作品

概要

作者子持ちししゃも
作品名長門さんと童話
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-07-21 (水) 00:17:44

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「もちろん、あたしの意思を世にしらしめて、うすらぼんやりと生きている人達の意識を改革してやるのよ」
 ハルヒはすっくと立つと腕を組み、にやりと口の端を曲げ、大胆不敵に言った。
 その自信はいったいどこから沸いてくるのだろう。湧き上がりすぎて地盤沈下でも起きやしないだろうか。

 

「やはり謎解きですよ。作者と読者との心理戦です。どこまでヒントを与えるか、どこまで読み解けるか。考えるだけでもわくわくします」
 古泉はうさんくさげな笑顔を向けると、気障ったらしく指を振る。
 しかし普段のゲームプレイを見ている限り、それはあまり成功していないように見えるがどうなのだろう。

 

「あたしは、読んだら幸せになれるようなお話が好きなので、そういうのが書けたらいいな、なんて」
 朝比奈さんはお茶を差し出しながら、少しはにかんだように微笑んでそう答えた。
 あなたの笑顔でこの世の中はもう大分幸せです。俺が保証します。

 

 銀杏も黄色に染まっていく季節、とでも言えば少しは文学的だろうか。簡単に言えば秋真っ盛りである。食欲の秋、スポーツの秋、そして読書の秋――だからなのかは良くわからんが、今年もまた文芸部存続の為の会誌の作成に俺達は追われていた。
 去年は三学期の頭にやったと思ったんだが、朝比奈さんが受験生ということもあり、今年は早めに準備をするらしい。ハルヒにしてはなかなかの配慮ではあるが、この時期でも十二分に忙しいんじゃないかと俺は思う。
 しかし当の朝比奈さんは、相変わらずの笑顔でにこにことウェイトレス姿で俺達にお茶を振舞っていらっしゃる。
 受験勉強は大丈夫なのか尋ねたら、「こちらに来る時にこの時代の一般常識等は色々と叩き込まれてるんですよ。あとは応用だけなんです」とにっこり笑っておっしゃられた。
 ……ようするにあれか。浮力と船そのものは知っていても、それが結びつかないというようなことか。
 それはそれで大変な気もするけれど、朝比奈さんは真面目なので大丈夫なんだろう。俺も見習わないといけない。

 

 さて去年同様、問答無用にハルヒにクジを引かされた俺達は、またしても同じようにこうしてパソコンの前でうんうんと唸っているわけである。
 ちなみに朝比奈さんは学園物。古泉は歴史物(ミステリー仕立てにすると張り切っている)。長門が童話で、俺は恋愛SFだった。
 ……どっちか一つでもいっぱいいっぱいなのに、無理難題の詰め合わせである。正直勘弁して欲しい。
 当然まだ1文字も打ってない訳だが、それは長門も同じだったようで、俺と同じようにただじっとパソコンの画面を見つめていたのだが、突然立ち上がって、つかつかとハルヒの元に行ったかと思うと、「あなたが文章を書く時に、どのようなことに留意するか教えて欲しい」と言い出したわけだ。
 そして古泉、お茶を配っていた朝比奈さんにも律儀に一字一句違わない質問を浴びせ、得られた回答があれである。

 

 さて残る一人、つまりは俺の横に小さな宇宙人が立った。
「あなたが文章を書く時に」
 いや、みなまで言わなくても大丈夫だ。
 俺は長門を制すると、うーんと首を捻る、そこらへんが解っていれば、今こうして俺は悩んでいないと思わないかね、長門さんよ。
 しかし長門に頼られるなんてそうはないことであり、日頃の恩を返す千載一遇のチャンスである。
 なんでもいいと懸命に口に出す言葉を探しているうちに、ふと参考になるかと鞄に入れていた本の事を思い出し、それを取り出した。
 児童文学だが、SFと言っても問題ないと思う。そもそもSFは懐が深いのだ。
 小さな文庫を手に取り、その表紙を軽く撫ぜる。
「この作者のさ、妹さんが死んでしまったんだよ」
 妹の夏休みの課題図書であるこの本は、結構昔に書かれた児童書だ。何故か付き合わされて俺も読むはめになったのだが、そのおかげで言うべきことが思いついた。妹よ、あとでアイスの一本くらいおごってやらないこともないぞ。
「誰も死んでしまった後のことはわからない。何もない世界とも言われてる。そんな世界に大事な妹が一人で行ってしまったことが悲しくてしょうがなかったんだろうな」
 だから主人公は、祭の夜に鉄道に乗って友達と星を渡るんだ。一人で寂しく後悔ばかりでこの世から旅立ったことにさせない為に。
 あるいは、そう自分が思いたくないが為に。幸せだったと自分に言い聞かせる為に。
 長門はじっと俺の言葉を聞いている。
「長門だったら、相手にもっと何か伝えたかったとか、こんな場所に行ったのなら良いなぁとか思ったりしないか?」
 俺は長門の目を見返してみた。長門は少し伏せるように目を細めた後、ほんの少しだけ首を傾げる。
「自己満足だっていいんだと思う。誰か一人がそう思うってことは、世の中に同じように思ってる人がいるかも知れないってことだ。そういった人が、同じように救われないとも限らないからな」
 手にしていた本を長門に渡した。
「まぁモデルに関しては諸説あるようだけど、そうして書かれた本がこれだって言われてる」
 長門は遠慮がちに本を受け取ると、わかったのかわからなかったのかいまいち表情の読めない顔でカクンと頷いた。
「なかなか興味深い事を言いますね」
 古泉がカタカタと打っていたパソコンの手を止めると、俺に顔を向けた。
 ほっとけ。らしくないってことくらいは自覚してるさ。
「いえいえ。僕も参考にさせていただきますよ」
 お前の笑顔は嫌みったらしいんだよ。黙って作業してろ。俺は片手を振ると、古泉は肩をすくめて、またパソコンに目を向けた。
 ふとその延長線上にいたハルヒとも目が合う。ハルヒはさっと視線を外すと、机の上に散らばっている原稿を読み始めた。
 なんなんだか。
 朝比奈さんはにこにこと笑っていらっしゃる。
 そして俺の横で本をじっと眺めていた長門は、「……わかった」と頷いた後ぐるりと部室を見渡してから、「教えてくれてありがとう」と答えて自席に戻った。
 古泉はパソコンに集中していた顔をあげると、一瞬だけ驚いた顔をしたが、いつもの営業スマイルを長門に向けると「どういたしまして」と答えた。
 朝比奈さんも同じような表情を作ったが、すぐにとびきりの笑顔で「参考になればいいなって思います」と深々とお辞儀をした。
 ハルヒはこちらをちらりとも見ないで、「去年よりはわかりやすいのをお願いね、有希」と言うと、誰かに書かせたのであろう原稿読みを続けている。
 俺は机に肩肘をついて、目の前の席に音もなく座った長門をぼんやりと眺めた。
 随分変わったと思う。その変化が長門にとって、あるいは長門の親玉にとっていいのか悪いのかはわからんが、それでも俺はそんな長門が好ましいと思うのだ。
 長門は俺の渡した本のページを、静かにめくり始めていた。

 

 さてその数日後である。
 あいも変わらずちっとも作業を進めていない俺は、日に日に厳しくなってくるハルヒの催促から逃げ出すように、急いで弁当を腹に収めると部室へと逃げ込む。
 ここなら原稿を書きに来たと言い訳も出来るし、なにより静かで良い。
 長門でも見ながら茶でも飲んで、その後一眠りさせてもらおう。
 部室の扉を開けると、長門はいつもの窓際ではなく、パソコンの前でなにやら白い紙を読んでいた。

 

「よっ。邪魔するぞ」
 俺が声をかけると、長門はちらりとこちらを見て微かに頷いた。
 その長門の向かいの席に座ると、持って来たペットボトルの茶を飲む。いい加減寒くなって来たし、朝比奈さんのお茶が恋しいね。
 さて、早速少しうとうとでもするかと思ったところで、長門が静かに席を立ち、俺の方へと歩いてきた。
 そしてすぐ横で、今まで読んでいた白い数枚の紙を「読んで」と差し出してきたのだった。
 ――原稿か。
 俺は長門の原稿と思しき紙を受け取ると、思わず長門の顔をまじまじと見てしまう。
「駄目?」
 時計の針で二秒分程首を傾げた長門に「いや、読ませてくれ」と答えて、印刷された明朝体の文字を目で追い始めた。

 

『雪と春』長門有希

 

 それはある冬の日のことでした。
 その年はなかなか雪がやまず、いつもならとっくに来ている筈の春はまだ来ていません。
 春が来て雪が溶けなければ、虫やカエル達は外に出られません。
 木の根元に掘られた小さな穴の中で、黄色カエルさんと、青カエルさんと、緑カエルさんは、静かに眠りながら春を待っていたのでした。

 

 がしゃん、どたん

 

 大きな音で、三匹のカエルさんは目を覚ましました。
 ウサギさんが、うっかりとカエルさんのおうちの扉を踏み外して転がり入ってしまったのでした。
「ごめんなさい、すぐ直します」
 カエルさん達はびっくりしましたが、すぐにウサギさんが外れた扉を直してくれたので安心して、ウサギさんに温かい紅茶を入れてあげました。
「わたしの不注意で扉を壊したり、あなた達を起こしてしまったのに、お茶まですみません」
「いいのよ、そのかわりといってはなんだけど、冬の間の外のお話をしてくれないかしら」
 黄色カエルさんはウサギさんに、お話をねだりました。
 カエルさん達は、寒い間はずっと眠っているので、冬の事を知らないのです。
 ウサギさんは、白くてきれいで冷たい雪で覆われる大地や、凍った池のスケート場のこと、真っ白な山のすべり台の話をした後、「それじゃあわたしは帰ります。お茶ごちそうさまでした」と去って行きました。

 

「さあ、また春が来るまで寝ようか」
 ウサギさんがいなくなって静かになったおうちで、青カエルさんが言いました。
「春までもう少しでしょうしね」
 緑カエルさんも言いました。
 でも黄色カエルさんは、今聞いた話が忘れられません。それにすっかり春を待ちくだびれていたのでした。
「わたしは雪が見たいわ」
 黄色カエルさんが二人に言いましたが、緑カエルさんは申し訳なさそうに、「ぼく達は冬に外にでたら死んでしまいますよ」と答えました。
「冬は寝るものだよ」と、青カエルさんはベッドに入りました。
「いいわよ、ひとりで行くから!」
 黄色カエルさんそんな二人に腹を立てると、マフラーを巻いて外に飛び出して行ってしまいました。

 

「待ってください」緑カエルさんが追いかけようとしましたが、青カエルさんは「すぐに寒くなって戻ってくるよ」と止めました。
 緑カエルさんも、扉に近づいただけで寒くてしょうがなかったので、うなずくとベッドに入りました。
 でも黄色カエルさんが心配で二人は眠れません。そしていくら待っても黄色カエルさんは戻って来ないので、とうとう二人とも心配でたまらなくなり、マフラーを用意すると外へ探しに出ることにしました。

 

 ウサギさんの言っていた通り、外は一面真っ白でした。
 三人で良くひなたぼっこをする岩も、どこにあるかもわかりません。
 色んな物を隠してしまった、この白くてふわふわで、おそろしく冷たい欠片が、雪なのだろうと二人は思いました。
 寒くて痛くて、二人は冬が嫌いになりましたが、黄色カエルさんを連れて帰らなくてはいけません。
 幸いな事に雪は止んでいて、ぽつぽつと雪に残っていた足跡を辿っていくことにしました。

 

 しばらく歩いていると、目の前にユキダルマが現れました。
「ユキダルマさん、黄色いカエルさんを見なかったかな」
 青カエルさんが言うと、ユキダルマさんは、東の方角を指しましたが、
「でも、あなた達は行かない方がいい。帰れなくなる」
 と答えました。
 二人はもう寒くて寒くて、がくがく震えていました。
「でも、黄色カエルさんを連れて帰らなくちゃいけないんです」
 緑カエルさんは言いました。二人とも、黄色カエルさんには不思議な力があって、思ったことがその通りになることを知っていました。
 「寒くない」と思いこめば、本当に寒く感じないのです。
 けれど、二人は黄色カエルさんを放っておくことは出来ないのでした。
「わかった」
 ユキダルマさんは、不思議な呪文を唱えました。すると驚くことに、寒さを感じなくなってきたのです。
「ありがとう」
 二人はお礼を言いました。
「わたしも手伝う」
 ユキダルマさんは言いました。ユキダルマさんは、この冬に生まれてからずっとひとりぼっちだったので、誰かとお話し出来たことがとても嬉しかったのです。
 カエルさん達も喜んで、三人で黄色カエルさんを探すことにしました。

 

 黄色カエルさんは、きれいにピカピカに凍った池のほとりにいました。
 あまりきれいな池ではありませんでしたが、こうして氷が張っているとそんなことは関係なく、それはそれはとても美しく見えました。
 黄色カエルさんはもう嬉しくなって、仲間たちみんなにこの風景を見せたいと思いました。
 こんな素晴らしい世界を知らないなんて、もったいないと思ったのです。
 黄色カエルさんはとても強くそのことを願いました。
 すると、黄色カエルさんの不思議な力が、それぞれのおうちで眠っていたカエルさん達を目覚めさせ、黄色カエルさんの元に向かわせ始めてしまったのでした。

 

 ようやく青カエルさんと緑カエルさんは黄色カエルさんを見つけました。
「早く帰りましょう」
 緑カエルさんは言いました。
「いやよ、だってほら、とってもきれいでしょ」
 黄色さんはピカピカの池を指差しました。
「きれいだけど、寒くて嫌いだ。ぼく達は冬に生きていけるように出来てないんだよ」
 青カエルさんは、黄色カエルさんの手をつかみました。
「なに言ってるの。わたしもあなた達も平気じゃない。冬ってとっても素敵だったのよ。今までずっと寝てたなんてもったいないわ」
 でも黄色カエルさんはその手を振り払いました。
「この素敵な世界をみんなにも見て欲しいって、わたしお願いしたの。みんなで眺めたらもっと楽しいでしょ」
 黄色カエルさんは嬉しそうにいいました。
 青カエルさんと緑カエルさんはぎょっとして、あたりを見渡しました。
 すると、そこここで、カエルさん達が倒れているのが見えたのです。
 あわてて緑カエルさんが一匹のカエルさんのそばに近寄りました。
 冷たい気温と雪に体温を奪われて、動けなくなって眠りかけていました。
「ぼく達はこのユキダルマさんのおかげで平気なだけで、ぼく達カエルは寒さの中では生きていけないんだよ」
 青カエルさんが叫びました。
「だって――わたしは平気で――」
「あなたは特別なんですよ。だめだ、ぼく達だけではどうしようもない――」
 青カエルさんと緑カエルさんは一生懸命倒れたカエルさんを引きずっておうちへ戻そうとしましたが、沢山のカエルさんが倒れていて二人じゃどうしようもありませんでした。
 ユキダルマさんも魔法を使いましたが、間に合いそうもありません。
「そんなつもりじゃなかったの、ただみんなで見たかっただけなの」
 黄色いカエルさんは、泣き出しそうな顔で言いました。
 その時、ユキダルマさんが両手を空に上げました。
 そのとたん、あたり中の雪が空へと舞い上がりました。キラキラと雪が踊りながら高く舞い上がり、そして天の高いところで白い花びらになって降ってきました。
 あたりの雪は全て消えて、かわりに白い花びらが一面を覆いました。木々は花を咲かせ、鳥さえずり始めました。
 ――春になっていたのです。

 

 まるで夢をみているようでした。倒れていたカエルさん達も温かさに目を開き、そしてまるで雪のように一面に積もった白い花びらに心を奪われました。
 そして春の訪れに喜びの歌を歌い始めました。

 

「ユキダルマさん!」
 緑カエルさんが叫びました。
 この温かさで、体がどんどん溶けていたのでした。
「心配ない。もともと春になれば溶ける体だから」
 それよりも、ひとりぼっちだったユキダルマさんは、みんなの役に立てた事が嬉しくてたまらなかったのでした。
「誰かと話が出来て良かった。役に立てて良かった」
 もうすっかり小さくなってしまったユキダルマさんは言いました。
「また、冬に生まれて来なさい!そしたら会いに行くから!」
 黄色カエルさんが言いました。
「そしたらぼく達もまた会いに行くから。絶対だぞ」
 青カエルさんも言いました。
「楽しみに待ってる」
 そう言ってユキダルマさんはにっこり笑うと、帽子替わりにかぶっていたバケツと、身に着けていたマフラー以外、あとかたもなくなくなってしまいました。
「ごめんなさい、ありがとう」
 三人はユキダルマさんのバケツとマフラーを自分の家の前に飾りました。
 ユキダルマさんが迷わないで三人に会えるように。
 いつまでも飾っておいてくれたのでした。

 

 おしまい。

 
 

 俺は読み終わって溜息をついた。
 長門は身じろぎもせず、俺を見つめている。
 前回と違って、今回はとてもわかりやすい。わかりやすいからこそ、いいたい事が色々ある。
 ハルヒの能力をこんなに触れていいのかとか、まぁそういったことは置いておいて、カエル三人は現代人の俺、ハルヒ、古泉で、ウサギは未来人、ユキダルマは言わずもがな。
 結局、本来いるべき人間だけが残ると長門は予測しているのか。
 その後で、俺たちが悲しまないようにただ感謝を伝えたかった、それだけが長門の言いたかったことだなんて、俺は容認なんて出来そうにもない。

 

「……良いと思う」
 俺が言うと、長門は小さく口を開いた。
 実は緊張していたのか?俺にはそれが、長門がほっと息を吐いたように感じられた。
「でも、俺はこういった最後の方がいいな」
 俺はユキダルマが「心配ない」と言った所を指差すと、その続きを勝手に話し始めた。

 
 

「溶けてなくなるなんて許さない」
 黄色カエルさんが泣きながらいいました。
「まだ、恩返しをしてないんだから」
 そして、強く強く願ったのです。ユキダルマさんが消えてなくならないように。
 青カエルさんも緑カエルさんも、池に集まったカエルさんもみんながみんな願いました。
 すると、どうしたことでしょう。
 溶けた雪の中から、なんと白いカエルさんが現れました。
 黄色カエルさんの思いが、みんなの祈りが、ユキダルマさんを白いカエルさんに生まれ変わらせたのです。
「ユキダルマさんが、白いカエルさんになった!」
 みんなは大喜びしました。白いカエルさんは驚いて、すっかり氷の解けた池へ飛んでいきました。
 そしてそこに映った自分にびっくりしましたが、三人の方に振り向くと「はじめまして」と言いました。
 三人も「はじめまして」と笑いました。

 

 白カエルさんも、三人の家に住むことになりました。
 時々ウサギさんも遊びに来て、とても賑やかです。
 四人はとても幸せに暮らしました。

 

 おしまい。

 
 

 長門は途中からずっと目を伏せていた。
「……そのようなことはありえない」
 俺はその答えに少し物寂しさを感じながら、言い聞かせるように言った。
「ありえるとかどうかとか、そういうことはまぁ、置いておいていいんじゃないのかな」
 長門は小さく首を傾げる。
「長門は、こういう結末嫌いか?」
 俺の言葉に小さな声で、「望む事は許されない」と答え、再度目を伏せた。
 ――望むには、世界を作りかえなくてはならない、そう言外の声が聞こえた気がする。
 確かに一度俺は、お前の望んだ世界を否定した。でも、それは俺の世界じゃなかったからだ。
 この世界で、長門が、長門自身のままで思うように生きられるやり方があるんじゃないだろうか。
 だから。
「長門が望まなくても、俺が望む」
 長門がはっと顔をあげる。
「古泉だって、朝比奈さんだって」
 俺は続けた。
「ハルヒだってそう思うだろう」
 問答無用で絶対無敵なジョーカーの名前に力を入れて言う。
 ありえないなんて、それ自体がそもそもハルヒの前では無効なんだ。
 第一、どんな実現可能の願いだって口にしなければ、あるいは実行しようと思わなければ叶うことはまずない。
 叶う可能性が低いことならなお更だ。
 だからまずは口にしろ、いっそのこと叫んでくれればわかりやすい。お前はもう少しどころか、もっとわがままになっていいんだ。
 俺は印刷された原稿を、差し出した。
 長門の白い指が緩慢に伸び、その原稿を優しく掴み――そして胸元に抱く。
 そして何かを言おうとしたのか、口を薄く開いたが、またつぐむ。
 少しの逡巡が見えたかと思ったが、長門はその顔を上げ、まっすぐなまなざしを俺に向け「ありがとう」と告げ、――そして微かではあったが、確かに長門は微笑んだのだった。
 あの失われた世界での笑顔にはまだ及ばなかったけれど、それは確かに俺の長門の笑顔だった。

 

 お前は社交性機能がないなんて以前に言っていた。今も自分が微笑んでいると認識出来ていないのかも知れない。
 でもお前は変わってきている。最初から備わってなかったら、一生出来ないなんてことは、きっとないんだと思う。
 だが、お前は不器用だからそれに気づけないのかもしれない。
 だから、もしお前が言いたい事が上手く言えないのなら、自分で上手く気づけないのなら、俺がそれらを探し出して言ってやる。そのために、俺が――俺達がいる筈なんだ。
 もう少し頼ってくれたらいい。思った事、感じた事を少しでも伝えてくれたら尚いい。
 ――そんな言葉を面と向かってかけてやれない俺も俺なのだけれど。
 俺はチャイムがなるまで、原稿を抱いて佇む長門をじっと見つめていたのだった。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:44 (3093d)