作品

概要

作者ジョン・スミス
作品名長門さんの変革(序)
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-03-10 (水) 15:22:33

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 正月も明け、ようやく始まった三学期。俺は寒空の下学校へと続く急な斜面を登っていた。この学校は建てる場所を間違えてやしないかと思いたくなる。責任者を呼んで来い。逆さづりの刑に処した上で拷問にかけてやる。などと無意味なことに思考を費やしていると後ろの方から俺を呼ぶ声がした。大方谷口あたりだろうと思い、俺は気にせず歩を進める。案の定というべきか、谷口のやつは満面の笑みを浮かべながら俺の肩を叩いてきた。
「よぉ、キョン。相変わらずしけた面してんなぁ。ちゃぁんと飯食ってんのかぁ?」
 あいにくだが、この顔は生まれつきだ。お前の方こそ随分ご機嫌だな。またなにか嬉しいことでもあったのか。
「そらもぉ、絶好調だぜ!なんせいよいよ俺にも春が来たからな。あ、今は冬でも心は春ね。そこんとこよろしく」
 へいへい。朝からテンションの高いことで。
「冬休みはどうしてた?またハルヒの野郎にいろいろ連れまわされていたのか?」
「まぁな」
 俺は谷口に冬休みの間の雪山合宿のことを大まかに教えてやった。ついでにクリスマスイブでもひと騒動あったのだがそれはまた別の話。谷口には謎の館の部分は省いて教えてやった。一方谷口はというと、これまた聞いているんだか、いないんだか曖昧な相槌を打っている。おい、人の話はちゃんと聞け、ムカつく。
「って言われてもよぉ。今の俺の世界はバラ色に輝いているからよぉ。それに比べりゃお前らのしていることなんてありふれてて何の面白味もねえぜ。あ、でも朝比奈さんのスキーウェア姿は拝みたかったな。鶴屋さんもそうだけどさ」
「お前の彼女はどうした。さっそく浮気か」
「バーカ。男っていうのはな、イイ女がいるとついつい目移りしちまうもんなんだよ。キョン、お前だって人のこと言えないんじゃねぇの?」
 そんなことはない。俺は朝比奈さん一筋で……、いや、そうだと思うぞ?たぶん、きっと。
「お前のたぶんっていうのが一番信用なんないんだって。大体お前、中学ん時の佐々木はどうしたんだよ?別れたのか?」
 何度も言うが、俺とあいつはそんな仲じゃないと何べん言ったら気が済むんだ。全く国木田といい、お前と言いどうしてそう妙な所に話を持っていこうとするのか。
「じゃあ、お前は。つきあってもいない女と二人きりで映画行ったり、遊園地行ったりしたってのか?」
 あれは決してデートではない。向こうが勉強を見てくれるというからついていっただけだ。
「あのなぁ、キョン。三秒で看破されるような嘘ついてんじゃねぇよ。つくんならもう少しマシな嘘をつけ」
 本当なんだがいかんせん、誰も俺の話を聞いてくれない。谷口は信じようとしないし、国木田にはからかわれるし、くそ。俺の青い鳥はどこにいる。案外ああいうのって身近に居たりするんだよな。それはどこだ。人か?物か?はたまたインターネットか?
「あぁ、そういやお前には一人いたんだったな」
「何が?」
「彼女」
 はぁ?何を寝ぼけたことを言っているんだこいつは。俺の周りにいる女性陣の誰かを言っているのか。誰だそいつは。ハルヒなんて言うなよ。
「誰がお前と涼宮なんて言ったよ。長門 有希だよ。長門 有希」
 一瞬俺の思考がオーバースローしてしまった。俺となんだって?
「だから長門だって。何度も言わすな馬鹿野郎」
 馬鹿野郎はそっちだ。何で俺と長門が付き合わなければならんのだ。どこにそんな接点があった。
「本気で言ってんのかお前?」
 谷口は胡乱げな眼差しで俺を見る。なんだ気色悪い。
「お前が去年入学してすぐの事、よく思い出してみろよ」
 俺が入学してすぐだと?入学してすぐと言ったら……、オイ、まさか。
「そうだよ。お前教室で長門と抱き合ってたじゃねぇか。忘れてたとは言わせんぞ」
「チョイ待て!あれはそんなんじゃないんだ。あれは事故で……」
「ほ〜お、事故か。事故ですかあれが」
 谷口が言っているのはおそらく俺が朝倉に襲われた時のことを言っているのだろう。確かにあの時の俺は長門と抱き合っていると見られても仕方のない構図だったのかもしれないが、しかし信じてほしい。俺はヤマシイことなんて決してしていない。無実だ。弁護士を呼んでくれ。できれば格安のな。
「あぁ、そうかい。でもなキョン。いくらなんでも高校生にもなって独り身はさびしすぎるだろ。長門じゃなくてもほかの女子でもいいからよ。作っちまえよ。案外世界が変わるぜ」
 うるせぇ、余計な御世話だ。畜生。
 

 長々と谷口の自慢話を聞かされていた俺は教室についたところでようやく解放された。自分の席に腰を降ろすと後ろのハルヒが眠たそうにしていた。
「よう、元気か」
「元気じゃないわね。朝は寒いし、しんどいし。できれば今日は休みたかったわ」
 ハルヒは相変わらず自分勝手な主張をしつつそのまま寝る態勢に入った。おい、もうすぐホームルームだぞ。
「ねぇ、キョン」
「なんだよ」
「あんた、さっき谷口と話をしていたわよね。彼女がどうしたとか」
「あぁ、聞き逃しといてくれ。ただの妄言だ」
「そうもいかないわ。アンタ、まさか彼女ができたとかふざけたこと言うんじゃないんでしょうね」
 珍しくハルヒの声は真剣さを帯びていた。そのことがやや予想外で、少なからず驚きながらも背中越しにハルヒに話しかけた。
「珍しいな。お前、こういうのに興味ないと思ってたぜ」
「別に興味があるわけじゃないわ。ただ単に、アンタが彼女作って我がSOS団の活動をさぼるようなことになったら団長である私の面目が丸つぶれでしょう!そんなことにならないようにチェックしているだけよ。別にあたしが気になってるわけじゃないから。勘違いしないでよね」
「あぁ、わかったよ」
 こいつにそんな恋愛感情で悩むようなことがあるとは俺も思っていない。なんたって恋愛を精神病の一種と決めつけるようなやつだからな。
「……あ、そう」
 ハルヒはあっさり答えた俺に対してわずかに傷ついたような顔をしたが、すぐに元に戻って話の先を促した。
「それで、キョン。あんた今、彼女とかいるわけ?」
「いるわけねぇだろ。あんまり勘ぐるな」
「……それもそうね。私の考えすぎよね。あんたが彼女を作るなんてことがあった日には人類絶望のカウントダウンよ」
 おい、俺が彼女できた次の日には地球が滅ぶってか。ひでぇな。
 そんなことを考えていると担任の岡部が入ってきた。岡部は新学期についての諸注意を話はじめた。それを聞きながら俺はふと先ほどのハルヒとのやり取りを思い出した。
 もし、自分に彼女ができたとしたら、それはどんな人だろうか。そいつが現れることで俺の周りはどんな風に変化するのか。自分が彼女にするとしたらどんな感じの子だろう?
 そんな時、ふとあいつの微笑んだ顔が浮かんだ。長門が作り出したもう一人の長門だ。もし自分が宇宙人や未来人がいない世界で普通の学園生活を送っているとしたら、ああいう子と俺は付き合っていたかもしれない。それはそれで悪くない。実際あの世界の長門はこっちの長門よりも少し、いやかなり可愛かった。だからもっと話をしていたかったとか、あの笑顔をもう一度見たいという気持ちがあるのも確かだった。だが、所詮は偽物。その長門は俺の知る長門ではない、作られた存在だったのだ。だから俺はこっちの世界に戻ってきたんだ。そうさ、これからどんなことがあっても俺はこちらの世界を放棄したりしない。でも、そういうのも有りかな〜と、思ってしまう自分がいることも確かなわけで。
 俺が悶々とした気分で頭を抱えていると、突然後ろから手が伸びてきて俺の首根っこをつかみ引き倒した。仰向けの状態で俺はハルヒの顔を拝む形となり、ハルヒはといえば、悪だくみを企てている悪代官の顔をしながら手に持っている用紙を握りしめながら
「ねぇ、キョン。昨日ネットで見つけたんだけどね。近いうちに横浜の方で囲碁、将棋大会が開かれるらしいの。アンタ、いつも古泉君といろんなゲームやっているからかなり有利に戦えるんじゃない?これに優勝すればSOS団の名前はさらに世に知れ渡ることになるわ。もちろんやるわよね?文句があるなら聞いてあげるわ。ただし全部大会が終わった後でね、キョン」
 それに結論を出す前に、まずはこの暴走気味のお嬢様を宥める方法を見つけなくてはならないようだ。
 やれやれ。

 さて、そんなこんなで俺は旧校舎に続く渡り廊下を歩いていた。外では霧雨が降っており、冷えきった空気が身に染みる。こんな時は部室で朝比奈さんのお茶を飲むに限る。部室の前に着くとさっそくドアをノックした。返事はない。この場合たいていは誰もいないか、もしくは長門がいるのだが、前者は皆無と言っていいほどないので恐らく後者だろう。俺は何の疑いもなくドアを開けた。
 そして、見た。
 

 いつものように窓際のパイプ椅子に腰掛け、驚いた表情をした『メガネ』をかけた長門 有希を。

「・・・・・・・」
 
 パタン。
 
 ドアを閉め、自分が今見た者を頭の中で再編成する。いや、待て。このシーンにはなにやらデジャブがある。そうだ。あれは確か去年のクリスマス・イブの前らへんにあった……。
「って、ちょっと待てー!」
 あれはもう終わったはずだ!世界もいつもどおりだし、あの長門がここにいるはずがない。そうだ、さっき教室で向こうの世界の長門のことばっか考えていたせいか。あっはっはっは!妄想ってこわいなー。少し自重しないと。
 そう決意も新たに俺は再びドアを開けた。

 相変わらずメガネをかけた長門が、オドオドした様子でこちらを見ていた。

 ……あれー、おかしいな?まーだ目が覚めてない?
 後ろを向いて試しに頬を抓ってみた。痛い。
 再び長門の方を見る。しかし、やはり長門はそこにいた。メガネをかけたまま。
「……」
 再び沈黙。試しに挨拶をしてみる。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
 頬を朱に染めながら長門がぺこりと頭を下げる。
 
 うん。間違いないね、思いっきりエマージェンシーだ。

 この長門は間違いなくあの長門だ。俺だけを除いて世界を丸ごと変えてしまった、あの時の長門。しかし、世界は正常のまま。これが意味するところは・・・・・・・。
 あー、なるほど。そゆことか。つまりこいつは。この長門は。
「あ、あの・・・」
「おい、長門。お前どうしてメガネを掛けているんだ」
「え?」
「オシャレなんてわけじゃないよな。そんなことお前がするわけがねえ。なのにどうして今日に限ってお前はメガネをかけているんだ?」
「あ……、あの・・・・・・これは」
「ごまかそうったって無駄だぜ。俺には全部お見通しだ」
「え?」
 この長門はいかにも状況がよく分かっていないって顔してやがる。ふざけやがって。
「お前、去年雪山で俺たちを変な館に閉じ込めた仲間だろ」
 そう、俺は前にこれと似たような体験をしたことがある。それは去年の冬、SOS団の面々が突如あらわれた謎の館に閉じ込められ、そこで偽の朝比奈さんや俺が妙なことをしてきやがったのだ。アレには本当に参った。危うく大人の階段を登ってしまうところで……、ゴホンッ。
 まぁ、それはひとまず置いといて。とにもかくにもこいつはその謎の館で俺たちを攪乱しようとしてきたやつらの仲間に違いない。でなければあの長門がここにいるわけはないのだ。
 俺はズカズカと偽の長門に歩み寄る。偽の長門はこれまた前と全く同じ様子でおびえながら後退する。全くこうもそのまんまの行動をしても芸がないというか。少しは考えるってことを知らないのか?それとも俺がバカにされているだけか?ムカつく。

 俺は半ば苛立ちげに偽長門の肩を掴み壁に押し付けた。
「ひゃっ……」
「さぁ、答えろ。今度は一体なんの企みだ。偽の長門まで仕込んでくるなんて随分手のこんだことしてくれるじゃないか。雪山の時もそうだったが、いい加減こんな茶番は終いにしてお茶でもしようじゃないか」
「お、お茶ッ!?(……ポッ)」
「毎回毎回自分は隠れて姑息な真似をしてくれるじゃないか。お前らのそういうやり方がそもそも気にいらねぇ。目的は一体何なんだ?」
「あの、その、私……」
 
 こいつめ。まだしらをきる気か。往生際の悪いやつだ。どうしてくれようか。
 そう俺が思考の底に沈もうとした時、不意に部室のドアが開いた。そこには珍しく古泉と朝比奈さんが二人一緒にいた。
「おや?これはこれは……」
「失礼しま〜…ひゃあ!」
 古泉はなにやら面白い事件に出くわしたといわんばかりの顔で微笑み、朝比奈さんは顔を真っ赤にしながらオタオタしている。どうでもいいが古泉。お前がなぜ朝比奈さんと一緒にいる。なにかヤマシイことでもしていたんじゃないだろうな。
「いえ、たまたま廊下で出くわしたものですので、せっかくだからご一緒しようと思いまして。ここに来るまでは他愛のない世間話しかしていませんよ。それより今のアナタの状況の方が気になりますね。一体何をなさっているのです?」
「この長門は偽物だ!例の雪山で俺たちを閉じ込めたやつの仲間なんだよ!」
「ほほぉ……、なるほど。理解しました」
 早いなオイ!
「つまり貴方は彼女は本物の長門さんではなく、贋者であると……。そうおっしゃるわけですね?」
「あぁそうだよ。この長門はどう見ても今まで俺達が関わってきた長門じゃない。お前も見れば分るだろう」
「えぇ、確かにいつもと様子が違いますが……しかし待ってください。それだけで本当にその人が贋者だと言い切れますか?」
「ど、どういうことだよ?」
「様子が違うだけで、その人が本物の長門さんだということは考えなかったのですか?」
 ピシッ!
 一瞬世界が静止した。
 いや待て。ちょっと待て。仮にそれが事実だとするなら俺が今やっていることはなんだ?無抵抗な女性徒に襲いかかるセクハラ高校生、もとい強姦魔。危ないことこのうえない。しかもいつの間に俺が長門を覆いかぶさるような態勢に・・・!?
 下では長門が恥ずかしそうに顔を背け、やたらとハァ、ハァと色っぽく息使いをし、胸元が少しはだけていて……、これは。まずい。いろんな意味でまずい。
「その長門さんの真偽を確かめるよりも先に貴方は真っ先にそこから退くべきですね。仮にもこんな所を涼宮さんにでも見られたら……」
 と、古泉が言いかけた時に扉がバーンと開き
「おっはようー!皆ぁ!!今日も張り切ってSOS団、活動開始するわよぉ……お?」
 まるでコロンブスが初めてインディアンと対峙した時のような目で我らが団長様が扉の向こうに立っていた。 
「……」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「…」
「……・・・・・・・」
 数秒沈黙が舞い降りた。そしてその直後。
「なーにやっとんじゃあ!!!このエロキョン!!!!」
 盛大なとび蹴りが放たれた。
 
 おお、これは意外。しろ・・・・・・。

 ゴキャ。

 そして俺の意識はそこで途絶えた。

  長門さんの変革(前)に続く。
 

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:38 (2708d)