を覚ました長門は、ちょっとばかりおかしくなっていたのだ。
『あのマンションは寂しい。お兄ちゃんの家がいい』
 甘えん坊長門は、みんなの目の前で堂々と言ってのけた。何というか目の前が暗くなったね。
 そしてハルヒが問題をややこしくしたのだ。
『だめよ有希! あいつと一つ屋根の下なんて、お嫁に行けなくされたらどうすんのよ!?』
 ハルヒは俺の歪んだ人格・変態的な性的嗜好・呪われたご先祖様などをさんざん罵倒したあと、
『いいわ。あたしもあんたん家に行く! 有希の貞操はあたしが守るんだから!!』
 胸を張って宣言した。かくして、地獄のような夏休みがスタートしたのだ。

 

「──あー、食い過ぎたか」
 長い夕食が終わり、俺は自室に戻ってきた。
 長門とハルヒが夕食の片づけをしている今が、俺にとっての短い平穏の時間だ。
 しかし今日ばかりは、そうも行かなかった。
「お兄ちゃん?」
 ベッドに座り込んだ俺の前に、長門がいそいそとやって来た。
「どうしたんだ?」
「……今日、涼宮ハルヒと買い物をした」
 長門はいつになくもじもじしながら言う。
「新しい下着を買った。──どう?」
 そう言って、長門はぴらりとスカートをめくりあげた。

 
 

                         似合う?」
 すまん。長門の言葉が脳に浸透するまで十五秒ほどかかったようだ。
 その間、俺の目と意識は、水色と白のストライプに釘付けだったわけで。
「おそろいのブラも買った。……付けるのを手伝って欲しい」
 長門が言い終える前に、俺は部屋を飛び出していた。

 

「どうしたもんかなぁ……」
 風呂の湯船につかりながら、俺は頭を抱えていた。
 甘えん坊長門のお色気攻撃は激しさを増すばかりだった。少年漫画のラブコメものならうらやましいと思うところだが、涼宮ハルヒという剛拳暴風女が始終一緒ではそうも言ってられない。
 ……希望者がいれば代わってあげたいくらいだ。いやマジな話。
 だから、この世界がループしているという古泉の説を聞かされたとき、俺は本気で安堵したのだった。俺が何より恐れていたのは、二学期になってもこの状態が続くことだったからだ。
 とかなんとか考えていたら、脱衣所の方で気配がした。
「……お兄ちゃん。背中を流す」
 な、長門!? ちょちょちょっと待ておい!
 まさに風呂場の扉が開こうとしたとき、ハルヒの声がした。
「待ちなさい有希! あんた、キョンと一緒にお風呂にはいるのは禁止したでしょ!?」
「背中を流すだけ。一緒に入浴するわけではない。セーフ」
 いつものクールな声で応対する長門。だがハルヒはごまかされない。
「なによこのタオルの巻き方。ちょっと引っ張ったら落ちちゃうわよ」
 脱衣所の方でぱさり、と音がした。……扉の磨りガラス越しに、長門の裸体が見えた。
「他意はない。おっぱいぽろりでお兄ちゃん悩殺、とかたくらんではいない」
「たくらんでんじゃない! とにかく、水着着なさいほら!」
 水着まで用意してたのかハルヒ。脱衣所でごそごそ音がする。ハルヒも服を脱ぎだしたらしい。
「お兄ちゃん。ビキニとスクール水着、どっちがいい?」
「ビキニ」
 ──しまった。なにを即答してますか俺。
「ちょ、それはあたしのビキニじゃない! 返しなさいよ有希!」
「あなたは、わたしのスクール水着を着ればいい」
 なんか、脱衣所で水着争奪戦が始まっている。
「むちゃ言わないでよ! 有希の水着なんて、胸がきつくて入んないわよっ」
 …………ハルヒよ。それだけは言っちゃならなかったのに。
 不気味な沈黙を破って、長門が言った。
「……確かに。あなたのウエストでは、わたしの水着はきつい」
 今度はハルヒが沈黙する番だった。長門がさらに言いつのる。
「おまけに胴も長い。わたしの水着を着るのは無理」
「な、なななによそれ!!!! 平気よ別に。こんな水着くらい着られるわよ!」
 涼宮ハルヒ、敗北の瞬間だった。
 しばらくして、風呂の扉が開いた。長門はオレンジ色のビキニを、誇らしげに着ている。
 一方スクール水着を着たハルヒは、すこし青い顔をしていた。水着があちこちに食い込んでつらそうだ。俺にとっても目の毒だし。
「はい、お兄ちゃん」
 長門は俺にシャンプーハットをかぶせてきた。そのまま俺の頭にシャンプーをかけると、優しく洗い始める。
 ハルヒの視線が痛い。あのな、水着がきついのは俺のせいじゃないぞ。
 神頼みなんてのはよくあることだが、こんな事を祈るのは生まれて初めてのことだろう。
 …………神様。どうか、この夏休みがはやく終わりますように。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:12 (3087d)