作品

概要

作者Thinks
作品名長門有希の焼餅
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-07-18 (火) 03:28:09

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 〜長門有希の焼餅〜        - The Jealousy of Yuki Nagato -
 
 
 なんだかんだありまくりの、七転八倒な、ちっとも休みになってない、どっちかと言うと疲れるためにあったような冬休みも明け、寒さが身に染みきって、家に帰り着くときには誰だって高野豆腐になっているんじゃないかとも思わせる様な時期である。
 
 俺は山颪が吹く道を延々と下る凍結乾燥機もどきのハイキングコースをいつもの様に
しばし拒否し、部室で甘露を啜っている。
 朝比奈さんはいつもと変わらないメイド服姿で、
「どうぞ」と、部室の備品である湯飲みを差し出し、
「どうも」と、先ほどここに来たばかりの古泉もそれを受け取った。
 いや、もっとこう、恭しくだな、、、。
「僕はいつも朝比奈さんには感謝していますよ?僕の出来る、最大限に、ですね」
 何でも言えば良いってもんじゃないが、さらりと言えるその神経がほしいね。
 長門はいつもの様に、部屋の隅にある特設テーブルでハードカバーを開いている。
 
 絵に描いた様な御姿でとてとてとかわいらしく音を立てて給仕をする朝比奈さん。
 誰も見ていないのに 爽快な笑顔を浮かべながらクロンダイクをしている古泉。
 俺も努力してみたが、どこが面白いのかやっぱり理解出来ない本を無言で読む長門。
 
 お茶の香りが漂う、、、と言いたいところだが、
旧舘特有の、いわゆる古臭い香りにかき消されてしまっている。
 
 くどい様だが、「いつもの」部室の光景である。
 
 ただ、微妙だが大きな違いがあるのだ。
 それは、長門がメガネをかけている事である。
 俺としてはメガネをかけない方が可愛いと思っていて、それは今でも譲れないのだが、三度目の四年前から帰って来た後、なぜかメガネをかけた長門を無性に見たくなった俺は、土曜日恒例の探索で、都合よく二人になった時に長門に訊いたのだった。
 
「長門、またメガネをかけてみないか?」
 
 こう言う時、長門は微妙な角度で顔を傾げる。
 こいつにすれば、何の意味があるのだろうかと思っているのだろう、俺だけにわかる「疑問あり」の意思表現だ。ダッフルコートのフードをすっぽり被って三角頭になっているので、若干認識が容易いかもしれない。

「そのほうが・・・・・・いい?」
「ああ、やっぱりメガネも良いな、と思ったりしてな。あ、でも俺にはメガネ属性はないぞ?」
、、、、たぶんな。
「・・・・・・・・・わかった。今晩、再構成しておく」

 そう言ってくれた長門は、次の日からメガネっ娘に戻った。なぜかハルヒも喜んでいる様である。
 SOS団にメガネっ娘が復活したからだろうが、また、目からビームが出そうよね!とか言い出さない事を祈ろう。
 しかし、何から再構成したのだろうか。あのやたらに軽い短針銃から元に戻したのだろうか?などと、回想する俺に、
「あの〜」
 朝比奈さんが、何か少し心配げな顔で声をかけてきた。
 どうしましたか。あなたのそんな顔をわたしは見たくありませんよ。
 誰がそんな顔をさせているのですか、まぁ、大体見当は付いていますが。
「涼宮さんは、、、今日は?」
 ああ、ハルヒですね、あいつは今日は掃除当番ですよ。そのうち嫌でも来ますからご心配なく。
 朝比奈さんは、
「うふっ♪」
 と笑うと、サービスですよ〜。とばかりに、胸の前に両手を当てて、華麗にターンしてくれた。
 微笑ましい、ああ、微笑ましい。
 
 まぁ、ハルヒの事を心配する必要は全く無いのですよ。
 あいつには、憎たらしいくらいに何の問題も無いのですからね。
 それが「性格以外には」だから、なおさら憎たらしい。
「え、ええっとぉ〜、キョン君はぁ、涼宮さんと一緒の掃除当番にはならないんですねぇ?なぜですかぁ?」
 朝比奈さんは、急に別の話題を振る様に同じ様な話をしてきた。
 なぜ、ハルヒと俺の掃除当番が被る事がないのかと言うと、それは教室の前から横列で掃除当番が回ってくるからなのだが、俺としては願ったり叶ったりだ。
 あいつと一緒の掃除当番になると非常に体力を使う事になるのが解っているからな。
 ハルヒは普段の掃除、床掃きに雑巾がけなぞは、指示と文句ばかり言って、あいつ自体は箒を握り締めているだけでろくに動かないくせに、普段やらない掃除ジャンルとなるとなぜか率先して動き始める。ガラス拭きなどとなると、向かいの校舎から見ていた教師が止めに入って来る様な所まで登っていってしまうのだ。
 当然スカートの中身なんぞも、、、と言うわけなのだが、
あいつ本人はまったく気にしていない、ってかちょっとは気にしろよ。
 この間は水色のしましまだった事なんて誰でも知ってるぞ、、、
なぞと妄想を繰り広げていると、なんだか顔が緩んでくる。やばい。
 他人に「わかりやすい青春」などと言っている場合ではないな。反省。
 しかし、あのチアガールの衣装も、、、。
 
 その時、俺は異常な視線を感じて部屋の隅のほうを見た。
 
 そこにはいつもの長門がいて、俺を見ていた。
 しかし、、、。
 
 メガネの奥、漆黒の瞳から不気味に光る物と、湧き上がるオーラを感じるのは俺だけか?
 
「な、、なんだ、どうしたんだ?」
 さすがに少し慌てる。くそっ、俺とした事がっ!!
「・・・・・・・・・なにも」
 一言だけ残してまたハードカバーに目を落とす。
 やはりいつもの長門に見えるが、、、。一抹の不安が残る。
 
「ど、、どうしたんだろうなぁ、長門は、、、」
 俺はなぜか古泉に救いを求めようと振り向いた。
 
 ら、
 
「ご、、ごめんなさぁい、、、、あたしがわるいんですうぅぅぅ」
 朝比奈さんは頭にお盆を抱えてしゃがみこんでいて、古泉はいつもの作り笑顔を五割増しに引きつらせて俺を見ていた。
「さて、解っているとは思いますが、こう言う場合、あなたが取る行動は一つなのですよ?」
 
すいません、わたしが悪うございましたっ!!
「………そう」
 
 よく考えたらなぜ妄想なんぞで平謝りしてるんだ、
情熱をもてあます高校生なんだから勘弁してくれよ。
 などとも思いながらさらに頭を下げているときは、
部室のドアがノックされ、以前見た様な光景が展開されるとは思ってはいなかった訳だが。
 
 


 
 
「団長さんはまた不在か」
 朝比奈さんの開けたドアの向こうにいたのは、二部屋隣の、コンピュータ研究部、略してコンピ研の部長であった。ここ、SOS団本拠地に一人で来るには抵抗があるらしく、ご苦労な事に部員を背後に引き連れての登場だ。しかし、この間の様な攻撃的な印象はない。きょろきょろと周りを気にしている様子はあるが。またドロップキックが飛んで来ないか警戒しているのだろうな、あれは。
 
 例の様に古泉は傍観、朝比奈さんは硬直、長門は本を読んでいて動かないので、必然的に俺が対応する。
 
 で、また何か用ですか?ハルヒが来ないうちに用事を済ませておいたほうが良いですよ。昨日、「もう一台DVD‐Rドライブが要るわね、、、」って聞こえる様に呟いてましたから。
「いや、、、これ以上持っていかれるものなんか我がコンピュータ研にはないし、、。ところで、話があるのだが、、、。なが」
「話って何よ?」
「と、、、おおっ!?」
 ハルヒが現れた。コンピ研は、驚いて動けない!
 いつもの事ながらまるで、某有名RPGのモンスター・エンカウントの様に、突然現れやがる。
「ははぁ〜ん?さてはまたゲームで勝負しにきたの!?リベンジね、良い度胸ね、また徹底的にのしてやるから!ところで今度は何を賭けるの?そうねぇ、SOS団としてはDVD‐Rドライブがほしいわねぇ。この間はパソコン四台ももらっちゃったから、今回はやっす〜い物で良いわ!」
 
 部長氏を指差して自論を述べるハルヒに、俺はここで冷静にツッコミを入れる事にする。
 正確に言えば五台だ。
 団長席で、主にハルヒの暇つぶしに使われている、当時最新だったデスクトップパソコンは、この間の、長門大活躍、と言うか長門の一人勝ちで、正式にSOS団の備品と相成った。
 しかし「SOS団としては」と言ったな。それはおまえが欲しいだけだろうが。
「なに言ってんのよ!まさかプレスに出すほど作るつもり?まぁ、それでも良いけどね」
 
 何の話だ。
「だからなに言ってんのよ!SOS団の映画に決まってんじゃないの!コピーするのに要るでしょ?」
 本気か。いや、訊くだけ無駄だ、こいつには。本気に決まってる。
 こいつ、二日間に渡って公衆の面前に晒しただけでは収まらず、「朝比奈ミクルの冒険 Episode00」を本気で「売る」つもりだ。
 ジャケット画像は皆の衆ご想像のとおりの、朝比奈さんのコスプレ写真だ。
 俺の説得もむなしく、すでに撮影済みとなってしまったジャケット候補の写真を見せつけつつ、修正はあたしがやるから、デザインとコピーを考えときなさい、などとひたすら一方的に命令して来やがった。
 これ以上なく素材が良いと言うのに修正する必要はあるのか。よもや妙な修正を入れなければ良いのだが。
 
 、、、いかん、今は危険だ、考えるのは止めよう。
 
 
 俺とハルヒの突発的な会話の間、しばしほったらかされた部長氏は、悪夢を思い出した様な顔をして冷や汗全開だ。
「いや、、もう君達と勝負する気はない、、、、。僕たちは、長門さんの、長門有希さんの力が借りたいんだ」
 もうすぐ三年の部長氏が、長門「さん」と来たか。
 まぁ、あの腕を見せ付けられては、「さん」付けでもしょうがなかろう。
 で、その腕を頼ってきた、と言う事か。
 
 過ぎった沈黙を早々に却下したのはハルヒだった。
「ふ〜ん、有希をねぇ、、、。あんたら有希をどうしようって言うの?」
「は?」
 呆然とする部長氏に、ハルヒは両手を腰に当て、目を細くして睨み付け、
「妙な事考えてるんだったら止めといたほうが良いわよ」
 あからさまに威嚇した。
「違うっ!断じて違う!話を聞いてくれ!」
 心底脅えている。哀れ、部長氏。
 下級生を「さん」付けで呼んでいるにもかかわらず、「あんた」呼ばわりされて、しまいには変質者か。長門があれから、たまにコンピ研に出入りしてる事はおまえも知ってるだろうに。
「ふん、まぁ良いわ。それで、有希にこれ以上何をさせようって言うの」
 続けて「早く言いなさいよ!」と言いたい所なのだろうが、
本題を言うまでの演出をプロデュースしたのはおまえだ。
「その、、、今、南高を相手にコンテストをしてるんだ。それに是非、協力していただきたい。と思うのだが、、」
 
 まだ言いたい事ははあっただろうに、ハルヒの
「コンテスト、、、、勝負って事ね!?」
 さっきとは打って変わった弾んだ声を発して詰め寄るその言動に、
あえなく部長氏の発言は中断された。
「それを早く言いなさいよ!相手はだれ?やっぱり向こうのコンピ研?で、何で勝負するのよ?いつ、どこで?」
 俺だけじゃ心許無くなって来たので、
「ああっ、もう、早く言いなさいよ!」
 こんな事を言い始めたこいつに、暇なヤツはここに来て言ってやって欲しい。
 
 だから、話を聞いてやれよ。と。
 
 結局の所、その役回りが回ってくるのは俺だけなんだがな。
 
 


 
 
 部長氏だけを部室に文字通り引き入れ、ご丁寧にも鍵をかけ、朝比奈さんにお茶を指示した後、ハルヒは団長席の椅子に胡坐をかいて腕組みしてふんぞり返り、ようやく話を聞く態勢に入った。
 長門が本から目を離し、じっと部長氏を見ているのが気になる。
 部長氏はと言うと、長門の指定席の隣で床に膝を付き、ハルヒに向かっているのだが、メガネをかけている姿が初めてなのか、ちらちらと視線を長門に向けてへらへらしてやがる。
 直感的に思った。この人は信用できない。
 
「で、勝負の内容は何よ?またゲーム?それとも、南高のホームページを書き換えちゃうとか!?面白そうじゃない?」
 まぁ、おちつけ。まだ勝負すると決まっているわけでは無いし。
「よぉ〜し、そうなったらしょうがないわね!有希、良いわよね」
 勝手に決めるな。まだそうにもどうにもにもなってない。ってか話を聞け。
「おおっ!それは心強い!」
 部長氏は今度は喜びに悶え始めた。やけにオーバーリアクションだな、
古泉のには敵わないが。
「いや、まだ長門がやると言ったわけじゃないぞ。何をするかも解っていないしだな」
「なに言ってんのよ!話を聞いたからには参加しないわけにはいかないわ!これは依頼なのよ!SOS団の出番よっ!」
 いつSOS団への依頼になったんだ。で、いつ話を聞いたと言うのだ、おまえは。
 さらに言うなら、おまえは今日、「なに言ってんのよ」を何回言ったのだろうなぁ。
 と言うツッコミも虚しく、
「ねぇ、コンピ研の部長さん?勝ったら何がもらえんの?」
 ハルヒはすでに勝ったつもりでいる。
 こいつのスーパーウルトラポジティブ思考の頭では、負けた時の事は考えられないに違いない。
「大丈夫よ!コンピュータで勝負なら、この子にかかればそんじょそこらのオタクどもに勝ちはないわよ!ねぇ、有希?」
「…………」
「ちょっと待て、もともとその勝負とやらはコンピ研が受けてきたものだ、部外者が参戦して良いものでもなかろう」
「ふふふ〜ん。コンピ研はねぇ、SOS団の下部組織なのよ。本部が出ないわけには行かないじゃない?」
 コンピ研は準団員ではなかったのか?いつの間にか立場が変わっている様な気がするぞ。
 上がっているのか下がっているのかは、良く解らんのでハルヒに訊いてくれ。
 
 とにかく、土曜日に駅前で十人集合、内、男七名と言う状況は勘弁していただきたい。
 朝比奈さんと公園をどうでも良い事を話しながら散歩したり、長門と図書館に行ったり出来る確立が減るじゃないか。公園の散歩は、朝比奈さんのその御姿(私服)をじっくりと拝める俺の癒し空間だし、図書館ではもっぱら寝ている俺だが、長門とは結構な距離がある行き帰りの道で買い食いしたりもする。黙々とクレープを食べる長門ってのも、それはそれで癒されるのだ。
 この楽しみは誰にも渡すわけには行かないね。
 
 俺がマイヘブンリーな妄想をしている間に、
「いや、、、。別に公式試合と言うわけでもないし、この際、下部組織でも良い。僕としては是非、長門さんの力を借りたい」
 床に膝を付いたまま、長門をチラ見しつつ話を聞いていた部長氏は、
あっけなく下部組織への参入を認めてしまった。

、、、もうなにも言うまい、おまえならどんな勝負でも何とかするだろうがな。
 判断は任せたぜ、長門。
「………そう」
 部長氏を見つめ続けている長門が、続けて言う。
「………何をするの?」
「協力してくれるかっ!?ありがとう!!」
 これぞまさしく有頂天状態の部長氏は、どさくさに紛れて長門の手を取ろうとした。
 が、その行動は俺とハルヒが同時に割って入ったために阻止されたのだった。
 ハルヒ、なかなかやるな。団長たるもの、団員は守らんとなあ。
 そして俺は、部長氏にさっきから何度も言おうとしていた事をようやく言う事が出来たのだった。
 
「だから、何で勝負するのか早く教えてくれ」
「だから、何で勝負するのか早く教えなさいよ」
 
 おまえが言うか!?

 俺とハルヒは、一瞬、見つめ合った。
 
 


 
 
 部長氏は、朝比奈さんに勧められた椅子に腰掛け、膝に手を付け、前のめりの態勢になって、本当にようやく、本題を言い始めた。

「何をするかって言うと、、、ハッキングなんだ」
「ハッキング?」 
「ハッキングですか、、、」
 ハルヒと古泉が同時に言った。
「まったくもって高校生らしからぬコンテスト、ですね」
 続けて言った古泉が、俺に向かって頬杖を付いたまま空いた手を空に浮かせた。
 古泉に同調するのは癪に障るが、まったくだ。
 スポーツ全般などベタなものや、ベタと言えば恋人を巡って川原で殴り合いの喧嘩とか、他にもあるだろうに。あと、おまえの仕事のほうが、数段高校生らしくはないと付け加えておこう。
 いや、待て、「はっきんぐ」ってどう言う事だ、意味が解からん。
「簡単に言うと、ハッキングって言うのは、プログラムやデータの内容を解析する事だ」
 部長氏は妙に真剣な顔をして周りを見渡しているが、格好つけてるつもり、、なんだろうな、この人なりに。
「この間有希がやってたみたいに、ゲームの中身を書き換えちゃったりする。、、、って言う事?」
 ハルヒが眉を寄せ、難しい事は面白く無いのよねと言わんばかりの顔をしている。
 俺もたぶん、今そんな顔をしていると思う。
 部長氏は、小脇に挟んでいた封筒を手に取り説明を開始した。
「そう、それだ。でも今回はデータを読み取るだけなんだ。このCD‐ROMの中にある画像を取りだして、アップローダーにアップすれば良いんだ」
「ふ〜ん、その画像が今回のお宝、ってわけね。どんな画像なのよ?何か描かれてるの?それとも写真?」
 部長氏は携帯電話を取り出し、ちゃちゃっと操作した後に、突きつける様にハルヒに手渡した。
 ハルヒが持つ携帯電話の液晶画面には、何かが書かれた藁半紙を手にどこかの屋上に立つ、どう見ても怪しい男が写っている。
 なんだこりゃ。
「なによこのお宝。探す気になれないわ」
 ハルヒがばっさり切り捨てた。
 もう少し物の言い様はあるのかも知れん。が、俺も、おそらく古泉も長門もハルヒと同意見だ。
 なぜか朝比奈さんは興味津々の様であるので良く解らない。
 だが、切り捨てられたはずの、時代劇で言えば(侍C)などに当たると思われる部長氏は、よりにもよってその画像に纏わる、まったく良くわからないネタと理解できない笑い所を説明し始めたのだった。

 で?
 要するに、有難味、を説明する必要があるってのか、そのお宝には。

 時間にしたら二分後くらいなんだろうが、説明が部長氏の言う「ここは笑う所」に、ようやく至った頃には、ハルヒは半ギレ、朝比奈さんは困惑、古泉は呆れきり、長門は不思議な物を見る雰囲気に突入していて、俺は睡魔の大群と遭遇していた。
 どうでも良い。遠慮なく流れをぶった切る事にしようと思った矢先に、
「あー!!もう良いわよ。さっさと話を進めなさい!!」
 ハルヒが先に切れて、止めに「返すわよ、これ」と携帯電話を放り投げて返した。
 
「と、、とにかく!今日は、僕たちがその画像を抜き出すターンなんだ」
 自分が急速浮上していた事にやっと気が付いたと思われる部長氏は、エンベロープに包まれたCD‐ROMを封筒から取り出し、
「こ、、これなんだけど、、お願いできる、、かな?」
 何かを告白するかの様な口調と崩れきった表情で長門に手渡した。
 もしこれが本当の告白の風景であったなら、九割九分は振られている事だろうぜ。
 長門はそれを片手で受け取ると、しげしげと眺めて、
「わかった」
 ぽそっと部長氏に告げた。
「そのCDに、ファイルがそのまま置かれている、、、訳はありませんね?」
 有頂天具合がレベルアップしていた部長氏に、古泉の質問が飛ぶ。
「あ、、ああ、ダミーファイルをおくとか、暗号化するとか、あの手この手で擬装して対抗していると思うね」
「こちらからもCDを送っているのですか?」
「相手の攻撃ターンは一週間後の放課後って事になってるから、まだ余裕があるんだ」
 得意気に回答をする部長氏に、ハルヒが良い質問をした。
「こっちが攻撃される順番って事?あんたたちの作る物がショボかったら、有希がいくらがんばっても無駄になるって事じゃないの?」
 部長氏はさらに得意気になると、防御プログラム作成担当は「The Day of Sagittarius 3」の開発者である、
この、僕だと高らかに告げたのだった。

 待て。

 圧倒的不利な状況を声高々に報告されても困る。
 そのソフトはすでに一度、その「ハッキング」とやらをされているのは、
まさに周知の事実だろうが。
「いや、あれからもう二ヶ月だ。プログラムの改良ぐらいやってる。バージョンも2.1になったんだ!」
 部長氏の主張は、むなしく響くだけだった。
 CD‐ROMと無表情にらめっこ状態である長門に、一応訊いてみよう。
「長門、そのバージョンアップ、とやらの事は知ってるのか?おまえが協力してるとかさ」
 俺の質問に、長門は首を横に左右二度くらいの角度で二回振って、
「記憶に無い」
 完全に否定した。
 エクスキャリバーを持ってはいるが、鎧と盾はかわのよろいとうろこのたて、と言った状況なんだろうな、たぶん。これは、防御プログラム作成にも長門が指名されると言う事、だろうな。
 
「まぁ、有希が出来たからって、南高のコンピ研に出来るとは思えないけど。大体、解ったわ。でもねぇ、、、」
「でも、、、どうしたんだよ?ハルヒ?」
 ハルヒはその口をまたアヒルに戻して何かを考えていたかと思うと、一瞬でカンカン照の笑いにその顔を変え、
「あ、い〜こと思い付いたっ!」
 叫ぶなり、目の前にいる上級生を指差し、攻撃を開始した。ウザったい話を聞かされた反撃なのかもしれない。
「あんた!向こうにだってヒマな部員はいるでしょう?この間のゲームで南高と勝負できる様にしなさいよ!あ、一応言っておくけど、わざわざ南高に対戦しに行く、とか言うのは無しね。ネット対戦させなさぁい!大まけにまけて、今回の報酬はそれで良いわ!」
「いいいいいっ!?」
 突然の攻撃をまともに受けた部長氏に、ハルヒはさらに一撃を加える。
「じゃなかったら、わたしがヒマでしょ。ちょっとは考えなさい!」
 確かに。
 流石のハルヒもこれは自分の出番ではないと悟ったわけだ。と言うか、勝負の内容があまりにも面白そうに無かったので、強引に自分が面白い方に向けて行ってる感じがするが。
 あと、今までの依頼はすべてタダで良かったはずだが、そのあたりどうなんだろうね。
 
「ちょ、ちょっと待て。サジタリウス靴梁仞錺轡好謄爐錬味腺瞭發裡稗个靴見に行ってないから無理だ!」
「なによ、あんたが作ったんでしょ、バージョンアップしたって言ってたじゃない。ネット対戦出来なくてどうするのよ」
「あれは市販するために作ったわけじゃ無いから、そもそもそんなの出来ないからCDで、でええぇぇ!?」
「言い訳は良いから、出来る様にしなさい!」
 古泉が救いの手を出しても、ハルヒは十五分で対応させろだのと言いながら、さらに部長氏のネクタイを掴み上げ、朝比奈さんは、あひゃぁ、とか、わわ、、、とか、ひ〜ん。とか言いながら見守る事しか出来ない。
 
 そんな光景を他所に俺は、にらめっこを止めて本を開き始めた長門に話しかけようとしていた。
 
 


 
 
 ん?
 読んでいない。
 見ているだけだ。たぶん。
「………」
「長門、、、?」
 長門に話し掛けようとした俺は、少し驚いていた。
 何にって、パイプ椅子を壁のほうに向け座り直す、明らかに拒絶の意思を表す姿に、だ。
 長門は壁に向かってハードカバーのみと対面中なのだが、メガネを直す動作はするものの、一向にページは進まない。
 さらに、俺が右に行けば左を向き、左に行けば右を向き、俺に背を向ける様を崩そうともしないのだ。
 
 どうした事だ、これは。どうした物だ、これは。 
 
 原因は、何だ。
 遡る事、約一時間前の、物凄い眼力を感じたさらにその前の、あれか。
 そう言えば、あれから一回も目を合わせる事が無かった様な気がする。
 許してくれてなかったのか。勘弁してくれ。
 
 それにしても、だ。こんな解かり易い拗ねる仕草は無いんじゃないか?
 
 こんな長門は二度と見られないかも知れない。
 だがしかし、このまま置いて置く訳にもいかんので、もう一度謝っておこう、と俺は考えた。
「悪かった、、悪かったから。そんなに変な顔してたか?俺」
 妹に謝る事を想像して、優しくやってみたが、こんなので良いのだろうか?
 あれなら、ほっとけばそのうちすっかり忘れてしまうわけで、俺は誰にもこんな謝り方をした覚えは無い。正直、こんな長門がどうやったら機嫌を戻してくれるのか、さっぱり解らん。しかし努力はしなければ。がんばるぞ、俺。
 
 長門は、正確な動作で俺の目を見ると、
「…………………」
 
今度は無言の訴えを開始した。
 
 これは、きつい。
 ほんの少し、強めに唇を閉じたその微妙な表情。
 怒ってますか、やっぱり。
 
、、、。頼むから二度と妄想をするなとか言わんでくれ。
 こちとら意識してやってる物でも無いんだから。
 
 
「努力する」
 俺は精一杯の譲歩を提示した。
「そう」
 長門はパイプ椅子を持ち上げて、テーブルのほうに向け、そして座りなおした。
 
 機嫌が戻ったのだろうか。
 そもそも。
 この一連の行動は、もしかして「ヤキモチ」と言う物なのだろうか。
 長門、いつからそんな事が出来る様になったんだ。
 そうすると、だ。
 相手はこの純朴な男子高校生の妄想だぞ!?訳が解らん。
 俺はヤキモチを焼かれる憶えは、、、、、、。
、、、、、、、、、やかましい。目に映るもの全てが輝かしく見える時、なんだよ。
 
 ともかく、だ。
 俺の決死で必死の交渉と譲歩に依って、話は出来そうな状況が完成した訳である。
 
 


 
 
 ひどく動揺してしまった自分に気が付いた俺は、ある重要な事に気が付いた。

 さっきの俺と長門をあの女が見ていたんじゃあるまいな?
 その女は可哀想な男を壁際に追い詰め、今度はゲーム内容の改善要求をぶちまけている様だ。その姿は古泉の影に隠れてよく見えない。
 古泉が意図してやっているのかどうかは解からんが、
長門と話が続けられそうなので、本題に入るべく長門の方に向かって座りなおそうとし時、俺の思考パターンを察したのか読んだのか。
 古泉は顔を半分だけ俺に向けて、鼻を軽く掻く振りをして笑った。
 今回は世話になっておこう。オセロの負けはチャラにしてやる。
 
「部長氏は、ハッキングとか言ってるが、、、一応訊くんだが、大丈夫なのか?」
「だいじょうぶ」
 長門は即答した。
 顔色も表情も崩さず、メガネのツルを持ち、(ひょい)とずれを直す。
「対象になる情報の種類は暫定されている。また、対象媒体は特定されている。情報をすべて検索するだけ」
 
 長門は、パタンと本を閉じると立ち上がり、CD‐ROMを手に取ると団長席に移動し、パソコンにそれをセットすると、俺にしか聞こえないくらいの小さな声で、
「わたしならば、検索そのものに必要であると思われる想定時間は約0.2秒」
 そう言って、淡々と続ける。
「フォン・ノイマンタイプコンピュータを使用する場合、同時間は、それの総合的な情報処理能力に反比例する」
「フォン・ノイマンタイプ?どう言う事だ?」
 軽やかな手つきでキーボードを叩きながら、長門は答えた。
「この子の性能なら、致命的な問題は無い」

 パソコンを使って作業するとなると、物によって時間がかかる、そう言う事だな。
 そりゃそうだ。朝比奈さん(大)に、時空何とかを渡してた時は、軽く手の甲に触れているだけだった。こいつらにとってはそれが当たり前なのだろうな。
 って、、、この子?
 この子って、パソコンの事か?
「コンピュータ研究部の人たちは、そう呼んでいた」
 
 長門、コンピ研に出入りする回数を減らしたほうが良いぞ。
 やはりあの人は信用できない。
「………?」
 長門は首を傾げながら俺を見ていた。
 こいつは、いつも無表情だが、何が言いたいのかは、大体解る。
 今は、こうだ。
「長門、その想定時間よりは時間はかかるだろうが、、、この前みたいに正々堂々と勝負するって事だよな?」
 長門は、顎を軽くひいて (こくん) と頷いた。
 最近、誰にでも解る様になった、肯定の意思表示だ。
「あなたがインチキと呼ぶ、情報操作を行う事は無い」
 さらに、顔をゆっくりと俯けると、こう続けた。
「あなたが、そう言うと思った。わたしも、そうしたいと思った」
 (ひょい)
「………同じ」
 
 許してもらえた。やったぜ、俺。
 やっぱりこいつにはメガネが似合う。
……でもって俺にはメガネ属性は無いって言ったら無い。
 
 安心感からか、心地よい感覚があふれる。
 引き続いてキーボード音がカタカタと聞こえる中で、俺は考えていた。
 
 そうだ、今度この長門に、「あっち」の世界の「バグ」とやらが作り出した長門の事を話してやろうか。今の様にメガネをかけていた事、向こうでも文芸部で本を読んでいた事、入部届けを渡してきた事、袖をつかまれて引き止められた事、、、、。
 
 あの三日間。
 俺は病院で意識不明だった事になっている、あの三日間。
 俺は、はっきりと憶えている。忘れ様がねぇ。
 
 寝袋に包まっているハルヒ、食えないほど林檎を剥いてよこしやがった古泉、俺の為に泣いてくれた朝比奈さん、
「ありがとう」
 確かにそう言った長門。
 
 病院のベッドに寝転がりながら、それぞれの顔に、これ以上無い嬉しさを感じた。
 俺は自分の選択と行動が正解だったと自信を持ったね。
 どうせ、どれもこれも「既定事項」か何かなんだろうが、そんなもん俺には関係ない。
 俺は、その場には連行されたが、そこではあくまで俺の意思で動いたんだ。
 その代わり、長門が望んだ姿である「あっち」の長門は、長門作の修正プログラムに因って、俺の目の前で消滅した。
 消えてすぐ、メガネを外した、「あっち」の長門を思い出す。
 
「あっち」の長門は、長門とは微妙に、大きく違っていた。
 人並みとは言えないかもしれないが、確かに笑ってたし。
、、、、、。泣かせちまったのは申し訳ないと思ってるがな、、。
 しょうがなかったんだ。
 
 でもな、自分で作り変えられたのなら、
もうちょっと楽しい性格にすれば良いじゃねぇか。
 しかし、楽しい性格ではなかったが、えらく魅力的だった。
 目眩がするほどに。実際、倒れかけた。
 
 少し前から長門には訊きたい事がある。
 
 なぁ、何で皆と楽しく話せるキャラに設定しなかったんだ?
 なぁ、「あっち」の長門有希と同期は出来ないのか?
 なぁ、そろそろおまえ、笑ってみないか?
 
 こんな事を話して、訊いて見たら、長門はどう答えるのだろう?
 
 俺が「あっち」の長門が返事をしている所を想像しようとした時だった。
 
 
 
 な!?
 
 
 目の前にいる、キーボードを打つ長門が、俺を見た様に見えた。
 ありえない表情をして。
 
 その瞬間、俺は味わった事の無い感覚の中にいた。
 
 
 
 
 
 ふふ。
 
 
 妙な声が聞こえる。目の前は真っ白だ。
 
 ?
 ふふふ、、。
 誰だよ?
 見えない。あなたには。
 え?
 見えないけど、わからない?
 え?え??
 ふふふ、、。
 からかうのは止めろよ?
 からかってない。
 んじゃ何なんだよ?
 ふふ、嬉しいだけ。
 何がだよ?
 なんとなく?
 なんとなく、、、?
 ふふふ。
 馬鹿にしてんのか?
 してない。
 、、、、?
 ふふ、、あははは。
 何なんだよ?
 嬉しくて、楽しいの。
 だから何が。
 たぶん、あなたといるのが。
 そ、そうなのか?
 見たい?
 は?
 見たい?
 何を?
 望む、もの。
 望むもの?
 見たいんでしょ?
 
 渦巻く真っ白な空間の中。そこに、長門が立っていた。
 
 長門?
 うん。
 長門なのか?
 そう。
 
 そこにいる長門は、いつもの無表情なのに、まるで絶好調のハルヒの様に、
好感情を剥き出しにした口調だった。
 
 びっくりしてるの?あははははは。
 何なんだよ、いったい。
 あは、楽しくって。
 訳が解らんのだが?
 そう。
 誰でもそうだろう?
 うん、わかる。
 解るのなら、だな、、
 ごめんね。
 うん?
 わたし、こんな話し方なの。
 そうか。
 うん。
 それで、望むもの、って何だ?
 
 
 
 目の前にいる長門が、無表情のまま、ぐにゃり、と歪む。
 
 
 見たいんでしょ?わたしを。
 
 あのときのわたしを、見たいんでしょ?
 
 
 会いたいんでしょ?
 
 
 
 できるんだよ、いつでも。
 
 
 
 見てみる?
 
 
 
 やってみる?
 
 
 
 
 Ready?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「終わった」
 !?
 心臓が脳天から突き抜けるほど跳躍した。
 な、何が「終わった」って?
 な、、長門?「あっち」の長門?いや心の準備がだな!?事前説明くらいあっても良いじゃないか!?
 
 
 またも動揺する俺の目の前で、何かが光った。
 
 「あんた、有希をじろじろ見ながらいったい何考えてたのよ?」
 部室の、わりとでかいテーブルの向かい側に、デジカメを持ったハルヒが、怪訝そうな顔をして立っていた。さらにその右には、明らかに敵を見る眼つきの部長氏がいて、朝比奈さんはお盆を胸に抱えて苦笑している。
「ま、ど〜〜〜〜せ、変な事考えてたんでしょうけど?証拠も出来たわよ。エロキョン」
 デジカメを指差して、笑うハルヒが見える。
 古泉は知らぬ存ぜぬと言う感じでにこやかにお茶をすすっている。
 俺は、茫然として何も出来ないまま、ハルヒからフラッシュを受け続けていた。
 
 どうやら、結構な時間、いわゆる妄想状態になっていた様だ、、、。
 
 俺の顔をじっと見ていた長門は、間もなく、ゆっくりと右手を上げた。
 長門が指差すパソコンのディスプレイには、大きな黒いウィンドウや、意味不明なアルファベットと数字の羅列が描かれたウィンドウがいくつか表示されていたが、その中の一つのウィンドウに、部長氏の携帯電話に表示されていた画像が、はっきりと映っていた。
「開始時刻から、十二分四十一秒」
 長門が117の様に時間を告げた。
 
 十分以上も妄想してたのかよ、俺。
 
 部長氏が駆け寄ってきて叫んでいる。
「い、今、ハッキングしてたって言うのか?」
 (こくん。)
「で、もう終わったって?」
 (こくん。)
「おおおおっ!さっすが長門さん!僕の見込んだ通りの結果だよ〜」
「良くわかんないけど、あっと言う間に持ってきちゃったじゃない。ふふん、南高も敵じゃなかったわね!有希に任せた、あたしの作戦勝ちよ!」
「わぁ〜、すごいですねぇ〜。あたしもこう言う事出来たら良いなぁ」
 ハルヒと部長氏は普通に喜んでいて、朝比奈さんは不思議そうな顔をしてディスプレイを覗いている。古泉は別段驚く様子も無く、別々に喜んでいる二人を眺め、湯飲みを片手に俺に笑顔を送っていた。
 
 そんな部室の中で俺は、まだ、長門を見つめていた。
 この部室の光景には、大量のツッコミ所がある様な気もするが、
 さっきの妄想が強烈過ぎて現実に復帰できない。
 俺は、二、三回と頭を小突き、何とか現実に復帰しようと試みた。
 
「最終作業があるはず」
 そう言うと長門は立ち上がって、専用スペースに移動、着席して(ひょい)とメガネを直し、再び本を読み始めた。どう見ても、長門だ。
 部長氏は感謝の言葉を連呼しながらアップロードを完了させて、またも長門の手を取ろうとした所でハルヒに袖を取られて部室の外に出て行った。
「あんたには、まだ話があるのよっ!」
 
 俺はさっきの強烈なアレを思い出そうとしていた。
 何だ、アレは。
 台詞の内容も強烈だった様に思うが、俺にとってはその感覚がもっと強烈だった。
 例えが浮かばない。あえて言うなら、脳を直接掴まれた様な。
 ページを進ませている長門を見ていると、アレの声を思い出した。
 
 しかし、台詞の内容も確かに見たはずの物も、はっきりと思い出せない。
 
 長門が本を読むのを止めて、こっちを見た。
 これはまた、、、微妙な表情だ。なんと言うか、、、
 
 
 ぐにゃり。
 ごめんなさい。
 
 
 うぁ、、、また来た。
 
 
 
 俺の額に、冷たい感触が有った。誰かが俺の頭を撫でているのか。
「帰ったほうが、良い」
 長門だった。
 少し眉を寄せて、、、ああ、心配してくれているのか?
「あなたは、、、危険な状態にある」
 あ、、ああ。解る様な気がする。
 すまん、俺帰るわ。
 
 朝比奈さんがやたら俺を心配して声をかけてくれている様だが、まったく耳に入らない。
 帰り道。いつもなら、愚痴の二十や三十は出ているこの道を、俺はバカみたいに大口を開けて、無言で、下りた。
 
 


 
 
 俺が妄想なのか何なのかに浸っている間に、長門は、CD‐ROMのデータを解析していた様である。
 例の画像ファイルは、圧縮、暗号化されて、尚且つビデオファイルの中に融合して紛れ込ませると言う、凝った方法で偽装されていたとの事だが、程なく発見され、あっさりと攻略されてしまったのだそうだ。
 
 翌日。くじ引きでよりにもよって古泉とペアになると言う、鰻と梅干以上に最悪の組み合わせの中で聞いた話だ。今、俺はその現状を味わい続けているわけだが。
 まったく癒されやしない。
 唯でさえくそ寒いのに、遠慮無く吹く山颪、それを加速させるビル。心も体も暖めてくれる人物が存在しないので、背を丸め、ポケットに手を突っ込んで歩きながら、午後のくじ引きは人生最大の賭けになりそうだなどと考えている俺に、
古泉が話しかけてきた。
「よかったら」
 おまえはいらんぞ。
 古泉が笑顔を崩さずに続ける。
「あの時見たものは、どの様な妄想だったのか教えていただけますか?」
 なぜそんな事を俺に訊く。妄想は俺の物であり俺が勝手にしてる事だ。おまえには関係ないぞ。
「いやぁ、これなんですが」
 古泉はデジカメをどこからか取り出し、俺に見せる。
 その、再生モードになっていると思われるデジカメの画面には、俺が映っていた。
 極端に幸せそうな顔をして頬杖を附いて長門を見ているであろう俺。ハルヒが撮ったやつだな、
って何だこりゃ。
「気が付きましたか?」
 付かないわけが無い。我ながら幸せそうな顔をしている俺の周りに、何か輝いた、そして歪んだ物が写っている。霧の中でフラッシュを焚いたら確実に写るやつか?
「これはですね、心霊写真などではありませんよ。おそらく空間に生じた何か、です」
 はっとして視線を送る俺を見て、
「事態に気が付きましたか」
 肩を竦めた古泉は、続けて言った。
「僕は、時空については結構詳しいつもりだったのですが、これは解りません」
 どう言う事だ、詳しく解りやすく頼む。
「映像に空間の歪みが現れると言う事は有り得ません。例の閉鎖空間が僕たち以外の誰にも見えないのと一緒です」
 じゃあなぜ、俺の周りにケセランパセランみたいなのが飛んでいるんだ?
「それが僕が知りたい事そのもの、ですよ。涼宮さんが撮った写真とは言え、こんな物が写っている事が不可解なのです。涼宮さんはデジカメが壊れていると思った様ですがね。僕にはそうは見え無いのです」
 歩くのを止め、羨ましくなるほどの華麗な身振り手振りを含めながら話す古泉に俺は、あの時は目の前が歪み、妙な声を聞いたと簡潔に言ってみた。
「ふむ、あなたの妄想と、この歪みの様な物が関係性が有るのかどうなのか、いまいち解らないですね」
 そうなると俺にも解らん。妙な声を聞いただけだからな。
 しかし、あの異常で強烈な良く解らないアレは、妄想では無さそうだ。
 ふと長門の言った台詞を思い出す。
「あなたは、、、危険な状態にある」
 どう、危険なのか。何が俺を危険にしているのか。長門は例のごとく事情を把握しているっぽい。
 
「また、詳しい事を話してくれる気になったら、ですね。是非お願いしますよ」
 古泉は根掘り葉掘り訊く様な事はせず、また歩き始めた。
 こいつの考えている事も俺にはいまいち解らないが、訊いてくれないほうが助かる。
 俺には訳が解らないのだから、話のしようが無いし、なんと言って良いのかも解らない。
 まぁ、将棋の負けもチャラにしてやろう。
「恐れ入ります」
 
 その後、指定時間になるまで、古泉と適当な会話をしながら適当にうろつき、
いつもの喫茶店に全員集合して昼飯を食った後、待ちに待った午後のくじ引きタイムに突入した訳だが、マークの付いた爪楊枝を引いたのは、
 
俺と、ハルヒだった。
 
 
 昨日の無断早退の罰金よ!とやらで支払いを済ませ、両手に花の古泉が送る笑顔を、俺が作成できるかぎりの顰め面で見送ってすぐ。
 ハルヒは俺の手を掴んで、いつものではない最寄の喫茶店に入り、席に着くと速攻で本題を切り出して来た。このあたり迄はハルヒらしい。
「さっきお昼したばかりだけどさ。訊きたい事があるのよね」
 俺は、大体想像が出来ていたが、一応訊き返す事にしてみた。
「なんだよ、話してみろ」
「……有希の事よ」
 やっぱりか。
 雪山でも質問されたが、その後も長門への態度は変えていないし、ハルヒは、さっき古泉が披露した写真の顔をリアルタイムで見ていたのだろうから、他に話す事が有るとも思えない。
「あんたたち、やっぱり何かあったでしょう?」
 ものすごい勢いで言われるかと思っていたが、そうでもなかった。
「見てて、もう、、、、解るのよね」
「いやいや、実際何も無い。長門の事は、そりゃぁ嫌ってはいないが」
「んじゃぁ、何で有希があんな態度を取るのよ?」
「あんな?」
「有希、ヤキモチ焼いてたでしょ。あんたに」
 見てやがった、こいつ。古泉、オセロの貸しはちゃんと払えよ。
「あんな有希、初めて見たわ。あたしね、有希があんな態度取るのって、よっぽどの事だと思うの」
 ハルヒは今届いたカフェオレを飲みながら、首ごと視線を外してそう言った。
 何を言い出すんだこいつは。
 てっきり鉄拳の一発でも飛んで来て、吹雪の豪邸の中で捏造った理由をもう一度言う必要があるかと思っていた俺は、正直面食らった。
 
「有希はね、あんたの事が好きなのよ。気づいてた?」
 俺の反応を見るかの様にそう言った後に、こう付け加えた。
「でも、あんたが誰の事を好きか、と言う所がよく解んないのよね」
 ハルヒ、、?
 ハルヒは横目で俺を見ながら呆れた口調で、
「まぁ、言わなくても良いわ」
 そう言ってしばし湯気の立つカップを見つめてこう言った。
「有希はね。あんたも解ってると思うけど、大事な事でもはっきりと言わないから。あたしから言ってあげようかと思ったの」
 俺の事を、長門が好いている?
 突然何を言い出すんだこいつは。
 どうしてそんな事を言うんだ。
 
 俺とハルヒはしばらく無言でいた。
 
 冷め切ったカフェオレを飲み干したハルヒが、ぼそっと何かを漏らした後、
「時間よ。行きましょ」
 と言って席を立った。
 伝票は席に残っているままだったが、俺は無言でそれを取った。
 
「負けないんだから」
 
 俺には、そう、聞こえた。
 
 


 
 
 思いがけず長門の新たな面を見てしまって、
訳の解らないものを見てしまって、から一週間後。
 
 俺たち、、、、俺、古泉に長門の三人は、例のごとく部室にいた。
 でもここには、本棚に入っている入手所不明の蔵書も無ければ、古泉が持ち込んだ大量のボードゲームも無い。これまた大量の朝比奈さんコスプレ衣装集も無い。その衣装を着こなす朝比奈さんもいない。ついでにハルヒもな。
「ここではやる事が無くて困ってしまいますね」
 古泉がトランプを手に、もうソリティアはやりつくした感の呟きを洩らす。
 長門は部室から持ってきた、ぶ厚いハードカバーを読んでいるから退屈ではなさそうだ。
 時々、パソコンの画面を見てはキーボードをカタカタと叩き、また本に目を移す動作を繰り返している。
 そんな二人を見ている俺も、もう巡回するニュースサイトが無くなって退屈になって来た所だ。
 ってか、寒い。
 あんなストーブでも役に立ってるって事を実感したぜ。
 わりと重かったが電気屋の親父には感謝だ、、、。
 
 部室は部室でも、ここは二軒隣のコンピ研ことコンピュータ研究部の部室である。
 
 ハルヒに連れられて朝比奈さんと三人で一回入った事のある場所ではあるのだが、じっくり見るのは初めてだ。何せ目の前に繰り広げられた光景が、ただの高校生男子にはあまりにも強烈過ぎる物だったから、な。
 あるのは、机とパソコン。あと、万年閉ざされていると思われるカーテン、市販コンピューターの販促ポスター、、かなこれは。あとは内容がよくわからない本と、スケジュール表らしきA4用紙が貼ってあるだけだ。
 SOS団でデコレートするまでの長門の部屋ほどではないが、殺風景だ。
 長門の部屋は、そのままでも景色は良かったがな。
 
 古泉が、そこらにあったCDをパソコンで再生した。
 が、ドライブが唸りをあげて流した曲は激しい電子音で良く解らない物であったため、すぐに却下された。
「大体、大切な部員とやらをほっぽり出して何やってるんだ団長さんは」
 まぁ、暇だし、この疑問に答えるのに回想シーンに入るほど長い時間はかからないので説明しようか。
 
 一週間前。
 俺が長門のハッキング作業風景を眺めながら、妄想では無さそうなことが判ったアレに耽っていた頃。
 古泉が言うには、ハルヒは例のゲームをネット対戦させて南高と対戦させろ、でもってこう改造しろと言う要望を、幼稚園児が鬼役の先生に全力で豆を投げるがごとく、ただひたすら部長氏にぶつけていたらしい。
 この後は、ほんっとにハルヒらしい話ではあるのだが、
その後連行された部長氏は、例のゲームである「The Day of Sagittarius 3」をネット対戦仕様にするばかりか、ハルヒの要望を踏まえたものに改造すると言う責務を渡され、一週間後の今日、やたらやつれた顔で要望どおりのバージョンを提出したのだと言う。
 挙句に南高のコンピ研にアポを取らされ、チーム名はもちろん「SOS団」として勝負を申しこまされ、部長氏を除く部員全員は戦闘要因として借り出され、その上、わたしがいつも使っているパソコンじゃないと嫌よ!と言う我侭に答え、お茶汲み兼マスコットである朝比奈さん以外の、俺たち三人は部室を追い出された、、、
と言うわけだ。
 
 以上の事情で、ハルヒは現在、部長氏以外のコンピ研部員と共に南高コンピ研と対戦中だ。
 
 部長氏の力作であったリアルタイムシミュレーションゲームThe Day of Sagitarius 3は、ハルヒの要望で敵を探して打ちまくる、ハルヒ曰く「だけ、」のゲームではなく、そこいらの敵を争覇しながら2D座標空間内に散らばる中立基地を数多く取ったほうが勝ちと言うルールに変更されたそうだ。
 無論、索敵モードは万年OFFである。ジョイパッドにも対応したらしい。
 
 それ、あのゲーム唯一の良い所を取っ払った様な気がするぜ、ハルヒ。
 もしかしたらその方が面白いのかも知れんがな。
 ちなみに部長氏が、真っ白に燃え尽きた状態でのこの部室に横たわっている事を今、思い出した。
 さらば、部長氏。安らかに眠れい。
 ハルヒはここの所、わりと誰にでもうち溶ける感がある。
 が、ここまで引き回すとなると、、、この人にも何か特殊な能力があるのかも知れん。
 俺にはカマドウマに変身くらいしか思い付かんが。
 
 あのゲームの最強プレイヤーである長門が、対戦要因に加わっていないのは、今日はハッキングコンテストの防御ターンに当たる日でもあるからだ。
 結局、防御プログラムも長門が作成して、今はその監視をしている。
 部長氏が作ったプログラムはかなり特殊、長門が言うには「ユニーク」な代物だったらしい。なんでも、元々はターゲットの画像ファイルに似せた、間違い探しの様な画像を大量に付属させたりとか、俺らの同世代なら目が離せないあれやこれやの画像を大量に添付してあったものだとか。話を聞く限りではプログラムじゃねえよな。もしかしたら俺も引っかかるかも知れんが。
 部長氏が相当な自信を持って作成した防御策、、プロテクトと言うらしい、、を、長門は「甘い」と一言でぶった切って、その場で防御プログラムを改造、いや、作成してしまったと言う。あれやこれやの画像を見た後の長門の反応を見てみたかったな。
 
 長門の作成した防御プログラムとは、単純に言うと暗号化しただけの物だそうだ。
 しかし、その暗号化を解く鍵を、CD‐ROMにではなくコンピ研のパソコンに置き、代わりに鍵の在り処を記したURLをCD‐ROMに入れて置いたのだそうだ。ちなみに、CD‐ROMには特殊なフォーマットが施されてあって、URLを見るためには、専用ソフトが必要らしい。それを動作させるにはソースコードをコンパイルしなければならんのだがそのためには、、、
 
 もう良いか?朝比奈さんほどじゃ無いが、俺はこう言うの苦手なんだ。
 要するに、長門を敵に回した南高には勝ち目が無いと言う事だ。俺はそう認識してる。
 今、長門がパソコンの前に居るのはそう言った訳だ。
 
 ハルヒは、「あんたと一緒にさせてたら有希が心配だから、古泉くん、任せたわよ!」と言い残して、乱暴に部室のドアを閉じ、部長氏は、長門に「後を頼む」と伝えると手を取ろうとしたが、その行動を却下した俺の手を代わりに取って、そのままくたばった。
 俺がこっちの部屋にいる理由?すまんがそれはハルヒに訊いてくれ。俺の知った事じゃない。
 二軒隣だと言うのに、ハルヒの声はほぼ筒抜けで聞こえて来る様な気がする。
 結構、近所迷惑をやっていた事を実感しながら、俺は長門に声をかけた。
 
「長門」
「………」
 無言で俺を、首を傾げて見る長門。メガネも忘れてくれてはいない。
「どうだ、向こうさんに動きはあるか?」
「今の所、鍵を取りに来たと思われるパケットは、検出できていない」
 言い終えると長門は、メガネのつるを持ってズレを修正する(ひょい)を行った。
 パケットって何だと聞こうかと思ったが、俺の想定外に厄介な単語が出て来る事が確実なのであえて聞かない事にしよう。
 
「古泉」
「何でしょう?」
 若干身に憶えのあった俺は、確認してみようと思って訊いてみた。
「ここの所、例の空間は現れているか?」
「いいえ」
 古泉は俺の想像する物とはまったく逆の答えを返してきた。
「ここの所、涼宮さんの精神は安定しています。冬休みに入ってからは閉鎖空間の発生はありません」
「そうか」
 俺は生返事をして、先日の喫茶店での会話を思い出していた。
 
「有希、ヤキモチ焼いてたでしょ。あんたに」
「有希ね、あんたの事が好きなのよ。気が付いてた?」
「でも、あんたが誰の事を好きか、と言う所がよく解んないのよね」
 
 俺の態度が長門寄りになっていた事も認めよう。
 長門を見ながら妄想に耽っていた事は否定が出来ない事実だ。
 しかし、長門が俺の事を、、、好き、、、?
 そうなのか、長門?
 そしてハルヒ。
 おまえが何故、それを俺に告げる?
 閉鎖空間に入り込んだ時の事を、ほんとにおまえは夢だったと思っているのか。
 あの三日間に至っては、俺はおまえに会いたい一心で行動したんだぞ。
 しかし、あの長門は魅力的だった、、、。
 
 
 俺が脳内無限回廊に入っていると、
「もう!何よ!!あんたなんか、あんたなんか、あんたなんかああああ!!!!」
 ハルヒの叫び声が聞こえた。
 ゲームぐらいは落ち着いて遊んだらどうだ、まったく。
 
 そう思ったその瞬間、殺風景な景色は一瞬輝いて、いきなり無機質な空間に変貌した。
 
 


 
 
 長門が本を読むのを止めて立ち上がり、ふと上を見る様な動作を取った。
 古泉も立ち上がり、パイプ椅子よりは豪勢な椅子がひっくり返り、そして、消えた。
 俺は、突然に俺を支えるものが無くなって、床に尻もちをついたが不思議と痛くない。
「エマージェンシーモード」
 長門が平坦に、しかし明確に現状を告げる。
 
 俺たち三人は、何もない灰色の部屋にいる。
 あるのは、壁だけだ。
 さっきまで部屋の中にあった、椅子や机やパソコンは、煌めきと共に消えた。
 居心地の悪い空間だ。全面灰色一色で、その上この壁と床は、例の空間の様に妙に光っていて柔らかい。
 
「長門さん、何ですかこれは?」
 俺より先に古泉が長門に訊く。
「涼宮ハルヒの力に因る物。閉鎖空間に相当する物だと思われる」
「閉鎖空間?それにしては、生物以外の物も消えていますし、僕の力も現れません」
「詳細は、不明。現在、わたしは孤立している」
 どう言う事だ?長門。
「情報統合思念体との連結が維持できない。不安定」
 俺は何とか二人の会話を理解しようと待ち構えていたが、それほど難しい話ではなくて少し安心していた。
 何かと言うと、俺ら三人を隔離する、それだけの為に出来た空間、と言う事だな。
 違うか?
「違わない」
 俺は長門の返事を聞いて、俺は無い頭をフル回転させて考えた。
 自分の状況を、だ。
 閉鎖空間もどきだと長門が言うこの空間で、古泉は能力が発揮できず、長門は親玉との連絡が取れない。
 答えが一つ出てきた。
 絶体絶命。
 いや、冗談じゃねぇ。何かある筈だ、他の答えが。
「いえ、僕も同じ感想です」
 古泉が、笑顔を無くして呆然としている。声にもいつもの張りが全く無い。
 なんて事をしやがる、、、、、。ハルヒ。
 俺らはおまえの言うがまま、思うがままに行動してだな、時には命の危険すら感じた時もあったんだぞ。おまえは何も知らんだろうがな。おまえが俺らにこんな事をする所以があるのか。
「所以、ですか」
 軽く笑顔を取り戻した古泉が、呆れた口調で俺に訊く。
「先ほど、涼宮さんの声が聞こえました。そして、その直後にこの空間が発生した」
 ああ、そうだな。そりゃ俺にでも解るぞ。
「あんたなんか、と言っておられましたが、その、あんた、とは誰の事でしょうか?」
、、、。もう良い、解った。
 要するにこの空間は、ハルヒのヤキモチによって生まれた空間で、長門と古泉はそれに巻き込まれただけなのだ。
 俺はこのハルヒ作の檻から脱出するべく、壁と床のあちこちを触ってみたが、全く抜け道らしいものは見つからない。
 
「この空間から脱出する方法がある」
 長門は、壁を触り続けていた俺の目を見つめて言う。
「脱出する事が出来るのですか。それはどうやって?」
 訊いた古泉に、長門は高速で何かを話した。
 呪文だ。と俺が気が付いた時には、古泉は灰色一色の床に倒れこんでいた。
「古泉!、、長門!?」
 俺は思わず長門を睨み付けた。
 長門は、ぴくっと眉を動かし、
「心配ない。眠っただけ」
 いつもの様に平坦に告げる。
 何故だ、何故古泉を眠らせる必要があった?
「彼には、これからあなたに話す事を聞いてもらいたくない。だから、眠ってもらった」
 何かの映画で聞いた様な事を言う長門。
 下手な映画でこんな展開だと、俺もそのうち命を奪われる訳だが、そんな危機感は俺には無かった。
 
「一週間前、あなたはわたしとのリンクを確立している。その能力をもう一度開放する」
 リンク?一週間前と言うと、あの妙な感覚のアレか?
「そう」
 全てを知っているかの様に、いや、全てを知っていた長門が続けて言う。
「わたしと言う存在の、意識レベルは情報統合思念体とほぼ同一。わたしの意識が見えていたあなたの能力を、わたしの能力と併せる事に依って、現状でも情報統合思念体との連結が可能と思われる」
 わたしの意識?アレはおまえの意識だって?
 あの、俺の五感を通り越して頭に直接話して来たのは、おまえの意識だってのか。長門。
「そう。あなたには一週間前、情報統合思念体を目視できた彼の様な、超感覚が備わっていた。わたしはわたしの意識が直接見えるレベルに、その感覚を調整した。」
 彼、って中河の事か。
 たった三週間前の事だ。あれからその三週間の間にいろんな事がありすぎて忘れてたぜ。
 
 その時、アレが俺の頭の中に蘇って来た。
 長門が無表情で、しかし楽しそうに話した台詞を、俺は全部思い出していた。
 長門の意識を垣間見てしまったと言う事実、そしてその内容に、俺は困惑するしかなかった。
 
 な、長門。俺といるのが嬉しいって、、あんな子供染みた笑い方が出来るのか、、、?
 
「わたしは、あなたに、注目されたいと思う様になっていた」
 長門が突然話し始め、そのまま続ける。
「あなたが、涼宮ハルヒや、朝比奈みくると話していると、正常動作が出来なくなるわたしを認識していた」
 長門は顔を俯け、また話し始める。
「わたしの中。増え続けるバグの一部。そう推測される物。それが、二回目の異常行動を引き起こさせた。わたしに、あなたの強い意識が伝わって来る様になった。…あの時、あなたの意識を感じた。わたしは、あなたにも意識を伝えたいと考えた。その結果、リンクが確立され、………あなたを危険な状態にしてしまった。わたしたちは本来、言語を持たない。その思考も概念も直接伝える。それが、あなたには負荷になった」
 声が、心なしか震えてきているのを感じる。
「さらに、涼宮ハルヒは、わたしの異常行動を見て、この空間を作り出した。わたしは、再び、あなたを危険な状況に置いた。全てわたしの責任」
 
 淡々と切々と、主張を続けるその表情は見えないが、確かに俺は見た。
 長門の頬を伝い流れるものを。
「……………ごめんなさい」
 頬を伝ったものは、灰色の床に落ちて、一部は跳ねた。
 長門はそれを拭く事をせず、そのまま無言で棒立ちになっている。
 
 引っ込み思案で、極度の照れ屋。
 メガネの似合う、一人ぼっちの文芸部員。
 びくっとしてみたり、頬を赤く染めてみたり。
 そうさ、俺は目の前で棒立ちのまま肩を揺らす長門を見て、
「あっち」の長門を思い出していた。
 
 泣くな、長門。
 俺はおまえの笑っている顔が見たいんだよ。泣き顔なんざ見たくねぇ。
 例えそれが、おまえが作り出した物が素だとしても、だ。
 滅多に顔に出さないおまえが、いきなり涙を流した暁には、傍にいる男はどうして良いか解らんだろうが。それにな、おまえが「異常行動」と言うヤキモチは、そこらの女なら誰しも年中行事見たいに焼くものなんだよ。ハルヒなんか見てみろ。思い起こせば、大食い選手権のレギュラー選手でも食いきれないほど焼いてるじゃねぇか。
 一つ二つくらい焼いたところで、俺は怒りゃしねぇ。逆に可愛かったくらいだ。そうだ、拗ねてたおまえはやたらと可愛かったぞ。
 俺にはヤキモチを焼かれる憶えは、、、あったかも知れんが無くしてやる。
 
 「あっち」の長門に、いつでもなれるんだよな?
 あの長門を見たい。会いたい。
 いや、どっちでも良いから、笑ってくれ、長門。
 俺はもうそれしか考えられなくなった。
 
 しかし、まずこの現状。この気色の悪い灰色空間から抜け出さん事には、何ともならん。
 この場は、俺が長門に言おうとしている言葉には場違いってもんだぜ。
 
「解った。じゃ、俺はどうすれば良いんだ?」
 長門は顔を上げた。
 そこには、俺の長門がいた。
 さっきまで泣いていた片鱗も無い、いつもの長門だ。
 メガネには頬を伝う前に附いた涙が溜まっていたがな。
「メガネ、拭けよ」
「視覚情報の収集に問題は、無い」
 いやそう言う問題では無くてだな。拭く姿が見たいだけなんだが。
 
 カーディガンの袖を使ってその行動を取ろうとした長門は、俺の差し出したポケットティッシュを使って、メガネを不器用に拭いていた。
 
 
「何をすれば良いんだ?今の俺なら何でもするぜ、長門」
 俺が改めて訊くと長門は俺の顔を見つめて言った。
「情報統合思念体との連結を確保するため、わたしに接触する事を希望する」
「接触か、触れたら良いのか。手か、頭か、胸か、腰か。何でも良い、何処だ」
 俺の、普通に街で聞いたら半径五メートル以内に他人が消える様な質問に、
長門は俺の唇を、人差し指で押さえて答えた。
「ここ」
 ここ?
 その指は冷たくて、心地良かった。
「一次情報の発信源である、この部位を以って相互に接触する事で、リンクはより強い物になると推測される」
 
 長門、もっと解り易く説明してくれ、と言いたい所だが、解ってしまったよ俺にも。
 それは、俺らが言うキスって行動だよな?
「外見的には、そう見えると思われる。しかし、それはこの状況を脱出する為に必要な行動であり、感情を持って行動するわけではない」
 少し、いや大分、寂しい気もしたが、俺があえて何も考えず長門に希望した事、それは両手を上げて胸の前で組んでほしい事、目を閉じてほしい事。その二点だった。
 こう言う事は、こんな状況でも雰囲気って物が欲しい。そうじゃ無いかい?
 
 ハルヒ、さっき、解った。、、、すまん。俺もこいつの事が好きだ。
 古泉、悪いな、ハルヒにとっちめられてやってくれ。負けは全部チャラにしてやる。
 朝比奈さん、朝比奈さんはとんでもなく魅力的ですが、正直、目の前にいるこの娘には敵いません。
 
 雑念を消去すべく、深呼吸した後に俺は確認した。
「い、、良いか?」
「いい」
 俺は、俺の希望に沿って、目を閉じて両手を組んで胸に当てて待っている、その細い肩を抱き寄せた。長門がぴくっと揺れるのを感じたが、そのまま唇を重ねた。
 
 
 俺はその瞬間に何かが起こるんだと思って、何も考えずに待ち構えていた。
 だから、その前に雰囲気を整えたんだよ。解ってくれ。
 しかし、その冷たくて、柔らかくて、どうにも心地好い感触を味わう時間は十分にあったのだった。
「ん、、、」
 長門の息遣いが聞こえる。突然、きゅっと俺の腰を抱きしめてきた。
 メガネが俺の目に当たるほどきつく、俺たちはひとつになっていた。
 
 長門っ!!
 
 俺も肩を抱く手にもっと力が入りそうになったその瞬間。
 
 それは始まった。
 強烈としか言い様の無い感覚。
 来た。
 長門とのリンクだ。
 
 
 目の前に、カーディガン姿で無表情の長門が現れた。
 心地好い感触はそのまま、閉じたはずの目の中にその長門は映っていた。
 
「質問1に返答する」
 目の前の長門は平坦に答える。
「わたしは、一つの目的を持ち、再構成を行った。ベースは、わたしの動作プログラム。そのまま、有機生命体、いわゆる人間の形を取った。その結果、その性格を作り出したと推測される」
「質問2に返答する」
「当該時間、および空間は、既に修正され消失している。遵って、あなたが言う、長門有希と同期を取る事は不可能」
「今、答えられる事は、これで全て」
 
 
 長門の返答を聞いた後、俺はこの場を利用する事に決めた。
 強い想いなら伝わるんだよな。おまえのは長い告白だったが、俺の短い答えを受け取ってくれ。
 
 
 長門は、俺の答えに、俺の頬にも伝わる暖かいもので答えてくれた。
 
 


 
 
 気が付いた時、灰色の部屋はコンピュータ研究部部室に戻っていた。
 床も固いし、パソコンや机、壁のポスターも元通りだ。
 長門がどこにいるのか探すまでもない。俺の腕の中で、俺の胸に顔を埋めている。
 長門、また世話になっちまったな。いつも、俺はおまえに助けられてばかりだよ。
「いい。ここに戻って来られたのは、私だけの能力じゃない」
 それはそもそも、おまえが与えてくれた能力だったじゃないか。
 
 腕の中にいる長門が、何かを気にする様に後ろを振り向こうとした。
「もうそろそろ、涼宮さんの勝負が終わる頃合ですよ?」
 古泉が華麗に復活していた。もう少し寝てりゃ良いんだよ、おまえは。
「あ、あの〜。涼宮さんが来る前に、ですねぇ、そのお〜」
 メイド姿の朝比奈さんまでいた。あ、、あああのですね、これは。
 俺は現状に驚いて、胸の中にいた長門を放したが、手遅れも良い所だ。
 
 って、朝比奈さん、何でこっちに来てるんですか。
「閉鎖空間が発生しましたから、、。ちょっとだけ失礼します、って言って出てきた所なんですぅ」
 ああ、閉鎖空間、ね。あの灰色は長門が何とかしてくれましたよ。
「その様、ですねぇ。涼宮さんがゲームに少しイライラしたみたいで、いきなり発生しちゃって、びっくりしたんですよ〜」
 傍目じゃそうだったのかねぇ。
 俺と古泉は、「やれやれ」と肩を竦めた。
このタイミングは、いつも不気味なほど合っているよなあ、古泉。
 
 長門はそのままパソコンの前に移動して座り、また操作を開始していた。
「とっくに解ってましたよぉ?」
 俺と長門が抱き合っていたのを見て、驚かなかった事を朝比奈さんに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。
 俺はそんなに長門寄りの態度を取っていたのか。
「ええ。いつも長門さんを見てましたし、、、。涼宮さんがどう思うか、すごく心配だったんです」
「まぁ、解っていない人はいないでしょうね」
 古泉に止めを刺され、俺が自分はなんてバカ正直な人間だと反省していると、
ガチャ。
「終わったわよ。全員、部室に集合〜!三十秒以内ね!」
バタン。
 ハルヒが、ご機嫌で部屋に入ってきて集合をかけて、速攻出て行った。
「ひいいい!?」
 部長氏が飛び起きる。あ、この人いたんだっけ。
 
 
 その後、部室で行われた反省会だか何だかは、まったく反省会では無くてただの弾劾会議だった。
 会議ってのは正確じゃないな、ハルヒによる俺の弾劾裁判、と言うべきか。
 なにせ、最初からハルヒはこう来た。
「さ〜て、仲介人まで置いて、時間をあげたんだから何か進展はあったんでしょうね?」
 俺が返答に途惑っていると、長門が実力行使に出た。
 長門が俺にくっついて離れやしない。
 俺の袖を掴んで、ハルヒをじっと見たまま何も言わないのだから、そりゃハルヒだって俺だって、何を言いたいのかは解るって事だ。
 結論は、まぁ、有希が選んだんだから良いわ。だった。
 ハルヒが俺ら三人に与えた判決は、
仲介人であったはずの古泉が明日のお茶と昼食を奢る事と、
「くじは引かないわ。有希とキョンは、明日、一緒に探索する事。良いわね?」
 だった。
「まったくもう、世話が焼けるわ。」
 
 


 
 
 翌日。
 俺と長門は、図書館ではなくて公園にいた。
 これも実は、ハルヒの命令だ。
 なんでも、デートは公園でする物だから他の行き先は却下なのだそうだ。
 どんな発想だよ、デートつったら、、だな、、、。俺も公園くらいしか思い付かんわ。
 俺たちは、朝比奈さんと歩く駅前公園では芸が無いのと、もう一つの理由で、映画でミクルとユキが初戦を行った公園のほうに来ている。桜並木のある公園ではなくて、舞台のある公園のほう、って事だ。
 その長門は、地味なダッフルコートを着込んで俺の横を歩いているわけだが、なぜかメガネをかけていない。ちょっと残念だったが、まぁ長門と二人ならそれでも良いかと納得し、俺たちは公園のある場所を目指していた。
 俺の記憶が確かなら、あの場所には、、、。
 
 長門の手を引いて辿り着いたその場所には、俺の思う光景は無かった。
 
 辛夷(コブシ)と言う植物を知っているだろうか。
 冬が終わると、もう一度雪を纏ったかの様にその姿を真っ白に染める、そのもの一つはわりと小さな花を咲かせる木だ。
 俺は、その木がいっぱいに花を咲かせた光景が、長門に一番似合うと思った。
 もしかして咲いてはいないかと、淡い期待を持って来て見たが、、、まぁ、これは桜よりは先だが春の花だ。
 硬い、その名前の由縁でもある蕾は見えるが、咲いていないのが当たり前か。残念だ。
 
 適当なベンチに二人で腰掛けて、俺が想像していた風景を説明していると、
不意に長門がコートのポケットからメガネを取り出して、かけた。
 なんだ、持ってるんじゃないか。ああ、認める。俺にはメガネ属性が有るよ。そんな事もう、解ってただろう。
 最初からかけてくれていりゃ残念な思いを、、、
「どう?」
 
 あ?
 俺は、一瞬、呆けた。隣に座っている長門が、いつもの無表情ではなかったから、だ。
 な、、、長門か、長門なのか!?
 
「いつでも、できるんだよ?」
 
 そう俺に答えた長門は、俺が言う所の「あっち」の長門有希、その娘が笑っている姿、
そのものだった。
 
 
 ちょっと待て。こんなやり方があるかい。
 目の前にいる、爽やかな笑顔を見せる長門は、頬を赤く染めて俯いた。
「あはは、びっくりしてるの?あはははは」
 口を押さえて笑っている。その笑顔、古泉が見たら真っ青になるぜ、きっと。
「ああ驚いたさ、そんでだな、見たかったさ、会いたかったさ。夕べはそのせいでろくに眠れなかった」
 しかし実際、目の前にすると、これは、、、。
 
 可愛いなんてもんじゃねぇ。天使を見たって言うヤツが良く解らない事を言うテレビを見た事があるが、今はそいつの気分が良く解る。
 
file036.jpg
 
 長門は少し上を向くと、抑揚を含めた口調で、アレの事を話し始めた。
「わたしは、あなたに想いを伝えたいと思った。でも方法が解からなかった」
 それで、今までの様にやろうとしたのがアレだった、ってことか。
「うん。でも、あなたの良い様に変えられた所があるかも知れない。意識はそのまま伝わっていても、あなたが見た物はあなたに依って変換されたもの。だから、どこまで本当なのかは、言いたくない」
 長門、そこは、内緒って言うんだ。
「そう、じゃ、ないしょ」
 長門は、今まで以上に屈託の無い、すっごい笑顔でそう答えた。
 
 意識が、消えた。
 
「これは、架空の人格。あなたが言う長門有希のエミュレーション。」
 視線を俺から斜め下に逸らせて長門が言う。
「その時、わたしが創造ると思われる人格を構成した。わたしは、これに、そのエミュレータを添付した」
 長門は自分のかけているメガネを指差していた。
「あなたの、望む、もの」(ひょいっ)
 
 再び、意識が、消えた。
 
「以上が、質問3の返答。および、質問2の補足。」
 長門は、そう言うと首を傾け、頭の上に疑問符を表示させた笑顔でさらにダメージを加えてきた。
 何度俺を殺せば気が済みますか、長門さん。
 言う事はほぼそのままだが、抑揚のあるその言葉を聴くだけでたまらんと言うのに。
 
 甦った直後の状態ではあったが、俺には一つ、いや、二つ訊きたい事があった。
「あの時の長門は、そんなに笑う娘じゃなかったぞ、何でそんなに笑えるんだ?」
「あは、だって、わたしは楽しいもん。でも、その時のわたしはどうなのか、解らない」
 長門はまた、口を押さえて笑いながらそう言った。まるで少女の様に、、、あ、少女、なのか。
「長門、そんなに感情を出して大丈夫なのか。感情はおまえに異常を引き起こすんじゃなかったのか?」
「だいじょうぶ」
 明るく言ってのけた長門が続けて言う。
「あの、わたしに異常行動を引き起こさせる物は、わたしの中のバグ。けれども、わたしは今、それをこう思っている」
 
「たいせつな、もの」
 
 一言、この長門に声にして言いたい事が出来た。
 どうしても、言いたい。
 
 な、、、
 そう言おうとした時、
 
「キョーーーーーーンーーーーーーーーー」
 
 
 なんだなんだ。邪魔するのか?飯食ってる時と、寝てる時と、大事な事を言いたい時に邪魔するヤツは、ちと豪勢にユニコーンにでも蹴られてもらおうか?
「2ショット撮影完了!あんたたち、今は幸せにしてれば良いわ!」
 デジカメを指差しながら目を見開き、口を逆三角にしてハルヒが笑っている。
 生理現象一発で呼ばれる大魔王の娘かおまえは。どうやったらそんな顔が出来るんだ。
 強制的に連れて来られたと思われる朝比奈さんが、バカみたいな笑顔の隣で苦笑しながら手を振っている。
 そのいつもの声に、俺はいつもの台詞とポーズで答えるしかなかった。
 古泉、おまえもそこにいるんだろう?やっぱりいやがった。いくぞ?
 
「やれやれ。」
 
 肩を竦める俺を見て、長門はハルヒに背を向けて笑い始めた。
「あっは、あっはははははは、、、、楽しい」
 ああ、俺もめっちゃくちゃ楽しい。
さすがハルヒ。楽しさを追求する事にかけては、おまえに勝てるヤツはいないぜ。
 一頻り笑い終えた長門は、メガネを取って俺に差し出し、平坦に言った。
「これは、あなたに、任せる」
 ああ、解ったよ。たまに、、、
そうだな、またくじ引きでペアになった時にでもかけてもらおうか。
 
「行こうか、…有希」
 
 そう訊いた俺に、メガネ無しの長門は、確かにこう言ったのだ。
 
 
「了解した。キョン」
 
 

おわり。
 



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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:11 (2729d)