作品

概要

作者書き込めない人
作品名長門さんの恋愛小説
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-03-28 (日) 23:00:14

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

※ ヤンデレ注意

 
 
 

換気のために開けた窓から冷たい風が吹き込み、
思わず自分を抱きしめ身震いをする。
それでも外の天気は雲一つない快晴。
日差しが当たった部分にわずかなぬくもりを感じる。

 

「……夜は少し冷えるかもしれない」

 

私はそっとつぶやく。
確か冬のよく晴れた日は放射冷却によって冷え込むと、
いつか読んだ本に書いてあった気がする。

 

「それより続き……」

 

充分室内の空気を入れ替えた私は、
ストーブの火をつけ再び画面に向う。

 

画面、と言っても流行の携帯ゲーム機や、
液晶テレビを見ているわけではない。
そんな高価なものはこの部屋においていない。
ここにあるのはいつから置いてあるのか分からない、
この古いパソコン1台だけ。
きっと減価償却をすることもできないだろう。

 

「えーと……」

 

徐々に暖まる部屋で一人呟きながらマウスポインタを動かす。
そして先ほどまで書いていたテキストファイルを表示し、
点滅するカーソルの先に文字を埋める作業を始めることにした……

 
 

『彼は私の手をつかむと』

 
 

ここは北高の文芸部室で、
私はこの文芸部のただ一人の部員。

 
 

『その暖かい眼差しをまっすぐ向け』

 
 

部活動を行うには少なすぎるけど、
主な活動が読書だけであり、広報誌も一応作っているので、
生徒会から半ば特別に認可されている。

 
 

『おもむろに何かを呟いた』

 
 

部員を増やそうとも思わないし、
ムリに増やしたいとも思わない。
本が読めるのなら、ここでなくともできる。
私は『彼』のおかげで図書館で本を借りることも出来るわけだし。

 
 

『信じられないという思いと彼への想いから、私は震えながら聞き返す』

 
 

数少ない親友の一人には、『たまには他の事でもしてみたら』と言われるが、
委員長気質の彼女とは違い人見知りをする私は、
こうして一人本を読むほうが性に合っている。

 

そう思いながら私は、ふと思いついた文章を挿入してみる。

 
 

『傍らで見守る私の親友も、固唾を呑んで見守っている』

 
 

……こちらの方が現実味があっていいかもしれない。
この少し前の文章を何箇所か変えれば、筋は通るだろう。
それにこの後に『おめでとう』という言葉を送る役にはぴったりだ。
きっと『実際』の場面でもこんな展開になっていそうだし。

 

そう思った私はつい苦笑する。

 
 

『照れくさそうに顔を背けていた彼が、
再び意を決したように私の目を見た』

 
 

今打っている文章は文芸部とは何の関係もないものだ。
次の広報誌に掲載する作品は何作か既に書いているので、
しばらくは自分の好きなものを書けるだろう。

 
 

『時が止まったような錯覚に陥りながら私はその視線を受け止める』

 
 

今書いているのは紛う事なき恋愛小説。
そんな経験は無いはずなのにスラスラ書けるのは、
きっと主人公が『私』で相手役が『彼』だからだろう。

 

空いた時間に軽い小説を書くたびに、
『この二人』の作品ばかりが増えている。
誰もいないこの部屋で私以外が見るとは思えないけど、
少し恥ずかしい……

 
 

『そして凍った時間を溶かすように彼はゆっくり口を開き、
そして言った……』

 
 

でも、いつかこうなると思い、想っているから書いているのだろう。
いつか本当に『彼』とそういう関係になれば、
恥ずかしいけど見せてみてもいいかもしれない。
そう、『彼』になら何を見られたって……

 

それに二人の初々しい『はじめまして』という言葉から始まったこの物語は、
いよいよクライマックス。
いつも以上にスラスラ書けるのも当然だろう。
そう、あとはずっと待っているあの言葉だけ……

 

そんな事を思いながら私は続きを書く……

 
 

『俺はお前のことがs|

 
 
 

「長門さん?帰りましょ」

 

突然ドアの向こうからノックと共に聞こえてきた声に驚いた私は、
思わず文章を保存することも忘れ『閉じる』をクリックしまった。

 

「……」

 

仕方ない……
また、今度書き直そう。
どうせ、いつも頭の中はこの『恋愛小説』でいっぱいなのだから。

 

「あれ?もしかして、広報誌の小説でも書いてたの?
邪魔したかしら……」

 

「いい。大した物を書いていない」

 

「あら、そう?」

 

扉を開けて中に入ってきた私の親友は、
そのまま本棚を眺めだしていた。
どうやら私が帰宅支度をするのを待っているらしい。

 

「でも今度からはもう少し静かに呼んで欲しい。
その……」

 

「驚くから?」

 

「……そう」

 

付き合いが長いので、
私の言葉を先取りする彼女に、私は首肯した。

 

「わかった、長門さんのお願いだものね。
今度から気をつけるわ」

 

「ありがとう、朝倉さん」

 

「じゃあ、いろいろ話したいこともあるし、
さっさと帰りましょ」

 

そう言って私の荷物をまとめようとする朝倉さん。
名実共に委員長の彼女が、私の世話を焼いてくれるのはいつものことだけど、
今日は何だかやけに上機嫌な気がする。

 

「何か良いことでもあったの?それに『話したいこと』って?」

 

「うふふ」

 

私の質問に嬉しそうに笑いながら、
朝倉さんは振り向いた。

 

「実はね〜」

 

もったいぶる様に話し出す彼女の様子に、
何となく話の予想がついた私は思わず口に出した。

 

「また、誰かに告白されたの?」

 

「うっ!?」

 

またか……
確か先週も3組の男子生徒に言い寄られていた気がする。
まぁ、朝倉さんの容姿と性格なら仕方ないけど……

 

「その様子じゃ相手は結構良い人?」

 

「ううっ!?……なんで分かったの?」

 

「それは……付き合いも長いから」

 

思わずため息をつきそうになる。
私も彼女のような性格と容姿ならもう少し自信を持てるかもしれない。
そして、彼女の前の席にいる『彼』に……

 

「でも、今度のはいつもと違うわよ!」

 

「違うって?」

 

思い悩む私を気にも留めないで、
幸せそうな表情で話を続ける朝倉さん。

 
 

「だって、相思相愛なんだもん」

 
 

「へぇ〜いいなぁ」

 

私は素直に思っていたことを口にする。

 

「えへへ〜いいでしょ」

 

本当に嬉しそうな顔をする朝倉さん。
私も『彼』と結ばれたらこんな笑顔になるのかな。

 

「彼ったら早速わたしのこと『涼子』って呼んでいいか聞いてくるし」

 

「ふふ、恋人同士みたい」

 

「『みたい』じゃなくて、恋人になったの」

 

あぁ、そうか。
そういえばそうだった。

 

「だから、私も今までみたいな呼び方にじゃなくて、
彼のこと下の名前で呼べるのよ〜」

 

「ふふふ、おめでと」

 

私の賛辞に顔を赤らめる朝倉さん。
ストーブは切ったのに部屋の気温が上がりそうだ。

 

「ところでお相手はどんな人?
それに『今までみたいな呼び方』って?」

 

「あっ、ごめんね。その肝心なトコ言ってなかったわね」

 

更に顔を赤くしながら慌てる彼女。
相手の名前を言ってくれないと、
私としてもイメージしにくい。

 

「え〜と、相手はわたしのクラスの男子なんだけどね……」

 

まるで口角が重力に逆らっているかのように、
笑みを絶やさずに喋り続ける朝倉さん。
私も『彼』の前でこんな顔が出来るのかな?

 

「あ、長門さんは知らないかも……」

 

そういえば朝倉さんのクラスの男子には面識がない。
同じクラスの男子でも話せる人は少ないけど、
隣の彼女のクラスの男子なんて体育の時にしか見ない。

 

でも、幸せそうな委員長の様子を見た私は、
彼女に話を続けるよう勧めた。

 

「うん、いいよ。言って」

 

「そう?分かったわ。ありがと」

 

嬉しそうに謝辞を述べる様子を見て、
私はこの大切な親友の幸せな次の言葉を待った。

 
 
 
 

……それが私を奈落に突き落とす死刑宣告だとも思わずに……

 
 
 
 
 
 

「いつも私の前に座ってるキョン君ていう人なの」

 
 
 
 
 

「……え?」

 
 

自分の耳を疑うような言葉に、
思考を停止した私に彼女は言葉を続ける。

 

「キョン君て、ぶっきら棒に見えて意外と世話焼きだし、
責任感もある真面目な人なのよ」

 

「……」

 

「授業中は寝てばっかりなんだけど、
寝顔も意外と可愛いいし……その代わり成績がちょっと問題なんだけどね」

 

あはは、と笑う朝倉さんに、
私も笑顔を見せた。

 

そうだ、私の大事な親友の幸せなんだ。
ちゃんと笑顔で賞賛しないと……

 

「でも、そこはわたしが面倒見てあげればいいし、
むしろ母性を……」

 

「……ぅ」

 

「え?何か言った?」

 

笑顔のまま怪訝な表情で私を見る朝倉さん。

 

「おめでとう……」

 

「あぁ、ふふ……ありがと。
それにしても彼が告白してくれるなんて……
ちっともそんな素振りがなかったんだから」

 

「おめでとう」

 

「いい加減脈ないかな、って諦めてたのに……
土壇場で大逆転よ」

 

「おメでとう……おめデトう……」

 

「それから彼ったら……っと、ここで話してちゃ日が暮れるわね。
そのオンボロパソコンまだ点いてるみたいだから、消しちゃいなさいな。
私はあなたの荷物を持って先に行っておくからね」

 

それだけ言うと彼女は元気よく鞄を二つ持って飛び出していった。

 
 

「おめでとう」

 
 

一人残された私はもう一度呟く。

 
 

「おめでとうおめでとうおめでとう……」

 
 

いや、この部屋には普段から私しかいない。
それでも私は一人『残された』……

 
 

「おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう……」

 
 

どうして『私』がそのセリフを言っているのだろう。
そこは『私』ではなく『親友』のセリフのはずだ。

 
 

「おめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとうおめでとう……」

 
 

間違いは正さないと……
その言葉は彼女が私たちに言うもの……

 

ふと、窓の外に目をやると、
校門の所に『彼』がいた。
駆け寄る朝倉さんに手を振っている。
彼女もそれに答えるとこちらに指をさした。

 

遠くて聞こえないけど、きっと『私』の紹介をしているのだろう。
私の小説はそこから始まるのだから。
遠くて聞こえないけど、きっと『彼』は目を見開いているのだろう。
私の小説はそうやって続いているのだから。

 
 

彼はすぐに視線を目の前の女に戻す。

 
 

きっと『彼』は『私』のことが気になっているに違いない。
私の小説はそれがキーなのだから。
きっと『彼』は『私』にちょっとした想いを秘めているのだろう。
私の小説ではそう展開するのだから。

 
 

そして、彼は両手を広げ……

 
 

自分より少しだけ小さなその体を抱きしめていた……

 
 
 
 
 

それは違う……

 

そんな展開ではない……

 

『親友』が言うべきセリフを『私』が言うのはおかしいし、
『私』の役目を『親友』がするなんていうのもおかしい。

 
 

きちんと書き直さなければ……

 
 

「あ、長門さん。遅かったわね」

 

「長門?あぁ、あs……涼子の友達か?」

 
 

『二人』の初めての出会い。

 
 

「そうよ。あっ、長門さん。
この人がキョン君よ」

 

「おい、その名前で……」

 
 

私の『恋愛小説』はここから始まるのだから……

 
 

「あら、ごめんなさい」

 

「ったく……まぁ、いいけどな」

 

「うふふ」

 
 

きちんと、物語を始めるためにも、間違いは正さなければ……

 
 
 

そう、始めの言葉は決まっている。

 
 
 

『はじめまして』

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:39 (2622d)