作品

概要

作者ながといっく
作品名She said, She say.
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-12-18 (金) 04:42:20

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ不登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 師も走る歳の暮れ。
 そろそろ本格的に冬になっているらしく、もう北のほうじゃどさどさ雪が降っているそうだ。
 この季節は西に住んでいることをありがたく感じるな。北国と気温が5度も違うというのは大きいもので、12月になった今でも薄手のジャケット一枚で間に合う。

 

 まぁ、そうは言っても寒いものは寒い。
 珍しく放課後一番乗りなようで、文芸部室には誰も居らず、一台しかない電気ストーブを文句なしの独り占め……のはずだったのだが。
「なんだ、電源入らないな」
 どうやら故障しているらしい。保証期間は過ぎていないだろうから何とかなるだろうが、またこれを担いで商店街まで行かなければならんと思うとさすがに気が滅入る。どうせ俺が一人で行かされるんだろうしな。

 

 それにしても――寒い。

 

 ――"あいつ"はいつもこんな寒いところで本を読んでたのか。たった一人で。

 
 

「処分が検討されている」
 そう長門が告げた日からもうすぐ一年がたつ。あれから、思い返すのも億劫なほどにたくさんの厄介事があった。
 長門が倒れた二度の事件には肝を冷やされたものだが、今までどれだけ長門に頼り切りだったのかを気付かせてくれるいい機会だったのかもしれない。

 

 何はともあれ幸いなことに、長門は親玉の思念体に処分されることもなく、季節が一周した今でもSOS団の団員としてここにいる。
 まさか俺が「くそったれ」などと啖呵を切ったからというわけでもあるまい。
 後になって考えてみれば、長門の親玉にそんな脅しが通用するわけもない。時間も空間も、記憶すらも自由自在に操れる、言ってみればハルヒよりよほど神様に近いような連中なわけだからな。

 

『俺たちから長門に関する記憶を消した上で』長門を処分する、なんてことも朝飯前だろう。
 そうなってしまえばもうお手上げだ。ハルヒをかついで取り戻すこともできない。なんせ覚えていないんだからな。
 明日になれば長門がいなくなっていて、俺が長門を覚えていない。長門を忘れていることすら思い出せない。
 よく考えてみれば恐ろしいことだな、これって。

 

 いつだったか、それを長門に話したことがある。
 何かの帰り道が一緒だったときだったか、横を歩く長門に聞いたんだった。
「なあ長門、いつだったか俺の古い友達がお前に惚れちまったことがあったよな」
 真相は超感覚で思念体を見ていただとかいうオチだったが。
「その時に言ってたよな。『わたしの自律行動が以降十年間の連続性を保ち得る保証はない』って」
「言った」
 進行方向から目線を変えずに答える長門。いつもと変わらぬ平坦な声。
「それは……いつ居なくなるかわからないってことなのか?」
「そうではない。わたしの役目は涼宮ハルヒの観察。役割を果たすべき時までは自律行動は続く」
「じゃあ、もし、お前の役目が終わったら――」
 この先は言えなかった。何故だかわからないが、言ってしまえば本当にそうなるような気がしたからだ。

 

 気がつけば、俺はその場に立ち止まっていた。
 長門も俺の少し前で歩みを止め、振りかえる。
「その先は、わたしにもわからない」
「……そうか」
「そう」
 漆黒の瞳が俺を見上げていた。

 
 

 カチャリ。

 

 ノックをせずにこのドアをあけるのは約2名しかいない。
 俺を含めた男子どもは言うまでもなく、朝比奈さんも自分が着替える時の鍵はかけない癖にノックはしてくれる。
 ハルヒ?あいつならドアがぶっ壊れるほど豪快に開けるさ。無論ノックなんぞしないでな。
 となると、この無機質な開け方をする奴はもちろん、
「よう、長門」
 いつもと変わらぬ姿の長門は、いつもと同じ目線だけの挨拶を交わし、いつもの指定席へと向かっていく。
 相も変わらぬ長門有希だが、それを見ていると安心するのは何故なんだろうな――さて。

 

「長門よ、このままだと俺はこのクソ寒い中、壊れた電気ストーブを一人で背負って歩かねばならぬ羽目になる」
 表情を変えずにじっと俺を見やる長門。
「正直言って真っ平御免だ。それよりだな、団員たるもの下校ルートに潜む不思議を率先して探すべきだと思うのだが……ここは平団員どうし共同作業といかないか?」

 

 それでなくてもクリスマス会の準備やらで散々こきつかわれて、またトナカイ芸でもさせられるのだろう。今日一日くらいはサボってもいいよな。
 あー古泉よ、ストーブの修理と閉鎖空間の処理は頼んだ。

 
 

 長門がいつまで俺たちといられるかはわからない。
 いつ居なくなるかわからない。下手したら記憶まで消されてしまうと来たもんだ。
 だったら、思念体やら神様がどうな手を使っても消せないくらいに脳の裏に刻んで瞼の裏に焼きつけておけばいいだろう。

 

 そうだな――いつか長門が"あいつ"と同じように笑ってくれたら。
 何があっても忘れないだろうに。

 


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:36 (1868d)