作品

概要

作者ながといっく
作品名思い出とホワイトデー
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-02-12 (金) 21:53:08

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる登場
古泉一樹登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

「さーて、どんな面白いことをしてくれるのか、楽しみね」
 ハルヒが高らかと笑った。

 

 本日はホワイトデー。
 一か月前に頂いた喜びのツケを払わせられる、男性にとっては嬉しさ半分、困惑半分のイベントである。
 先月行われたバレンタインイベントにおける長門の悪ふざけによって俺が非常に痛い目に合い、その後、長門宅に何度か通って長門特製のカレー風チョコケーキを完食したというのは前に述べたとおりだ。

 

 さて、タダより高いものはないということで、一ヶ月後にやってくるイベントであるホワイトデーにおいて何らかのお返しをしなければならない。しかも大抵の場合は貰ったもの以上のものを求められるという、男性にとっては不都合極まりないシステムだ。
 無論、世間一般のホワイトデーのように、適当に飴やらクッキーやらを返すだけでハルヒが満足するわけも無い。
 例によって「ただお返しを貰うのなんてつまらないわ」などという面倒なことを言い出しやがった。
 与える立場で言うのならまだ理解できなくはないが、例え貰う立場であっても平気でこのようなことを言えるのがハルヒのハルヒたる所以である。
 そして額を突き合わせて悩む羽目になったのは俺と古泉である。
 苦心の末、俺たちが考え付いたイベントが今から始まろうとしていた。

 

 場所はバレンタイン同様、長門の部屋。奇しくも土曜日ということまで同じである。
 そしてこれまたバレンタイン同様、コタツの上に大小さまざまな箱が六個並んでいる。
 更には、これから俺がいう台詞までもが殆ど同じだったりする。
 コホンと軽く咳をし、あらかじめ用意しておいた台詞を吐く。
「今回のテーマは思い出だ。誰のプレゼントか、そして誰宛かを当ててもらうぞ。当てなかったらプレゼントは無しだ」

 

 予想外だったのか、ハルヒ、長門、朝比奈さんの三人はしばらく何の反応も無かった――もっとも長門はいつもと同じだが。
 やがてハルヒが文句を言い出した。
「ちょっと何よ、それじゃバレンタインの時と同じじゃないの。何の捻りも無いじゃないの」
 そう来ると思ったさ。頼むぞ古泉。
 俺の横目でのバトンタッチ指令を受け、待ってましたとばかりに古泉が話し出す。
「そこは僕からお話ししましょう。僕も涼宮さんと同じことを考えました。同じことをしては面白くない、と」
「そうよ。全っ然面白くないわ」
 いつの間にやらハルヒの機嫌メーターは急降下していたようだ。頑張ってくれよ古泉。
「ところが彼の考えは違ったようです。…先日のバレンタインは、涼宮さんたちが僕たちとの思い出をテーマにチョコレートを作ってくださいましたね?」
「そうね」
「さすが涼宮さん、素晴らしい企画でした。しかし、よくよく考えてみれば、あの企画は半分しか完遂されていないと言えます。なぜならば、涼宮さんたちに我々との思い出があるように、我々にも涼宮さんたちとの思い出があるのですから」
「まぁ…それもそうよね」
「そこで彼はこう考えたようです。思い出のお返しは思い出しかない、例え面白くなくても優先すべきことは他にあるだろう、と」
 もちろん俺はそんなことこれっぽっちも思っていない。
 面倒だからバレンタインと同じにしようという俺の思いつきに古泉がもっともらしく、そして恥ずかしい理由を付けているだけである。
「いやぁ、僕はそこまで考え付きませんでしたよ。僕が考えていたら、ただ涼宮さんたちを驚かせるだけの軽薄なイベントの域を脱せなかったでしょうね。彼が此処まで物事の本質を見抜いているとは、僕も感服しました」
 褒められているのか、婉曲に馬鹿にされているのかわからないような古泉の言葉。
 あまりにも大げさすぎて逆に言い訳に聞こえしないかと正直不安であったが、どうやら杞憂だったようで、
「そ、そういうことなら仕方ないわね。キョンにしてはまあまあ気が利いてるじゃないの!」
 ハルヒはどうやら納得してくれたらしい。
 しかし、心なしか焦っているように見えるのは気のせいだろうか。
「朝比奈さんと長門もそれでいいですか?」
 二人から異論が帰ってくるとは思わなかったが、念の為聞いておく。
「もちろんいいですよぉ〜。どんなプレゼントなのか楽しみです」
「いい」
 心底から楽しみに思っていてくれそうな朝比奈さんの甘い声と、文頭に「どうでも」が付いてもおかしくないような長門の無感情な返答。
 両者の反応はまさに対照的であったが、朝比奈さんらしく、長門らしいその反応に俺はほっとさせられた。
 こうして、俺と古泉プレゼンツのホワイトデーイベントが始まったのであった。

 
 

「じゃあまず最初にこれを開けるわ!」
 そう言うやいなや、勢いに任せて一つ目の箱を開くハルヒ。豪快に包み紙を破る姿はまさにハルヒそのものだ。
 おいおい、誰宛のプレゼントかもわからないのにあまり無茶するなよな。
 箱の中身に真っ先に飛びついたのは朝比奈さんだった。
「わあ、湯呑セットですね。これはあたしにかなあ?」
 洒落た湯呑が5つ。似たような柄だがどれも微妙に違っている。
 朝比奈さんへのプレゼントとみて間違いは無いだろう。
「でもキョンくんと古泉くんとどっちだろう…」
 困ったような表情を浮かべる朝比奈さんに助け舟を与えたのはハルヒだった。
「うーん……このセンスは古泉君ね。キョンにこれは選べないわ」
 聞き捨てならないことを言うハルヒ。だが、実際にそうかもしれないと思ってしまう自分が情けない。
「ああ、その通りだ。それは古泉のプレゼントだな」
「古泉くん、素敵な湯呑ありがとう」
 まさに天使の微笑みで古泉にお礼をいう朝比奈さん。くそ、羨ましい。
「いえいえ、いつも美味しいお茶をありがとうございます。朝比奈さんのおかげ毎日の活動が楽しみですよ」
 朝比奈さんに負けじと笑顔で(見ていて腹立たしくなる笑顔だが)応対する古泉。
 こういう気の利いたことをさらっと言えるのがモテるコツなのだろうか。ああ忌々しい。

 

「次は有希の番よ!」
 というハルヒの声に応じ、手際良く二つ目の箱を開ける長門。
 相も変わらずの無表情だが、こいつが常に省エネモードなのは不測の事態に備えてエネルギーを蓄えておくためなのだろうか。
「……急須」
 何の感慨も感想もなさそうに呟く長門。これが自分へのプレゼントだったらどうするのだろう。
「え、急須ってことは、これもあたしにですかぁ?」
 と、朝比奈さん。その通り、この急須は俺から朝比奈さんへのプレゼントだ。
 古泉と被るのは癪だが、やはり朝比奈さんと言えば毎日煎れてくれるお茶が思い出と言えるだろう。
 それ以外の――主に未来に関する――思い出はここでは恐らくご法度だろうからな。
「キョンくんからですね。ありがとう。もっともっと美味しいお茶が入れられるように頑張りますね」
 先ほどと変わらぬ美しい笑顔でいじらしいことを言ってくださる朝比奈さん。
 あなたがが煎れてくれるお茶ならば例え毒が入っていても飲んでしまいますとも。
 天にも昇るような心地の俺であったが、
「まったくキョンらしいセレクトねぇ。地味というか無骨というか」
 ハルヒ様は容赦なく地上へと引きずり下ろしてくださった。
 古泉と比べるとセンスがアレなのは俺も認めるが、せめて一生懸命選んだ努力だけでも買ってくれないものだろうか。

 
 

 その後もプレゼント開封は続いたのだが、古泉からハルヒへのプレゼントやら、古泉から長門へのプレゼントについては聞いても誰も面白くないだろうから割愛する。
 なによりも俺が面白くない。いや、手抜きじゃないぞ?

 
 

 さて、プレゼント開封も終盤に入り、残る箱は二つだ。
「じゃあこれを開けますね。ええと……」
 少し悩んでから小さいほうの箱を選び、ちまちまとセロテープを剥がしながら丁寧に箱を開ける朝比奈さん。緊張した面持ちも可愛らしい。
「ええと、ヘアピンとヘアゴムと櫛…ですね。可愛いです」
 さて、勘のいい方はお気づきだろうが、これは俺からハルヒへのプレゼントである。
 ハルヒとの思い出というと、どうしても出会ってまもなくのころのあの事件を思い出してしまうのでな。
「……これ、もしかして、キョンからあたしに?」
 きょとんとした顔で箱の中身をのぞきこむハルヒ。
 さて、あれは夢の中の話ということになっている。下手に勘づかれても困るので予め用意していた言い訳を述べることにしよう。
「ああ、そうだ。良くわかったな。入学当初にお前が日替わりで妙ちくりんな髪形になってたのを思い出してな。今となっては笑える思い出だ」
「な、何が妙ちくりんですって!」
 とハルヒはプリプリ怒りながらも、
「ただの勘よ勘!こんなつまらないもの選ぶのなんてキョンくらいよ! どうせ何も思いつかないからって適当に選んだんでしょ!バレバレよ!」
 何故だかまんざらでもないようにも見える顔で唾を撒き散らしていた。
「まぁそうかもしれないな。つまらんもので悪かったよ。あとは……そうだな。たまには髪形変えるのもいいんじゃないか…という期待を込めてのプレゼント、とでも言っておこうか」
「ふん!バッカじゃないの…最初から期待なんてしてなかったわよ」
 ハルヒは機嫌悪そうにしながらも、どこか笑いをこらえているという、とてつもなく器用な表情をしていた。
「髪形なんて絶対変えないけど、仕方ないから貰ってあげるわ!仕方なくなんだからね!」

 

 いよいよ箱も最後の一つ。必然的に誰から誰へのプレゼントかも判明することとなる。
「最後はキョンから有希へのプレゼントね。さあ有希、キョンのことだからどうせ碌でもないものだろうけど開けちゃいなさい!」
 相変わらず一言余計なハルヒに従い、先ほどと同じく器用に箱を開ける長門。
 残念ながらその表情からは期待や不安といった感情は伺えなかった。
「……本」
 これまた先ほどと同じように、無感情に呟く長門。
 長門の言葉通り、俺から長門のプレゼントは本である。

 

 どんな本かというと、世界観の異なる二つの世界の物語を同時進行で描いた長編小説である。
 それぞれの世界の主人公は登場人物である博士や、心を無くした図書館の女の子と関わり、物語を進行させていく。そして、二つの世界はやがて交差する。
 大体そんな内容の話だったとは思うが、俺のミジンコ並みの頭脳では一回で理解することはできなかった。そしてもう一度読み直す気力もない。
 何故俺がこの本を長門にプレゼントしたのかって?それは――
「有希だから本だなんて安直ね。っていうかそれ思い出関係あるの?」

 

 安直で悪かったな、安直で。
 俺には俺の考えがあるんだよ――と言いたいところだが、訳あってそれは出来ない。
「まぁ、長門に勧められて俺も少しは本読むようになったし、そういう意味の思い出ってことだな」
「ふぅん。なんだか釈然としないけどキョンらしいと言えばキョンらしいわね」
 そんなことをハルヒと言いあっている間、長門は本を手に取り表紙をじっと見つめていた。
 そして一言、
「……感謝する」
 とだけ呟いた。

 

 俺は見逃さなかった。
 その時、長門が――ほんの一瞬だけだが――残念そうな顔をしていたことを。

 
 

 さて、やがてイベントもお開きとなり、今はハルヒが締めの挨拶をしているところだ。
「キョンも古泉君もお疲れ様! あたしたちはとっても満足よ! お礼に団長として二人の要望を聞いてあげるわ。遠慮しないで何でも言いなさい!」
 よほど満足してくださったのか、団長様が寛大なるご慈悲をくださることと相成った。
 これは予想外ではあったが、俺にとっては都合が良かったりもする。
 実は機嫌の良くなったハルヒに付け込んで一つおねだりするつもりだったからな。
「そうだな…じゃあ明日は不思議探索の予定があったが、オフ日ってことにしてくれないか? このイベントを成功させるために走り回ったからな。俺と古泉も少しばかり疲れてるんだ」
 ハルヒはそんなんでいいの?とでも言いたげに、
「別にあたしは構わないけど…有希とみくるちゃんもそれでいい?」
 二人からの異論はなく、明日の団活動の中止は決定した。
 そのまま本日のホワイトデーイベントはお開きとなった。

 
 

 ――さて、と。
 実は俺のホワイトデーはまだ半分しか終わっていない。
 
 俺には、あの時長門が残念そうな顔を見せた理由が分かっている。
 何故かって?答えは単純だ。

 

 あの本は、"俺の長門"との思い出じゃないからな。

 

 実は、"俺の長門"へのプレゼントも用意してあった。
 これまた本なのだが、こちらは賞金稼ぎでロボットハンターの主人公と、心をもったアンドロイドの物語。
 疑問形のタイトルが印象的な、古いSF作品である。

 

 じゃあ何故こっちを渡さなかったのかって?
 まぁ、それは直にわかるさ。それよりもこのSFを読んで俺が感じたことを聞いてくれないだろうか。

 

 アンドロイドは決して夢を見ない。
 もし、夢を見るとしたら、それはもはやアンドロイドではなく人間なのだ。
 そして、そのアンドロイドが見た夢――それもまた、人間の心を持っているのだ。

 
 

 翌日のこと。
 俺は市立図書館のロビーに座って待ちぼうけをしていた。
 そういえば、時間指定をするのを忘れていたな……。

 

「去年の仕返し」
 バレンタインの時、確かにそう長門は呟いた。
 ハルヒと灰色空間に閉じ込められた時の長門からのメッセージ。"あの世界"の長門の作られた記憶。
 その台詞の対象が俺がやらかした無神経な行いにあることも、長門が何を望んでいるのかも、今ならばわかる。いかに鈍感な俺でもな。

 

 だからこそ、プレゼントの本の中に挟んだ栞にメッセージを書いておいた。
 今日、この場所にくるようにってな。まさに長門のような回りくどい手段だが、きっと長門なら気付いてくれるはずだ。

 

 長門との思い出、それを考える上で欠かすことの出来ない前提。
 それは、俺には二人の長門有希との思い出があるということに他ならない。
 ――そう、昨日はあっちの世界の長門との思い出。あの長門へのプレゼントだ。

 

 その時、自動ドアが開いた。
 容赦なく外の冷たい空気が入ってくる。
 同時に、風に短い髪を揺らしながら少女が視界に入った。
 いつもと変わらない制服、いつもと変わらない無表情。
 間違いなく、俺が知っている、俺の世界の少女だった。

 

 ――そして今日は、こっちの世界の長門へプレゼントを贈らなければならない。だが、この本を渡すのはもうちょっと後になりそうだ。なあ、長門。

 

「確か『これから作る思い出』もありだったよな?」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:38 (1868d)