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作者 | ケット |
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作品名 | 寒い、雪、消失を選んだ世界 |
カテゴリー | 消失長門SS |
保管日 | 2012-01-23 (月) 22:29:23 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 登場 |
みくる | 登場 |
古泉一樹 | 登場 |
鶴屋さん | 登場 |
朝倉涼子 | 登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
寒い。この坂上学校は風が吹きさらしてますます寒い。
ハルヒが元気よく帰って、古泉がアリーナ姫に従うクリフトのごとくついていった。
朝比奈さんも一礼して、書道部に向かう。
こちらでもやっと堪能できるようになった、お茶の温もりと味わい。この寒さの中では格別だ。
ひとしずくあまさず舌に転がし、幸せに息をついて朝比奈さんの後ろ姿に感謝の会釈。
長門が、棚に、重そうな特大の本…『T・S・スピヴェット君 傑作集』とかいう、ちらっと見たら絵の多い本だった…を戻そうとするが、届いていないのでいつもどおり手伝ってやる。
いや、その都度手が触れるとかそんなイベントはないぞ。どこぞのゲームじゃないんだ。
ただ、長門がすごくすまなそうな表情で縮こまるのが、ちょっと心地よかったりする。
まあ大抵はおれが立つ前に、ハルヒが棚に、本が心配なほどダンクシュートのごとくぶちこむんだが。
そのまま、長門が出口に向かおうとしたので、気がついた。この寒いのに、上着がない!?
「長門、上着は?」
ふるふる、と首を振るだけ。こく、と小さくうなずいて、そのまま横を抜けて帰ろうとするのを、軽く体でブロックした。
弱りきったような目が、レンズ越しに見上げてくる。
「どうしたんだ」強めに言ってやる。
長門はしばらく沈黙し…別に嫌な沈黙ではない…、
「クラスメートが」
って、もしかしていじめか?
冗談じゃない、長門をいじめたりしたらおれが許さんし、第一それは自殺だ。某R・A委員長の、条令違反なコレクションのいくつかに塩水テストをさせることになる。
『こないだやっと手に入れたの。チタンのフレームロック、炭素の代わりに窒素を使ってて海水まみれにしても錆びないの。でも血液は海水より過酷なのよね、ベアリングとかの耐食性を一度…』
いいのかと思うが、いいのいいのと鶴屋さんが笑っていたんだからいいんだろう。庶民はそれ以上のことには関わるまい。
「嫌なら嫌って言えよ、それに俺や」
「風邪で寒そうにしていたから。わたしから」
思いつめた表情になっている。もう、泣きそうだ。
こっちの長門がどんなに簡単に泣き出すか、すぐ忘れてしまう。
…それで時々、俺の背中にとても豊かで柔らかな感触が二つほどと、同時に首筋や…その、大事なところなどに冷たい感触が当たることがある。男の社会の窓を気軽に下ろしたりしてたら嫁に行けないぞ。それ以前の行為だが。
またはハルヒにもっとストレートに、朝倉のナイフがまともに思えるお仕置きを食らう。
そのどちらより、朝比奈さんの悲しげな怒り顔のほうがダメージはでかい。
まあ何より、長門の涙ほど辛いこともないが、どうしても…
「いやまあ、信じるよ。でもこの寒いのに…うわ、雪ふってきたじゃねーか」と、おれは自分の上着を長門の小さい体にかけてやる。
「い、いい」
びっくりして、おびえたように縮こまる。
「いいって、風邪引かれたらおれがハルヒや朝倉になにされるかわからん」
と、そのまま強引に出ようとする、おれの腕に泣きそうな目で上着を、重そうに押しつけ続ける。
「しょうがねーな」
なんだかちょっと腹が立って、上着の右袖だけ着ると、左手で長門の小さい体を抱き寄せて包み込んだ。
「え」
長門は硬直して、抵抗もできない。
「ほら、帰るぞ」
おれも顔が真っ赤になり、つい急ぎ足になる。長門は倒れかかるようにおれにしがみつき、そのまま足を速めた。
それで反省して、歩調をあわせてやる。
なんだか、猫みたいな感じだが…やはり顔から火が出るな、これは。
まあ見つからないことを祈りつつ、さっさと帰るか…