作品

概要

作者変拍子
作品名長門有希さんの懊悩
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-02-14 (日) 18:44:51

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 今日は二月十四日。世間では俗に言うバレンタインデーの日。
 昨日は涼宮ハルヒ、朝比奈みくるが私の家に来て、彼と古泉一樹に贈与する為のチョコレートを作っていった。私も手伝った。
 しかしそれは個人的なものではない。SOS団女性陣がSOS団男性陣に渡すという、ごくごく事務的なものである。
 だからといって、個人的に渡すつもりはない。
 私の手の中にあるラッピングされたチョコレートは自分で摂取するためのものである。
 渡すつもりなど毛頭ない。毛ほどもない。有り得ない。
 私はこのハート型のチョコレートを鞄の中に入れる。もちろん学校で食べるためである。
 部室で彼に渡すなんてことはしない。私の中にそんな行動をする為の思考などない。

 

 今日は二月十四日。世間では俗に言うバレンタインデーの日。
 そんなものは、どうでもいい。

 

 学校に着いた私は鞄を持ったまま部室へと向かう。
 授業が始まるまで本を読むためである。原因不明のエラーによる心臓の動悸を落ち着かせるためではない。決してない。
 部室のドアを開け、今日読もうと思っていた本を棚から引っ張り出す。
 題名は舞城王太郎の「好き好き大好き超愛してる」。
 …………違う。今日はそういう気分ではない。
 私が読みたいのはこっち。そう、井上靖の「愛」。
 ……もう予鈴が鳴りそうなので、本棚に本を押し込めた。昼休みにもう一度選ぶべき。

 

 クラスに入ると、何か緊迫したような空気が漂っていた。
 男子生徒は皆そわそわし、女子生徒も緊張したような面持ちである。
 今日は何かあっただろうか。記憶デバイスから記録を検索する。
 ……該当件数一件。しかし無視して良いレベル。零に等しいレベル。
 私には何が起こっているのか全くわからない。本当に分からない。
 鞄に入っているのは、昼休みに食べるためのチョコレートである。
 何故私は今チョコレートの描写をしたのだろうか。またエラーが発生している。隔離。
 すると予鈴が鳴り、少ししてクラスの担任教諭が入ってきた。
 担任教諭の顔はどことなく、寂しそうなものであった。何かあったのだろうか。

 

 十分ほどのホームルームを終え、授業の準備をする。
 一時限目は確か数学。一般高等学校生徒が行う数学はとても陳腐である、と言わざるを得ない。
 私にとってはとても簡単なこと。赤子の手を捻るが如く、と言ったところである。
 そしてチャイムが鳴り、数学教諭がクラスに入ってきた。彼の顔も少しばかり悲しげであった気がする。

 

 授業は滞りなく進んでいる。今は幾人かの生徒が前に出て、問題を解いている。
 少ししたら私もあてられるだろう。しかし問題はない。
 解答が書き終わった問題を教諭が解説しながら丸をつけたり、バツをつけたりしていく。
「はい、よろしいですね。えーっと……じゃあここからここまでの問題を……そこの席の列の皆さん、解いて下さい」
 私の列の席があてられた。私が解くべき問題は供櫚 さして不都合はない。
 黒板に置いてあるチョークを掴み、解答を書き連ねていく。
 もちろん一番早く書き終わったのは私である。これほどの問題をこの時間で解けない人類に一抹の不安を覚える。
「じゃあ答え合わせをしていきましょうかね。……ここの一番は間違ってますねえ」
 教諭が解説をしていく。私が解いた問題は三番目である。
「次は供櫚,任垢諭ああ、ここは長門さんが解いたんですか。答え合わせをする必要はない……?」
 教諭の動きがゼンマイが切れたからくり人形のように止まった。何が起こっているのか。まさか新たな敵の出現だろうか。
「珍しいですねえ。長門さんでも間違えることはあるんですか。弘法もなんとやらですね」
 教諭の口から鼓膜器官を疑うような言葉が飛んできた。
 有り得ない。私がこのレベルの数学で間違いを起こすなどと、そんなことは有り得ない。
「単純な計算間違いですね。気を付けましょう」
 今日はやはり何かおかしい。何かがおかしい。
 二月十四日はインターフェースの能力が一時的に下がる日なのだろうか。
 それとも学校に着いた時から異常動作を起こしている体温のせいなのだろうか。顔が火照るのを止められない。
 エラーが、発生する。

 

 午前中の授業を終え、本を読むために私は部室へと赴く。
 本を読むためと、チョコレートを食べるためである。それ以外の理由は何もない。本当にない。
 部室の鍵を開け、適当に本棚から本を取り出す。
 いつもの場所に置いてある椅子に座り、本を開く。やはりこうしている時が一番落ち着く。
 と、いきなりガチャッとドアが開く音がした。誰?
「よう。長門」
 彼だった。どうして彼がここに。
「教室はどうも寒くてな。ストーブがある部室で飯を食おうと思ったんだよ」
「そう」
「長門はもう食べたのか?」
「食べた」
 そうか、と言って彼は私の近くにあるストーブにスイッチを入れる。
 そしてパイプ椅子を広げ、席についた彼は風呂敷から弁当箱を取り出し、美味しそうにご飯を食べていた。
 どうしてか、本の内容が頭に入ってこない。読んでいるはずなのに、わからない。

 

 昼食を食べ終えた彼は私にお茶を入れてくれた。一口飲んでみる。……美味しい。
 彼を見てみると、とても落ち着いてるように見える。クラスにいた男子生徒のようにそわそわしていない。
 と、ここでミスに気付く。彼がいたらチョコレートが食べられない。
 取り出しているのを見つかってしまえば勘違いされるかもしれない。
 いや、特に勘違いされても困ることはない。何もない。
 今日は特別な日。だからチョコレートにも普遍的な属性以外の属性が付与されてしまう。
 だから私がチョコレートを持っているのを見れば、彼はそういうことなのだと思うかもしれない。
 しかしそう思われても、別にどうでもいい。これは私が食べるための物。私の物。
 だからといって、独り占めするのは良くないかもしれない。人類が定めている法にも独占禁止法というのがある。
 独占は良くない。だから彼に半分くらいは分けてあげてもいいかもしれない。
 しかし半分しかくれない侘しい奴と思われるのも、遺憾である。
 じゃあ全部上げてしまえばいいかというと、私が食べる分が無くなってしまう。これは私が食べるために買った物。
 だからといって。
 いや、そうであっても。
 しかし。

 

 気付くと私は彼の目の前に立っていた。記憶が飛ぶなんて、エラーが発生しすぎている。これはとても危険。
「ど、どうした? 長門」
 彼が困惑した顔を私に向ける。
 そして、私は手に持っていたチョコレートを彼に渡す。
「…………貸すから」
「っえ? 貸すって、長門これって……」
 彼の言葉が全て聞こえない内に、私は文芸部室を出ていた。
 エラーを隔離しなければならないから。

 

 私が彼にチョコレートを貸した理由はただ一つ。
 彼がとても疲れていそうに見えたから。疲れている時には甘いものが良いと聞いた。
 だから彼に貸した。それだけである。
 それに上げたわけではないので、いつか返してほしい。
 別に期限を設ける気もないが、出来れば丁度一ヶ月後くらいに返してほしい。
 そしてチョコレートでなくても特に問題はない。むしろ一ヶ月後にはチョコレートを食べたくなくなっているかもしれないので、それ以外のものが適当。

 
 

 ――一ヶ月後が楽しみ。かもしれない。

 

 終わり

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:38 (2713d)