作品

概要

作者totoron
作品名嘘の方便
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-05-29 (土) 00:41:29

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

『嘘の方便』

 
 

「な、なんだって」
「デートに誘われている」
「誰が? 誰に? いつ?」
「わたしが。同じクラスの男子生徒に。次の日曜日にでかけようと」
「ホントか?」
「嘘ではない」

 

 いつもよりちょっと早めに到着した部室で、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースと二人だけになった俺は、そのスーパー宇宙人から妙な相談を受けることになってしまった。
 長門の話によると、以前からその男子生徒に遊びに行こうと誘われていたのだが、当然のことながら長門はそんな誘いは断り続けていたらしい。
 何度かそんなやり取りが合ったらしいが、ここにきてそいつは少し条件を緩めて、他の男子や女子生徒を含めて、グループで遊びに行こう、という作戦に切り替えてきたそうだ。

 

「これ以上断り続けることは、今後のクラスの中でのわたしの立ち位置を狭めることも考えられるため、ひとまず承認することにした」
 ふむ、長門がクラスの中の自らの立ち位置を考えるようになったのは一つの自律進化かもしれない。それはそれで興味深いことではあるが、今はそれよりも先に考えるべきことがある。
「まずはグループから、か。常套手段だな」
 だが、冷静に思考を巡らせて見ると、ひょっとするとその男子生徒はよく考えているのかもしれない、と思えてきた。
 たぶん、他の女子生徒がいたとしても、長門が彼女たちと会話をしたり、つるんだりするとは考えられない。結局、長門は一人でいることになり、ほんの少しうまく運べば長門と二人きりのデート状態になることは容易に想像できる。
「そいつはどんなやつだ? また、前の中河にみたいにおまえの背後の別の存在に共鳴しているだけ、ってことはないのか」
「彼は、普通の男子生徒。特に異常は感じられない」
「ふむ、じゃぁ、純粋にお前はそいつに気に入られたということだな」
「……そうらしい」
 俯き加減から少し顔を上げた長門は、
「わたしはどうすればいい?」
 少しばかり上目遣いで困惑の表情を浮かべるアンドロイドなんて初めて見たかもしれない。中河のように妙な能力が原因なら、あしらい方も心得ているんだろうが、普通の同級生に見初められた場合は守備範囲外ということなのだろう。
 それにしてもだ、長門のことを気に入ってくれるやつがいるなんて、喜ばしいことなのかどうか、実際のところ俺にもよく分からない。

 

「うん、そうだなぁ……」
「都合が悪い、といって断わった方がいい?」
「いや、そんなことをしても、また誘われるだけだぜ。まぁ、こうなったら仕方ない、一回行って、ちょっと話でも聞いてやれ」
 長門は瞳を少しくるっとさせて俺を見つめている。
「それで、もし、お前も相手のことが気に入ったのなら、また遊びに行ってもいいさ。たまにはそんな普通の高校生をしてもバチはあたらんし、お前の親玉も大目に見てくれるだろう」
 僅かに首を傾げる長門。
「その気がないならはっきりと断ってやればいい。それも一つの優しさというものだ」
「……了解した」
「そうだな、俺から一つだけアドバイスするなら……」
 何かを期待するように俺の目を見つめている長門に向かって、一言。
「制服では行くなよ」

 

 その直後にハルヒや朝比奈さんが部室にやってきたので、この話はそこまでだった。
 その日以降も、長門は週末のデート話を切り出すことはなかったし、俺もあえてその後の状況を聞くこともしなかった。

 
 

 そうこうしているうちに週末、日曜日になった。今日は例の長門のグループデートの日だ。
 長門に聞いた相手の男も心当たりの有る名前ではなく、たとえ少々変なやつでも長門のことだから心配することはないとは思うが、それでも気になって仕方なかった。
 ベッドの上で寝転がって本を読んでいても、日曜昼間の再放送っぽいバラエティ番組を見ても、しゃべることもなくなったシャミセンの相手をしてみても、どうも落ち着かない。
 くそっ、こんなことなら、古泉でも巻き込んでこっそりあとをつければよかったか、とか考えながら、漫然と一日を過ごすしかなかった。
 夜になって、長門に電話しようと何度か携帯のボタンを押したくなる衝動が湧き上がってきたが、何とか耐え忍んだ。そう、別に今でなくてもいい、明日、直接長門に聞けばいい、と自分自身に言い聞かせ、眠れぬ夜を過ごした。
 いや、実際はちゃんと寝たけどね。

 
 

 月曜日になった。
 どうしても昨日の長門のことが気なった俺は、弁当をそそくさと平らげると、SOS団の部室に向かった。昼休みにも部室にいるのは長門だけのはずだ。今行けば、昨日の顛末をゆっくりと聞くことができる。
 念のためノックして部室に足を踏み入れると、そこにはやはり長門が一人、窓辺の丸テーブルで本を読んでいるだけだった。
「よぉ」
 俺は長机のいつものパイプ椅子に腰を下ろした。長門は何事もないように本を読み続けている。やはりこっちから話を振らないといけないのか、と思って口を開こうとした瞬間、長門は読みかけの本をパタンと閉じて、俺の正面の席にやってきた。
 静かに椅子に腰を下ろした長門は、両手を膝の上に乗せ、しゃきっと背筋を伸ばして話し始めた。
「昨日、行ってきた」
「そ、そうか。で、どうだった?」
「男子二名、女子はわたしを含めて四名、予定通りの遊園地に行った」
「うん」
 たぶん、長門を誘ったやつとその友人、その友人の彼女、その彼女の友達二名といったところだな。
「ジェットコースターやお化け屋敷に入った」
「楽しかったか?」
「わりと」
「よかったな」
「よかった」
 やっぱりこっそり様子を見に行けばよかったか。この六人がどんな感じで絶叫マシンやお化け屋敷を楽しんだのか妙に興味がわいてきた。SOS団であれやこれやとイベントを消化した時と比べて、長門の中で何か違いはあったのだろうか?
 長門は少し間をおいて、話を続けた。
「昼食後しばらくした後、人ごみの中でわたしたち二人と、他の四名とはぐれてしまった」
 ふむ、やはりな。
「他の四人がいる位置についてはある程度の距離まではトレースできたが、あえて再度合流するようにはしなかった」
「どうしてだ?」
「彼は二人だけになる状況を望んでいた。また、わたしも早く決着をつけたかったから」
 その『決着』のつけ方が知りたくて、俺は昼休みにこうして部室にやってきたわけだ。
「仕方ないので二人でまたジェットコースターに乗った」
 長門のことだから『わー』とも『きゃー』とも言わなかったことは容易に想像される。
「いくつか乗り物に乗ったが、やがて彼は話があるといって、人の少ない広場に誘導してくれた」
 きたな。思わず身を乗り出す……。
「二人でベンチに座ると、彼はいろいろな話をしてくれた。子供の時のこと、高校入学時のこと、わたしと同じクラスになったこと……」
 俺はただ黙って長門の話を聞いていた。やつも決して悪いやつではないらしい。本当に長門のことを好きになったのであろうことは、長門経由でやつの話を聞くとなんとなくわかる気がする。
 ただ、好きになった相手が少し普通じゃなかったというだけだ……。

 

「最終的に彼から『まずは友達としてつき合って欲しい』との提案がなされた」
 て、提案って……。英語で言えばプロポーズだ。まぁ間違いっていうわけではないが、ここは普通は告白と言うべきだ。
「『わたしは、情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなのでそれは無理』と……」
「い、言ったのか?!」
「……言えないので……」
「おぉい、ビックリさせるなよ」
 思わず椅子から転げ落ちそうになった俺が椅子に座り直している間、長門は昨日のその時の様子を思い起こすかのように少し俯いて目を閉じていた。やがて長門は、ゆっくりと顔を上げると、漆黒の瞳をさらに深く輝かせながら、静かに言った。

 

「『わたしには他に好きな人がいる、ごめんなさい』と回答した」

 

 な、なんと、ずいぶん思い切ったことを口にしたな。まさか長門自らそんな断り方をするとは思わなかった。予想外の長門の回答に少し驚いた俺を見つめながら、長門は続けた。
「落胆はしていたようだが、納得はしてもらったはず」
「……そうか、よかったな。そういうのは『嘘も方便』っていうんだ。まぁ、嘘をつくことになってしまって相手には悪いが、気にすることはないさ」
 俺がそういうと、長門はいったん視線を落とした後、再び俺のことを見上げると、
「そう……」
と、一言だけつぶやいた。
 長門はまだ何か言いたそうな感じでパチリと瞬きをすると、小さく右に首をかしげて、吸い込まれそうな大きな瞳で俺のことを見つめている。
「ん、どうした?」
「なんでもない……、ありがとう」

 

 小さく会釈した後、窓辺の定位置に戻った長門は、いつものように本を読み始めた。窓から入る風が、なんとなく物憂げな有機アンドロイドの短い髪を優しく揺らしている。
 そんな長門の横顔を見つめながら、ひょっとして、長門が彼に言ったことは方便でなくて本心? なんて考えが、俺と長門の間をゆっくりと吹き抜ける風と共に流れ去って行った。

 
 

Fin.

 
 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:41 (2713d)