作品

概要

作者ケット
作品名エンターキーを押す前のif
カテゴリー消失長門SS
保管日2011-02-05 (土) 13:09:26

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「長門。ここ数日、おれの言動が混乱していたのはわかっていたはずだ。すまん。それは、こういうことがあったんだ。信じる信じないは措いて、ただ感情的にならず聞いてみて欲しい」
 長門は、泣きそうな目を押さえて、ひたすらうなずく。
「朝比奈さんも」
 朝比奈さんが怯えきった表情で飛び上がる。
「朝普通に学校に行った。そうしたら、校門に天皇皇后の写真が飾られ、生徒全員が敬礼して通ってる。何やってるんだと通り過ぎたおれは見慣れない軍服の男に殴り倒された…想像できるか?
 おれが、起きたと少なくとも主観的には思っているのはそれに近い。ただ、後の席のクラスメートが、知ってる子じゃなくて昔転校したはずの子、それに毎日放課後にしゃべっている相手がおれを知らないというぐらいだ」
 と朝比奈さんを見て、また長門を見る。
 長門が口を押さえる。言い募りたかったが、長門が何か言おうとしているのを見ておれは止まった。その目が、涙であふれそうになっている。
「なん、とか、何なのか理解しよう、と、した。心の病、だったらとか」
「ありがとう」胸が痛くなる。「おれも自分が狂ってるかと思ったよ。違うのが、おれの記憶だけなら…だが証拠は、その栞と、今のパソコンの変な作動。そしてハルヒ」
 とハルヒを見る、たまに見せる顔でびくっとした。
「お前の記憶。三年前のおれといまのおれ。顔。年齢が変だろ」
「う、うん」
「信じてくれ、とはいわない。単におれが狂っているのかもしれない」
「オッカムの剃刀でいえば、そう考えるほうが思考節約ですねえ」と古泉。
「だが、このパソコンはこんな作動をしている。緊急脱出プログラム、今エンターを押せば、おれは元の世界に帰れるかもしれない。長門、おまえが何事にも無反応無表情で、万能な宇宙人である世界に」
 長門がびくっとする、その拍子に涙がこぼれる。
「あ、あんた、そんなことしたら、ホントにホントだったら、あたしたちは」
 ハルヒがわけもわからず、おれの袖をつかんだ。
「わからない。今の高校で暮らした今のハルヒ、消えるかもしれない」
 古泉がびくっとしながら、あまりに見慣れたポーズで手を開く。
「それはそれは……うらやましいとは思いませんよ、そんな殺人にも等しい決断をする、あなたを」
「で、でもあたしならそっちに行くわよ。楽しいもん、宇宙人とか未来人とか超能力者とか。それに、今まで生きてきて、こんな面白いことってなかった!」
「いいのか?楽しい、だけで、この何ヶ月か生きてきた、そのおまえを」
「あたしならそうする。だから、あんたを責めない。でも」と、ハルヒが長門を見た。
「そっちの世界の、長門さん、だっけ?ユキって呼んでいい?止めたい?」
 ハルヒが長門を見た。その迫力に長門が怯える。
「何でもできて、とんでもない能力持ってるのよ向こうのアンタは!まあなんにもないかもしれないけど、だったら試して」と津波のようにしゃべるハルヒを、おれは掌を顔の前に突き出して止めた。
「長門。すまない、だがおれの気持ちは固まってる。向こうに戻りたい、十七日までの、めちゃくちゃだけど慣れてる日々を取り戻したいんだ」
「あ、あなたが、そう、望んでいるなら、好きなほうにして」長門が泣きながら、微笑む。
「何も起きない、単なる笑い話にしておれが病院にでも行く…そうなるよう、願っててくれ。そうだったら、これからよろしく。そうでなかったら、さよならだ」
 おれはそう言って、一瞬目をつぶり、深呼吸して、エンターキーを押した。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:52 (2711d)