作品

概要

作者ケット
作品名長門(小)
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2012-04-09 (月) 22:37:19

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「おーきーてっ、あさだよっ!」
 夢が霧散する。一瞬呼吸が止まる。毎朝の、フライング妹プレス。いつかそのまま永眠しそうだ。
「ほらユキちゃんも!」と、妹が見たほうを見て、飛び上がりそうになる。眠気も苦痛も吹っ飛んだ。
 長門。妹と同サイズ。
 くまさんパジャマの妹、うさぎさんパジャマの長門(小)。
「もー、いっつもつきあい悪いんだからっ」と、妹が部屋を飛び出した。
「逆算すると、七分二十秒以内に朝の準備を開始しなければ遅刻する」
 それだけ言って、妹とおそろいの服を着た長門がすっと部屋を出た。
 ただただ、呆然としたまま、ゾンビのように食卓に向かった。
 両親も、長門(小)の存在をあたりまえの、もう一人の妹として扱ってるように見える。
 それを見ながら、呆然と握り飯とソーセージ汁を口に放り込み顔を洗い、先に支度を済ましていた妹二人と、学校に出かけた。
「じゃ、あたしたちこっちだから!知らないお姉さんについて行っちゃダメだよーッ!」
 大声でいうなバカ。
 長門(小)は無言無表情で、静かに、妹と連れ立って歩き出した。

 学校に着いてさりげなく教室をのぞいてみたが、長門の姿はもちろんなかった。あったらそりゃ混乱するが。
 別に九組が消えているということはなかったし、朝倉もいないでハルヒがいた。それにはとてもほっとした、もうあんな思いはごめんだ。
 細かな設定とか事情とか、誰にどう聞けばいいんだろう。
 それ以前に、SOS団の活動はいつもどおりなんだろうか。
 谷口や国木田に、どうやって俺自身の家族構成について聞くか考えつつ、後ろからのハルヒのちょっかいを受け流す。
 どう聞くか考えすぎて、逆に珍しく授業が頭に入ってしまった。なんだか損をした気になる。
「そうそう、こないだまた妹と遊んでもらったよな」と国木田に聞いた。
「妹?どっちだっけ」
 その答を待っていた。どちらも俺の妹と、周囲は記憶しているわけだ。
「ふたごちゃんとシャミ、今日も参加してくれるんでしょ?」とハルヒも話に入ってきた。
 ふたご?そんなことになってるのか。

 放課後、ハルヒのあとにさりげなくついていると、部室に行くのではなく昇降口近くで、朝比奈さんと古泉が合流した。
 そのまま、妹の学校近くにある図書館に入ると、妹と長門(小)が待っていた。
「さて、今日は何しようか」とハルヒが楽しそうに言うと、長門(小)は何冊もの、明らかに大人向きのオカルト・SF本をそろえてくる。
 妹……前からいたほうは、すぐミヨキチなどとどこかに遊びに行ってしまった。
 そのまま、パソコンも朝比奈さんのお茶もないが、ある意味いつもどおりの団活がはじまった。
 いつもどおり、長門(小)が本を閉じる音を合図に、解散。
 ハルヒが一人で元気に飛んでいったのを見送って、さて誰に話を聞くか。「朝比奈さん」
「は、はいっ?」
 ……あの冬のトラウマが蘇る。が、言うしかあるまい。
「ええと、もし変なこと言ってたらすみません。朝比奈さんは、その、未来人であってますよね」と、小声で。
「え、そ、その、はい、そうですけど」と、古泉に聞こえないようにささやいているつもりのようだ。
「で古泉は超能力者」と、いやだがそっち側に行って確かめる。古泉がうなずいた。「じゃあ、この長門は?」
「あなたの妹さんではないですか。双子の」古泉がいつもどおり、うさんくさい笑顔を向けてくる。
「俺の記憶だけが変なんだ。昨日までは、要するに宇宙人で、俺やハルヒと同じ学年だったはずなんだよ」
「宇宙人、という言葉は正確ではない。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」という、いつもどおりの口調だが少し低いところからの言葉にちょっとほっとする。
「まあ、それはいつもどおりか。で、双子の妹ということに、親もみんなも思ってると。原因はなんだ?」
「去年の十二月十八日のバグと同様。涼宮ハルヒの能力を、あのときほどではないが限定的に借りている。自分では制御できない」
「もしかすると」と、古泉がにゅっとしゃしゃり出てきた。「長門さんはずっと家族のない生活をされてきました。それで、家族の温もりが欲しくなったのかもしれません」
「そう、それに決まってますよ」と朝比奈さんも、笑っているような泣いているような表情で言う。
 そりゃそうだ。三年間もあの部屋で正座してたら寂しくもなる。
「なら、別にいいぞ。気が済むまでいてくれ」
「すまない。経済的な負担なら、あなたの父親の仕事や、将来の病気を予防することを通じて補う」
 長門が、ほんの一ミクロンほどすまなそうな、怯えるような目をした。
「気にするなよ。気がすむまで、遠慮なくいてくれ」そう言いながら、手が自然に長門(小)の頭をなでていた。
 あたりまえのように、彼女はなでられている。妹と同じ、というか今は彼女も、俺の妹ってわけだ。
 妹、というには、可憐すぎるが。
 元々年齢より幼く見える外見だったが、この姿になると、テレビでも……どんな形でかは知らないが、めちゃくちゃ映えそうだ。
 子供服のCMでも、ドラマの子役でも、雑誌の読者モデルでも……俺にはわからないが、整いすぎていて使い方が難しいかもしれないが。

 そんなわけで、長門(小)と帰って、そのまま奇妙な生活が始まった。
 奇妙なのは俺にとってだけで、両親や妹にとっては今までどおり、のはずだ。
 だが、帰ってすぐに、呆れたことに長門(小)が家事を手伝ったり、すぐに宿題を終わらせて妹の復習を見たり、それどころか俺の宿題と復習までしっかりと教えてくれたり。
 いい子すぎる。妹と自分がクズに思える。
「あのな、長門、じゃなくて……有希」別にどちらでも、長門は感情は見せないが、長門呼ばわりは悪いだろう。名前で呼ぶのはどぎまぎするが。「もう少しワガママ言ってもいいんだぞ?」
「わがまま?」長門、有希にはわからないようだ。
「何話してるの?お風呂入ろうよ」と、妹が有希を連れ出し、そのまま二人で風呂に向かった。
 妹は前から、ハルヒや朝比奈さんにもだが、長門にもすごくなついていた。だから、この……双子のはずだがどう見ても有希のほうが二つぐらい上に見える姉妹も、あまり違和感はない。
 ユキちゃんユキちゃん、とべたべたくっついてるのは、有希が普通の双子だったらうっとうしいと振り払いそうなぐらいだが、有希が無抵抗なので微笑ましいのが続いている。
 夜、「おやすみ」と二人にあいさつしたとき、有希の表情がかすかに動いたような気がしたのがなんだか嬉しかった。
 妹は相変わらず元気に「おやすみー」、有希は「おやすみ」といつもどおりの平らな声だが。
 しかし、本来同級生の子と一つ屋根の下というのは……まあ元々……
 と思っているうちに熟睡していた。結構疲れていたらしい。

 翌朝、またフライング妹プレスで起こされた。
 有希もドア近くにいる、夢じゃない。あれが夢だったら迷わず自殺するが。
 朝食は相変わらず、有希は旺盛に食べている。妹の世話もしながら。
 オフクロ、ちょっと楽しすぎじゃないか?いつもの苦労の八割は有希が背負ってるぞ。
 ……家族の温もりを経験させるはずなのに、迷惑をかけまくっているような気がする。
 まあ、人のことは言えない。俺も、有希に服をそろえてもらったり、歯磨きを急かしてもらったりと世話になりっぱなしだ。
「ありがとう」と、言葉に出すのが精一杯だ。
「いい」と、いつもどおりだ。
 いつも、感謝してるんだ。負担かけてばかりですまない、って思ってるんだ。もっと頼ってほしいんだ。

 そんな日々が、何日続いただろう。
 ある雷雨の日、妹たちがちょっと心配だったが、考えてみれば有希がいなければ大変だがいるんだから何の心配もない。
 というより、妹が有希に迷惑かけてるんだろうな、というぐらいだ。
 いつもどおり二人とも図書館にいたが、ハルヒが「危ないから、今日はこのまま二人を送って解散よ!」というわけで、まるで子牛を守るバッファローのごとく妹二人をみんなで守って、家まで着いた。
 もちろんハルヒは遠慮なく上がろうとしたが、古泉が止めてくれたおかげで、みんなは帰ってくれた。
 上がりこまれて夕食はともかく、ハルヒと朝比奈さんまで……古泉はいいが泊まる流れになったりしたらいろいろとしゃれにならん。
 というかそうなったら、有希が家事で大忙しになるのが目に見えてる。
 そして、夜が更ける頃、雷がかなり激しくなった。窓を開けてみると、それはそれできれいな眺めだ。
 そんなとき、ドアを、いつもと違って弱く叩く音がした。そろそろ来るな、と思っていたので開けてやると、妹が、二人とも……シャミセンを連れていた。
 あ……ちょっと虚を突かれたような感じになる。
 いつも、こんなとき妹にするのと同じく、ベッドに入って布団を空けてやる。
 妹は無言で、いそいそと。シャミセンは枕元に。
 そして、有希も妹とは反対に、すまなそうに入ってきた。
 口が奇妙に渇いてしまうが……妹なんだ、妹。双子の。大切な。
 でも、なんともいい匂いがして、あったかくて、これは……普段の長門と、同じ匂いなんだ、と今になって気がつく。
 普段、近くで接している人の匂いは、意識しなくても覚えているもんだ。
 なんとか、二人とも平等になるよう叩いてやって、そのまま寝ようとする。
 妹がしばらく泣いて、そのまま眠ったのを確かめたように、有希が出ようとした。
「すまない」
「別にいいさ」
 よかったらそのままいてくれ、とも出てくれてありがとう、とも言いにくい。
 でも、なぜか有希は、そのままもう一度布団に入ってきた。
「ありがとう」
 眠る前、そんなささやきが聞こえた気がする。

 翌朝。いつものフライング妹プレス、それも椅子の上からひときわ強烈に。
 そしてドア近くの、もういつものところを見たが、そこに長門(小)の姿はなかった。
 わかってはいた。だが、凄まじい空虚感を感じる。
 妹も、なんだかすごく寂しそうだ。
 一升飯を炊いて、五人分の朝食を準備してしまったオフクロも。
 妹の頭をなでるのに両手を出して片手が開いてしまい、コーヒーと新聞を探して、狐につままれたようだったオヤジも。
 シャミセンまで、淋しげに鳴いた。
 何があったのか、言うことができない。

 恐ろしく重い足を引きずり学校に行くと、昇降口近くで、いつもどおりの長門が待っていた。
「バグの処理が完了し、復帰した」
 俺はしばらく、何もいえなかった。
「迷惑をか」
「迷惑じゃない。いつでも」
 それだけ、口からほとばしった。
 なにか、俺にできることがあったら。助けてやりたい。そばにいてやりたい。
「おっはよー!こらキョン、なに有希と見つめあってるのこのスケベ」
 ハルヒに背中をどやされ、とっさに叫んでしまう。
「ハルヒ!」
 びっくりした、少し怯えたようなハルヒを見つめる。
「なによ」
「もっと、楽しくやろうぜ」
「あ、あったりまえじゃない!世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒの団、それがSOS団なんだから!いつもみたいにサボってないで、もっともーっと盛り上げるわよ!世界をぶっ壊すぐらいに!」
「ああ」
 いつものハルヒの無茶が、今は無性に嬉しかった。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:58 (1806d)