作品

概要

作者おぐちゃん
作品名エンドレスエイト異聞
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2006-08-19 (土) 14:52:18

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 ……街が、燃える。
 夜の空を赤々と照らし、炎が建物を舐め尽くす。
 煙と炎の間を、赤い肌の鳥人が飛び回っていた。どうしてこんな事になっちまったんだ。
 断言できる。一万回以上繰り返してきた中で、今回が最悪の八月三十一日だと。

 

「大丈夫か、長門!?」
 長門を背負って、俺は全力で走っていた。
 すぐ前にはハルヒと古泉。古泉は失神した朝比奈さんを担いでいる。
 炎に追われた俺たちは、徐々に北高に追いつめられていた。
 北高の正門は開いていた。その中に駆け込み、俺たちはようやく足を止めた。
「僕の、読み通り、ですねぇ、はあ」
 息を切らしながら古泉が言った。学校はほぼ無傷だ。SOS団の部室にわだかまった様々な歪みが、あの鳥人達から俺たちを守ってくれるのだという。
 時計を見た。午後十一時四十八分。
 ……あと十二分で、世界はリセットされる。そのことを知らないのは、当のハルヒだけだ。とにかく部室に行こう。

 

 奴らは今日の昼、唐突に町中に出現した。その異形の姿とすさまじい力に、人々はパニックを起こした。
 そしてもう一つ、人々の知らない異変が起こっていた。長門の力が、すべて消失していたのだ。
「……彼らは、情報統合思念体の中でも、ごく小さな過激派閥」
 額に汗を浮かべつつ、長門は俺にだけ説明してくれた。
「世界がループするこの状態では、進化は望めない。だから行動に出た」
 その行動ってのが、あの鳥人ってわけか。そして奴らは、最大の障害である長門の力を取り上げ、ハルヒに情報爆発とやらを起こさせようとしている。

 

「あーっもう! なんなのよあいつら!!」
 ハルヒの声が、俺を現実に引き戻した。
 疲れた足取りで、部室へと歩くSOS団員。その先頭にいるハルヒは、崩れ落ちる街を瞳に写しながら叫んでいた。
「宇宙人なの? 地底人かなんか? なんで街を壊すのよ!」
「ふむ。どこかの国家が作った生体兵器ではないでしょうか」
 むろん古泉は、あの連中の正体を知っている。情報統合思念体過激派の作った、戦闘用インターフェース。悪の宇宙人と言って差し支えあるまい。
 そして我らが正義の宇宙人は、その力を押さえ込まれ、俺の背中で苦痛にあえいでいる。
「なんでもいいわ。なんなのよ。あたしが会いたかったのは、あんな連中じゃない」
 わかってるさハルヒ。お前が見たかった不思議は、こんな凄惨な光景じゃありえない。
 奴らの行動は完全に裏目に出た。情報爆発は起こらず、世界はまもなくリセットの時間を迎える。
 こんな夏休みの終わり、ハルヒが望んでいたはずがない。あと三分で時間は巻き戻り、八月十七日の朝が始まるだろう。
 だから俺たちは、あと何分かを無事に生き延びさえすればいい。
 いや、その必要さえ無い。時間が巻き戻れば、死んだ人間だって生き返るはずだ。そうでなければ、一万とんで四百三十八回ものループを繰り返すうちに、地球の人口は激減していたはずである。
 なのに俺たちはこうして逃げている。当たり前だろう、死ぬのは痛そうだし、なにより大人しく殺されてやるのは癪に障るからな。
 ともあれ、部室に着いた。見ればもうすぐ二十四時だ。鬼ごっこは終わりか、やれやれだ。
 古泉に背負われていた朝倉さんが、意識を取り戻し、よろよろと立ち上がった。俺も長門を床におろしてやった。足に力が入らず、へたり込む長門。
「──だめ」
 その長門が、小さく声を上げた。
 何だ? どうしたんだと聞こうとして、俺は硬直した。
 部室のドアが吹き飛び、中から鳥人が現れた。
 そいつは両手の鉤爪を振りかざし、まっすぐ長門へと向かってくる──!

 

 考えるまでもなかった。
 俺は長門の前に体を投げ出した。巨大な鉤爪が、俺の胸に突き刺さる。
 なんだ、これで終わりか。あっけないもんだな、死ぬって。
「           」
 ながと。ないている。
 おれ、おまえをなかせるようなこと、したっけ?
 ごめんな。おまえのなくかお みたくな  た に
 ほんと にすま   gat

 

 

 電話が鳴った。
 慌てることはない。どうせハルヒのヤツが、ろくでもないことを思いついたんだろう。
 だが、ハルヒの言葉はちょっと意外だった。
『キョン! ……あんた、元気?』
 何言ってんだ。おまえが俺の健康を気遣うなんて、これは雪でも降るか?
 ハルヒは用件をまくし立てると、電話を切った。だが、すぐにもう一度電話が鳴る。
『持参物を言い忘れてたわ。……あと、早く来なさい! いいわね!!』

 

「遅いわよ、キョン!」
 俺の到着が最後だったようだ。既に他の四人は雁首そろえて待っていた。
 仁王立ちのハルヒに、薄笑いを浮かべた古泉。我らが天使朝比奈さんに、この暑さにも平然と構える長門……
「…………!」
 いや。平然と、ではなかった。
 長門はいきなり俺に躍りかかってくると、首っ玉にしがみついてきた。
「な、ななっ!?」
 あまりのことに声が出ない。長門の体は柔らかくて、心地よい重さが、じゃなくって。
「こら、なに、ってんのあん、たらは!」
 ハルヒが俺と長門を引きはがす。……待て、お前も何かおかしいぞ?
「なに、よ。あたし、のどこ、がおかし、っての!」
 ……ハルヒ。何か変なものでも食ったのか。
 ハルヒは泣いていた。しゃくりあげ、涙をぼろぼろこぼしている。
「な、んで。どして、あた、しないて、るの?」
 俺にしがみついた長門が、ハルヒにハンカチを手渡す。
 と、向こうでは──朝比奈さんが、ふらりとバランスを崩すと、そのままくずおれた。
 地面に転げそうになった朝比奈さんを、古泉が支える。
「古泉! 朝比奈さん、大丈夫か!?」
「何でもありません、失神しただけですよ。
 無理もない、あんなことがあったんですから」
 お前まで変なことを言い出したな。何だ、あんな事って。
「……?? すみません、僕にもよくわからないんですよ」
 古泉はきょとんとした顔になった。意外だな、お前にそんな顔が出来たのか。

 

 その後、俺たちは市民プールへと向かったが、今日のSOS団は何かがおかしかった。
 長門は俺のそばを離れようとしない。古泉や朝比奈さんも俺に対してやけに遠慮する。
 何より驚いたのは、喫茶店を出るときだった。あのハルヒが、俺のかわりに会計を持つと言い出したのだから。お前たち、何かたくらんでませんか?
 ともあれ、ハルヒはこの夏休み中に、出来る限りのことをやってしまおうとしているようだ。仕方ない、つきあうさ。
「なによあんた。やけに素直ね」
「平和なことなら大歓迎。悪の宇宙人に追っかけられるとかでなきゃ、何でも来いだ」
 そう言った俺の手を、長門が強く握ってきた。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:02:08 (2711d)