作品

概要

作者ケット
作品名美女とヘタレ
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-09-10 (金) 19:14:06

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 うるさく鳴る携帯電話には、鶴屋さんの名前。
「はい」ととったら、いつもながら元気な声で、
「キョンくーん、今忙しい?」
「とんでもない」
 妹と宿題を眺めながら三毛猫をなでているぐらいヒマだ。
「じゃあ、もしよかったらちょっと来てくれないかなあ?」
 くひひ、といたずらっぽい笑い声が漏れる。なにかまた騙されるかも、という気がしたけれど、鶴屋さんなら楽しみなんだから困ったもんだ。
 あーずるいつれてってつれてってつれてってとわめく妹をなんとか振り切って……残暑の日差しに出たことを後悔したが、とにかく言われたところまでは行ってみた。
 駅二つ離れた、最近できたホテルやレストランがあるビル・公園・劇場などが集まってるところ。といっても近くの駅から無料バスがある。

 待ち合わせは確か、中央の噴水前だっけ。
 ざわざわ、と何十人の男が、そっちのほうを見ている。
 酔っ払いなのか、とろんとした表情で歩いてくる男。
 ケンカしてるカップル。
 すごい興奮して何かしゃべってる男たち。
 何かあったのか、と思いながらそこに近づいて……呆然とした。
 鶴屋さん、ハルヒ、朝比奈さん、長門がいただけ。が、四人ともしっかりめかしこみ、ばっちり化粧していた。
 アカデミー賞のテレビ中継で見るような、袖のない紫のドレスに高く髪を結った鶴屋さん。どこのスーパーモデルかと一瞬思った。
 ベレー帽と巧みにあわせた、ピンクと赤が楽しいリボンがたくさんついたミニスカートにニーソックス、軽くラメを掃いた化粧で落ち着かない表情のハルヒ。フリルが多いくせに妙にグラマーさが際立って、ものすごくセクシーだ。
 思いきり胸元を強調し、それでいて品のいいふわっとした青と紫を配した服、短い上着と高く紅いピンヒール、左右非対称のスカート、目元が強い化粧にふわふわで華麗な髪の朝比奈さん。一言、華麗だ。
 だが、その三人もロクに目に入らない。それほど恐ろしく魅力的な、上品な薄黄に一点の赤が冴えるスーツと薄くすらっとしたズボンの、背は低いけど知的な大人の女性がいた。
「……誰だ……まさか、長門?」
 おれはただ呆然とするだけだった。
「大成功!」
 鶴屋さんがはしゃいだ声を上げる。
「ユニーク」
 長門の表情はいつもどおりだが、ほんのわずかな戸惑いをその黒曜石の瞳から感じる。シャドーとマスカラで彩られた目を見ただけで背筋がぞわっとする。
 でもそれどころじゃない、なんて美人だ……元々整った顔とはわかっていたが。
 谷口の目は節穴だ、ランクがつけられる美女じゃねえ。
「釘づけだねえ」
「キョンくん、目が怖いぐらいです」
「まあ当然よね、有希がこれほど美人に化けるなんて……美人だとは思ってたけど、これほどだなんて」とハルヒがちょっと不機嫌な、それでいて嬉しそうな声で言った。

 かなり長い時間ただバカみたいにボーっと見ていた。
「お待たせしました……おお、これはこれは皆さんなんてすばらしい」とニヤケ野郎が来たのも気づかないぐらい。
「で、今日はどういう」
「ん、ただちょっとみんなをおしゃれさせて遊んでみて、男子にみせてみようって思っただけ!」
 あまりに平和な鶴屋さんの言葉に、やれやれと肩をすくめた。
「それはまたすばらしい」と古泉が優雅に会釈するのなど聞きたくもない。
 というか自分の、いつもどおりのよれ服が情けない。古泉のやつ、しっかり上品な服で髪も決めて来てやがる。
「恥ずかしいです、こんな……慣れてないんですよぅ」と半泣きの朝比奈さんがまた可愛すぎて理性が消し飛びそうだ。
 だがなにより、長門から目が離せない……それからの午後、どのように過ごしたか全く思い出せない。

「美人で可愛いのは分かってるから送り狼になったら引っこ抜いて食わせて……」と散々内容十五禁な日中独露拷問刑罰史を怒鳴られながら長門を送って……自分の服と髪と顔と体がとことん情けなくなりながら……今日は部屋に入らずエントランスで辞去した。
「じゃあ」
 と、あまりにいつもどおりの長門に……
「え、えと、その」
「なに?」
 なんていっていいかわからない。抱きしめてキスするなんて芸当ができたら苦労はしない。
「に、似合ってるぞ」
「そう」
 いつもながらの声。
「これから……」と、言いかけて言葉を止めた。
「また、こういう服や化粧をしたほうがいい?」
 長門の声に、なんて言っていいかわからなくなる。というか言えるか、他のヤローに見せたくない、なんて……
 時間が止まる。
「長門」
 そう、呼ぶだけで精一杯だ。目を見ているだけで苦しくなる。美しすぎる。
 長門は、じっとまっすぐに目を向けてくる。
 そこで携帯電話が鳴る……家から、買い物についてのメール。
「また、明日な」
 半ばほっとして、そう言うしかなかった。ああわかってるよ、いくじなしだって。
 明日、どんな顔して長門に会えるだろう……でも明日が、なんだか楽しみだ。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:46 (2708d)