作品

概要

作者ながといっく
作品名長門がチョコをくれた。
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2011-02-14 (月) 03:50:35

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「………これ」
 その時、俺は二秒ほど止まったと思う。まさか長門がチョコをくれるとは思っていなかったからだ。いや、そもそも長門の辞書の中に「バレンタイン」という単語があること自体、意外だった。
 以前にハルヒや朝比奈さんと一緒に作ったものを貰ったことはあるが、あれはあくまでハルヒが主導したイベントであって、長門が自発的にこんなことをすることが俺にとっては新鮮であり、嬉しいことでもあった。
 手渡された小さな箱を受け取って簡素な包装をほどくと、仕切りで四分割された箱の中に、茶色、緑色、クリーム色、真っ白とそれぞれ違った色の丸いチョコレートが入っていた。
「これ、手作りか?」
 小さく頷く長門。
「最大限、あなたの好みを反映させてみた」
「俺の好み?」
「そう。四つとも違う味付け」
 いつもの無表情で淡々と告げる長門。っていうかチョコの味付けってなんだ。イチゴ味とかそういうのか?
「食べて」
 先程より、少しだけ力の入った瞳と声色。なんだか「つべこべ言わずにさっさと食え」とでも言われてるみたいだ。
「じゃあ、この茶色っぽいのから食べるかな」
 いかにも普通のチョコの色だしな。やはり最初は無難なものから食べたい。
「……そう。それは自信作」
「それは期待できるな。それじゃあいただきます……」
 そのチョコを口に入れると、スパイシーな香りが鼻を抜けて……って、スパイシー?
「……あの、長門さん?」
「なに」
「一応聞いておきたいのですが、これ、何の味?」
「カレー」
 ですよね。
 いや、チョコにカレー味は合わないから! というか、俺はカレーが好きだとか言った覚えは無いぞ!? それはお前の好みじゃないの!?
「美味しくなかった……?」
 俺の様子を伺っていた長門が顔を曇らせ、やや伏目がちに呟いた。いかん、せっかく長門が作ってきてくれたっていうのに。
「い、いや、少し驚いただけだ。これはこれで美味いと思うぞ」
 嘘も方便とは言え、長門に嘘を付くのは気が引ける。すまん長門、俺には本当のことをいう勇気がない。
「……そう」
 長門の表情から憂いが消える。正直言って嫌な予感しかしないが、こうなっては次も食べざるを得ない。
「ええと……じゃあ、次はこの緑色のを……」
 頼む、抹茶味とかそういうのであってくれ……!
 そんな俺の切なる願いは、その緑玉を口に入れた瞬間に呆気無く打ち砕かれた。
「あ、青臭い……長門さん、これは……?」
「キャベツを練りこんでみた。カレーの付け合わせ」
 そうだね、カレーには野菜が必要だよね。
「……どう?」
「あ、ああ、独創的でいいんじゃないかな。ヘルシーだし」
 チョコにヘルシーさを求めるのはおかしいと思うけどな。顔の引きつりを抑えながら本日二度目の嘘をつく。
「じゃあ、次はこのクリーム色のを……」
 早くこの拷問を終えたいという一心で次のチョコに取り掛かる。先の二つの壊滅的なフレーバーのせいで、もはや味には期待していなかった。
 ところが。
「うまい」
 思わず口に出してしまう。濃厚でありながら、決してくどくない上品な甘み。あまりにも予想外な味だった。
「これ、カスタード?」
「そう。あなたのクラスメイトの飼い犬を治療した際に貰ったシュークリームの味を再現してみた」
 阪中のお母さんが焼いてくれたシュークリームのことか。なるほど、確かにあれはすごく美味しかった。そしてこのチョコはあの味を完全に再現している。
「すごくうまいよ、これ」
「……そう」
 長門の表情は相変わらず薄かったが、心なしか嬉しそうにも見えた。
 そんな長門を見ていると、長門のチョコを食べることが拷問だとか思ってしまった自分が情けなくなってきた。きっと、長門は純粋に美味しいと思う味付けをしただけなんだ。それを誰が責められよう。それなのに俺ときたら……。
 次のチョコは、美味しくても不味くても最高の笑顔で褒めてやろう。俺はそう心に決めて最後の白いチョコを口に運んだ。
「お……これも甘い」
 見た目はホワイトチョコに近かったが、それほどこってりとした甘さではなく、普通のミルクチョコのような味である。先ほどのシュークリーム風味と比べると特筆すべき点は無いが、これはこれで悪くない。いかにもチョコレートといった感じ。
「長門、これは何を入れたんだ?」
「朝比奈みくるの母乳」
 吹き出したね。
「ゴフゴフゲホッ! ガハッ! な、なんでそんなもん入れた!?」
 どうやって手に入れたのかは敢えて聞かない。怖いから。
 吹き出した白いチョコは長門の顔にもかかっていたが、長門は気にする様子もない。どこからか取り出したハンカチで顔を拭いながら、長門はこともなげに答えた。
「あなたがいつも彼女の胸部を凝視しているから」
 好きなものってそういう意味で!?
「い、いや、別に母乳が飲みたいから見てるわけじゃなくてだな……」
「……では、なぜ?」
 きっと睨みつけるような上目遣いで俺を見る長門。
「い、いや、それは朝比奈さんの胸が大きいから……」
「………………そう」
 いつもの三倍長い三点リーダと共に、無感情な言葉が返ってきた。まずい、これは地雷だ。
「い、いや、胸に目線が行くのは男の性というかだな……」
「………」
「無意識に目が行ってしまうだけなんだ。本当だ」
「………」
 俺が言葉を継ぐたびに、長門は少しずつ伏目がちになっていった。
 や、やばい。何か言わないと。フォローしないと……
「そ、それに、ハルヒに言わせれば最近の俺は長門ばかり見ているらしいぞ」
 ……何を言ってるんだろうね俺は。言葉に詰まった挙句、女の子に「最近はお前ばかり見てますよ」宣言なんて、酷過ぎるにも程がある。
 後悔に頭を抱えたくなる俺だったが、長門はゆっくりと顔を上げ、
「………そう。把握した」
 何をどう把握したのかはわからないが、どうやら俺の本心は通じたらしい。
 そう、これが俺と長門の仲なのだ。以心伝心。ちょっとくらいすれ違っても――

 

「では、わたしの母乳で作り直す」

 

 全然通じてなかった。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:52 (1805d)