作品

概要

作者変拍子
作品名雪と有希の有機な勇気
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2010-01-09 (土) 12:58:14

登場キャラ

キョン不登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 ほうっと、白い息が行き場を無くしたように漏れる。
 この日、私や彼の世界は薄く、淡く雪に包まれていた。

 十二月十七日午後十七時二十五分。
 私は今、北高正門前に立っている。
 目的はない。
 ただ来たかったから、というだけである。
 ふいに、おかしな焦燥感によって襲われ、意味もなくもう一度肺から空気を押し出

す。
 横隔膜の運動によって、私の口から這い出てきた二酸化炭素は、形容し難い白にな

り、それからすぐに空気中へと霧散していく。
 それはまるで、これからの私の意識を薄く、暗示しているようだった。
「………………」
 私は人になりたかったのだろうか。
 もう一度、原点へと立ち返ってみる。
 答えは一つだと、分かりきっているのに。
 この無駄な思索も人になるために必要なこと、と強引に理由づけて締めくくる。

 ただ楽しかった。
 涼宮ハルヒと朝比奈みくると古泉一樹と、彼と、同じ時間を過ごすのはとても楽し

かった。
 それは単なるエラーなのかもしれない。感情を持たない、私が楽しいと感じること

は有り得ないから。
 だけど、私は認めたかった。
 自分自身に嘘をつきたくはなかった。
 だから『楽しい』と感じた。それだけである。
 あの日、彼と涼宮ハルヒが文芸部室に雪崩込んできてから、私の時は始まった。
 私は私の異時間同位体と同期をして、何時何分に何が起こるか。それら全て、私は

知っていた。
 けれども、それが何だと言うのだろう。
 ただ知っているだけである。
 私自身は経験していない。
 これから起きることを知識として、データとして保有してあるだけ。
 百聞は一見にしかずとはこのことだ、と納得する。多少の誤用感は否めないが。
 約八ヶ月間。私は時を進め、動かしながら生きてきた。
 あの大きな部屋に、たった一人で閉じこもることもなく。
 しかし、世界は私にとって広すぎた。
 神は私にとって大きすぎた。
 神の力は私にとって、悲しすぎた。
 だから、私が正しく誤用しようと思った。
 この広大な、悲しい世界を変えてしまおうと思った。
 私と彼……そう、私が存在を消してしまった彼女も加えて、たった三人の狭い世界

にしてしまおう。
 あのキンモクセイの香りを嗅いだ時に、そう決意した。
 私が変わったことを、彼に知ってもらいたくて。
 この私に不都合な世界を変えたくて。
 けれども、確かな勇気が私の中には無かった。
 この計画を実行してしまえば、情報統合思念体は消失してしまう。
 つまり、有り体に言えば親を殺してしまうということだ。
 こんなちっぽけな願いのために、親殺し。
 それにもしも、実行寸前に気付かれてしまえば、私は回収されてしまうだろう。
 だから怖かった。
 何も出来ずに、彼と離れてしまうことが一番怖かった。
 再三、息を吸い、吐く。
 恐怖と焦りの為か、私の唇は少し震えていた。
 ギュッと、自分の腕で自分と、そして思いを抱きしめる。
「……人間賛歌は勇気の賛歌……人の素晴らしさは勇気の素晴らしさ…………」
 いつか読んだ本の言葉を思い出す。
 私も人になれば、勇気を持てるだろうか。
 いや、私に際して言えば、まず勇気を持つことが先なのだろう。
 勇気を持って、実行する。
 それが出来れば私は人に成れる。
 彼と同じ、この世界に生きる『人』に成れる。
「…………よし」
 初めて、明確で前向きな意志を持った言葉を言った気がする。
 それが勇気なのかは、知らない。
 ただ、変化の印だということは分かる。
 雪はもう止みかけている。
 私の心は動き出している。
 たったそれだけの事実で十分だった。
 もう一度、ここにこよう。
 そう誓いを立てて、私は自宅へと向かう。
 足取りは軽く、強かった。

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:37 (2708d)