作品

概要

作者ながといっく
作品名詐欺と有希
カテゴリー長門SS(一般)
保管日2009-08-29 (土) 00:59:49

登場キャラ

キョン登場
キョンの妹不登場
ハルヒ登場
みくる不登場
古泉一樹不登場
鶴屋さん不登場
朝倉涼子不登場
喜緑江美里不登場
周防九曜不登場
思念体不登場
天蓋領域不登場
阪中不登場
谷口不登場
ミヨキチ不登場
佐々木不登場
橘京子不登場

SS

 

 日が落ちるのも早くなり始めた晩秋のある日の放課後。
 少し肌寒くなってきたなぁ、などと考えつつ放課後の根城である文芸部室に向かう。
 ドアを開くと、まるで待ち構えていたかのように、すぐ目の前に長門が立っていた。
「よう、長門だけ――」
「これ」
 俺の挨拶を遮っていきなり何やら分厚い封筒を突きつける長門。
 一体何なんだ…と思いつつ封筒を受け取り、中を覗いてみて仰天する。
 中に入っていたのは全て紙幣。しかもゼロが4つあるこの国で最も高価値なお札。つまるところ諭吉さんだった。
「ど、どうしたんだよそんな金」
 突然の事に動揺する俺。自分で言うのもなんだが無理もない。
 高校生がいきなり札束を手渡されたんだから普通の反応と言えるだろう。
「ここに1000000円ある。好きなだけ使ってほしい」
 対照的に、至って平静と言った感じの長門。そして、次に長門の口をついて出た言葉はさらに不可解なものだった。
「大丈夫。わたしはあなたを理解している。誰しも過ちを犯すもの」
 過ち?一体何のことだ?
 昨日冷蔵庫に入っていた妹のプリンをつまみ食いしたことか?
「わたしもかつて大きな過ちを犯した。けれどもあなたはわたしを許してくれた。
 それだけでなく、わたしを気遣って優しい言葉をかけてくれた。あのときの感謝は忘れていない。だからわたしもできる限りあなたに協力する。」
 いよいよもってわからなくなってきた。長門が言うには、俺はとんでもない過ちを犯したらしく、その為に100万なんていう馬鹿げた大金が必要らしい。もちろん、俺には何の心当たりもない。
「ちょっと待ってくれ。話の流れがさっぱりわからん。初めから説明してくれないか?」
 長門はじっと俺を見つめる。
 心なしか「シラを切るの?」とでも言いたげな表情だったが、やがて長門は懐から何かを取り出し、
「これ」
 差し出されたのは一枚の紙…なんだこりゃ、手紙か?
「そう。部室に来た時に既に机に置いてあった」
 手紙を受け取り読んでみる。そこに書いてあったことは……これまた説明するのも馬鹿らしいようなものだった。

 
 

『キョンへ。こんにちは。元気にしていますか。
 突然な話で驚くかもしれません。実は、キョンの子を妊娠しました。
 産むか堕ろすかすごく迷いました。でも大好きなキョンの子供だからどうしても産みたい。
 お願い。出産費用だけ出してくれませんか。それ以上は何も求めないって約束するから。
 口座番号書いておくから○月○日まで500000円振り込んでください。○○銀行西宮支店12344321――』

 
 

「……なんだこれ。新手の振り込め詐欺か?」
 そうだとしてもアホらしすぎる。
 これで本気で振り込んでもらえると思ってるなら、よほどの世間知らずの大馬鹿者だ。
「だいたいこんな重要な手紙で宛名が"キョン"とかあり得ないだろ…」
 それに、なぜにその手紙を部室に置く。
 普通なら俺の家、百歩譲っても学校の下駄箱や教室の机が普通だろう。
「つーかこれ、どう見てもハルヒの字……」
 決定。これはあのアホが俺をからかう為に考えた三文芝居。
 全く、こんなもん誰が真に受けるってんだ――ん?
 そうだ、思いっきり真に受けて大金用意してきた奴がすぐ隣にいるんだった…

 

「なあ、長門…?」
「……」
 無言。いつの間にやら指定席である窓際パイプイスに座ってやがる。
「……もしかして、こんなバレバレのイタズラ手紙を信じたのか?」
「………」
 またも無言。
 あの、長門さん?さも何もなかったかのように読書しだすのはやめてもらえますか?
「………」
 それでも無言。……まったく、負けず嫌いなところは相変わらずだな。
 さすがのこいつも恥ずかしいのだろうか、読書に集中する"ふり"をしている。
 平静を装ってるつもりなんだろうが、俺の目はごまかせない。これでもそれなりに長くお前と付き合ってるんだからな。

 

 ――少しからかってやるか。

 

「長門は俺のことをそんな風に思ってたのか…」
 心から落胆したかのような声を作って呟く。弱弱しく、聞こえるか聞こえないかってほどの小声で。
 長門の横顔がピクリと動く。
「得体の知れない女に子供を産ませるようなだらしない男だと思われてたんだな…」
 パタン、と本を閉じ、普段ではあり得ないほど勢いよく立ちあがる長門。
 俺を見つめる目は困惑と後悔で溢れていた。
「違う。わたしはあなたは誠実な人間と考えている。しかし健康な男子としてあり得ないことではないと思い、わたしは…」
 普段の冷静さはどこへやら、弁解もしどろもどろになっている。
 だんだん可哀想になってきたが、もう少しだけからかわせてくれ。
「もういいよ。長門だけは俺の事信じてくれると思ったのにな……」
 机の上に置いた鞄を乱暴に持ち上げ、部室から立ち去る"ふり"をする。
 ――つもりだったが、長門が行動を起こす方が早かった。鞄を持ち上げるや否や、もう片側の腕の袖をつまんで引っ張ってきたのだ。
 少々驚いた。"あの時"の長門と全く同じ行動だったからな。ただ、"あの"長門はハムスターをつまみ上げるかのような小さな力だったが、"俺の"長門は何やら大切なものを繋ぎ止めたいかのような強い力だった。
「………」
 長門の細い眉は数ミリほど下がり、瞳の表面も潤みだしていた。
 一見するといつもと全く変わらぬ無表情だが、長門流の感情表現なら、これはもう大泣きと言っていいレベルだろう。
 
 いかん、やりすぎたか。
 今度は俺が反省し、後悔する番だった。
 いくらなんでも酷いことをしちまった。長門は俺を心配してくれただけだってのにな。
 俺は再び鞄を机に置き、
「冗談だ」
 空いた方の手で長門の髪をわしゃわしゃと撫でてやった。
「……ごめんなさい」
 俯いたまま、消え入るような声で呟く長門。罪悪感が体中に湧きあがってくる。
「俺こそ悪かった。ちょっとからかってみただけだったんだ。長門は俺の事を心配してくれただけなのに、ごめんな」
「……いい。わたしもあなたをもっと信じるようにする」
 長門がようやく顔をあげる。表情は先ほどよりも柔らかくなり、今度は安堵の気持ちが浮かんでいる、ように見えた。 
 しかし…ハルヒの野郎、こんなくだらない手紙で俺を騙そうとしてたのか?長門まで巻き込みやがって…
 行き場のない罪悪感はハルヒへの怒りへとその性質を変えていった。あの野郎。少しぎゃふんと言わせなきゃ気が済まん。
「なあ長門、お前も騙されて腹が立ってるだろう。ものは相談なんだが……」

 
 

 ふふ、キョンの奴、どんな反応するかしら。身に覚えのない手紙で今頃うろたえてるに違いないわ!
 キョンのことだから手紙を隠すでしょうし、それを見つけて問い詰めて……ああもう、早く部室に行きたいのになんで今日に限って掃除当番なのよ!
 普段の三割増しの早歩きで文芸部室に向かう。いつもならノックもせずにそのまま開けちゃうんだけど、今日はそうもいかなかった。
 なぜかって、ドアの向こうで言い争っている声が聞こえたからよ。この声はキョンと…有希?
 あの二人が喧嘩? 正直信じられないわ。流石にここに乱入するわけにも行かないわね…悪いけど聞き耳たてさせてもらうわ。面白そうだし。
「説明を求める」
 有希の声。いつもと全く変わりない冷静な声。説明って、なんのだろう。
「あー、いや、これはだな…」
 これはキョンの声だ。どことなく動揺しているように聞こえる。キョンが有希に何かしたのかしら。
「この手紙はどういうこと」
 ……あたしが書いた手紙、有希に見られちゃったのかしら。でもなんで有希が怒ってるんだろう。
「あなたはわたしだけを愛しているといった」
 えっ!? い、いま、なんて…?? あ、あいし…?
「もちろんそうだ!」
 キョンもそうだって、ってことは、え、有希とキョンって付き合ってたの??
「じゃあこれはなに。これは本当なの?」
 有希とキョンが付き合ってて、有希があの手紙見つけちゃって怒ってるんだ…
 なんか、二人に悪いことしちゃったわね。頃合い見て入って謝らないと……そっか、キョンは有希が好きだったんだ。
「……ああ、すまん、本当だ」
 ってええっ!? 何よ? 本当にキョンの奴そんなことしてたの!?
 有希と付き合ってるのに誰かと浮気して妊娠させちゃったの!?
「……うそつき」
「すまん、一夜の過ちだったんだ!」
 え、なにそれ。ちょっと待ってよ、あたしが適当に書いた手紙が本当だったっていうの?
 キョンが有希と付き合ってたってだけでショック――じゃなく驚いてるのに何よ、それってどういうことなのよ……
「結局わたしのことも体目当ての付き合いだったの?」
 体目当て……ってことは、もう有希とキョンは……
 この時点であたしはもう混乱してた。でも、次にキョンが放った言葉はあたしを更に打ちのめした。
「……ちっ。こうなっちゃ仕方ないな……ああ、そうだよ。俺がお前なんかのこと本気で好きになると思ったか?」
 声も、出なかった。
 正直言うと、有希とキョンが付き合うなら仕方ない――別に仕方ないも何もキョンなんてどうでもいいけど、有希が心配だからね――って思ってた。
 キョンは有希のことすごく大事にしてるように見えたし、有希もキョンを頼ってるように見えたから。
 でも、キョンは……キョンは……
「……酷い……」
 有希の声は普段と変わらなかった。でも、きっと、すごく傷ついてるに決まってる。バカキョン、絶対に許さないんだから…
「そろそろ長門にも飽きてたしいい頃合いかもな。次はハルヒとでも遊んでやるか。あいつは単純だから簡単そうだ」
 ……なにそれ。
 キョン、あたしや有希のことそんな風にしか思ってなかったの?
 あたしは仲間だって思ってたのに。あんたはあたしを理解してくれるって信じてたのに……もうやだ。
 終わりにしよう。中に入って、あいつを一発思いっきりぶん殴って、もうSOS団も解散しちゃおう。
 ごめんね有希、みくるちゃん、古泉くん。あたしのわがままに付き合ってくれたのに、こんな形で終わっちゃって…

 

 震える右手を押さえて部室のドアをゆっくりと開ける。
 

 

 あたしが見たものは、映画撮影の時に使ったプラカードを持った有希と、隣でお腹を抱えて笑うキョンだった。
 プラカードに書かれた文字を見るまでもなく、あたしは叫んだ。
 「こんの馬鹿キョン!!」

 


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Last-modified: 2012-06-17 (日) 03:01:34 (1984d)