作品

概要

作者おぐちゃん
作品名エンドレスエイト異聞 〜4250回目〜
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-08-22 (火) 00:34:20

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 目覚ましのベルが鳴った。
 時刻は朝5時。めちゃくちゃな時間だが、俺は飛び起きて着替え始めた。
 身だしなみを15分で整え、そのまま部屋を飛び出た俺は、数部屋向こうの会議室に飛び込んだ。
「おっそ──いっ!!」」
 会議室では、ハルヒが仁王立ちで俺を出迎えてくれた。他のSOS団メンバーもおそろいだ。
「すまんハルヒ。歯磨きに手間取った」
「キョン! その呼び方は禁止って言ったでしょ!
 あたしのことは、ちゃんと大統領閣下と呼びなさい!!」

 

 八月十七日。俺たちSOS団員(ハルヒ除く)は、長門に呼び出された。
 そこで聞かされたのは、この世界がループしているという事実。
 長門はその事を俺たちに伝えると、いつもの表情で言った。
『……涼宮ハルヒの可能性をテストしたい』
 つまり、ハルヒの能力がどれだけのものか、この状況で試してみようって事らしい。
 失敗してもループするからOKってことか? 結構無茶だなそれ。
 この時俺は、とんでもないことを言っちまったのだ。
『じゃ、ハルヒに世界征服でもさせてみるか』
 この言葉を聞いた長門は、ぽんと手を打つと、一言こう言ったのだ。
『採用』

 

 俺は手帳のページをめくった。今日──八月三十一日のページには、びっしりと予定が書き込まれている。
「大統領閣下。朝七時ちょうどにはローマ法王との朝食会が予定されています。
 八時からはロシア州知事と、八時三十分からはインド州知事との会談です」
 ハルヒは鼻の下に高級万年筆を挟んで、俺の読み上げる予定をぼーっと聞いている。
 史上初の、地球政府大統領。しかし、長門と古泉の『組織』の手助けがあったとはいえ、わずか七日間で地球を我がものにしちまうとはな。予想外すぎるぜハルヒ。
 一通り予定を聞くと、ハルヒは朝比奈さんに向き直った。
「みくるちゃん。スピーチの台本は?」
「は、はいっ! ここに用意してましゅっ!!」
 ちょっと噛みながら朝比奈さんが返事をし、分厚いプリントアウトを手渡した。
 ハルヒだけでなく、SOS団員全員が地球政府の要人である。ちなみに、長門が副大統領、古泉が報道官で、朝比奈さんと俺は秘書官だ。
 そんなわけで俺たちは全員、ぱりっとしたスーツ姿である。朝比奈さんの胸はスーツに収まりきらずはじけそうになっていて、正直たまりません。一方長門のスレンダーな体型も、スーツによって引き立てられている。小道具の伊達眼鏡もお似合いだ。谷口ならどっちも高得点をつけるだろう。
 一方ハルヒは、椅子の上にあぐらをかいてスピーチの原稿を読んでいる。パンツ見えてるぞおい。
 原稿の要所要所にペンで印を付けながら、ハルヒがめんどくさそうに言う。
「あのさキョン、ここの食事もう少しマシにならないの?
 アメリカ人ってあまりにも食をおろそかにしすぎよ。やんなっちゃう」
 地球政府を作るとき、本拠地をホワイトハウスに決めたのはお前だぞハルヒ。俺は西宮市役所にしろと忠告したのに。
「はあ。……何とか対処してみます、大統領閣下」

 

 めまぐるしい一日はあっという間に終わった。古泉は何度か記者団とインタビューを行い、ハルヒ&長門はあちこちの要人と会談。俺たちは二人の後を書類抱えて右往左往。
 ……正直、高校時代が懐かしい。六週間前、俺たちは無責任なモラトリアム世代だったのに。
 そして夕食後。俺たちは再び会議室で顔を合わせたのだった。

 

「なんなのよこれはっ!!」
 ハルヒが、手にした書類をテーブルに叩きつけた。
「本当に信憑性あるんでしょうね! まだ何か隠してるんじゃ無いの!?」
「……全て裏を取った。この書類に書かれた内容は真実」
 いらつくハルヒに、長門が冷静に対応する。
 ハルヒが持っているのは、それぞれの国家の保有していた機密に関する報告だった。
 全ての国家が地球政府の州となった以上、これらの機密はハルヒに知らされる事になる。
「アメリカって宇宙人を隠してるんじゃ無かったの?
 ロシアだって超能力少女とかいたじゃない! インドのヨーガの行者とかは?」
 ハルヒにとっては残酷な内容だった。ここに書かれているのは、軍事的技術やら政治的取引の記録やらそんなものばかり。
 ──ハルヒの望む不思議については、いっさい書かれていなかったのだ。
 結局会議は早々にお開きとなり、俺たちは一週間ぶりに貴重な休み時間を得たのだった。

 

「残念でしたね。彼女にとってはつまらない結果でした」
 ホワイトハウスの一室で、古泉が言う。
 しかし何であの資料に、ハルヒの望んだものが書いてなかったんだろう。
「それも涼宮さんの『常識』のせいですよ。
 彼女の望む不思議が、こういう形で見つかるとは、彼女は本当は思ってなかったんです」
 あと、お前等の『組織』が載ってなかったのはなんでだ。
「僕たちの『組織』は、国家が設立したものじゃありませんから」
 じゃあ長門。お前たちは、地球の国家と取引とかしてなかったのか。
「わたしたちの能力があれば、国家からのバックアップは不要」
 ……そりゃそうか。地球の技術なんて、こいつらにとっちゃオモチャ同然だしな。
 ともあれ、世界を征服して隠された不思議を暴こうというハルヒの意図はくじかれたのだ。

 

 その後俺は、実家に電話をかけた。
「あ、キョン君!」
 出たのは妹だった。今の時間は十一時過ぎ、日本では九月一日の午後一時。どうやらリセットはハルヒの現地時間で起きるらしい。
「どうだ、元気でやってるか?」
「うん、みんな元気だよ。ちょっと周りが騒々しいけど」
 そりゃそうだろう。地球政府高官である俺の実家は、警察と地球政府軍日本支部(かつての自衛隊)によって厳重に警戒されている。
 でもまあ、その不便ももうすぐ終わるんだがな。
「キョン君、次に帰ってくるのはいつ?」
「……心配するな。すぐ帰るよ」
 そう。本当にあっという間だ。
 一時間後には、俺は自宅のベッドで目を覚ますだろう。このループのことをすっかり忘れて。

 

 ハルヒは、ベランダで星を見ていた。
「……気を落とすなよ」
「なによ。別にそんなんじゃないわ」
 そう言いつつも、ハルヒは俺と目を合わせようとしない。
「ねえキョン。あたし、計画があるんだ」
「言ってみろ」
「地球にね、おっきな塔を建てるんだって。そうすると、宇宙までエレベーターで行けんの」
「……軌道エレベーター」
 うお。何時の間に来ていたのか、長門がハルヒの台詞を補う。
「それさえあれば、宇宙に簡単に行けるようになんの。
 そんだけじゃないわ。他の星まで行けるでっかい宇宙船を作るわよ!
 きっと夜空の向こうには、まだ地球人が誰も知らない不思議があるわよ」
 ハルヒはそう言う。それは、結構ロマンのある話だ。
 だが、ハルヒの表情は暗い。そりゃそうだ、そんな希有壮大な計画が実現するまで、俺たちが生きていられるかどうか怪しい。
 ──世界を手中に収めても、ハルヒの望むものは手に入らなかった。
 あと一時間足らずで、また世界はリセットされるだろう。
 それまで、この柔らかい感覚を楽しんで──って、柔らかい??
 驚いた。ハルヒが俺の右腕にぶら下がり、胸を押しつけてきている。
「ん────。ちょっと疲れたかな」
 っと、今度は左手に温もりが。な、長門!?
「……ちょっと有希。何キョンにしがみついてんの」
「あなたもしている」
「あたしはいいのよ。なんたって大統領閣下よ?」
「わたしは副大統領」
「な、何よ! これは命令よ、放しなさい副大統領!」
「地球政府憲法第六十七条附則Aに基づき、拒否権を発動」
 地球第一の権力者と第二の権力者が、何か低レベルな争いを展開している。
 ……後ろから古泉と朝比奈さんの含み笑いが聞こえてきた。古泉、次のループで会ったらぶん殴る。このことだけは覚えておけよ俺。
 夜は更けていく。リセットの時間が近づく。
 最後の瞬間まで、二人は言い争いを続けていた──。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:09 (3084d)