作品

概要

作者ながといっく
作品名ゆきのおこう
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-12-26 (土) 03:36:49

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 去年に続いてのドンチャン騒ぎとなったクリスマスパーティも終わり、今日はクリスマス本番。
 この寒いなか母親に大掃除の道具を買いに行かされる俺に同情してくれる方はおられるだろうか。きっといないだろうな。
 正直言って昨日のパーティで疲れ果てて歩く気力もないわけで、自然と足取りも重くなる。

 

 疲れるには疲れるだけに理由がある。
「普通の鍋はつまらない」といういつものハルヒの思いつきで、今年は去年より本格的な闇鍋になった。
 無論、本格的になったのは「鍋」の部分ではなく「闇」の部分である。全員がそれぞれ好きな具を持ち寄って、一気に入れて暗闇の中で食べるというやつだ。
 去年は具材が不明という不安要素はあったものの、意外と料理の才能があるハルヒによって作られたためになかなかの代物になっていたのだが、今年は酷かった。
 ハルヒが食えなかったくらいと言えばその酷さを大体想像していただけるだろう。
 朝比奈さんが持ってきたであろう恐ろしく甘い何か、ハルヒが入れたに違いないヌメヌメした(ナマコかホヤのような)何か、そして全体を覆うカレー味。
 ここまで、美味いとか不味いとかいう次元を超えた食物を食ったのは生まれて初めてだった。俺か?無難に鶏肉を入れたさ。焼け石に水だったのは言うまでもないが。

 

 さらにパーティの目玉であろうプレゼント交換も俺にとっては微妙な結果で、古泉プレゼンツのボードゲームを頂戴することになった。
 家においても相手が妹くらいしかいないので部室に置くことにしたのだが、そうなると主な相手はプレゼント元の古泉ということになる、古泉が得した気がしてなんとなく癪だな。

 

 溜息を洩らしながら駅前の商店街を歩いていると、見慣れた後姿を見つけた。
 ダッフルコートに北高の制服、短く不揃いな黒髪、華奢な体。
「ながとっ」
 少しだけ声を張り上げて少女の横に駆け寄る。
 これで人違いだったら恥ずかしいくらいに馴れ馴れしい態度だろうが、俺が長門を見間違うわけなどないのだから問題ない。
「……」
 振りむきざまに俺をじっと見て、また前へと視線を移す長門。
 おいおい、挨拶もなしかい――というわけではもちろんなく、長門の場合は目礼が挨拶代わりなだけである。
 長門のクラスでは、長門が何かしゃべるとその日は良いことが起こるとかいう迷信があるらしいが、実際のところ、こいつが饒舌になるときは八割がた面倒がことが起こったときである。
 逆にいえば、長門が無口でいるということは、とりあえず平和ということだ。

 

「お前も買い物か?」
「そう」
「何を?」
「本」
「もう買ったのか?」
「買った」
 合計七文字ものお言葉を頂き、会話にも満足した俺は長門について歩くことにした。
 まだ昼前だし、どうせ掃除用具なんぞいつでも買えるしな。

 

 ――ん?
 なんだろう。長門にどこか違和感を感じる。
 表情も口数も服装もいつも通りだが、何か違う。

 

 これは――ふうわりと薫ってくるこれは何だ。
 甘く、かつ刺激的ではなく、落ち着いていて透き通った香り。
 長門の匂い…っていうわけでもないだろう。恐らく長門は無味無臭だ。食ったことはないが。
「香水…つけてるのか?」
「そう」
「買ったのか?」
「ちがう」
 肯定と否定の言葉を返され、俺はようやくその正体に辿り着いた。
 昨日のプレゼント交換会で、長門は朝比奈さんのプレゼントである香水を貰っていた。おそらくそれだろう。
 それにしても、香水は大変朝比奈さんらしいプレゼントとは思うが、あのお方はこの見るからに女性向けの香水が男に渡った場合のことを考えないのだろうか。古泉あたりなら使いこなせるかも知れないが、俺が貰っても無用の長物となること間違いなしだ。
 だが、さすがに朝比奈さんのチョイスだけあっていい香りだ。若い女性とすれ違うたびにキツイ香水の匂いに顔をしかめる俺だが、この匂いなら好きだぞ。むしろ大歓迎だ。
「意外だな」
「……だめ?」
 うっかり口を突いて出た言葉に、0.5ミリほど目尻を下げる長門。
 おっと、初めて香水を付けた女友達に言う台詞ではないな。少しばかり落ち込ませたかもしれん。こんなんだとまた朝比奈さんに叱られかねん。
「いや、意外だっただけだ――すごくいい匂いだぞ」
 言ってから思うのもなんだが、何か物凄く変態くさい台詞だな。
「あ、いや、変な意味でじゃなくてだな、長門に合ってる匂いで似合ってるというか、その…」
 後悔先に立たず。後に悔むから後悔と書くのだ。
 だが、俺の動揺とは裏腹に長門は全く気にしない様子で、
「そう」
 とだけ呟いた。ついでに0.5ミリ下がった目尻は直っていた。いや、今度は0.5ミリほど上がっているかもしれないな。

 

 どうして長門が香水をつけようと思ったのかはよくわからない。
 まあ、貰ったものを付けてみようと思うのは自然なことだし、理由なんてそんなもんで十分かもな。
 普通の女の子がやるようなことを長門がやるというのはどうも違和感があるが、好ましいことには違いない。
 あまりやりすぎて長門らしさが無くなったりしたら、それはそれで困るのだが。明るい髪でふわふわカールの長門なんて俺は見たくないしな。

 

 その後のこと。
 メリークリスマスな雰囲気の街を一人で歩くのは少々寂しいものがある。
 どうせ暇なわけだし、長門にカレーでも食いに行かないかと誘ったらあっさり了承を貰えた。
 昨日の鍋にカレー入れたのは恐らくこいつだろうし、食える代物にならなくて案外がっかりしたのかもな。
 まったく、俺とお前だけなら昨日の鍋だってチキンカレーとして成立したのにな。まぁ、口直し、食べなおしと行こうじゃないか。

 
 

 さて、メリークリスマスな雰囲気の街を男女二人で歩くことの意味を深く考えていなかった俺なのだが、数日も立たずにそれを思い知らされることとなったのだが、それは別の話。

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:37 (1984d)