作品

概要

作者JUN
作品名ひざまくら
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-07-28 (水) 18:06:43

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 眠い、めちゃめちゃ眠い。

 昨夜の夜更かしが祟り、今日はどうしようもない倦怠感に見舞われてしまった俺は、今半ば脚を引きずるようにして歩いている。俺の眠気などお構い無しにハルヒは不思議探索をやるというので、やっぱり俺は眠気に鞭打ち、今ここに居る。
 恒例のくじ引きは上手く長門とペア。助かった。ここでハルヒやら小泉やらが来たら、俺はその時点でダウンだ。賭けてもいいね。

 長門は俺の半歩後ろをてくてくと歩いている。目的地はもはやデフォルト、図書館だ。正直な話、俺にこれ以外のチョイスが見当たらない。でも最近は長門も感情を身につけつつある。その内映画館にでも連れて行けばいいかもしれんな。

 それにしても眠い。不意に足がもつれそうになる。おっと、危ねえ。

「……あなたはこの十五分間で計十三回欠伸をしている」

 唐突に聞こえた声に振り向くと、長門がいつもの無表情を張り付かせてこちらを見ていた。しかしながらその黒曜石のような瞳には、ほんの少しだけ心配そうな眼差しが混ざっている……ように見える。
「あ、ああ、すまん。寝不足でな」
「睡眠不足はあなたの今後の活動に支障をきたす可能性がある。至急、睡眠をとるべき」
「図書館の椅子でいい。心配すんな」
「駄目。体の筋を痛める危険性がある。そこのベンチで寝るべき」
 そう言って長門は木製のベンチを指差す。いや、でもあれはあれで痛いだろ。
「問題ない」
 言うや否や、長門はそのベンチに腰掛ける。いや、だからお前、

「……膝枕」

 この瞬間、俺がいかに混乱の境地に達したか御想像いただきたい。膝枕、である。しかも長門の。その破壊力たるや、そこらの拳銃も真っ青である。核兵器もかくやだ。
 しかしながら俺も、人並み以上に理性的な人間であると自負している。そんな光景を誰かに見られでもしてみろ。絶賛首吊り大公開である。長門、悪いがさすがに、それはちょっとな……

「嫌?」

 長門は潤んだ(ように見える)目でこちらをじっと見つめてくるのだ。この目を見て断れる奴がいようか、いやいない(反語)。
 かくして俺は、あっけなく折れた。ベンチに腰掛けた長門に背を向けるようにして白い太ももに頭を乗せる。流石の俺も長門のほうに顔を向けるほど堕ちちゃいない。素敵なものを垣間見てしまうからな。
 ちょっとひんやりしている。柔らかい、いい匂いがする。気持ちいい。ヤバイ。

「……どう?」

 ああ、きもちいよ。

「眠れそう?」

 ああ、ありがとうな。

「いい」

 長門がさらさらと俺の頭を撫でてくれる。なんだか物凄く落ち着いた気分になって、俺が眠りの海へと急降下するのに、恐らく十分とかからなかった。

 

 彼の呼吸が寝息へと移行する。周りの騒音が彼の耳に入らないように情報操作。彼の頭が私の足の上に乗る。心地いい感触。こちらを向いてくれなかったことが少し残念だけど、理性的な彼らしい行動だ。
 この光景は、傍目から、どのように映るのだろう。そんなことを考えると、頬に若干の体温の上昇を確認。照れ……かもしれない。
 彼の頭を撫でる。心地よいエラー発生。ずっとこうしていたい、と思う。

 彼は疲れている。休ませてあげるべきなのは傍目にも明らかなのに、涼宮ハルヒは団長権限なる名目で、彼に休息を与えなかった。不快なエラーが発生。
 だからこそ、私が彼を休ませてあげるべきと判断した。情報操作を施し、彼と同じペアになるようにした。二人きりになりたかった……ともいう。
 タイムミリットは後三十分。それまでこうしていよう。十二月の暴走でも私を許してくれた彼に出来る、せめてもの感謝の気持ち。
 彼はきっと、涼宮ハルヒと結ばれるのだろう。情報統合思念体も、それを望んでいる。しかし、私個人の意志を言えば…………渡したくない。
 
けれどそれは、叶わない望みだから。

 せめて一瞬でも長く、彼と一緒に居たい。いつか居なくなってしまうかもしれない私を、彼が少しでも長く憶えていてくれるように。それが、私の願い。

 彼が身じろぎする。睡眠が覚醒に向かっている。情報操作を解除。

「ん……」

「起きた?」

「ん、ああ。ありがとな、長門」

「いい、私も、心地よかった」

 長門はそう言ってくれる。やっぱり変わった。と思う。会ったばかりの頃のこいつなら、こんな表情はしなかっただろう。

「今度カレーでも奢る。そんなことしか出来なくて悪いが」
「ありがとう」
「他に何か、して欲しい事あるか?」
「じゃあ……」
 長門が少しだけ視線を下に向けて考え込む。珍しいな。
「……膝枕を、して欲しい。また、今度」
 予想してなかった答えに、少しうろたえる。けど、他でもない長門だ。俺に出来ることなら。
「ああ、分かった」
「……ありがとう」
 
 少しだけ頬を紅く染めて言う長門。まずい、めちゃくちゃかわいい。

「あなたは、心地よかった……?」
 急に長門がそんなことを聞く。先ほどのことだと思い、答える。
「ああ、気持ちよかった。お前さえよければ、またしてほしいな」
「――いつでも」
 何か、いい感じだ。長門も気を許してくれているように思う。見間違いじゃなければ。
 さっきは俺の半歩後ろを歩いていた長門も、今では俺の隣を歩いている。近い。
 そっと、その手に触れてみる。ぴくんっ、と手が跳ねた。拒絶か否か、判断に窮したが、俺は思い切って、その手を取った。
「い、嫌じゃないか……?」
「…………ない。心地、いい」
 そうか、よかった。
「でも、だめ」
 するりと、長門の手が俺の手を抜けた。何でだ?
「涼宮ハルヒと、一緒に居るべき。それが、情報統合思念体の意志」
「長門……?」
 言って歩き出す。物言わぬ唇が、震えていた。
「おい、長門!」
 強引に、長門の腕を取って、こちらを向かせる。その瞬間、俺は絶句した。

 ――長門が、泣いていた

 大粒の涙が一筋、すうっと滑らかな頬を流れ、乾いた。

「長門……」

 長門が目をそらす。見られたくないものを見られた、そんな感じで。

「長門、情報統合思念体は、俺とハルヒが引っ付けばいいと思ってるんだな?」
 こくん、と首肯の動き。
「じゃあ、お前は、どうだ」
「私は……」
 言って俯いてしまう。こいつは――

「長門、上を向いてくれ」

 俺の声に、長門は上を向いた。そして俺は――

 ――長門に、キスをした。

 目は閉じた。そういうところは形から入るのが俺だ。長門が閉じたかは、確認してない。唯一つ言えるとしたら、長門の唇がめちゃくちゃ柔らかかったということだけだ。

「……これが、俺の意思だ」

 長門は黙りこくっている。俺は構わず、手を取った。

 長門の返事は聞いていない。けど、俺の手を、長門のひんやりした手は、そっと、握り返してくれた。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:44 (1890d)