作品

概要

作者ケット
作品名長門(大)
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2012-03-17 (土) 20:14:25

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「起きて」
 聞きなれた、冷たいが心地いい声。長門の声。
 部室の長机から少し顔を上げて、見たいつもの高さには、胸しかない。
 朝比奈さん、ほどじゃない。ハルヒぐらいはある。
「起きて」
 くり返される、上からの言葉。その声にとっさに顔を向けて、絶句して、上から下に目線がいき、瞬時に顔に集中した。
 古泉ほどもある長身、ウェストの細さがすごい。それをきっちり包む、グレイで短めのタイトスカートとスーツ。
 髪はボブカットで、とても品がいい。
 顔は、元から整っていたのが、まさに完璧としか言いようがない。
 テレビでもこんな美女見たことがない。
「私の個体認識ができない?パーソナルネーム長門有希。これから予定される作業の都合上、予想される二十五歳前後の身体、現時代における適切な衣類を採用した」
 おれは、ひたすら口をパクパクさせていた。
「来て欲しい」
 といって背を向け、ドアに向かう彼女に、とっさに跳ね上がるように立ち、直立不動で行進した。
 背中がまた、おっそろしいほどに美しい。
 もう、おもちゃの兵隊みたいなナチ式行進で長門(大)のあとをついていく。
 生徒とすれ違うが、男子は顎が外れそうになり、女子も呆然とする。
「おいキョ…」そのまま絶句した谷口のバカ面ときたらなかった。
 でもそれすら一瞬のこと。ひたすら、長門(大)のうなじと縫い目入りストッキングのふくらはぎ、高いピンヒールが強調する足首、美しい背中などから目が離せない。
「こっち」と、腕をとられて階段に急がされ、それでもう膝が砕けそうだ。
 曲がった直後、上で、聞きなれた廊下を走る足音がしたので背筋が寒くなった。
 ハルヒと鉢合わせしたら、しゃれにならん。
「な、長門。もし、誰かと会ったら、ええと、長門の姉、ってわけにはいかないから、親戚ってことにでも」
 というか今、長門(大)の、淡く化粧された顔が、小さいが強い紅をさした唇がものすごく近くにある。
 脳が別方向に熱暴走している。
 こんな美しい人、見たことない。朝比奈さん(大)も強烈だったけど、これはこれでなんというかもう…
 彼女はそのまま、特殊教室があるほうに向かう。
 こんな美女と歩いているのが、誇らしいというか現実感がない。
 そこで、向こうからやってくる鶴屋さんと目が合った。
「おっやーっ!はっろー!ぐーてんもーるげん!んちゃーっ!」
 頭がフリーズしている耳元に、矢継ぎ早に大声の挨拶が飛んでくる。
 長門(大)に、驚いてすらいないのはさすが大物だ。
「怖がってるから、早く行ってやって。あたしは何にも見てないよん」
 と言いながらカメラを出して、長門(大)を撮りまくっている。
「ま、この写真ぐらい、記念にいいよね?」とにっこり笑い、そのまま軽く手を振った。
「急いで」
 長門(大)は何事もなかったように、足を早める。
 長い足が長い歩幅で、高いピンヒールを鳴らす。それから目が離せないまま、こちらも足を速める。

 美術準備室を自然に開けると、そこには…朝比奈さんがいた。
 それも、三歳ぐらい。普通の子供服。
「時空の超対称・プランク時空非干渉微細構造定数に極微の変異が生じ、TPDD使用者のTPEHEフェイズの誤動作により、朝比奈みくるの異時間同位体が」
 長門(大)の口から、突然とんでもなくややこしい言葉の羅列が流れ出てパニックになる。
「ああもういい、たのむ、わからないんだ。何をすればいいかだけ教えてくれ」
「彼女を介護しつつ、とある地点に送る。助けて欲しい」
 それに、やっと納得した。
 高校生二人がこんな子を連れてたら、そりゃ変に注目される。
 朝比奈さん(小)がもじもじし、泣き出す。ぴんときた、十年ぐらい前のことだ。
 公共トイレの使い方がわからないんだ。妹のときと同じ、冷静に目線をあわせて話しかけて、素早くすべきことを済ませるだけ。
 長門(大)はただ、美しすぎる顔を無表情に固めていた。
 そのまま長門(大)と朝比奈さん(小)と、三人で学校を出る。
 ふと気がついて、長門(大)に言った。
「普通の大人が学校の廊下を歩くときは、スリッパ」…だ、か、ですよ、か迷ってる間に、
「うかつ」
 一言と同時に、瞬時に足元が再構成される。
 あのピンヒールは神だったが、これはこれで…いかんいかん、変な属性に目覚めそうだ。
 長門(大)が普通に昇降口から出ようとしたのは苦笑した。
 おれは昇降口から出て、来賓出入り口に二人を迎えにいった。

 それから、坂を見下ろした。この小さい朝比奈さん(小)と、ピンヒールの長門(大)にこの坂はきつい。
 やれやれ、とやっと余裕が出たのかいつもの身振りとともに、携帯でタクシーを呼んだ。
 タクシーで、バックミラー越しに長門(大)をつくづく見つめてしまう。
 朝比奈さん(小)が無邪気に膝に寄りかかるのに、無反応のまま。それで朝比奈さん(小)が泣き出してしまう。
 それにしても、なんて美しさだ。タクシーの運ちゃんも一瞬呆然としていた。
 朝比奈さん(小)の愛らしさも普通じゃない。ああ、同じ年頃の妹の比じゃないね。比較にすらならん。天使だ。
 朝比奈さん(小)が泣くので、コンビニで一度降りて、ちょっとしたご機嫌とりを買ってやった。
 するとにこにこと笑顔を向けてくれて、でもなぜか長門(大)のほうにしがみついて、すぐに寝てしまった。そりゃ美人の方がいいよな。
 これも何年ぶりだろう。あれで成長するんだな、妹も。妹が大きくなったらどうなるのやら…ミヨキチの五年後は楽しみだが。

 着いたのは、長門のマンション。
 ドアを開けると、困った表情の朝比奈さん(大)が待っていた。
 いや、壮観だ。こんな美女が二人並んでいるのを見られるなんて、当分目は洗いたくない。
 肉感的な体と、強い生気のある朝比奈さん(大)。大理石の彫像を思わせる、透き通った肌と完璧に整った長門(大)。
 ただ、頭が呆然として、朝比奈さん(大)の慌てた言葉も耳に入らない。
 とにかく焦りまくった朝比奈さん(大)が長門(大)に謝って、すぐに朝比奈さん(小)を受け取って。
 そして、突然おれの目が、うしろから冷たくすべらかな手でふさがれた。
 背中に、ものすごく柔らかい感触。
 心臓が止まった。
 そして数秒後、ゆっくりと手が離される。
 振り返ると、そこにはいつもの長門だけがいた。
「今日は」
 何か言おうとしたところで、携帯が鳴る。
「こらキョン!何勝手に帰ってるのよ!それに有希知らない?
 みくるちゃんが校内で迷子になってて、やっとつかまえたんだから、とっとと、そうね、駅前のファミレス前に集合!おごりだからね!え?うん、今日有希は休みだって、古泉くんから」
 うるさい叫びに辟易しつつ、おれはいつもの長門を見つめ、
「いってくる。おつかれさま」
 それだけいって、ため息をつくと玄関を出た。
「おかまいもできず、すまない」
 という、ほんのかすかに残念そうな声を聞いたが、まあその感じもおれの心臓が付け加えた妄念かもしれんな。

 さて、鶴屋さんに、どうやって焼き増しを頼むかなあ…直球しかないか。





時系列など、後知恵で。
終業直後
キョン:部室直行、長机で寝る
みくる:事故で、みくる(小)と入れ替わる
長門:みくる(大)から連絡を受け、みくる(小)を確保(そのときは高校生姿)
ハルヒ:掃除当番の類で部室に行くのに遅れる
みくる(大):長門マンションで待機

長門がみくる(小)を確保したが、小さい子の扱いが難しいことに気づく。
そこに鶴屋さんが来て状況を察し、キョンには妹がいるから扱いは慣れている、
でも高校生二人がこの子を連れてたら騒ぎになるから大人に変装したら、
それ以上は協力できないけどキョンを連れてくるまでみくる(小)は見てる、
とでも忠告。

長門、高校生姿で部室に行き、ドアを閉鎖しキョンの眠りを深めてから大人姿になり、キョンを起こす。
それから鶴屋さんとすれ違い、キョンがみくる(小)の面倒を見る。

長門マンションでみくる(大)と合流。
前後して古泉に連絡し、ハルヒに連絡させる。
長門(大)が時間に関する技術をキョンに見せないため目隠し。
みくる(大)主導で時間制御、みくる(小)をみくる(中)に交換し、
学校内に位置転移させる。
直後みくる(大)は未来?へ帰還、長門(大)は外見情報を修正し、
目隠しを外す。





*ひと月後のこと。*
 いつもどおりの部室に向かう道。といっても、あの十二月を思えば、これも必死で取り戻した貴重なもの、か。
 そんな感慨は、肘に触れたかすかな感触で一変した。
「こっち」
 長門が、小走りに部室とは逆方向に急かしてくる。
 とにかくついていくと、屋上に向かう方の階段の踊り場に、赤ん坊がいた。一歳にはなってない。
 少し人目はあるが、こちらは何とか見ていない。
「こ、これは?いつ産んだんだ?」
 普通なら蹴り飛ばされる半ば冗談にも、長門は何ら動ぜず、
「朝比奈みくるの異時間同位体。先日と同じ、時空テンソル場で表現すればΣ(0.645(1/h)、c56852、0.542)」
「わからないから説明はいい。前と同じく、マンションまで行けばいいんだな?」と抱き上げ、ふと思いついて、
「また、大きい姿になることは?」
 べ、別にあのお姿をまた拝見したいっていうだけじゃないぞ。
「無理。ここから昇降口まで、他人に目撃されず情報操作を行える解が存在しない。情報操作の前後を見られるだけでも不都合」
「見たやつの記憶を消せば」
「それは未来に対し、許容範囲を超えた、予測のつかない変化を及ぼす可能性がある」
「じゃあしょうがねーか」と、この年齢でも当時の妹よりはるかに可愛らしい子を抱き上げ、長門と昇降口に向かった。

 すれ違う奴らの注目が半端じゃない。
 ただでさえSOS団で目立っているのに。
「え、うそ!」
「な、長門さんが?清純そうな顔してやっるー」
「やっぱりあーいうたいぷほど、そうなんだ」
「え、おいみろよあれ」
「やーねー、産ませちゃったのね」
「うわー、キョン君、涼宮さんだと思ったら、長門さんだったんだ」
「え、うわ、すごいの見てるよ」
「殺す殺す殺す殺す…」
……
「やれやれ、明日ハルヒに」と言いながら、火渡りより顔から火が出る思いをして昇降口に着く。
 朝比奈さん(小)を先に靴を吐いた長門に預け、かがんで靴を履き、立とうとした。
 顔が、ものすごく柔らかい何かにぶつかる。
 え?
 なんか懐かしい気になって、一秒ほどじっとしてから、上を向いた。
 …ハルヒの顔が、至近距離。
 後ろに飛びのき下駄箱にぶつかる、おれを見ながら、後ろに組んでいた腕をゆっくりと前に組みなおした。あたかもバスターマシンのごとく。
 助けを求めて目が周囲を見回すが、携帯電話を手にした古泉が肩を落として、急ぎ足に出かけようとしている。
 さらに遠くに、鶴屋さんの姿がある。その、かなり小さい姿でわかりやすく、「犬」「食べない」「また明日」とジェスチャーをして、機嫌よく手を振ってお帰りになられる。
「キョン…この炎の孕ませ同級生!中出し以外は校則違反!鬼畜王ランス!いつ仕込んだのよいつ産ませたのよ!」
 …どうやってここを脱出して長門マンションまでたどり着くか。
 それ以前に世界を滅ぼさずに済むだろうか。
 腕に胸の感触が当たる関節技をかけられつつ、おれの脳内には「M:I」のテーマが鳴り響いていた…

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:58 (1888d)