作品

概要

作者いつまでも新米
作品名二人の気持ち
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2011-02-25 (金) 11:24:25

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 麗かな晩春の日差しの中、今日もSOS団は鋭意活動中よ!…のはずなんだけど、約一名、部員が居眠りをしているわ。
 言わなくてもわかると思うけど、キョンね。しかも居眠りなんてレベルじゃないわ、爆睡してる。
 いつもならネクタイを締めあげて「団長の前で居眠りなんていい度胸ね、キョン。罰として、これから猫耳をつけて、屋上で『日向ぼっこで午睡を貪る猫』ごっこをしてもらうわ!」くらい言うんだけど、今日のあたしはちょっと違った。
 キョンがここまで眠そうに、もとい眠いのかを知っていたから。
 いや、本当に細かい事情まで知っているわけじゃないけど、昨日なんだか有希の家に行ってなにかしてたらしい。クラスメートが、キョンが結構遅い時間に有希のマンションから出てくるのを見たと言ってた。
 もちろん、キョンが有希にいやらしいことをしたとかそんなことは微塵も思ってない。あいつは筋金入りのお人よしだし、何より人が嫌がることは絶対にしない、いまどき珍しいくらい常識的な奴だってのはあたしにも十分わかる。なんたってあたしに振り回されてくれるんだからね。
 それに、キョンは死んでも口に出さないと思うけど、アイツはこのSOS団を大事に思ってるから、それをぶち壊すような真似は絶対にしないわ。
 だから、昨日のことも多分、有希がキョンに何かお願いしたんだろうとは思ってる。
 有希が誰かを頼るなんてことは想像できないけどね。
 でもキョンならあり得る。去年アイツが入院して以来、二人の仲が急激に縮まったのは見てて明らかだもの。
 有希はわからないけど、キョンはしばしば信頼と気遣いを有希に見せている。
 これが少なくとも「まだ」恋愛関係じゃないのはわかる。
 でも、それとこれとは話が別。頭ではわかっていても心がもやもやして、眠そうなキョンにちょっかいを出し続けた結果、キョンは休み時間も授業中も一睡もできず、こうして部室で居眠りをすることになっているのよ。
 なんでキョンがほかの女の子と仲良くしてるともやもやするのか。
 それはごく単純な話なんだと気付いたのは結構最近のこと。
 認めたくないけど、あたしはこいつに恋心を抱いているかもしれない。というか抱いているみたい。
 いままであたしに本当の意味で近づいてきた男子なんてキョンしかいなかった。(古泉くんもそうといえばそうだけど、なんか意識的に距離を置こうとしている感じがする)
 なんだかんだ言っても本当のあたしを認めてくれた奴だから、あたしも好きになったのかもしれない。
 ただ、「恋愛感情なんて精神病の一種だ」なんて建前を吐き続けてきた手前、そんなことを簡単には認められない自分もいる。何より、自分でもたまにどうかと思う時があるけど、あたしは全然素直な人間じゃない。
 良い人は早く取られちゃうってよく言うけど、キョンに関してはその心配は少ないと思ってる。
 たしかにキョンは、見た目は十人並みだけど、気配りができるし、ぶっきらぼうに見えて優しいから、陰で女子からの人気は結構高いなんて話は聞く。
 でも、幸いにして(?)このSOS団、そしてあたしこと涼宮ハルヒにかかわってるおかげで、その手のお誘いをかけづらくなってるらしい。
 だから、あたしが唯一気になってるとすれば有希の気持ちだ。
 え?みくるちゃん?
 ん〜、みくるちゃんも確かに初めはライバルかなって思ったんだけど、キョンを見てたら違うって思ったのよ。
 テレビの中のアイドルに話しかけるような「お友達でいられればそれで構いません」みたいな。
 だから有希なのよ。
 有希の心はあたしにも全くわからない。
 あの子は誰にも心を開かないから。キョンを除いて。
 あたしたち他の団員にはかろうじてしか読み取れない有希の表情を、キョンはかなり正確に読み取ってるみたいだし、有希もそれを嬉しがっているような印象さえ受ける。
 二人がまだ恋愛関係にないのは見てればわかるけど、悔しいことにあの二人がカップルになったらお似合いなんだろうな、って思う。
 周囲の人間の反応を見ると、キョンはあたしとカップリングされているらしいけど、あたしからすればキョンと有希のほうが一緒にいるイメージがある。
 アイツ、有希と一緒だとあたしには見せたことのない安らいだ表情をすることがあるし。
 あーぁ、有希はキョンのことどう思ってるんだろ。もやもやするわ。
 あぁもう!イライラしてきたからキョンの顔に落書きしてやろ!

 
 

 彼は、とても深い眠りについている。
 原因は明白。昨日、涼宮ハルヒの能力に関連した作業を行う際に、私に協力を要請され、遅くまで付き合ってくれたからだ。
 彼は文句ひとつ言わず最初から最後まで協力してくれ、帰り際には眠そうな目をこすりながら「またなんかあったらすぐ声かけてくれ。お前の力になれるならなんだってする」とまで言ってくれた。
 しかし、厳密に言えば昨日の作業に彼の協力は必ずしも必要なものではなかった。
 確かに彼の協力のおかげで効率的に進みはしたが、彼がいなかった場合の進捗率をシミュレートしてみたところ、さほど違いは見られなかった。
 私はなぜ彼にそんな必要もない協力を要請したのか。
 わからない。
 12月18日のエラーによく似たものが私の中で滞留しているのを感じる。
 彼はそれを「感情」だと言った。そして、もっとそれを発散させるべきだとも。
 それ以来、私は彼の前ではそのエラーが体に命じる指令を実行している。主に表情筋を動かす指令だが、私のそれはなかなか思うように動かないらしく、若干のもどかしさを感じる。
 もどかしさ?これも感情。
 しかし彼は、ほとんど動かない私の表情を読み取り、コミュニケーションをとってくれる。
 本来なら彼以外の人間に伝わらないことにもどかしさを覚えるべきなのだろうが、むしろ彼にしか伝わらないことに喜びを感じている自分に気付く。
 この感情がなんなのか、これまでに読んだ様々な本から得た情報を総合したところ、一般的に「恋」と呼ばれる状態であるという結論に至った。
 恋。
 ある特定の人物のことをよく知りたい。またはその人物のものになりたい。あるいはその人物と共にありたいと願うこと。
 でも私にはこの気持ちが本当に恋なのかはわからない。また、これが恋だとしても、私には彼と共にあることは許されない。
 同期を封印した私には、彼が将来誰と結ばれるかはわからない。現在のクラスメートかもしれない、過去の友人かもしれない、これから出あう人かもしれない。
 数ある未来の分岐の中には、私と結ばれる可能性もあるのかもしれない。
 しかし、現時点で一番可能性が高いのは、涼宮ハルヒである。少なくともそうであるように行動しなければならない。情報統合思念体のヒューマノイドインターフェースとして。
 よしんばそうでなかったとしても、私が彼に与えた多大な迷惑を考慮すれば、私は彼と共にあるべきではない。
 この思考は私の胸を強く締め付け、呼吸器、循環器系に異常をもたらす。心は不思議。
 また、彼の近くにいることで、この苦しみは和らぐ。不思議。
 彼と共にあることができないのならば、せめて彼をどんな脅威からも守ろう。
 先ほどから私と彼に交互に視線を向け、何事かを考えていた涼宮ハルヒが、おもむろに油性ペンをとりだし、彼に近づいて行った。

 
 

 さて、なんて書いてやろうかしらね。やっぱり定番はおでこに「肉」かしら。ほっぺにはなまるとかまぶたの上に目を書くなんてのも捨てがたいわよね。
 あたしが何をかこうかと思案していたら、横から白い手がそっと、しかし力強くあたしのペンを持ったほうの手を押しとどめた。
 有希だ。
「彼は昨日、私の頼みを聞いて遅くまである手伝いをしてくれた。故に疲れている。そっとしておいてあげてほしい。その代わり、罰なら私が受ける」
 有希が自分から何かの意思表示をしてくるなんて!
 でも、この時のあたしは有希の意思表示に対する驚きよりも、さっき考えていた有希の気持ちがうっすら見えてしまったような気がして、そっちに気を取られてしまった。途端にあたしの悪い癖が出た。
「ダメよ、有希。理由が何であれ、こいつは団長様の前で居眠りこいてるんだから、罰を受けて当然なの」
 意地を張り始めてしまった。
「それでは彼が居眠りする原因を作った私も一緒に罰を受けるべき」
「有希はいいの。あんたはSOS団の中じゃそれなりの地位なんだから。こいつは最下位のくせに自覚が足りないのよ」
「上位の者がその権力ゆえに罰を逃れるようなことがあっては、下位の者に示しがつかない。組織全体の士気低下につながる」
 珍しく有希が食い下がる。
 でも、それもあたしからすればキョンに対する思いを見せつけられてるような気分になって、つい核心に突っ込んでしまった。
「なによ!どうしたの、有希。随分キョンの肩を持つけど、アンタ、もしかしてキョンに気があるんじゃないでしょうね!」
 あたしたちの言い合いを心配そうに眺めていた古泉くんが、ガタッと音を立てて立ち上がろうとしているところをみくるちゃんが押しとどめているのが見える。
 みくるちゃんが積極的に誰かをとどめようとするなんて、珍しいこともあるものね。
 そんなことを考えながら、あたしは有希の反論を待った。どうせ「そんなことはない。私は一般論を述べているだけ」みたいな返答が来ると思っていたのに、いつまでたっても返事がない。
 あたしが横にずらしていた視線を有希に戻すと、今まで見たことのないものが見えた。
 迷い、ためらう表情を浮かべた有希だ。
 こんなにわかりやすい表情を浮かべたことなんて、いまだかつて一度も見たことがない。
 あたしは思わずどもってしまった。
「な、なによ。なんとかい、言ったらどうなのよ」
 有希はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

 
 

「なによ!どうしたの、有希。随分キョンの肩を持つけど、アンタ、もしかしてキョンに気があるんじゃないでしょうね!」
 涼宮ハルヒの言葉が私の胸を抉った。
 彼女の言葉は核心をついている。普段の私なら彼女の行動にここまで干渉することはなかったはずだ。なのに私はなぜか彼女の行動を止めようと躍起になっている。
 もはや疑いようもない。私は彼に惹かれている。それもどうしようもなく。
 このことを彼女に告げるべきでないのは明らか。
 しかし、言葉の上だけでも否定的な表現を使いたくはない。
 迷う私に涼宮ハルヒが声をかける。
「な、なによ。なんとかい、言ったらどうなのよ」
 まだ迷っていたが、これ以上の沈黙は得策ではないと考えた私は口を開いた。
「たぶん、そう」
「え?」
「彼に恋愛感情的な気持ちがあるかどうかで言えば、ある。と思う」
「そ、それ、本気!?」

 
 

「そ、それ、本気!?」
 勢いで聞いてしまった質問から帰ってきた言葉は、ある意味で一番恐ろしい言葉だった。
 だって、客観的に考えれば、あたしと有希、二人にアプローチをかけられたとして、どちらがうれしいかと聞かれたら、恐らく有希に軍配が上がる。
 キョンだって例外ではないと思う。
 焦ったあたしはまた変なことを言い出す。
「ふ、ふーん、そーなんだ。こんな奴がねぇ…。あ、まさか昨日遅くまで二人でって、いやらしいことしてたんじゃないでしょうね!」
 違う、こんなことが言いたいんじゃない。
「私と彼はそんな関係ではない。彼は節度をわきまえた人間。あなたもわかっているはず」
「う」
「それに、私は彼と結ばれることは許されない」
 有希が変なことを言い出した。
「な、なによ、それ」

 
 

 涼宮ハルヒがいぶかしげな顔で尋ねてくる。
「言葉どおりの意味。私は、彼に大変な迷惑をかけた。一生かかっても償いきれないほどの。彼は気にしてないと言ってくれたが、私にはもう彼を求める資格がない」
 そう、私は彼を一人別世界に置き去りにした。
 今ならわかる。あのやり方では誰であろうと元に戻る方を選択するということが。そして、彼があの改変された世界の私たちに対して責任を感じていることも。
 彼に多大な迷惑をかけてしまった上に、大きなものを背負わせてしまった私は、本来ならここに居続けられるはずもない。それなのに、そのうえ彼は私がここに居続けられるように戦ってくれたのだ。
 これ以上を望むことは、私自身が許さない。
「だから、彼の恩義にはできる限り報いる必要がある。私は一生この気持ちを彼に告げることはないから安心して」
「なにがよ」
「彼に気持ちを伝えるといい」
 これでいい。これがヒューマノイドインターフェースとしての「私」の正しいあり方。
 しかし、涼宮ハルヒの返答は思いもよらぬものだった。
 パシッ!
 頬を張る。ビンタだ。

 
 

 有希の話を聞いていて、思わず手が出てしまった。
「なによ、それ。有希、アンタ、キョンのことわかってないわ」
 これだけの騒ぎになっていても、全く起きる気配のないキョンの顔を見ながらあたしは言った。
「こいつはね、普段文句ばっかたれて、あたしにえらそーな説教して、その割に頭も悪いし、馬鹿だし、スケベだけどね」
 そこであたしは一息ついた。
「死ぬほどお人よしなのよ!」
 そうよ。なんたって、あたしに付き合えるんだから。
「こいつは、自分じゃたいしたことはできないとか言ってるくせに、いざ友達が困ってると太刀打ちできなさそうでも手を貸しちゃう筋金入りのお人よしなの!アンタがキョンになんの迷惑をかけたか知らないけど、こいつに本当に迷惑だなんて思う心があるんならSOS団なんかとっくの昔にやめて、あたしともアンタとも縁を切ってるわよ!」
 キョンはそういう奴だ。
「確かにあたしはキョンのことを好きかも知れない。けどあたしはその手のことをストレートに表現するのが苦手だから、いつまでたってもガキみたいないたずらでアイツの気を引くことしかできない。それでもなんと気を引こうと頑張ってるわ。でも、アンタはなに?キョンに誰よりも優しく接してもらってるくせに、『自分には資格がない』ですって?笑わせないでよ、そういう風に自分の気持ちを押し殺して生きるのが、あたしは一番嫌いなのよ!」
「……」
「キョンはアンタに迷惑なんかじゃないって言ったんでしょ。ならそれは本心よ。わかりにくいけど、アイツ正直だから」
「…そう」
「砕けるなら、あたってから砕けなさいよ。少なくとも、今一番キョンの心に近いのはアンタなのよ。そのポジションを棒に振ってまで自分の心を殺すような真似はあたしが許さない。少なくとも、こいつに惹かれている数人にとっては侮辱以外の何物でもないわ」
 有希とは、正々堂々とした関係でいたい。このままじゃ情けをかけられたみたいで後味が悪すぎるわ。
「…でも」
「あぁぁぁ!デモもストもないの!いいわ、アンタがそこまで踏ん切りがつかないならここではっきりさせてあげる!」
 そう言ってあたしはキョンを起こすべく大声を張り上げ、椅子をひっくり返さんとばかりにゆすり始めた。
「キョン!おきなさい!」

 
 

 涼宮ハルヒが彼を起こそうとしている。
 止めたほうがいいとは思うが体が動かない。視線を横に向けると、やや青ざめた顔の古泉一樹と朝比奈みくるが見えた。
 朝比奈みくるは、私にしっかりと頷きかけた。どういう意味なのだろうか。
 この騒ぎの中でも熟睡していた彼も、涼宮ハルヒの目覚まし攻撃によって、徐々に覚醒しつつあるようだ。

 
 

「さぁ、キョン。事情はわかったわね!」
「さっぱりだ。これは夢か?」
 やぁ、おはよう。読者諸兄のみなさん。
 ん?なんだ?なぜみんなそんな顔で俺をにらんでいるのだ?
 などというメタ発言はともかくとして、俺は起きたばかりで靄のかかった頭に叩き込まれた情報を処理しようと試みる。
 えーと、ハルヒと長門が俺のことを好きで?でも長門は俺に迷惑をかけた負い目から、俺にその気持ちを伝えることをあきらめいて?ハルヒがそれを聞いてブチ切れて?長門を迷惑だなんて思っていないことを明言しろ&できるならこの場でどちらを好きなのかはっきりさせろ?
 ははーん、やっぱりこれは夢だな。
 SOS団が誇る美少女部員の二人から好意を寄せられている、それも対象が俺じゃあいくらなんでもおかしいってなもんだ。
 おい、俺の脳みそ!まったく、いくら夢でもリアリティというものをだなぁ…。
「夢じゃないわよ、バカキョン」
 …まじかよ。
「とりあえず、有希にアンタの正直なところを言ってやってよ。あたしが言ったんじゃ効果なくて」
「あ、あぁ…長門」
「なに」
「その、いまいち状況は飲み込めんが、俺はお前に迷惑をかけられたなんて思ったことはただの一度もないぞ」
「そんなはずはない。無理しなくていい」
「無理なもんか。むしろ、いつもお前ばっかり問題を抱え込んで、少しは俺に迷惑をかけてくれって言いたいぐらいだ」
「……」
「ほら、言ったでしょ、有希。こいつは筋金入りのお人よしだって」
「…そう」
 こころなしか、長門の表情がホッとしたような気がする。
 しかし、その表情も、つぎのハルヒの言葉で引き締まることとなる。
「で、キョン。アンタはあたしと有希、どっちが好きなの?」
「なんで二択なんだ」
「あら、じゃあ他に好きな子がいるの?」
「……」
「そういうわけじゃないが…」
 本当だから長門もそんな悲しそうな眼をするな。
「なら、あたしたちのうちどっちかでしょ?」
「今現在好きな人がいないという選択肢は考えられないのか?」
「こんだけ魅力的な女子集団に囲まれてて女の子に興味ないんだったら、アンタは男子校に転入して素敵なおホモだちライフを満喫することをお勧めするわ」
 そいつはごめんだ。それに、厄介なことに俺には好きな奴がいる。それもこの二人のうちの片方というスペシャル設定だ。
 まったく、こりゃなんてエロゲだ?
「あぁ、わかった。ならはっきりさせてもらうよ。たしかに俺は、お前たちのうちの片方が好きだ」
「…………」
 この三点リーダはハルヒと長門の分だ。
 つーか長門はもとからとはいえ、お前まで急に黙るな、ハルヒ。
「…どっちなの?」
 しばしの沈黙ののち、ハルヒから問いかけられた質問に対し、俺は迷わず答えた。
「長門だ」
「……!」
 長門が大きく目を見開く。それ、喜んでるととらえて良いんだよな?
「…そ。あーぁ、負けちゃったか」
「スマン」
「なんでアンタがあやまんのよ。いくらあたしでも、人の心までどうこうしようなんて心はないわよ。有希、よかったわね、おめでとう」
「…ありが、とう」
「おい、長門、もしかして泣いてるのか?」
 俺の問いかけを無視するように、長門は胸へ飛び込んできた。誰のって?俺のにきまってるだろ。
「ふぇぇ〜ん」
 なぜか朝比奈さんが胸をなでおろしたような表情で泣きながら笑っている。
 古泉がそれにハンカチを差し出しながら俺に微笑みかけた。なんだ、気持ち悪いぞ。
「今日の団活は、これより学外活動に移ります!有希の恋愛成就おめでとう&あたしのさよなら失恋パーティーよ!さっそくお店を探しましょう!」
 意外なほどあっさりと、ハルヒはパソコンで大騒ぎできそうな店の情報を集めだした。
 失恋てそんなもんなのか?フった側の俺が言うのもなんだが。
「おそらく、涼宮さんの中で、とても納得がいく、且つすがすがしい決着のつき方だったからでしょう。まぁ、家に帰ってからしばらく気持ちが荒れることもあるかもしれませんが、すぐに以前よりも落ち着いた精神状態を手に入れることとなるでしょうね」
 しばらく荒れるって、もしかしてあの青カビ巨人か?
 スマン。
「いえいえ、この状況下では、最高の解決方法だったと思われます。下手にごまかしたりせず。ストレートに自分の気持ちを伝える。これによる涼宮さんの成長を考えたら、むしろお礼を言いたいくらいですよ。ですから、臨時のバイトは僕からのお祝いといったところですかね」
 そーいってもらえると助かる。
「…あ」
 どうした、長門。
「思念体から通達。涼宮ハルヒの精神状態に興味深い変化を観測、『キョン』と呼ばれる有機生命体との恋愛関係を維持しつつ観測をつづけること。また、恋愛のみならず、さまざまな感情がもたらす精神的、肉体的変化の観測も任務に付け加えられた。以降は普通の人間としての生活もある程度許されることとなった。なお、期限はどちらかの有機生命体としての寿命が尽きるまで」
 おいおい、そりゃまた随分といきなりな方針転換だな。
 つーか思念体、お前まで結局『キョン』呼ばわりか。ついに俺の間抜けなあだ名も全宇宙規模だな。
 やれやれ。
「涼宮さんの力ではありませんか?ライバルとして戦いに勝った長門さんへのプレゼント。『幸せになってほしい』という願いが起こした情報改変」
「…可能性はある。わずかに情報改変の残滓が確認できた」
 まったく、なんでもありだな。
 でも、ありがとよ、ハルヒ。
 今まで俺の腕の中にいた長門は、名残惜しそうに俺から離れて、俺たちSOS団にむかってこう言った。
「みんな」
「ん?」
「なに?」
「なんですかぁ?」
「なんでしょうか?」

 

「…ありがとう」
 その言葉を放った長門は、驚くべきことに、花のようなたおやかな微笑を浮かべていた。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:52 (2708d)