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作者 | ながといっく |
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作品名 | 長門さんの計測 |
カテゴリー | 長門SS(一般) |
保管日 | 2009-08-29 (土) 01:02:56 |
キョン | 登場 |
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キョンの妹 | 不登場 |
ハルヒ | 登場 |
みくる | 登場 |
古泉一樹 | 不登場 |
鶴屋さん | 不登場 |
朝倉涼子 | 不登場 |
喜緑江美里 | 不登場 |
周防九曜 | 不登場 |
思念体 | 不登場 |
天蓋領域 | 不登場 |
阪中 | 不登場 |
谷口 | 不登場 |
ミヨキチ | 不登場 |
佐々木 | 不登場 |
橘京子 | 不登場 |
全日程終了。
放課の鐘の音を聞きつつ、私物を鞄に入れる作業に入る。
部活動に行く者、帰宅の途につく者、教室に居残って談笑している者、放課後の生徒の行動は様々である。
他者から見ればわたしもまた、部活動に行く人間にカテゴライズさせるのだろうが、半分は正解で、半分は不正解である。
建前としてはわたしは文芸部に所属しており、部長という肩書も持っている。しかしながらその実、SOS団と言う涼宮ハルヒが主催する活動内容不明の団体に所属しているともいえよう。
なぜ、そのような一般的に見て不可解な行動をする必要があるのか。
その理由は一つ、わたしの役目は涼宮ハルヒの観察だからである。
『長門さんの計測』
もっとも、わたしのインターフェースとしての能力を持ってすれば、100km先から神経細胞の壊死を観測することすら容易い。だが、仮にも有機生命体として生きている以上、無闇に能力は使わないよう心がけている。
現在、わたしの能力の使い道は、ほぼ涼宮ハルヒ及び彼の保全に限られていると言っていいだろう。
であるからにして、わたしが彼の、自宅を含む学校内外での行動を逐一監視しているのも、また正当な保全行為と言える。
もう一つの監察対象である涼宮ハルヒに関しては、特に何の監視もしてはいないが、これは彼女のプライバシーの保護である。男性と女性のプライバシーの重みは違うのだと涼宮ハルヒが言っていた。彼女がそうだというならそういうものに違いない。
今夜の彼の行動に思いを馳せつつ、我々の活動拠点である文芸部室へと向かう。
「あたし昨日テレビで見たんだけど、外人ってやっぱり大きいわよねえ」
「ああ、確かにそうだな。食ってるものが違うのかなんなのか、育ちがいいよな」
中で彼と涼宮ハルヒ、朝比奈みくるが談笑しているようだった。
何の話をしているのだろうか。話の途中で入り込むのも気が引けるので、少し聞き耳を立ててみる。今週は古泉一樹は掃除当番と言っていた。時間を考えるとまだ余裕はあるだろう。
「あたしはもうちょっと欲しいわね」
と、涼宮ハルヒ。彼女は何を求めているのだろうか。
「あたしも欲しいですぅ」
朝比奈みくるも同調している。どうやら彼女たちに足りないものの話をしているようだ。
「みくるちゃんはそのくらいで丁度いいわよ」
「そうですね、朝比奈さんは十分ですよ」
彼と涼宮ハルヒが珍しく同調している。それにしても何の話だろう。
現時点での情報を総合して検討してみる。
外人が大きくて育ちがよく、涼宮ハルヒも朝比奈みくるも求めているもので、朝比奈みくるには十分あるもの。
「でもハルヒも十分じゃないか? お前がそういうこと気にしてるなんて意外だな」
「何言ってるのよ。案外女の子は気にするものよ。もちろん人によるけどね」
……どうやら胸部の話をしているらしい。
入らなくて良かったかもしれない。その話になってはわたしは正直言ってみじめ過ぎる。
彼女らに余計な気を使わせないためにも、どこかで時間を潰し、話の頃合いを見て入ることにしよう。
そう思っていたのだが。
「みくるちゃんと有希ならどっちが大きいかしらねぇ?」
あまりに意味不明な質問に立ち止まらざるを得なかった。
涼宮ハルヒ。なぜそのようなわかりきったことを聞くの。ひょっとすると、これはわたしに対する遠回しな嫌がらせなのだろうか。
いや、わたしがここにいることは気付かれていないはず。下手な勘繰りをするのはよそう。
「あたしより長門さんのほうがちょっとだけ大きいと思いますぅ」
朝比奈みくる。あなたはなにをいっているの。それは皮肉?
もしかして、三人でわたしの悪口を言って笑っているだろうか。
いや、彼らはそんな人間ではない。友人を信用しないのはとても醜いこと。
「俺は朝比奈さんの方があると思いますが…。長門は意外とちっこいですよ」
彼は朝比奈みくるや涼宮ハルヒだけでなく、わたしの胸部も見ていてくれていたようだ。少し気恥ずかしい。
だが、この場合は喜ぶべきなのだろうか。それとも、自らの体の貧相さを嘆くべきなのだろうか。
そんなわたしの葛藤をよそに三人の談笑は続く。
次に涼宮ハルヒが彼に投げかけた問いは、わたしにとっても興味深いものだった。
「キョンは大きいのと小さいのではどっちが好み?」
彼の好みなどわかりきっている。常に朝比奈みくるの胸部に視線を向けているのだから。
しかし、最近はわたしに視線を向ける割合も多くなってきたように思える。いや、それとこれとは話が別だろう。でも、もしかすると。
九分の諦念と一分の期待を持って聞き耳を立てる。
「そうだな…あんまり大きすぎるのはダメかもしれんな……」
彼の口から意外な言葉が出た。
普段の様子から、間違いなく大きな胸部を好みにするものだと思っていた。
もしかすると、彼が見ていたのは朝比奈みくるの胸ではなく、彼女の愛らしいしぐさだったのかもしれない。
それならば、最近わたしを気にかけてくれている理由も説明がつく。それにしてもよかった。彼は女性の胸に特段のこだわりはないようだ――
「でも小さすぎるのもちょっとな…」
――淡い期待は数秒も経たぬうちに打ち砕かれた。
わたしの胸は"小さすぎる"に該当するのだろうか。
"無い"わけではない。少なくともそれらしきものは存在する。しかし……到底大きいとは言えない。
彼は先ほど「ちっこい」と言った。その表現はどの程度のものを表すのだろうか。
……古泉一樹が部室方面へ動き出した。どうやら掃除が終わったようだ。
このまま聞き耳を立てているのは危険と判断。若干心苦しいが入らざるを得ないだろう。
いつものように、なるべく音をたてないよう静かに扉を開ける。
入るや否や、彼が驚くべきことを言い出した。
「おお長門、ちょうどよかった。ちょっと測らせてくれ」
メジャーを片手に、わたしのほうへ近づいてくる彼。一歩も動けないわたし。
彼はなにを言っているのだろうか。
「ちょっとキョン、そんなんじゃ正確に測れるわけないじゃないの」
それは確かにその通りである。彼が持つ金属メジャーは胸部の測定には向かない。
しかし問題はそこではない。そもそもなぜ涼宮ハルヒは怒らないのだろうか。
彼女の性格上、彼がわたしの胸部を測定するなどと言えば烈火のごとく怒り出すに違いないのに。
「それもそうだな。よし、長門、ちょっと保健室に行くか?」
………保健室で、測る? わたしの胸部を? 彼が?
しかしそんなことをしては涼宮ハルヒが。いや、何故か今回は涼宮ハルヒも乗り気のようだ。
これはこの国の倫理的に許されるものなのだろうか。いや、問題はそこではない。彼が。涼宮ハルヒが。
まずい、このままでは彼に測られてしまう。嫌ではない。嫌ではないが、しかし。
思考能力が著しく低下し、この場に最も適切な回答を導き出せないでいるわたしに、彼は一歩一歩近づいてくる。
「なにを、するの」
辛うじて吐き出したその言葉すら途切れ途切れだった。
嫌ではない。他の人間にその行為をされるのには嫌悪感を感じるだろうが、彼ならば話は別。
彼が望むなら、わたしもやぶさかではない。彼が望むなら……しかし。事が早急過ぎて心の準備ができていない。
それに、順序もおかしい気がする。出来ればわたしの気持ちを伝えてから――
「なにって、朝比奈さんと比べるから身長を測らせろって話だぞ?」