作品

概要

作者◆Yafw4ex/PI
作品名選択
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-09-18 (土) 14:08:23

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 

 その時、俺の耳に聞こえていたのは身を隠していたエアコンの室外機の低い唸り声と、やた
らと煩い自分の心音。そして、遠くに聞こえる誰かが走り回っている足音。
「さっさと呼吸して肺に酸素を送れ」
 そう切実に訴え続けている肺の言い分を無視したまま、物音を立てないように硬直すること
十数秒。
 俺と長門が隠れている室外機の向こうまで近付いていた足音は、
「……くそっ、こっちじゃねぇのか」
 吐き捨てるような呟きの後、遠ざかって行き……俺は声を殺したまま大きく息をついた。
 ……やれやれ、取りあえずは逃げ切れたみたいだな。
 狭い路地の埃っぽい空気はお世辞にも美味しいとは言えなかったが、それでも今は格別に思
えるんだから仕方ない。
 満足するまで深呼吸を繰り返した後、
「長門、大丈夫か? 怪我とかしてないか?」
 隣にしゃがんでいた長門は、俺の問いかけに小さく頷く。
「そっか」
 それは良かった。
 普段と変わらない長門の顔に思わず頭を撫でそうになったが、自分の手が汚れていた事を思
い出してやめた。
 走り続けたせいで疲労は限界、数少ない私服はぼろぼろ。おまけに薄暗い路地裏に隠れてい
て身動きできないというこの現状のどこが良かったのかと言えば……まあ、長い話でもないん
だし最初から話すとしようか。
 どうせ暫くは身動き出来そうにないしな。
 ――それは、普段と変わらぬ休日に起きたちょっとした悪夢だった。

 日曜の午前、何時もの様にハルヒによって不思議探索に駆り出された俺は、クジ引きによっ
て長門とペアになった。
 ここまでは何時も通りだった、何の予兆もありはしない。
 だが、特に考えも無く市民図書館へと向かって歩いていた時、たまたま俺が近道をしようと
普段は使わない路地へと向かったせいで……その日常は終わってしまっていたらしい。
 そもそもこの辺りの治安はそんなに悪くない、そんな思い込みがあったのかもしれない。
 というより、自分にその手の体験が無かったからそう思っていただけだったのかもしれない。
 だから前から歩いてきた数人の男達の一人がいきなり俺の頬を殴りつけるまで、俺には危険
が近づいているって認識すら無かった。
 アスファルトに倒れた俺を無視したまま、無理やり長門を連れ去ろうとする男達、その先に
見えたドアの開いたミニバン。
 ――正直な所、そこから先の事はよく覚えていない。
 結果として俺の口内及び皮膚の数か所には裂傷や擦り傷があり、上着は何処かに落としてき
たらしく紛失、転んだ拍子に潰したらしく携帯の画面は真っ黒な上に罅割れ。そういえば財布
も無い。
 今の俺の現状を言うならそんな感じ……ああ、長門ならちゃんと無事だぞ?
「……」
 俺の隣にしゃがんでどことなく心配そうな視線を向ける長門には、見る限りは怪我は無い。
 我ながら不甲斐なさには定評のある俺だが、そこだけは褒めてやってもいいんじゃないかっ
て思えるね。
 長門。
「何」
「……すまん。せっかくの休みなのにこんな事になっちまって」
 俺があそこで変な道さえ選んで無ければ、今頃は図書館に連れて行ってやれてたのに。
 あいつらが何を考えてこんな事をしたのかは解らんが、まともな目的じゃないって事だけは
確かだろう。漫画やネットじゃよく聞く話だが、まさか自分がこんな目に会うとは思ってもい
なかったぜ。
「謝らなくていい。あなたは何も悪くない」
 横に首を振る長門。
 お前はそう言ってくれるけどさ、
「長門。お前一人なら、さっきの連中から簡単に逃げられたんじゃないか?」
 別に宇宙人的な何かをしなくたって、長門の運動能力なら人間相手に捕まる何て事は無いだ
ろうし。
 そう、俺が変な道を選ばなければ、俺が一緒に居なければ、少なくともお前はこんな路地で
しゃがんでたりしなくてもよかったんだ。
 自分が何の力も無い一般人だって事を悔やんでいると
「あなたは、逃げなかった」
 さっきより少しだけ身を寄せて、長門はそう言ってくれた。
「あなたには、わたしを残して逃げるという選択肢もあった」
 それは、でも
「あなたはわたしが自分だけでも状況を打開出来る事を知っていた。でも、そうはしなかった」
 俺の言葉を遮る様にそう言った後、
「だから、あなたは謝らなくていい」
 長門が続けて言ったその言葉には、普段は殆ど感じられない何らかの感情が籠められていた
様な気がした。
 それが嬉しくて長門の頭を撫でようとして、また自分の手が汚れている事を思い出して手を
下ろそうとすると
「……」
 何故だろう。長門は下ろそうとした俺の手を掴んでいた。
 そのまま硬直する長門がいったい今何を考えているんだろう。元々長門の考えが読めた事な
んて無いんだが、今日は何時にもまして理解不能だ。
 考えるだけ無駄、か。
 そう結論付けて考えるのを止めた俺が取った行動は、自分の服で手を拭いた後で長門の頭を
撫でる事だった。
 感謝? それとも……さあ、なんだったんだろうな。この時俺が長門に伝えたかった気持ち
ってのは、今となっても上手く言語可出来そうにない。
 いつの間にか呼吸も落ち着いていたらしく、聞こえてくるのは隠れている業務用エアコンの
室外機の排気音だけ。
 路地の向こうからはもう、足音は聞こえない。でも、
「長門、まだ隠れていた方がよさそうか」
 何となくそう聞いてみた俺に、
「いい」
 長門は頷く。
 他でもない長門がそう言うんだから、きっとそれはそうなんだろう。
「そっか」
 俺はそう返答を返してコンクリートの壁に背中を預け、また長門の頭を撫でてやった。

 
 

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:46 (2711d)