作品

概要

作者子持ちししゃも
作品名ある春の日の風景
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-04-05 (月) 16:27:38

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

※スレ投下時と最後を少し変えてみました。

 
 

 開花宣言が早かった割には、その後続いた寒気に咲く事を諦めたのか、まだまだ3分ほどしか桜は花を開いていなかったが、泣いても笑っても本日から新年度だった。
 本来ならば後輩も出来、身も引き締まり気分も新たに迎えるだろうこの季節に、俺達は代わり映えのしない文芸部室にハルヒに呼び出されて、こればかりは慣れないいつも通りのハルヒの思いつきに振り回されている最中であった。

 

「じゃ、あたし達は撮影してくるから、ちゃんと作業しておくのよ!」
 ハルヒはうきうきと段ボール箱に朝比奈さんコスプレ衣装を詰め込んだかと思うと、それを古泉におしつけ、本人はデジカメ片手に意気揚々と部屋を出て行った。
「す、すずみやさぁーん」
 朝比奈さんは、これから自分がされるであろう事を想像して、泣きそうな顔でその後を追って行く。
 朝比奈さん、無力な自分をお許しください。俺はその頼りなげな後姿に合掌した。
「それでは僕も行ってきます」
 古泉はレフ板と段ボールを大仰に抱えた後、器用に肩をすくめてみせた。
「おう、あんまりハルヒに無茶させんなよ」
 俺は古泉の代わりに扉を開いてやる。ことハルヒに関する限り、こいつがNOということを聞いたことはないが、一応釘をさしておく。
「ありがとうございます。善処はさせていただきますよ」
「どうだかな」
 古泉の苦笑を見送ると、俺は扉を閉めて部室内を見渡した。既に長門がパソコンの前に座り、俺を注視している。
「しょうがねぇ。ちゃっちゃとやっちまうか」
 長門はほんの数ミリ顎を引いて頷いた。

 

 俺達が、何故本来ならばまだ休みである筈の学校に、あの長い坂道を上ってわざわざ訪れているかというと。
「思わず新入生がSOS団に入りたくなっちゃうようなモノを配りたいのよ」
 ハルヒが腕組みをして言い放ったから、としか言いようがなかった。
「でさ、コンピ研の部長を問い詰めてやったわけ」
 ハルヒはさも名案を思いついた子供のように目を輝かせ、指をくるくると回しながら得意げに口元を上げる。
 ちなみにこれは昨日の事で、俺達は「長門ユキの逆襲Episode00」を編集するのに部室で大忙しであった。
 さっきまで消えてたと思ってはいたが、そんなことをしていたのか。部長氏も哀れだな。
「そしたら、パソコンに表示するカレンダーやスクリーンセーバーなんてどうかって」
 パソコンで編集作業をしていた俺を押しのけると、ハルヒは手にしていたディスクをパソコンに飲み込ませた。
 部長氏作であるそのツールを使用すると、日付を指定して写真を放り込むだけで簡単に指定日には画像が現れるカレンダーが作れるらしい。そしてその写真を使用したスクリーンセーバも同時に出来てしまうとのことだ。
「ちょっと地味だとは思うんだけど、今はパソコン使ってる人も多いし、目に付く時間が長い方が効果も高いでしょう!これで映画で作ったシーンを入れたら、誰もが映画を観たくなるに違いないわ!次の文化祭は満員御礼よ!」
 得意満面でハルヒは笑い、朝比奈さんはひぃっと小さな悲鳴をあげ、古泉は全くその通りですと爽やかに頷き、長門は本を読んでいた。
 おいおい、最初はSOS団に興味を持たせるのが目的だったんじゃないのかよ。
 まぁ要するに、いつもハルヒの思いつきで俺達が奔走する手筈が瞬く間に整ったわけである。
 それでなくても忙しいのに、くだらない思いつきで仕事を増やさないで欲しいものである。
 俺は団長席に座る長門の右隣に椅子を移動させ、そこに座って長門の作業している画面を覗いたところで溜息をついた。
「で、お前はその写真をどうする気だ」
 長門は、ミクルの冒険の動画をパソコン上で表示し、その画像を利用して星型ステッキの(スターリングインフェルノだっけか?)アップを、パソコン上に表示させているところだった。
「六月二十九日は、星の王子さまの作者サンデグジュペリの誕生日」
「……それはメジャーな記念日なのか」
 長門は手を止めると俺の方を向いて、俺にだけわかるくらいにほんの少し首を横に傾げてから、
「問題があるなら、二月十八日の冥王星の日でも使用が可能と思われる」
 と答えた。どっちもどっちだと思います。長門さん。
 確かに「有希は記念日とかに詳しそうだから、記念日のピックアップとそれに合いそうな写真を選んどいてね!」と言ったハルヒの目には間違いなかっただろう。
 だが、噴水の日とかバイクの日とか、関係者には悪いがピックアップする内容が少しずれていると思う。
 ってそうか。俺は撮影に邪魔だからだけじゃなく(朝比奈さんに無茶させようとしたら、容赦なく突っ込むだろうしな)、長門のこうした偏執ぶりを修正する為にここに配備されたのか。
 って、今度は噛み付きシーンかよ。なんの日になるんだ。
「献血の日」
 ……一瞬納得しかけてしまったのは、俺が長門ワールドに引き込まれていたからに違いない。

 

「いやもっとさ、メジャーどころからやらないか。祝日とか、季節ごとの行事とかいろいろあるだろ」
 長門はパソコンのマウスをクリックすると、画像の背後においてあった部長氏作のツールを前面に表示させた。
「既にそれらは入力してあるが、該当する写真が見当たらない」
 一月一日の元旦から始まるそれは、確かになじみの深い祝日の名前やらイベントの名前が挿入されており、それらのほとんどが名前だけで、「写真未選択」を表す空白が続いていた。
 でもところどころに写真が選択してあるものがある。マウスを貸してもらって、それらの一覧を眺めてみる。
 例えばみどりの日をクリックしてみるとだな……なんてことのない、木々が写った遠景の写真が表示されたりするわけだが。
「やっぱ人物とか映っていた方が映えるんじゃないか。確かそんなシーンあったろ」
 溜息を付きながら別の日付もチェックする。ん、これはバレンタインデーか。そんなのに相応しい映像なんてあったかな。
 写真を表示させる。
 一瞬何が映っているのかわからなかった。
「……なんの、写真だこれ」
 かろうじてなんとかそれだけ言うことが出来た。あろうことか、長門が古泉に抱きついていた。
 長門は少しだけ首を傾げ、「映画」とだけ答えた。
 あ、ああそうか。確かそんなシーンあったっけか。後半学園ラブコメ路線になるところだったな。
 しかし当時は何とも思わなかったシーンだったのに、冷や水を浴びせられるような感覚になったのはなんだろう。
「バレンタインはチョコあげたり、告白したりとかだろう。既にくっついてる写真なんておかしい。これもボツだボツ」
 クリックして設定を解除しようとする俺の手に、長門が右手をやんわりと載せてそれを制した。
「これは涼宮ハルヒが指示したもの。それに、恋愛方面に遠すぎることはない」
 すぐ離されたその手のぬくもりにどきりとし、更に無駄に安心させ、加えて俺をもやもやさせた。
「ハルヒが?これを?」
 チョコレートを渡すシーンなんて、簡単にいくらでも撮れる筈だ。それこそ何かの箱を差し出すようなポーズをするだけで良い。服装だって制服で問題ない。わざわざこれを使う必要がない。
「この写真に何か問題が?」
 長門の台詞に、そこで初めて、俺はこの写真が自分の感情だけで否定したがっていることにようやく気づいた。
 それは俺がハルヒが消えたあの世界を経由したからに違いなく、その経験が中河の時に感じた、他の男と陸まじげにしている長門を想像することを俺に拒否させている。例えそれが相手が古泉という、悔しいが相手としては申し分ない男だとしても、いやだからこそというのか――。
 そこで俺の思考は、またも長門の涼やかな声に割り込まれた。
「涼宮ハルヒは、わたしとあなたとの関係を懸念している」
 ……心当たりはないではなかった。実際俺は夢の出来事として片付けられたあの雪山で、ハルヒに問いただされている。
「十二月のあの日以降、あなたはわたしを注視する回数が顕著に増えている。そしてわたしに起こっているイレギュラーな変化もまた、彼女を困惑させている」
 あの事件以来、確かに俺は長門が気になって仕方がない。だってそうだろう。平然として見えたこいつが、処分覚悟で世界を作り変えちまうほど思い悩んでいたんだぞ。
 そして消えてしまったあの長門のあの表情も、裾にかかるわずかな重みも、俺は覚えている。忘れられる筈もない。
 そこまで考えてから、それがひどい独占欲であることに思い至って頭が痛くなる。

 

「だから、わたしが古泉一樹とそういう関係であることを、これを使用して流布してしまおうという考えがあると思われる」
 自己嫌悪に陥る俺をよそに、長門は淡々と続けていた。
「この写真を見たやつが、長門と古泉が付き合ってると思うこととなんの関係があるんだ」
「噂が先行しそれが現実になるということは、人間世界では珍しくない事象だという考えが涼宮ハルヒにはある」
 確かに噂が元で互いを意識し合う様になり、本当に付き合ってしまうようになった、というような事は多くはないにしろ皆無ではない。
「そこまで理解していて、どうしてハルヒに従って事実無根な噂を自ら広めようとするんだ。俺が後で合う様な場面を撮り直」
 再度ファイルを削除しようとした俺の手を、また少しだけひんやりとする手が止める。
「事実無根ではない」
 ……な……。
 平然と長門が答えた長門に、俺は言葉を失った。頭は冷や水を浴びせられたように冷え上がり、耳鳴りまでもが俺を襲う。
「正確に言うのであれば、わたしという個体は古泉一樹に対し、一般的に恋愛感情による呼ばれる好意を感じている」
 一瞬頭が真っ白になった。
「……嘘だ……」
 思わず声に出してしまっていた。
 だって古泉が所属する機関は、仮にも敵対とまではいかなくても、互いを牽制する立場じゃなかったのか。
 それに長門が他人に執着するなんて考えにくく、そして何より、俺の理性がそれを赦さないでいた。
 何か言おうにも、あまりのことに口が渇いて言葉が出ない。
 俺が煮え切らない状態でいた結果がこれなのか。クラクラする頭で、なんとか長門を見る。

 

 長門は時間と角度を、それぞれ1秒分程使って首を右に傾けてから「嘘」と言った。
 ……嘘?
「どこから、どこまで、だ?」
 上手く言葉に出来ただろうか。俺はその疑問だけをようやく吐き出す。
「わたしが古泉一樹に恋愛感情による好意を持っているという箇所」
 ほっとしたと同時に気が抜ける。俺がどんな間抜け面をしていたかは想像に難くないだろう。鏡がなくて本当に良かった。
「しかし、なんでそんな嘘を」
 俺の言葉に長門は涼やかな顔で「エイプリルフール」と答えた。
 そういえば、連日の編集作業でそんなことすっかり忘れていた。確かに嘘を付いてもいいというイベントがまさしく今日あったような気がする。
 むしろハルヒの能力を思うと、ハルヒが忘れていてくれていることに、感謝をしたい気持ちに見舞われた。
 ちなみに嘘を付いていいのは午前中のみだぞ。時刻を見ると現在午前十時半。
 ははっ、まったく長門も人間くさくなってきたもんだ。でもまぁ、驚いたにしろ長門の変化は悪くない。
 気が抜けた俺は、深い深い溜息を付く。
「長門がそんなことをするなんて思いもしなかったから、すっかり本気にしちまったよ。しかしハルヒがこれをそういう意図で選んだ部分は本当なんだな。やっぱこれは許し難いので、別なシーンを提案す……」
 すっかり安心しきってうっかり心の本音をもらしつつ、マウスを取った俺の裾を、長門がそっと摘んだ。胸がチクリと痛む。
「あなたが、”嘘だ”、”許し難い”と言った、その理由を教えて欲しい」
 俺が長門を見る。長門が俺に顔を向ける。春の雪解け水のような透明な輝きを持つ瞳が俺を捉える。

 

 その時、少しだけ開けていた窓からふわりと風が舞い込んだ。その風に乗って、小さな淡いピンクの花びらがひらりと舞い踊り、静かにパソコンデスクの上へと着陸した。
 まだ半分も咲いていない桜の、満開を待たずに散った花びらが、出来る事はやっとけよ。後で後悔するぞ、と語りかけているかのように俺には思えた。

 

 俺は長門の手を取って立ち上がると、窓辺から頼りなげに咲くいじらしい花を指差した。
「お前と一緒に桜を見るやつは、俺がいいってことだよ」
 長門は風で揺れる桜の花を少しの間じっと見つめてから俺の顔に視線を向けると、小さな口を開いた。
「現在そのような状況であると認識している」
 いや、まぁ、うん。確かにそうだが、俺が意図したいのはそうじゃないんだ。長門。
「いや、ええとだな。来年も、再来年もってことだよ」
 俺の決死の言葉にも「再来年は卒業が見込まれるが、可能だと思われる」とか平然と答える長門。
 ――いや、違う。
 微笑を隠しているような、わざとそっけなく言っているような、そんな風に俺には思えたのだ。思わずこっちの方が可笑しくなってしまい、笑いそうになるのを堪えるのに苦労した。
 どこからどこまでが嘘や冗談なんだか、お前は本当に表情が変わらないからわかりにくいんだよ。
 心の中で苦笑してから、俺は長門の両肩に手を置いた。
「今日も明日もずっと未来も、長門の隣にいるのは俺がいい。お前が好きだ」
 ひどい独占欲も、もやもやした感情も、自己嫌悪も、全てが「長門が好きだ」というそんな単純な事だったのだ。そしてそれを認識させしてしまえば、出来る行動はそんなに多くはなく――。
 長門が何かを言うより早く、俺はその口を自分の口で塞いだ。
 手と唇から伝わる微かなぬくもりが、長門がここにいることを、そしてこれが嘘じゃないということを俺に教えてくれる。
 長門の気持ちを確認してなかったことだけが少し心残りだったが、長門ならどうとでも出来た筈。唇を離した後、小さく華奢な身体を抱きしめる。長門は嫌がるそぶりもなく、俺にされるがままに身体を預けている。
 少しだけ暖かさを纏った風が、俺達を撫でていく。桜の花びらが、祝福してくれるかのようにその身を躍らせた。
「……これは、嘘じゃないといい……」
 胸の中で長門が呟いた言葉が、微かに聞こえた気がした。

 

 しばらくして戻ってきたハルヒに、作業がこれっぽっちも進んでいない事でこっぴどく怒られることになる訳だが、それはまた、別の話ということで。

 

おしまい。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:40 (1888d)