作品

概要

作者ケット
作品名美女とへた・・・
カテゴリー消失長門SS
保管日2010-09-18 (土) 21:54:45

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 うるさく鳴る携帯電話には、鶴屋さんの名前。
「はい」ととったら、いつもながら元気な声で、
「ジョンくーん、今忙しい?」
「とんでもない」
 妹と宿題を眺めながら三毛猫をなでているぐらいヒマだ。
 鶴屋さんに呼び出されたら、どんな用事があろうと飛んで行きますがね。
「じゃあ、もしよかったらちょっと来てくれないかなあ?」
 くひひ、といたずらっぽい笑い声が漏れる。なにかまた騙されるかも、という気がしたけれど、鶴屋さんなら楽しみなんだから困ったもんだ。
 なんとなく、昨日やっと攻略した大灯台を思い出す。少し前に国木田にすすめられてファミコンスーファミ互換機を買って、それでファミコン版のドラクエを1からやっている。
 なんだこりゃ、まるっきり別物だ。マンドリルに散々やられ、ルプガナまでの長い道をわずかな荷物だけで歩き通し、そして大灯台で十回ぐらい全滅したか?あのドラゴンフライの炎は反則だろ……
 それで長い下りの道を延々案内されて、たどり着いたのは罠だった、と。
 でも鶴屋さんならどんな罠でも楽しみでならない、ってのはどんな心理状態なのかね。
 まあ少なくとも、「Enter」を押していたら帰っていたかもしれない世界とは違い、超常現象の心配だけはないんだから気楽な話だ。
 あーずるいつれてってつれてってつれてってつれてってとわめく妹をなんとか振り切って……雨に出たことを後悔したが、とにかく言われたところまで行ってみた。
 最近うちの路線の乗換駅にできた、小さいショッピングモールみたいになった駅ナカで、地下街にはかなり大きな広場があって、ライブとかもあるそうなんだが……
 駅から降りて広場に向かった。
 ざわざわ、と何十人の男が、そっちのほうを見ている。携帯電話のフラッシュもうるさい。
 酔っ払いなのか、とろんとした表情で歩いてくる男。
 ケンカしてるカップル。
 すごい興奮して携帯電話を見ながらしゃべってる男たち。
 どよんとした女たち。
 何かあったのか、と思いながらそこに近づいて……呆然とした。
 鶴屋さん、朝倉、ハルヒ、朝比奈さん、長門がいただけ。が、五人ともしっかりめかしこみ、ばっちり化粧していた。あ、古泉もいたがそんなの見てないし描写もせん。
 鶴屋さん。肩紐も片方しかない流れるような青のドレス、高く髪を結い上げ白バラの大きな髪飾りをつけている。アカデミー賞のテレビ中継かと思った。
 朝倉。対照的に、思い切り高いヒールに男の軍正装みたいな感じの黒と紫を強調し金もかなり多い服、きりっと頬を強調した化粧。腰まである長い髪に一筋銀の飾りを流している。男っぽい服のくせに、化粧の効果か頭ぶん殴られたように色っぽい。
 ハルヒ。髪はすごい丁寧にブローしたポニーテール。深すぎる切れ込みでかなりけしからんことになってる胸元にサソリのタトゥーシールがいやおうなしに目を引き、スパンコールの多い緑の超ミニスカートに薄いストッキング、ポニーテールに一番合う服ってのはこれに決定だ。なんていうのかも知らないが。ついでにグラマーさがしゃれにならないほど強調されてやがる。
 朝比奈さん。上品でふわっとした紫を中心にした服、左右非対称のスカートの切れ目から大きくのぞく内股と強烈なハイヒール、目元が強い化粧に柔らかな髪がふわりと広がる。一言華麗、冗談抜きに女神の翼が見えていますよ。
 だが、その美の女神たちも俺の目にはほとんど見えなかった。朝倉とハルヒの影に隠れようとしたのを二人が押し出したのは……
 長門。上品な薄黄にシンプルなコンクパールのペンダントが冴えるスーツ、グレーの薄く長いすらっとしたタイトスカート、丁寧にセットされたつややかな髪を一点だけ引き立てる黒真珠、耳元を飾る白真珠がその知性を輝かせ、鋭い印象のある黒フレームの眼鏡が顔の曲線をこれ以上ないほど引き立て……テレビでも見たことも想像したことすらない、輝かんばかりの超絶美人だった。
「……誰だ……まさか、長門?」
 俺はただ呆然とするだけだった。
「大成功!」
 鶴屋さんがはしゃいだ声を上げる。
「こらジョン!なんて目を有希に向けてるのよ!溶けちゃうでしょ!」
 ハルヒが怒鳴る。
「わかるけどねえ、こんなきれいなもの見ちゃったら。そんなにあたしたち、長門さんに比べて魅力ないかなあ?」
 朝倉の笑顔、普段だったらふらふらしそうだが、とにかく長門が美しすぎてそれどころじゃない。
 長門は俺を見た瞬間一瞬花のような微笑を浮かべ、そしておびえたように目を伏せた。その表情の変化と、腰が砕けたような仕草もまたあまりに魅力的だった。
「おやおや、これほどの美女たちに目もくれていませんね」古泉の声も、
「なんだか目が怖いですよう」朝比奈さんの声も、
「女として自信失っちゃうなあ」とからかうように言う鶴屋さんの声も耳に入らない。
「そりゃ元々わかってたわよ、有希が美人だって。あたしも見てびっくりしたわよ、正直負けたって。でもそんな有希ばっかり見て、いやらしい!」ハルヒが耳元で怒鳴ったが、それも聞こえてない。
 魂を抜かれるってのはこういうことなんだな。

「要するに、ちょっとみんなおしゃれさせて遊んでみただけ!」鶴屋さんが能天気に言った。
「これほど素晴らしいとは。お呼びいただいて光栄ですね」古泉もしっかり服も髪も決めていやがる。というか俺だけ思い切り場違いだ。
「わかった?長門さん、スカウトの名刺、あなたが一番多いでしょう?それに彼の目、見てみなさいよ。もっと自信持って、堂々と自分を見せてみなさい」
 朝倉が長門に言うが、長門はひたすら朝倉の後ろに隠れようとばかりしている。
「ああそうそう、みんな名刺見せて?」と鶴屋さんが言って、それぞれが出すたくさんの名刺をめくりながら、「これとこれはAV、あとこっちは潰れそうだし、これとこいつはまく…まあまあとにかく、ここはヤクの噂があるから論外……」と怖いことをつぶやきながらほとんど破って、数枚ずつ返し「本気でやる気があるならねっ」と楽しそうに言っていたが、みんな怖そうに全部破り捨てた。
「こらジョン。こんな美人見たら、やることは一つでしょ?」とハルヒが俺に顔を近づけながら長門を指さす。その服だと、その、見えそうなんだが。
「な、なんだよ」
「ひざまずいて花束渡して『結婚してください』って言うのよ」怒ってるのか笑ってるのかはっきりしろ。いやなんてこというんだ。
「お、おま……」
「あたしが男だったら一目見た瞬間花屋に飛んでプロポーズしてるわよ!」
 ハルヒの男バージョン……一瞬想像しそうになって止めた。
 それどころじゃなく口がきけない。普通なら何か言い返すが、朝倉の影からちらっと見ている長門の、泣き出す寸前の目…いや、冗談抜きに長門が泣くことがある、というのに慣れるのに二カ月かかった…を見ていると何を言っていいかわからない。ただ口をパクパクさせるだけ。
「どうやら何を言っていいかわからないようですよ、彼は」古泉のイケメン面を鉄拳でへこましてやりたくなるが、勝てないのはよくわかってる。
「え、あ、その」
「言葉にならないぐらいきれいだ、って言いたいの?」朝倉がかわりに言ってくれやがる。
「あ……」
 なんというか、こんな天国のような地獄ってのもあるんだな。
 とにかく周囲の男どもの目とカメラ、声かけてくるバカども、名刺を差し出すスカウトたちがうるさい。
 それから鶴屋さんに引っ張りまわされてしばらく練り歩き、ちゃんとした写真屋で写真撮ったりしてからやっとみんな普通の服に着替えた。といってもまたかなり時間をかけていつもより品のいい服、髪や化粧も派手ではないがしっかりプロがやっていたから、みんなさっきとあまり変わらないぐらい美しく見えた。
 というか上品な白いワンピースの長門が、へたをするとさっきより美しく見えちまうのが困る。主に目のやり場に。
 でもあまりそっぽ向いて、ちらっと見たら泣きそうな目をするから、そのまま暴れる心臓を押さえつけて見つめようとすると、また朝倉の影に隠れようとする……
「ほらジョン、こうして」とハルヒが、なんか怒ったような表情をしながら長門の手を強引に引っ張って、それを俺の腕に押しつけた。
「肩ぐらい抱いてあげてもいいんじゃない?」朝倉の楽しげな声がいきなり、「このヘタレ」と彼女が愛用しているナイフのようになった。こいつのせいでバックとかコールドスチールとかランドールとかスパイダルコとかベンチメイドとかクリスリーブとかタゾーラとかクーパーとかスカーゲルとか、いらん単語ばかり覚えて人生が心配だ。
「え、あ、その……」ありがとうございます朝比奈さん心配していただいて。でもあなたにこの状態をどうしようもないのはよくわかっております。部室ならおいしいお茶でなんとかなりますが、まあ普段のそれだけでも十二分ですよ。
「あ……」
 俺も長門も、何も言えずただ見つめあっていた。
「い、いやなら」という言葉さえ同時。
「そ、その……」荒くなりそうな呼吸をかろうじて深呼吸にする。
「エスガ、いえエスクロ、あわそのエスコートさせてください」とそれだけ言うのが精一杯。その腕に、蚊も潰れないほどかすかな力でかかる腕が、ほんのわずかに重くなる。
「お、おねがい」と泣きそうな声でささやいて、それから必死で下を向いて呼吸して、おずおずと見上げる……眼鏡属性はないはずだが、この上目遣いだけは反則だ。
「じゃああとは二人きりで行ってらっしゃーい!」鶴屋さんが手を振って、朝倉の手をしっかり握って…ナイフを抜くのを封じてとも言う…他のみんなと別の道に歩き出した。

 それから……ああもちろん、普通に図書館で閉館まで過ごして、そのまままっすぐ帰ったとも。ナイフがどうこうじゃなくて、なくてもそんな甲斐性はないし、長門はどれだけ大切にしても……。
「あ、あの、その……ありがとう」
「い、いやこちらこそ」
「そ、その」と、一瞬ポケットの携帯電話を気にする。誰かが余計なメールでもしたのか?
「あ、明日からも、もっとおしゃれにしたほうが、いいかな」
 俺は絶句した。心の中では、(ふざけんな他のヤローに見せたくねえええええええ!今日だって何人の男をノックアウトしたと思ってやがる!というか写真撮ったヤローども全員消しやがれ!)と叫んでいた。
 でも、鶴屋さんや朝倉が、長門の消極的な部分を少しでもどうにかしよう、自信をつけさせようとしていたのはわかる。どう言えばいいんだろうか。
 しばらく口がきけなくなる。長門が泣き出しそうな目になる……
「そ、その、自信もてよ!朝倉とか鶴屋さんがいうように、おまえ、あの人たちに負けない大美人なんだから」
 そのときの長門の笑顔ときたら、目から脳に焼きつけて最高画質のEPSファイルにして、一生心のフォルダに保存しとくね。厳重にパスワードつけて、さ。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:47 (3088d)