作品

概要

作者Thinks
作品名長門さんにいたずら
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2011-07-24 (日) 17:11:39

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

〜長門さんにいたずら〜

 
 
「IP接続OKです。映像はどうですか」
「…来たわ。よし。準備は完了ね」
 ハルヒが小声で言う。
「はい。でも、涼宮さん…」
 朝比奈さんが可愛らしくも顰めっぱなしの眉をそのままに忠告しようとするが、
「みくるちゃん、解って。もう引けないのよ」
「はいぃぃ」
 直球を受けてキャッチボールは終了。
 ハルヒは目の前のモニターに目を向け、イヤホンを耳に当てた。
 本来はステレオ仕様であるそのイヤホンの片割れは、既に俺の耳に付けてある。
 長門には悪いが。これも、流れからなったことだ。
 俺だってこんな事、したくはないんだよ。
 しかしまあ、流れの中にいた俺はこれに賛同してしまったわけで。
 
 などと、嫌悪や後悔に苛まれつつ、モニターからは目が離せないのは…
 性ってヤツかね。いや、業か。
 珍しく考え事をしている様子の、俺の背後で良からぬことを考え続けるヤツから声をかけられてしまったあたりから、
こんなことが始まったんだ。悪いのはこいつだぜ。
 
 
 ---
 
 
 話は遡ること三時間ほど前。教師の睡眠呪文からの耐久試験とも思われる授業中の事だ。
「ね、ね」
 おまえは俺の背中を突く時、シャーペン以外のものを使わないんだが。それには何か意味があるのか。そしてお前も何故俺を寝かせてくれない。
「ボールペンだと派手に汚れちゃうんじゃない?」
 指でやりゃ良いと思わんのか。と言うか、手に持ったシャーペンを放すのがめんどいだけじゃないのかよ。
「うっさいわねー。とりあえずわたしの話を聞きなさいよ」
 …まあ聞いてやらんことはないけども。
 椅子の向きはそのままに、後ろに振り返り、背もたれに右手を置いて聞く準備完了、と。
「で。なんだって」
「次の散策なんだけど、少し遠出をしようと思ってるのよ」
「またか? んで、どこまで行くつもりだ」
 俺の投げやりなセリフに、ハルヒは器用に口を三角にして続ける。
「何、その顔…。新幹線の駅の近くに大きな滝があるの。パワースポットだそうだからきっと何かあるわよ」
 …前に振り返ると、

布引の滝のしらいとなつくれは 絶えすそ人の山ちたつぬる

 今は古文の授業中で、その名瀑に纏わるであろう短歌が黒板に書かれていた。
 そしてハルヒの手にはブラウザが開かれ、ているであろう携帯。
「やっぱただの思い付きかよ」
「思いついたら即行動でしょ。基本よ!」
 机に手をついて、顔を近づけてくるのは良いが、
「声がでかい。授業中だっての」
「むー」
 目も逆三角にしてきやがった。俺は正しいことを言っているはずなのだがなあ。
「首で船漕いでるヤツには言われたくないわねー」
 睡魔ってヤツはいつ襲ってくるか解らないから恐ろしいんだ。
 俺はそんな当たり前のことを思いつつ、体勢を立て直してなおかつ懐古していた。
 ハルヒがどうかは知らん。だが俺は、確かあの山に登ったことがある。学校行事だったか地区の行事だったかでな。
 上流には日本で一番古いとか言うダムのある普通の渓流で、その滝はちょっとでかいヤツで道程はもちろん山道の急傾斜。
 
 結論:行ってられるか。であり、俺は密かにこの導火線のほぼ残っていない三尺球に、なんとか打ち上げ中止命令を下そうと思っていたわけだが。
「あんたはほんとーにダメねえ。行く前から居ないと決めつけてるから見つかるものも見つからないのよ。ってちょっと聞いてんの!?」
 とまあ、声がでかいと言っているのに今度は席から立ち上がらんばかりに説教を始めやがった。
 これには何でも良いから反論をしたくもなる。そうだろうよ。
「俺は良いぜ。だがしかし、おまえは俺以外に俺みたく、そうやって提案をしたことがあるか? 
いやまあ、今のだって提案なんかじゃなく命令だってことは理解しているつもりだけども」
「…あんた以外に反抗素子が居るっての、SOS団に」
 
 心にもないことをおっしゃいますなあ、団長さん。
 俺は、あなたのご命令には私の出来る限り、従っているはずでございますことよ。
 とは言え、どうも釈然としないものを感じるので、一つ俺から問いかけてみた。
「古泉はどうだよ。案外、あの顔の下に黒い思想を抱えているかも知れんぞ」
 本音を少し混ぜて、な。
「古泉くんは副団長じゃない。ありえないわ」
 即答。えらく信用してやがります事で。俺も少しあのイカサマフェイスを心得ておくべきかね。
「んー、じゃあ、朝比奈さんは」
 すいません朝比奈さん。あなたにある黒いところは胸のほくろだけだってのは、俺が一番知っていることだと自負しているのですが。
「みくるちゃん? 無いわね。理由を述べる必要もないわ。って、鼻の下伸ばしちゃって、あんた何考えてるのよ」
 むう、いかんいかん。
「なんでもねえよ」
「とにかく、みくるちゃんも古泉くんも、あたしは怪しいと感じないわね。あんたは感じるっての?」
 目と口を繋ぎ合わせると逆台形になりそうな顔を近づけて、ハルヒは熱論している。
「そうか、んじゃ後は…」
「後は?」
 あと一人しか居ないだろう。しかし…。
「…長門だな」
「…有希よね」
 
 ここで少しの沈黙が訪れた。こいつは何か疑問に思っているのか。
 確かにおまえは長門の監視対象だかなんだかではあるのだが、よもやそれで怪しい素振りを見せているとも思えんのだがな。
 想像してみろ。本を読みつつハルヒのことを尾行している長門とか、ハルヒが振り返ると電柱に隠れるのだけれども本を落としてしまうとか。
 そんなベタな展開ですべてがバレるとか、ありえない。マジでありえない。
 尾行の必要すらないだろうしな、あいつには。
「長門になにか怪しいところでもあるのか?」
「あんたはどう思うのよ」
 えらく真剣な顔だ。なんだよ、長門の話になった途端に。
「何も思わん。怪しいか怪しくないか、とかそう言う考えにもならん」
「ふうーん、そうかしらねえ」
 妙に突っかかってきやがる。そんじゃおまえは、長門が信用できないってのか?
「…ッ」
 ハルヒは一瞬驚いた風の顔をしたがすぐさま反論してきた。
「信用してるわよ。でも」
 でも、なんだ。
「いろいろと…怪しいのよね。ここはひとつ、調べてみる必要があるかも」
 何故か俺の顔を睨んできた。こいつの行動の意味とか理由等はあいも変わらず理解ができん。
 で、長門の何をどう調べるんだよ。
「そ、そうね…。あの子は変に頭良いわよね」
 それはそのままおまえにも言えるように思うがね。特に、「変に」のあたりが。
「だから、逆に幼稚なドッキリとかに引っかかっちゃうんじゃないかなって思うのよ」
 はぁ?
「たとえばさ、ゲーセンに置いてあるような人形が喋ってきたり。そんなのでもいろいろと理由を付けてでも信じてしまいそうなのよね」
 だからそれ、そのままおまえのことなんじゃないのかよ。
「うるさいっ」
 そう言われるとこっちも言いたいことがある。
「おまえなら知らんが、長門がそんな手に引っかかるとは到底思えんぞ」
「そんなことやってみないと判らないわよ。蓋を開けてみたら、って事もあるじゃない」
 なんだそりゃ。猫を入れた箱がうんたらこーたらいう例のやつか。
 長門にシュレディンガー理論なんぞが通用するのだろうか。いや、しないね。
「じゃあやってみりゃいいだろうよ。何なら賭けてもいいぞ」
「言われなくてもッ!」
 
「おーいおまえら。とっくに授業終わってんぞ」
「おじゃまなら、谷口と僕は他で食べるけど?」
 国木田と谷口が弁当ぶら下げて話しかけてきていた。あー、そうか。全然気がつかなかった。
「…大きなお世話よ!」
 ハルヒは大きく机を鳴らせて出ていった。ついでに扉も。
 
 
 
 そして、午後の授業に出てこなかったハルヒは、放課後までに!との一言で、
コンピ研からSOS団部室が監視できるようにこのシステムを仕立て上げさせたらしい。
 なんで僕らは授業中に働かされた上に追い出されなけりゃならんのだ、あと、長門さんを監視するとはけしからん。
 けしからんから僕らは君らの行動を監視させていただくとか言い始めてみたが、
有ること二割、無いこと八割の超論破でもって叩き伏せられ、旧館入り口で折れた心を修復中だった部長氏曰くのことである。
 この人は。またハルヒにトラウマを植え付けられた様子で。ま、俺の知ったこっちゃないが。
 
 出来上がった監視システムとやらを見て、自分がやってみりゃいいと言ったことをかなり後悔した。
 カメラはひとつだが部室の隅に設置されていてほぼ死角なし。マイクも同等の高性能な奴が仕込まれているらしい。
 案外良く出来たわ、とハルヒが納得している。が、勝手に言語を発することにされた俺からすりゃ悪趣味にもほどがある。
 
 
 長門に、か、これを長門の目前に放つというのか。
 バレッバレだろ。
 
 長門がこんなもの見抜けないとは思えない。実行に移った際、長門がこれを察して、上手く役をこなしてくれることを祈りつつ。
 
 
 放課後を、迎えた。

 ---
 
 はい、ここまでが回想。
 
  
  
 今は、部室の扉が開き、なにかキョロキョロとしながら歩いた後に、指定席に座ろうとする長門。
それをSOS団他全員がモニターで監視してるって状況だ。ええい、気色の悪い。
 何とかならんのかこれは。
「なんとも」
 古泉が一言。目配せでハルヒに気を付けろと言ってきている。これも気色が悪いのだが。
「今はこのままで、現状を維持するのが最適か、と」
「………」
 朝比奈さんの、…顔が、近い。
 狭いモニターを食い入る様に見ている。興味が有るんですか。この映像に。
 と、俺がモニターから目を逸らしたとき、それは、起こった。
 
 どんがらがっしゃーん。
「へっ」「む?」「ほええ?」
 
 四つの擬音で俺がモニターを見たとき、長門は椅子に座ろうとして失敗したのかなんだか。
 床に仰向けになっていた。無表情で。

 なんだぁ?
「うわ、いったそぉ」
 と、ハルヒが小声を出した以外、他は皆信じられないといった表情でモニターを見ている。
 まあ、ありえないからな。
 モニターの中の長門は、足元にたたまれた状態になったパイプ椅子を広げようとしてみるものの、
長机に邪魔されてみたり、力余って本棚にぶつけてみたり。はたまた、ちゃんと椅子に座ってみたら今度は手に抱えていた本が机の上にあったり、
それを取りに行こうとしたら今度は俯せに床に倒れてみたりという、一見コントのような行動を繰り広げていた。
 
 おかしい。
 これは何かあったとしか思えない。
「あ、やっぱ有希ってドジなとこあるんだわ。あたしの思ったとおりだわっ」
 これかっ!
 ハルヒの左右とその下で、三人が崩れ落ちた。
 
 三秒ほどで問題が解決し、五度目のチャレンジくらいで長門がなんとか所定の位置で本を読み始めたとき、
 
ハルヒが、最終決断を下す。
 
「キョン、やるのよ」
 
 
 
 あー。おれはやっぱ気が向かないのだが。
「…いいからやるっ」
 なんだか凄みが効いた、いつもと違う「いいからやる」に、俺は、事前に言われていた打ち合わせ通りのセリフを発するべく、
マイクのスイッチを、入れた。
 
 
 
 
 
「あー、長門よ」
「………?」
 
 人形の中にあるスピーカーの音が、少し遅れて聞こえてくる。
 部室の机の上には、一つの人形が置かれていた。その姿は、朝比奈さん謹製の俺。俺のぬいぐるみ(推定4分の1スケール)。
 その頭の中にスピーカーと受信機が埋めこまれていて。ここにあるマイクの音がそのまま、長門に伝わるという仕組みだ。
「これが物語の鍵になるのよ!」
 小声でもその甲高い声を出すな。今はそのままあっちにも聞こえるんだぞ。
 
「すまんなー、いろいろあって(何がいろいろだ)俺は肉体を失っちまった。この人形が今の俺の本体だってわけだ」
 この間抜けなセリフに、長門は読んでいた本を開いたまま膝の上に置き、目線を人形にあわせている様子だ。
 俺はそのまま、ハルヒが書いたメモ用紙をそのまま読み上げ…ようとしたが、新しいのが今きた…のか。
「こんな俺でも、おまえは俺を愛してくれ?るのか??」
 
 何を言わせるんだおまえ!
「そのままよッ」
 
 
「問題ない…とは言えない」
 安物のイヤホンから、少し劣化した長門の声が聞こえてきた。
 さらに長門は、声の発信源である人形を両手で持ち、胸に抱きながらこう言ってのけた。
 
「足りない」
  
 長門は俺もどきを抱きしめつつ、もう一度言った。
 
「足りない」
 ?? やっぱりおかしい!?
 そう思ったときはさっきもそうだが、、八割がたこいつの仕業、いや、発言が元だってことを俺は、嫌になるほど知ってるはずだ。
 こいつの発言を、俺の方に手をかけて、モニターから目を放さない、すなわち重いってんだよこの野郎!と、言いたいが言うわけにも行かない、
こいつの発言を少し思い出してみようか。
 
 
『だから、逆に幼稚なドッキリとかに引っかかっちゃうんじゃないかなって思うのよ』
『たとえばさ、ゲーセンに置いてあるような人形が喋ってきたり。そんなのでもいろいろと理由を付けてでも信じてしまいそうなのよね』
 
 これ、、、か?
 
 
 違った。
「物足りない。今のあなたを抱きしめてみても、あなたの匂いも、体躯の硬度も、あなたのぬくもりも伝わってこない。これは重要な問題…」
  
 
「ハルヒ」
「…なによ」
「おまえの負けだ」
「……解ってるわよっ!!」
 
 
 
 部室に駆け込んだ俺は、長門を抱きしめた。
「抱きしめてみるとおまえはやわらかい。小さい。いいニオイがする。あと、あたたかいな」
「…そう?」
 とぼけているような台詞に、
「ああ、そうだよ」
 と言うと、長門は、
「あたたかい。いい匂いもする。すこし、かたい。それが、あなた」
 
 などと、温度と硬度と臭気の、甘い話をしつつ。俺らは抱きあって…
 いたら、長門が小声で続けた。
「更に言うなら、このような小細工にも加担してみるなどする、いわゆるお人好…」
 
 
 向こうに聞かれるのも何なので、俺は長門の唇を塞いだ。
 
 
 
 
 
 

 
               「ねえ、あんた。今までに有希のこと、抱きしめたことあったわけ?」
               「いや、まあ、それは…」
               「………」
               「グーパンチ一発で許してあげるわ。ツケの分…よっ!!」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:53 (1834d)