作品

概要

作者JUN
作品名俺の意志、長門の意志
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-08-07 (土) 00:13:27

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 段々と暑くなり、半袖ワイシャツか長袖ワイシャツか判断に窮するようになってきた今日この頃、俺はある決意をした。
 最近はハルヒも閉鎖空間を生むようなこともなく、平和といえた。勿論それだっていつまで続くか分かったものではない。だからこそ今、しておかなくてはならないことがある。
 

「よう、長門」

 いつものように零細文芸部室、もといSOS団の扉を開くと、そこには呆れるほどいつもどおり、読書家宇宙人の姿があった。
 長門は一瞬ちらりとこちらを見て、また分厚いハードカバーに視線を落とす。ぺらり、とページを捲る音が部室に響いた。

「朝比奈さんは来てないのか」
「ない」
「そうか」
「そう」

 会話終了。普通の奴ならここいらで嫌われているのかと心配するか、気まずくなるかのどちらかなのだろうが、いい加減俺は慣れている。長門は無愛想な訳ではないのだ。

 ぺらり、とページを捲る音が室内に響いた。

「なあ、長門」
「……何?」
 本に落とした視線はそのままに、長門は応えた。ちゃんと話は聞いているらしく、黒曜石のような瞳は文字を追っていないように見える。

「十二月の事、なんだが……」

 ぴくり、と長門の肩が震えた。ゆっくりと視線が持ち上がり、真っ直ぐに大きな瞳が俺を見つめる。その中に僅かな不安があるように見えたのは、見間違いではない筈だ。
「……何?」
「あの時、俺だけ正気のままだった。いや、正気という言い方はおかしいかもしれないが、俺だけが世界改変されたことを知っている状態だった。どうしてだ?」
 十二月。ハルヒと小泉が居なくなり、朝比奈さんと鶴屋さんは赤の他人になり、九組はなくなり、長門はただの内気な文芸部員になったあの世界。それが当然になってしまった中、俺だけは前のままだった。あの時は俺に選択権を委ねたからだと思ったが、日に日に違うのではないかと思うようになった。根拠はない。しかし、心の中の本能的な部分が、どこかで疑問を投げかけていた。本当にそうか?と。別に尋ねなくとも、今まで円滑に世界は進んできた。問題はない。
 しかし、それが何故か重要な気がしてならないのだ。これも何故かは分からない。我ながら勝手な論理だ。詭弁とも言う。
 
 長門は答えない。悪戯な風が窓から吹き込み、柔らかな長門の髪を揺らした。

 ぺらり、とページが捲れる音が室内に響いた。

「なあ、長門」

 長門はほんの少しだけ俯き、視線を彷徨わせた。そこに適切な答えを見つけようとでもするように。

「答えたくないのか?」

 長門は数ミリ頷いた。そうか、ならいい。

「なら、一つだけ答えて欲しい。いいか?」

 またも数ミリ頷く。

「……お前、俺のことどう思ってる?」

 長門が――微妙に――目を見開き、もう一度俺の目を見る。
「どう、とは?」
「言葉の通りだ。お前の主観的な、俺に対する感情だ。嫌いならそう言えばいい」

 タールで固められているかのように重い沈黙が部室を包んだ。その沈黙の意味するところは、鈍い俺でも流石に理解出来る。あの時、俺に選択権を委ねた理由、それはきっと、ここにある。
 情けないかもしれないが、俺はずっと長門に頼りっきりだった。命を助けてもらったことさえ何度もある。長門が居なけりゃ、俺はとっくにごついナイフでざっくりいかれてるか、ビームに焼ききられているかのどっちかだ。
 それだけじゃない、例を挙げればキリがないのだ。恐らく俺のあずかり知らぬ所でも活躍してくれていたのだろう。その苦労たるや、一般人の王道をひた走る俺に理解できようはずもない。
 極めつけは夏休みだ。夏休みが終わらないなどというふざけた話のために、長門は約六世紀もの時間をたった一人で耐えてきたのだ。江戸時代を二度繰り返すような時間を、孤独に過ごしてきたのだ。俺らはまだいい。既視感程度で済んだのだ。だか、長門はそんなものじゃない、記憶もそのままに、ただ任務であるというそれだけの理由で、文句も言わずそれに耐え切ったのだ。俺ならとっくに気を違えているか、首を吊っているだろう。その上暴走程度で処分を検討だ?悪ふざけにも程がある。

 いつしか、俺は長門を護りたいと思うようになった。勿論比喩的な意味も含んでいる。俺でどうにかなる程度の問題なら、目の前のこいつは三秒で解決するだろう。だが、そんなことはどうでもいい。要は心意気の問題だ。

「長門、答えてくれ」

 そのままになっていた本に視線を落とす。明らかに戸惑っている。その戸惑いが何を意味するのか、俺には分からなかった。

「私の任務は、涼宮ハルヒの観察。そのためだけに創られた。情報統合思念体によって。私には感情のようなものは存在しない。あるのはエラーだけ。それに、厳密に言えば私はヒトではない。普通のヒトとして活動できる時間も、定かでない。涼宮ハルヒの能力が消える、或いは弱まった時、私もいなくなる可能性がある。だから――」

「長門」

 長門の肩がまた震えた。長いまつげに縁取られた瞳が一度瞬きをする。

「俺はお前の出生を訊いてるんじゃない。そんなのは初めて会った後散々聞いた。俺が訊きたいのは、お前が俺をどう思ってるかだ。俺のこと、嫌いか?」
 
 長門が二センチほど首を横に振った。否定の動き。

「嫌いじゃない」

「じゃあ、好きか?」

「…………」

 実はここまで来るのに結構勇気を必要としている。顔が赤くなっているのが自分でも分かる。しかし、ここまで来て今更、「やっぱりなんでもない」などとは言えるはずも無い。

「私には、分からない」

「何がだ?」

「……私が、あなたを好きになってもいいのか」

「――え?」

「確かに私は、有機生命体で言うところの、“好意”をあなたに、抱いているのかもしれない。エラー……では、なく。でも――」

「でも、なん、だよ……」

 情けないことに、声が震えていた。それが不安からなのか、それとも喜びによるものなのか、俺には判断出来なかった。

「……あなたには、涼宮ハルヒが居る。それが、最善。情報統合思念体にとっても、世界にとっても」

もしかして……?

「……お前にとっては、どうなんだ」

 もしかして、こいつは――?

「わたし、は……」

 いつも話すべきことを最短で話す長門が言葉に詰まっている。やっぱり、こいつは――

「長門、俺はお前の気持ちが聞きたい。俺は――」

 喉に何かがつかえたみたいに言葉が出なくなる。くそ、こんな時に。今言わなくていつ言う.

「……俺は、好きだ。おまえの、ことが。長門」

 言って立ち上がり、長門の指定席の前へと向かう。長門の細い体が、怯えるように震えた。その手を取り、立たせる。真っ直ぐに、俺は長門を見た。

「お前は、どうだ。長門。情報統合思念体でもなく、ハルヒでもなく、お前の意志を、俺は聞きたい」

「私も、あなたが……だけど、私は――」

 そこまで聞いて、俺は半ば無意識に、長門を抱き締めた。後になって狼狽する。しかし、後悔はなかった。長門の体が硬くなる。

「長門、俺は、お前の親玉の意志なんか知ったこっちゃない。俺は、お前が好きだ。長門。出来れば、側に居て欲しい。だめか……?」

 長門は小さくかぶりを振った。

「私がいつまでここにいるか、保障できない……」

「構わん。そんなのどうにだってなる。こっちにはハルヒが居る。アイツは、お前が居なくなることを許さない。勿論、俺もだ。な……?」

 おずおずと、長門の腕が、俺の背中に回される。俺も力を籠める。肌が触れ合う部分から、少し低めの長門の体温を感じた。こいつも生きてるんだな、と至極当然のことを思った。

「ありがとな、長門」
 体を離し、俺は言った。
「……いい、その代わり」
「何だ?」

「……浮気したら、情報連結を解除する」

 そう言って頬を紅くする長門はもうめちゃくちゃ――

 かわいかった。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:45 (1744d)